第22話 標的

中庭で行われた大体的なG組の宣戦布告は学校全体に知れ渡った。

他人事の争いを余興半分に面白おかしく盛り上がる者達、自分には関係ないと全く興味を持たない者達、反応は様々だった。


――C組

隣のクラスであり、何かと因縁のあるクラスながら見物しているのは参謀の飯塚を含めた数名。

他の者達はいつもの日常を過ごしていた。

組長である九条も全く興味をなさそうに自分の席に座り、小説を片手に珈琲を飲んでいる。


「九条様〜、B組がGと、やり始めちゃいましたけどほっといていいんですかぁ?」


九条のいる机の横から宇佐美がひょっこり顔を出す。


「この争いは九条様がずっと楽しみにしていた戦いじゃなかったんですかぁ?早くしないと始まっちゃいますよ?」


宇佐美が甘えた声で尋ねると、九条は視線を宇佐美に向け、いつものようにクククと笑う。


「それは違いますよ、宇佐美くん、私が楽しみなのはB組の全体の動きです、F組と手を組んだG組をB組がどう戦っていくか……それこそが私の楽しみなのです。こんな、威勢だけがいいゴロツキ供の争いなんか見る価値などありませんよ、詳細の方は後で飯塚から聞かせてもらいます。」


そう言うと九条は再び本に視線を戻す。


「そう言うことですか……。飯塚ぁ!お前しっかり目に焼き付けて、一字一句間違えずに報告だからなぁ!」

「言われずとも、心得ているよ、クソチビ!」


九条の時とは打って変わる宇佐美の言葉に、飯塚も顔は中庭に向けたままキツイ言葉で返す。


宇佐美と飯塚は仲が悪かった。



――A組


 A組の廊下からA組の三トップである本馬桜、望月明、近藤アリサが校庭を見渡していた。


「B組とG組が争い始めたようですね、仕掛けたのはG組のようですが、きっかけはなんなのでしょう?」

「ふん、どうせG組が難癖付けたに決まっておりますわ。ホント、あんなに大声出して、全く下品な連中ですわね。なんですかあの格好は?優雅も可憐さも感じませんわ!」


冷静に分析をしながら様子を見る参謀の近藤と、G組のメンツをゴミを見るような目で見る若頭の望月。

 組長の本場さくらは、扇子で口を隠しながらただ二人の会話を聴きながら静観していた。


「まあ、確かにあの格好はどうかと思うが、怒声をきかして威圧することは、別におかしなことではない、極道の振る舞いに優雅など求めるな。」

「私にはぜっっったい耐えられませんわ!G組の奴は私の家の敷地は踏ませません。ちゃんと顔を覚えておかないと……あ!龍馬様がいますわぁ‼」


誰かを見つけて、はしゃぎ始める望月を他所に近藤は、G組の方に注目する。


「……G組の方の人数は十人いるようですが、どこかと手を組んでるのでしょうか?……お嬢はどうお考えで?」


 近藤が話を振ると本場桜は手に持つ扇子をパチンと閉じ、クスリと笑う。


「さあ?うちにはなーんもわかりまへんなぁ。」


まるで、全て知っているかのような、白々しい口ぶりだが、本人が知らないといってる以上、近藤はそれ以上聞き入ることはなかった。


「……そうですか、で、私達は今後どう動きますか?」

「特にすることなんてあらへんよ、B組には何かと縁のある人もいますけど、それとこれとは別。静かに行く末を見守りましょ。」

「キャー!龍馬様!キャー!」

「……明、静かに見守るんだぞ」

「あぁ!今龍馬様が一歩踏み出しましたわぁ!キャー!」

「……明にも優雅という事を教えへんとなぁ」



――

「……なんか、さっき上から見知った声が聞こえて来るな?なぁ片瀬龍馬・・?」

「……さあ、俺には何も聞こえねぇな、それよりも前に集中しろ。」


 片瀬は若田部の質問に話題をそらすように目の前を睨みつける。

 目の前にはバットや鉄パイプなどを持った歪な髪型の男達とのにらみ合いが続いている。


「それにしても女連れで来るとはずいぶん余裕だなぁB組はよぉ?」


 派手な髪色をしたG組のリーダー格の男がそう切り出すと他の歪な髪型の男達もケラケラと笑いだす。


「こりゃもう、この場でB組は終わっちまうかもなあ?」


 喜田、秋山を見て完全に見下している相手に若田部も小さく笑う。


「へ、お前ら如きが俺たちに勝てると思ってんのかよ?」

「おいおい、言ってくれるじゃねーか。……まあ、確かに、俺たちはお前らと違って、訓練も受けずに好き勝手にやってきた連中ばかりで大したことないかもしれねーが、五人がかりで挑めばワンチャンで一人くらい倒す事くらいできるんじゃねーのー?」


その言葉にも若田部は強がって笑って見せるが、内心はあまりよろしくはない。

いくら強いとはいっても武器を持った相手に多数で挑まれれば、対応できるメンバーも限られてくる。


特に単体相手に力を発揮する青山やサポートがメインの秋山は集団相手の戦いはあまり得意とは言えない。

そして更に援軍できているF組のメンバーにも少し注意しなければいけない男がいる。


「……そう簡単に一人にさせると思うか?」


 若田部がそう尋ねると、向こうもニヤリと笑う。


「それはどうかな?聞けばお前達はF組には手を出せないらしいな。そうだろ、新垣?」

「新垣……」


 その名前に若田部が険しい表情を見せる。

 新垣大志……F組の主力の一人の男子だ。


 派手な髪の男がF組のメンバーに、そう呼びかけると、携帯をいじっている、ボサボサ頭の眠たそうな男が反応し、顔を向ける。


「ん?あぁ、香取がそんなこと言ってたな?向こうはこちらが手を出さない限り手を出してこないって。」

「なら……つまりだ。」


 F組の残りの四人が前へと出てくる。


「F組が一人一人に付いて抑え込めばはできるんじゃねーか?」

「チッ、これと香取の入れ知恵か⁉︎」


 若田部は少し焦り始める、香取の入れ知恵が働いてるならきっと、誰を襲うかも考えているはずだ。

 

「よし、じゃあ俺たちはあいつを潰すからF組の奴らは他の奴らに付け!」


G組のリーダー格の男が標的に対し指を指す。

しかし、その相手にF組の、メンバーが思わずためらいを見せる。


男が指をさした相手は喜田だった。


「ん?おい待て、香取からは青山と言う男を狙うようにと――」

「へ、何言ってやがんだ、狙うなら女に決まってんだろ!」


 その言葉に新垣は大きくため息を吐き、馬鹿だ……と呟くと、指示通り、他の者の前にF組を生徒を付かせ、また携帯をいじりだした。


「へぇ……私をご指名なんだ」

「へへへ、たっぷりと可愛がってやるから精々可愛い悲鳴をあげ ――ブギャッ!」


その瞬間、男の顔に見えない速度の蹴りが決まる。

見事に顔面に蹴りがヒットした男はそのまま地面での垂れ回る。


「さあ?次は誰かな?」


喜田が愛用の警棒を手に持ち不敵に笑う。


「チ、怯むな!相手は女だ!全員でかかれ!」


残りのG組の四人が周りを取り囲み全方位から殴りかかる。

喜田が相手の攻撃華麗にをかわすと同時に、蹴りと手に持つ警棒を武器に次々と顔面に一撃入れていく。


「クソ、舐めるな!」


 避ける際に少し体勢が崩れたのを見計らって、背後から男がバットで殴りかかる。


パァン!


 しかしその瞬間、男子の後頭部にゴム弾が命中する。

 そして、それによりフラついた相手の腹に鋭い蹴りが入る。


「ナイス、紀子」

「良子の後ろは……私が守る!」


 秋山が放った銃がF組の男の間をすり抜いてG組の男に命中した。


「くっこいつら……おい!新垣!てめぇ手空いてんだろ!手貸せよ!」


誰にも付いていない新垣に男が声をかけるが新垣は無視して携帯をいじっている。


「お前らが予定通りにしないから悪いんだろ?俺たちはちゃんと言う通りにしたんだ、後は自分らでなんとかしろよ。」

「てめぇ……」


そうしてるうちに喜田が、さらに一撃入れていく。

 全員が顔面から血を流しふらつき始めている。


「さて、そろそろフィニッシュといこうか?」


 不気味な笑みを浮かべた喜田が一歩近づくと、男たちは思わず怯んでしまう。


「クックソ!撤退だ!」


そう告げるとG組の男子達が大慌てで、撤退していき、その場にはB組とF組が残っていた。


「お前達はどうする?新垣」


若田部が今度は新垣に対して武器を構える。


ここは引いて欲しい。

内心そう思いながらも決して口には出さず、ただ、静かに出方を待っていた。

 そしてしばらく沈黙が続いた後、新垣は


「……別に、奴らがいないなら戦う理由はないからな。」


と言うと、大きくあくびをした後、F組を率いて退散していった。

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抗争学園 三太華雄 @551722a

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