竜太の冒険
大澤大地
第1話竜太の冒険
薄暗い洞窟の中を勇敢な竜太はすいすいと進んでいく。すると突然、画面が暗転し闘志をあおるBGMに切り替わった。モンスターが現れたのだ!竜太は剣を抜きブラックバットに切りかかった!しかし、ブラックバットはするりと攻撃をかわし竜太に襲いかかる!竜太に11のダメージ!
「しょうがない、魔法を使うか!」
竜太はアイスニードルを唱えた!ブラックバットに6のダメージ!
「あまり効かないな」
ブラックバットの吸血。竜太に15のダメージ!ブラックバットは竜太の生命力を奪い取り体力を回復した!
「くそっ、こうなったら奥の手だ!」
竜太はファイアーワークスを唱えた!鮮やかな火花がブラックバットに命中しブラックバットに92のダメージ!ブラックバットを倒した!
「よっしゃ!意外と強かったな」
「竜太、さっきから何やってんだ?」
「お父さん邪魔しないで!今冒険中だから!洞窟の中にいるの!」
「ゲームばっかりしてないでたまには外で遊べよ」
「うるさいなあ、ほっといてよ!」
「そうだ、竜太知ってるか?富士山の近くには本物の洞窟があるんだぞ?」
「え?そうなの?」
「どうだ?いってみたいか?いってみたいだろ?」
「いきたい!ねえ、連れてって!」
「しょうがないなあ、お父さんの馬車はガソリンで走るから早いぞ?」
「ただの車でしょ!ねえ、早く行こうよ!」
「じゃあお母さんにも出かけるよーって言ってきな」
「うん!」
梅雨にしては珍しく晴れ間がのぞいていた。お父さんの駆る馬車は森の中を鹿のように駆け抜ける。もちろん道路は舗装されているし馬車はガソリンを飲んで走っているけれど。
「イメージが大事なんだ。ただのドライブじゃなくて見たこともないような場所へ足を踏み入れる。わくわくするような冒険。竜太、わかるか?」
「うん!とんでもないお宝を洞窟の奥でモンスターが守ってるんだよね?」
「そうだ。そして勇者竜太はモンスターと激闘を繰り広げる!」
「かかってこい!お宝は俺のものだ!」
「もう、二人とも子どもなんだから」
お母さんはうれしそうに笑っていた。
駐車場に車を止め、券売機でチケットを買い、森へと足を踏み入れた。風穴へと続く道の途中、樹海には木々が生い茂り、溶岩の上には地中に伸ばせなかった木の根が這いずり回り、不気味にうねっていた。ふとその木々に襲われるような錯覚に駆られた。
「お父さん気を付けて。木が襲ってくるよ」
「竜太も気づいたか。あの根っこには近づくな。樹海に引きずり込まれるぞ」
「うん、わかってる」
僕は勇者だ。こんなの怖くない。
少し歩くと、地面にぽっかりと空いた穴が見えてきた。
「竜太、あそこがダンジョンの入り口だ。準備はいいか?」
「お父さんこそびびって逃げ出さないでよね」
「何かあったら勇者様に守ってもらうから大丈夫だ」
手すりにつかまりながら洞窟の中へと足を踏み入れる。足元が湿っていて滑りやすい。
「お母さん、滑らないように気を付けて」
「あら、勇者様は優しいのね」
「お姫様は僕が守る」
勇者様は自信たっぷりに答えた。洞窟の中は思っていたよりもずっとひんやりとしていた。
「見ろ、竜太。まだ氷が残ってるぞ」
「ほんとだ!冷蔵庫みたい!」
「昔は氷の貯蔵庫になっていて、その氷を殿様に届けていたらしいぞ」
「殿様もかき氷が好きだったんだね!」
「ああ、きっと小豆をのせて練乳をかけていたに違いない!」
洞窟には冒険をするための順路があった。矢印の方向へと進んでいく。一番奥には奇妙な箱が並べられていた。
「お父さん、これなあに?」
「蚕の繭や木の実が保存されてるんだ」
「じゃあここはマッドサイエンティストの実験場だったんだね!」
「そうだ。ここはモンスターを育てるための実験場で、日夜恐ろしい研究がおこなわれていた。竜太、これ以上ここにいたらまずい、マッドサイエンティストに捕まって俺たちもモンスターにされてしまう。見つかる前に逃げるぞ!」
洞窟から出ると、外の空気がひどく暑く感じられた。
駐車場に戻ると、お父さんはT字路の向こう側を指さして、
「向こうにはコウモリ穴っていう洞窟がある。野生のコウモリがいるらしいぞ」
「コウモリ?見てみたい!」
「じゃあ行ってみるか!」
またまたチケットを買い、森の中を進む。途中の道は木材のチップが敷き詰められ、ふわふわしていて気持ちが良かった。すると突然、自然には似つかわしくない鉄格子が姿を現した。洞窟の入り口をかこっているそれは横の間隔が広めに作られている。
「これは夜の間コウモリが翼を広げて出入りできるようにこんな形になってるらしいぞ」
「だったら最初からこんなの作らなければいいのにね」
「あんまり勝手に人が出入りしちゃうとコウモリが来なくなっちゃうんだよ。それより竜太、準備はいいか?ここはモンスターの巣窟だぞ」
「大丈夫、勇者様に任せて」
中に入ってみると先ほどの風穴よりも涼しくはなかった。天井が低くしゃがみこんで移動しなければならない個所もあり、お父さんやお母さんは大変そうだった。
「竜太、早いぞ。ちょっと待ってくれ」
優しい勇者様は素直に言うことを聞いた。一番奥まで行くとその先はまた、鉄格子でふさがれていた。
「この奥にコウモリがいるみたいね」
「昼間はコウモリ見れないのか」
「ちぇっ、コウモリ見たかったのになあ」
「きっと勇者様に恐れをなして逃げ込んじゃったんだよ」
「やっぱり?オーラが違うんだよ、オーラが」
勇者様は胸を張って得意げに言った。
お父さんの提案で西湖の砂浜へ行くと、もう日も暮れ始めていた。
「竜太、いいものがあるぞ」
「あ、花火だ!」
その袋にはさまざまな種類の花火が入っていた。その中にひとつだけ入っていた打ち上げ花火を取出し、
「まずはこれから行くか?」
とお父さんは自慢げに言った。
「うん!早く!早く!」
砂浜に置き火をつける。
「みんな!離れろ!」
みんなで一斉に駆け出した。背後でヒューという音がしたので振り返り、
「いっけえ!ファイアーワークス!」
と叫ぶと、パーンというかわいい音が鳴り響き夕焼け空にきれいな花が一輪咲いた。その花は今まで見たどんな花よりもきれいだった。
辺りはもう薄暗くなり始めていた。花火に火をつけようにもこの辺りは街灯が少なく手元が暗い。
「しょうがない残りの花火はまた今度にするか」
「えー、やだー」
「わがまま言わないの」
「冒険の続きはまた今度やろう。じゃないと怖いモンスターに食べられちゃうぞ?」
「やだ、食べられるのやだ!」
「じゃあ、今日はおうちに帰ろう」
「うん」
今日の冒険が終わるのは少しさびしかったけど、また今度冒険ができると考えるだけでなんだかわくわくした。お父さん、お母さん、今日はありがとう。また今度、絶対に、冒険の続きをしようね。
竜太の冒険 大澤大地 @zidanethe3rd
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