私が新撰組と出会ったのは、学校の授業でした。
それは一ページにも満たなかったはずなのに、何故か心に残ったのです。
その後ドラマや小説の影響で新撰組にどハマりしました。
この作品は斎藤一という一人の人物に焦点を当てた秀逸かつ、丁寧な作品です。
史実を忠実になぞりながら、物語の中で様々な演出を施していて、それをとても読みやすい文体でまとめていらっしゃいます。
このまま一編の映画にしてもいいような完成度の高さと、迫力が感じられます。
斎藤一という人は無口で謎が多く、スパイや裏で暗殺稼業を行っていた人物だと伝わっています。
その彼の胸の奥の葛藤や苦悩を表現したストーリー展開は、読んでいてハラハラドキドキさせられ、そして涙を流しながら読了しました。
口に出さなかったからといって何も感じない訳はないんですよね。
それを改めて感じさせられました。
他とは一味違う時代小説、是非読んでみて下さい。
『海鳴りの島』にも評価をつけさせてもらったが、そのイノセントな香ぐわいにすっかり欺かれていたらしい。「無邪気に語る…」というようなコメントをしてしまったが、この作品ではその印象をあっさり裏切られた。一人称ではあるがベッタリとした独りよがりの放言じみた語りはいっさいなく、良い意味でのスタイリッシュさが確立されている。抽象的な意味の〝筆致〟ではなく、筆遣いがまさに眼に見えるのだ。〝止め〟〝はらい〟〝はね〟と喩えてもいい緩急をつけた語りのリズム感が、ほとんど破綻することなく貫かれている。言葉の選び方、掛け合いの間合いなど、見事と言ってよい。それだけで十分評価に値するのになんという★の寂しさだろう。(カクヨムの読者諸君、どこを見ている!)
ストイックで寡黙な語り手の流麗な叙述という一見矛盾したたたずまいで語られる内容も、黒雲のように全編をおおう勝海舟という存在と卑小さゆえに歯ぎしりまでが聞こえてきそうな主人公の独白の対比がまた素晴らしい。これは完成された一編であり、さらにサラリと一筆書きのように短時間で仕上げてしまったらしい作者の力量には、端倪すべからざるものを感じさせられた。
同じ主人公の別の一作があるというのでそれを読ませていただいてからと思っていたが、やはり独立した作品として評価されるべきだし、それだけの価値は十分にそなえている。他の作品ではまた文体をさまざまに工夫されているらしく、むしろそれらに手を伸ばすのが恐ろしくなるほどである。
おそらくそれらのどこかにあるにちがいない、もっと鮮やかな〝氷月あやらしさ〟にめぐり逢うのが楽しみになってきた。
池田屋事件。高台寺党の離脱。武田観柳斎暗殺。
そして、油小路事件。
耳であり目である役割を課せられた斎藤一は、その渦中で、何を考えていたのか。
2004年の大河ドラマ「新選組!」を見ていました。
(その範囲外の知識はない、ともいう)
ので、どうしても当時のキャストで脳内再生されてしまいます。
しかしドラマでは感じなかった、斎藤と沖田・藤堂との「同世代感」を本作では強く感じ、それだけに、本作結末後の斎藤を想像すると心が痛む……。
観察力があり、行動に私情を挟まないからこそ、間諜として有能なのですが。
私情を挟まないからといって、私情が存在しないわけではなく。
むしろ、私情のままに行動できたほうが、どれだけ気分的には楽だったことか。
よく名前が変わる斎藤の裏に、本当に、こんな思いがあったのかもしれません。
……でも、食えないおっさん・勝海舟が一番好きだったりします。
あと、伊東さんと山南さんが仲良し、というのが何かちょっと嬉しい。
寡黙。左利き。無敵の剣。多重間者。
巷に溢れる「斎藤一」のイメージをあますところなく盛り込んで、それでいてハッとさせれる「斎藤一」像を見せつけてくれる。
他にも「伊東甲子太郎」「松平容保」等々、新撰組に関わる面々を、美しい文章で描かれた物語です。
個人的には、多重間者としての「斎藤一」像を新しく見た気分。ものすごい大物が親分として出てきてくれました。
その彼が「色気が駄々漏れ」と言った以降、涙が止まらなくなっちゃった。
人を斬ること、欺くこと、己の道を貫くこと、あらゆる面において悩みが底抜けしてしまった斎藤一の苦しみが、胸を押してくるから。
最後、ズルいなぁ。あんな言われたら、立ち直れない。
史実を知る私たちは「斎藤一」の行く末を知っているけれど、この物語の斎藤一にも救いが訪れてほしいと祈ります。