第3話
ー邂逅編・2ー
「なっなんだこの…文字は、てか首席の人いつの時代のやつだよ」
この衝撃に額から汗が吹き出し始めた。
「鳥、雲…人? これってまさか…」
そう、彼の目の前には古代エジプトでお馴染みの象形文字がびっしりと埋め尽くされていた。
一方、例の2人がいる裏方(アナウンス担当)では。
「ねぇ、前川。ちょっと変じゃないか、あの子?」
壇上の映像が映し出されているモニターに短髪ヘアーが特徴的な頭を近づけ、隣にいた前川という女子生徒に呼びかけた。
「ええ、確かに」
「なんか、心配になってきたから俺、代理くんのところまで行って」
「バカッ! どないしたらそんな考えになんねん、頭おかしいんとちゃうか?」
「あっ、関西弁」
「はっ!」
前川は、自分が今とっさに出した言葉が関西弁だという認識はなかったのだが、隣にいた男子生徒に指摘され気づいた。
「はあ…またか」
彼女自身、関西出身なのだが将来社会に出た時を想定して密かに脱関西弁を目指しているのだ。
「それよりさあ…この状況どうするの?」
「うーん、そやなぁ…あっ! 」
そんな中、穂住は原稿の右端の部分に何者かからの救済措置を見つけていた。
「おいおい、勘弁してくれよ」
そこにはこう縦書きで、記されていた。
「アドリブでもいいです★」と。
「この状況…やるしかないのか…」
穂住は、一息ついた後アドリブでこの場で乗り切る事を決断した。
「えっ…どっどうも」
話が始まった途端に目の前にいる人達の目線が一気にこちらに向けられた。
「片瀬穂住です。 私は、この春にこの様に素晴らしい式が開けた事に深く深く感謝感謝します。
そして…」
絶命したー。
「そして、…ですねその…今日は雨ですが、明日は晴れればいいなと思う次第でございましてその…
以上です!」
「死んだ〜」というワードが頭の中を縦横無尽に駆け巡った。
彼の死亡したアドリブスピーチの間、観衆達は意外な終わり方とその内容と短さ故に驚きが強かった。
しかし、スピーチが終わると同時に拍手と笑いの二重奏が穂住の両耳を刺激し始めた。
客席には一瞥もせず舞台袖へ小走りで退散した。
舞台袖に着くと同時に1人の先輩と思しき女子生徒が近づいてきた。
「お疲れ様です、ちゃんと読んでくださいましたか?」
この言葉を聞いた途端、穂住は「この人が書いた張本人だな」と確信した。
「アドリブでもいいです★」というあのワードを。
男子生徒が身につけているベストと配色が似ている白を基調としたトレンチコートの様な上着を身につけ
その下には紺色のセーターを身につけ、トレンチコートとセットだと思われる柄のスカートをはいていた女子生徒と話を続けた。
「ああ、いや本当にびっくりしました、本当に」
頭を掻きながらそう話した。
「ごめんなさいね、あれ毎年あんな感じなの」
まるで、聖母の像のように純白な肌と大和撫子が持つような綺麗な黒髪を持ち、おそらく女子なら誰でも羨ましがるようなお体と清楚さを備えたお方だった。
それに加え身長も高く穂住と相違はなかった(穂住の身長は171センチである)。
「毎年あんなの渡されて新入生総代ってやってるんですか?」
少し赤面顏で、聖母様に話し掛けた。
「いや、今年はちょっと違うんです」
「何が違うんですか?」
まさか、自分だけがあんなイジメを受けたのか不安まじりに問いかけた。
「えっと…使われた言語です」
笑顔混じりに聖母様は答えた。
その笑顔とは裏腹に、「いや、変わったとこそこなのねっ…」と期待を裏切られたように思っていた。
「確か、昨年はスリランカ語でその前の年で、私が担当したのはサンスクリット語だったかな」
「やった事、あるんですか?」
「ええ、だって私首席だったから…」
まさかな展開にまた新たな疑問が生まれた。
「その時は、その…読めたんですか?」
質問を投げられた聖母様はくすっと
「まあ、私は読めて当たり前…かな?」
聖母様の衝撃的な一言で穂住は自己喪失に落ちかけたが、話をつまらせぬように続けた。
「すっすごい才能ですね…よくここまで」
「まぁ、あの法の力で頑張って引き伸ばせた才能だし、それに小学生の頃なんて日本語と英語とフランス語とドイツ語しかできなかったんですよ…Sランクでしたが」
そう、これがS〜Dランクの中のSランカーのトップレベルの実力である。
「それでは、次のプログラムにまいります。
続いてのプログラムは在校生による新入生歓迎の合唱です、在校生起立!」
スピーカーからあの男子生徒の声がまた聞こえてきた。
「あっ! 行かなきゃ…」
「そっそう、ですか」
いきなりの展開に両者とも急ぎ足っぽくなった。
「そうだ、名前言ってなかったね私の」
話のはじめに言おうとして言いそびれた様な雰囲気を醸し出しながら聖母様はそう言った。
「私は、高3の千宮美里(ちぐう みさと)、よろしく」
「あっ、よっよろしくお願いします」
美里はその言葉を聞くとすぐさまその場から駆け出した。
2つ年上の先輩の後ろ姿をみると、どこか癒やされる部分があったがそれよりもあの事が本当ならとてつもない才能の持ち主だと少し恐怖に近い何かが燻った。
この時、二重奏は校歌へと変わり降りしきっていた雨はやみ外は湿気混じりの空気がただ漂っているだけだった。
[次回のキーワード⇄異邦人襲来]
99%の才能と1%の日常Life @00911
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