第2話


ー邂逅編・1ー




「はあ、結局中学の頃は何のイベントも無いまま高校生活がスタートか…しかも、昨日のアレはまずないだろ、いくらなんでも」



満開の桜の木が一直線に、目で見えない先の先まで植えられていたなら、とても綺麗な(木は植えられているが桜ではない)風景になるであろう二車線道路の歩道を片手に折りたたまれた傘を肩には赤と黒で塗り分けられたリュックを装備した男子生徒が歩きながら心の中で悲観していた。



彼の名は、片瀬穂住(カタセ ホヅミ)ー。



耳を隠す黒髪に、170センチはあろう身長に、白をベースとし、赤と黒のラインが特徴的なベストを真っ黒なシャツの上に着てベストとセット柄であろう

長ズボンを着こなしていた。



今、彼は既に目の前に見えている目的地に向かっている最中である。



その目的地はこれから自分のニューライフの舞台となる「私立三笠学院高等学校」、通称「ミカ高」である。



「それに、昨日のアレという名の爆弾を背負ったまま登校だなんて…俺ってそんなにコミュ能力低かったかな…」と先程の悲観さに加え昨日のあの重大なアレ関連で頭の中が混乱しつつあった。



昨日、三笠学院で新しい制服に身と新しい生活への好奇心を包んだ生徒達の入学式が執り行われていた。



今日と違い、昨日は入学式には似つかわない雨が降りしきり湿気はあったものの気温が低かった為、会場となるミカ高校の体育館内の温かさを求めてなのだろうか新入生達の保護者が通常なら外に溢れてしまっている(体育館に学院の生徒全員を収容したとしても8割型埋まってしまう程に狭苦しい)のだが、すし詰め状態になるまで館内に人が押し寄せていた。



そんな、慌ただしい会場内で1人、壇上で新入生総代として今からスピーチをしようとしている生徒がいた。



そう、片瀬だ。



この学校での新入生総代は毎年、他の学校と変わる事なく入試トップ成績者が務めるのだが彼はトップではなく2番手、いわゆる次席と称される立場だった。



その為、彼がこの日新入生から高3生を合わせた計425人と、数はわからないもののおよそ100人強の保護者とその親類ら、そしてこの学院の教職員一同の前で話をする事になるとは思ってすらいなかったのだが…。



「全く、首席が初日から風邪で休んでるんでその代理として次席の片瀬君に新入生総代をお願いしたいって…不幸過ぎるだろ、もしへまったら高校生としての自分への印象マジでクズ以下になるが、まあ風邪でお休み中の首席さんが読む予定だった原稿もあるし、大丈夫、安心しろ片瀬穂住よ」と心の内で自分への不幸さの答弁と緊張緩和法で精神を落ち着かせた。



式が始まり10分後…。



「続きまして、新入生総代にうつります」



館内に出撃のアナウンスが流れた途端、緊張のあまり温かい空間だったのにも関わらず、まるで外の寒い空間に丸裸で放り出された様な寒さが穂住を襲ってきていた。



「では、新入生総代代理の片瀬イテッ!」



「コラッ!」



男子生徒のものであろう声が「代理」と言った直後、オレンジ色の淡い光が漂う裏方で女子生徒が小声でその生徒を説き始めた。



「あんた、何余計な言葉つけてるのよ!」



「えっ…でも事実だしさあ、そこはちゃんと伝えないとダメでしょ」



「あんたは全く…あのね、一般的にはそういう事実があったとしてもそこは上手くカバーして話すってのが普通なんだよってこれまでどれだけ言ってきたことやら…」



「あっ、そうか…なんかゴメン」



「はあー全く…」



「おいっ、早くアナウンスを続けろ!」



2人の背後から男性教師の低い声が耳に入ってきた。



「すっすみません!」



女子生徒が即座に反応し頭だけ教師の方に向け軽く頭を下げた。



「あんた、はやくアナウンス続けなさい!」



「おっおお…」



頭を抱えながら、女子生徒はきっちりと説き終えた。



「先程は、大変お聞き苦しい場面があり失礼しました。では、改めまして新入生総代、片瀬穂住」



先程の事態をポカンと認識していた穂住はマイクがセットしてある台まで歩み出た。



パイプ椅子に座る生徒達と後方ですし詰め状態で立っている保護者達に深々と一礼した。



渡された原稿を長方形に折りたたまれた和紙でできた包み紙から本体をすっと取り出し、中身を見る。



「⁉︎」



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