セブンスコード

15時限目

「店員さん、とても驚いていたのです」

「当り前よ。JKグループに一人コスプレイヤーが混じってるんだから」


 指差して、面前でぱたぱたと羽撃つ耳を見やる。ショッキングピンクのキューティクルがやたらめったら痛々しい。


「堅物のあなたがこんな真似をするなんて、予想だにしなかったわ」

「す、スイーツのためなら、この程度の辱めどうってことないさ……」


 ビブラートの利いた声音で太武が答える。どうやら歌の素質は十分に備わっているらしい。


 彼女の変身を拝むのは入学式以来だけど、いやはやリアリティのない格好だ。厚いマントの下に露出度の高いレオタードを合わせる矛盾したコーディネイトに加え、ウィッグとしか思えない奇抜な髪型、おまけに片側の瞳は深紅を呈している(俗にいうオッドアイというやつだ)。これでは目立たないほうがおかしい。


「おーい! こっちッス、こっち!」


 呼びかけに従って廊下を進み、やがて割り当てられた部屋へとたどり着いた。すでに特等席を陣取っていた刃七は、嬉々として機材をいじっている。


「みんな、採点機能は使うッスよね」

「採点? カラオケでテストをするのかい?」

「おおよそその認識で合ってるわ。音程やリズムの良し悪しで点数が出るのよ」


 もっとも機種によってバラつきがあって、数値はあてにならないけど。


「じゃあまず、ウチから行かせてもらうッス」

「ずいぶんとやる気ね。歌いたい曲でもあったの?」

「さすがるんるん、鋭いッス! 実は好きなバンドが先日新曲をリリースして……」


 話の途中で軽快なイントロが始まり、刃七が慌ててマイクのスイッチを入れる。彼女がすでに盛り上がっているのはいいとして、私も手近なマラカスを握る。


 最近人気のあるバンドというと、バ○プやラ○ド辺りか。


「ヴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォウッ!!!」


 まさかのヘビロテ!?


「刃七さん、素敵なのです」

「うん。臓腑に染み入る力強い声だね」


 唖然とする私を差し置いて、二人は談笑にふけっている。対して私の「普通」の感性は堪らず悲鳴を上げ続けた。


「御清聴サンクッス! お、結果が出たみたいッスね」


 まばらな拍手の中、一同がモニターに注目する。あの腕前、もとい口前なら相当期待が持てそうだが。


 テロテロテロテロ――テンッ♪


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0≡0 星坊 @starbow

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