「水っていっても使い方は幅広いけど…どんなかんじにしましょうか」


 と黄瀬くん。


「背後からブシャーでいいんじゃないか?」


 赤昏先輩が両手を前に放るようにする。おそらく背後からブシャーのジェスチャーだろう。


「え、横からバーンじゃないのか」


 三和先輩は手を横に広げた後、素早く真ん中へともってくる。これはおそらく横からバーンだ。


「横からならサァァだろう」

「伝わるように話してもらえます?」

「「え、伝わらないのか?」」


 黄瀬くんが助けを求めるようにこっちをみてくる。

 とりあえず苦笑いしておいた。


「えっと…あんまり濡れすぎるのもよくないですし、霧ぐらいがちょうどいいですよね」


 論点はややずれるが、とりあえず水の形状を決めてみる。

 本当は、背後からブシャーや横からバーンのイメージはわからんでもないのだ。


「そうだね。キラキラして見えるし」

「タイミングとかはどうしましょうか」

「やはり敵を倒した後じゃないか?」


 その案にはほかの二人も同意するようだ。


「じゃあ敵を倒した後に、『サンライザー』を囲む感じで水放出、みたいな感じですかね」

「おお、そうそうそれだ!さすがプロデューサーだな!」

「おー、話し合い終わったか?」

「「ヒィッ!?」」


 私と黄瀬くんが悲鳴を上げた。


 松風先生がいつの間にか背後に来ていた。

 黄瀬くんと私の間から顔を出す格好だ。ちょうど真後ろで見えなかったらしい。

 赤昏先輩と三和先輩は気付いていたようで、私たちの反応を見て笑っていた。黄瀬くんが「気付いてたんなら教えてくださいよ」と赤面して抗議している。


「おいおいー二人そろって同じ反応かよ?オジサン傷つくぜー」


 笑いながら先生は企画書を手に取る。ぱらぱらとめくって、軽く中身を読み終わると、問題ないというようにうなずいた。

 普通は私が先生に提出しに行くのだけれど、今回は特待生になって初めてということもあり先生がついていてくれたのだ。――寝てたけど。


「じゃあ結局、水ってことでいいんだな。コンセプトは決まったし…大筋はこの企画書通りでいいな。詳しいことは天波、お願いできるか?」

「あ、はい」


 話聞いてたのか。てっきりねてると思っていた。

 より詳しい内容を考えたら、また先生に提出しに行く。そこで先生のチェックを受けて、やっとライブ企画ができあがる。

 こう考えると、プロデューサーより先生のほうが余裕で大変だな…。

 お疲れ様です。


「しかし起きていたんだな、松風先生」


 と赤昏先輩。

 ですよね、あれは寝てましたよね。


「起きてたぞ?目は閉じてたけど」

「めちゃくちゃ半目でしたけど」

「えっ嘘!?」

「まじです」


 脱力感のある声で黄瀬くんが言う。今ので疲れたんだろうか。


「うっわ恥ずかしい…他の先生来てねえよな?見られてたら明日学院来れねえ」

「来てなかったぞ、大丈夫だ」

「そうかよかった…つーか赤昏お前敬語つかえよ」


 松風先生が髪をぐしゃぐしゃと掻く。

 心なしかちょっと赤面しているような。


「すまないな、俺は敬語が苦手なんだ。努力しよう」


 ああ、そんなかんじする…。


「俺はいいけど烏丸センセーの前では使っとけよ。あいつ怒ると怖えから」

「へえ、意外」


 と三和先輩。確かに。でもまあ、想像はできなくはないかも。


「あいつちょっとズレてっからな…あいつだけじゃねえ、特待生の先生みんなどっかおかしいからな。多分一番まともなの俺だぞ」

「半目で寝てた先生がか?」

「傷口えぐるんじゃねーよ赤昏」


 どうやら松風先生は、適当そうな見た目に反してデリケートらしい。

 失礼だって?いやあ、思うだけならタダだからね。


「おかしいんですか?」


 一応突っ込んで聞いてみる。一般生の先生方は普通だったけど、特待生は先生まで特殊なのか。


「ああ。技術指導の先生にオカマとオナベいっから」

「えっ」


 三和先輩がぎょっとした声を上げる。

 何それ初耳。どの先生だろ?

 まあいい奴らだけどな、と松風先生が笑った。


「まあ校長がおもしろい人だからな!そういう先生もいてもおかしくないんじゃないか?」

「おっ、赤昏、校長のこと知ってんのか」


 校長?

 変な人なのか?

 三和先輩と黄瀬くんも知らないらしい。三人で顔を見合わせ、首をひねる私たちに松風先生が説明してくれた。


「うちの学院のゆるキャラの着ぐるみみたことあるか?」

「ああ…『サッキー』でしたっけ」


 私は相槌を打つ。鳥を模したらしい、何とも形容しがたい形をしているゆるキャラだ。独特ではあるが造形は可愛らしく、人気がある。結構グッズ販売のときに見かける。

 たまにその着ぐるみも校内を歩いていて、生徒と一緒に写真を撮ったりしている。着ぐるみを着つつも意外に激しい動きをするとかで、生徒の中ではたびたび話題に上っていた。


「あれの中入ってんの校長なんだよ」

「えっ」


 三和先輩がさっきよりさらに驚きの声をあげた。

 まじか。

 えっ校長ってそんなに暇な仕事だっけ…?


「俺はよくサッキーとすれ違うからな!校長とも仲良しだったりするぞ」

「そうなんですか…知ってはいたけど、この学院って色々変ですね」

「そうだな。俺たちが一年だったころは普通だったんだが…まあ楽しいことはいいことだ」


 赤昏先輩がうんうんと首肯する。

 芸能界は独特な人が多い業界ではある。そういう意味では、教師陣が変なのも社会勉強の一環なのかもしれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スターライトステージ! ごぼう @gobou-w

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ