誉め殺し
なつみ@中二病
誉め殺し
今日はめでたい「セント・バランタリン・デー」。今日は他人を誉めれば誉めるほど、他人を殺す事ができる日。
さあみんな、存分に誉め殺し合おう!
明転
二人とも、なごやかな雰囲気で、
アリス「マリアさん、ごきげんよう」
マリア「アリスさん、ごきげんよう」
アリス「マリアさん、今日もとても美しいわね」
マリア「あらあら、アリスさんこそお美しいわよ」
アリス「いえいえ、マリアさんの方がお美しいわよ」
マリア「いえいえいえ、アリスさんの方がお美しゅうございますわよ」
二人「おほほほほ……」
間
アリス「マリアさんの肌ってとっても綺麗。まるで粉雪、冬の妖精のようだわ」
マリア「アリスさんの髪ってとってもサラサラでうらやましい。まるで流れる小川のよう」
二人、後ろを向いて、ちょっと吐く。「おええ」と。
アリス「マリアさんってとっても素敵」
マリア「アリスさんって非常に素晴らしい」
アリス「マリアさんってすべからく最高だわ」
マリア「アリスさんってなかんずく至高の存在だわ」
指を差しながら、
アリス「エレガント!」
マリア「マーベラス!」
アリス「エクセレント!」
マリア「ファーンタスティーック!」
睨み合って、
二人「けっ」
アリス「眉目秀麗(びもくしゅうれい)」
マリア「容姿端麗(ようしたんれい)」
アリス「明眸皓歯(めいぼうこうし)」
マリア「羞花閉月(しゅうかへいげつ)」
アリス「美女!」
マリア「佳人!」
アリス「麗人!」
マリア「……せ、」
アリス「?」
マリア「世界遺産!」
アリス「ああ~(ダメージを受けて倒れる)」
マリア「よし!(とガッツポーズ)」
アリス「(立ち上がり、)ちょっとマリアさん、私を誉めるのはよして下さる?」
マリア「あらあらどうしてかしら?こーんなに美しいのに、どうして誉めずにいられるかしら、いいやできない!」
アリス「く……反語」
マリア「あらあら、苦渋の表情もお美しくていらっしゃるわ」
アリス「さすがマリアさん。誉め殺しの手口も上品でいらっしゃるわ。今日が何の日か、どうやらご存知のようね」
マリア「あらあら、アリスさんって博識でいらっしゃるのね。年に一度の国民的行事、『セント・バランタリン・デー』をご存知とは」
アリス「ええ、ええ。ご存知ですともご存知ですとも。年に一度の殺し合いの日。他人を誉めれば誉めるほどに、他人を殺す事ができる日。マリアさんって皮肉もとっても優雅なのね」
マリア「あらあらアリスさん、おしゃべりに解説ありがとう。アリスさんってなんーてお優しいのかしら」
二人「(そっぽを向いて)けっ」
アリス「セント・バランタリン・デーをご存知なら、もうこちらも容赦なく誉めますわよ」
マリア「ええ、ええ。こちらも望むところですわ。存分に誉め殺し合いましょう」
ここからは完全に悪意を込めて、誉め殺し合う。
アリス「マリアさんの脚ってカモシカのように細くてうらやましいわ」
マリア「アリスさんって鈴を転がすような声。うらやましいわ~」
アリス「マリアさんって指長いんですのね」
マリア「アリスさんってお肌すべすべ」
アリス「なあんてお上品は口許!」
マリア「気品の高い表情ですこと!」
アリス「まつげもなーんて長いんでしょう」
マリア「綺麗な瞳。吸い込まれてしまいそう」
アリス「スタイル抜群ですわね!」
マリア「セクシーですわ!」
二人「ドキドキしちゃう」
二人、後ろを向いて、激しく吐く。「おええええ」と。
アリス「クレオパトラ!」
マリア「楊貴妃!」
アリス「小野小町!」
マリア「……邪馬台国!」
アリス「……それって誉めてますの?」
マリア「誉めてますわよ!……魏志倭人伝」
アリス「誉めてますの?」
マリア「誉めてますわ!卑弥呼!」
アリス「卑弥呼!」
マリア「卑弥呼!」
気を取り直して、
アリス「あなたを例えるとそう、荒れ果てた大地に咲く、一輪の気高くも美しい、薔薇」
マリア「あなたを例えるならそう、荒れ果てた大地……」
アリス「そこで止めるのやめて下さいます?」
マリア「アリスさんが美し過ぎて形容する言葉が思い浮かばなかったんですのよ!」
アリス「マリアさん、これだけは言わせて下さい。あなたみたいな美人で聡明な方は、ジョージには相応しくないわ!」
マリア「あらまあ!アリスさん、あなたもジョージのことを愛してますのね。まあ知ってましたけど!あなたのように可憐で賢い方は、ジョージと釣り合いませんことよ」
アリス「お言葉ですけどマリアさん、あなたのように素晴らしい方はジョージに似合いませんわ!」
マリア「優秀過ぎるあなたはジョージを諦めるべきよ!」
アリス「私の方がジョージを愛していますわ!」
マリア「いいえ、私の方がジョージを愛していますわ!」
アリス「ジョージは私の物よ!」
マリア「いいえ、私の物よ!」
アリス「マリアさん、知ってます?ジョージって、頭が良い女性が好きなのよ」
マリア「ふーん、知っているわ、それくらい。まあ、アリスさんの方が賢くていらっしゃいますけどね!」
アリス「いえいえ、マリアさんの方が頭がよろしくていらっしゃいますことよ!」
ふう、と一息ついた後、台詞の応酬。
罵声のように浴びせ合う、誉め言葉。
言われる度に「あっ」とダメージを受け、だんだんと傷ついていく。
アリス「眉目秀麗(びもくしゅうれい)」
マリア「容姿端麗(ようしたんれい)」
アリス「明眸皓歯(めいぼうこうし)」
マリア「羞花閉月(しゅうかへいげつ)」
アリス「宛転蛾眉!(えんてんがび)」
マリア「沈魚落雁!(ちんぎょらくがん)」
アリス「一顧傾城!(いっこけいせい)」
マリア「紅粉青蛾!(こうふんせいが)」
懸命に言葉を出そう、出そうと、頭をひねりながら、
アリス「この、花鳥、風月……」
マリア「ん?」
アリス「……うん」
マリア「……才色、兼備」
アリス「ああ~!(それがあったか!という感じ)
成績、優秀」
マリア「くっ……品行、方性」
アリス「ぐっ……図書委員」
マリア「ぐはあ、図書委員……(大きくダメージを受ける)」
考えて、もうないなあ、という雰囲気の中、
二人、はっと思いつき、
二人「美人薄命!」
二人、倒れる。
暗転
誉め殺し なつみ@中二病 @chotefutefu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます