3-10 裏切りの人
一向に終わる気配のない生まれてもいない弟の将来像を延々と語り続ける。
よく飽きないものだなと関心すらしてしまう。
それにしても本当に楽しそうに話す人だ。私の両親もこのくらい私のことを想って話してくれるだろうか。あり得ない。あの人たちに期待するのはやめた筈だ。それなのに目の前の陰陽局なる怪しい組織の人物に愛情を向けられるこの世に生を受けていない命に対して嫉妬している自分がいた。
バチバチという音とは対照的に炎は穏やかに揺れている。
防寒着などない。ひたすら焚火の前に屈み暖を取る。両腕を抱くようにして擦る。摩擦が生む微量の熱でさえありがたく感じる。
現在進行形で不安に駆り立てられている。食糧調達の名目で陰陽局の
特に見え隠れする
山菜に見るからに怪しい茸と見た目は角の生えた野兎といった風貌の獣を手土産に帰還した二人に「遅い。お腹が空いた」とそっぽを向いた少女は顔を背けてから笑みを零した。
ツン(九割)デレ(一割)キャラが板についてきた。正確にはコミュ障だというだけなのだが、それでもこの世界に飛ばされて一種の吊り橋効果的なものがいかんなく発揮されている。関係性は顔見知り程度から友人程度には昇格を果たしているはずだ。段階を追って関係性を深める。所謂、慎重派なのである。告白などもってのほか。人生最初の告白を人生最後の告白にするつもりでいるのだから。
「何か?」
私の話を黙って聞いていた悠遠さんはひと言「重い」と告げて食糧調達へと向かった。
結城穂乃香にこの日新たに「ツンデレ」に加え「重い」という属性が加えられた。
*
さてと、そろそろ準備も整った頃かな。
悠遠は少女の重すぎる思いのたけを正面から受け止めたためか妙に気が重かった。仰ぎ見た空はこんなにも清々しいのに……と少年に同情した。だが、二人は両想いらしいからいいか、と投げやりな感想を抱きながら少年に手を振る。
「お~い、久世く~ん。狩りに行くよ狩り」
ちょっと待ってください、と大急ぎで準備をする。
「この世界に来てひと月近く経ったけど随分とたくましくなったね」
「それはまあ、こんな世界に来たら必死に生き延びるために強くなりますからね」と照れ臭そうに頬を掻く。
こんなに健気な少年をこれから騙すのかと思うとやり切れない。
少年には日本に帰ってもらう。
それが陰陽局が内閣から受けた依頼遂行の最短ルートに繋がる。
年端もいかない少年少女の人生をこの手で歪めてしまう。悠遠は自分の手を見つめた。これも仕事だ。自分がやらなければ自分以外の誰かが任務に就くことになるだろう。つらい思いをするのは一人で十分だと拳を握る。
「久世くん。今日はあっちの方に行ってみようか」
指さした先には複数の人の気配があった。
BORDERRHINE―神様の防衛戦線 小暮悠斗 @romance
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