短絡的な犯人

豪雪地帯

その青年は短絡的で大馬鹿である

その青年は、いつも短絡的である。




騙された。

間違いなくその青年はそう叫びたかったに違いない。

いや、実際そう一回叫んでしまった。

しかし、叫びが人を呼んでしまうだろうということには、さすがにすぐに気が付いた。

その青年は、目の前の死体・・に、いまだに固まっていた。




死んだ男は、麻薬の売人であった。

その男は、麻薬の売り上げを増やそうと、強引な手口を使おうと思い至った。

口先で丸め込んで、麻薬入りの飲み物を、それとは知らない人に飲ませて、消費者を増やそうとしていた。

実際に、それまでは何人か、成功していた。

しかしながら、死んでしまえば、それまで何人成功してようが同じなのである。

もう一度言う。死んでしまえばそれでおしまいである。

その男は、予想外の反撃をくらった。

麻薬入りの飲み物を飲ませたと明かしたとたん、近くにあった本棚の棚板で殴られた。

そして、それであっさりと死んでしまった。

ほんとうにあっさりと死んでしまった。




青年は、死体を目の前にして、動揺していた。

その青年が殺人をしたのは、麻薬による興奮状態が理由だったのだろうか。

それとも、その青年が、元来持っていた正義感が、この男を生かしておけないとささやいたのか。

いや、どちらかというと後者であるが、理由の大半は、青年が、後先考えず動くほどの短絡的な思考をしていたからである。

さて、この青年、この後どうするのであろう。




その青年はやらかしてしまった事態の前にこう思った。

ああ、もう自分はおしまいだ。どうせなら最後に憎い憎い悪人を殺しまわって、そのあと自ら死んでやろうと。

大馬鹿である。

もう一度言う。大馬鹿である。

このときの青年が犯した罪状は、麻薬取締法違反、殺人である。

麻薬取締法違反に関しては、知らずに飲んでしまっただけなので、無罪になる公算が大きい。

殺人に関しては、初犯に加え、情状酌量の余地がある。

決して、おしまいというようなことはないのである。

何度でも言う。この青年は大馬鹿である。

こんな状態であるが、決して、やけになっているわけではないのである。

これがこの青年の通常思考であった。

これまでも、短絡的に考えて、猪突猛進に突っ走って、周囲をかき回した。しかし、なぜかうまく事態が収まってしまう。

こんなことが何度もあった。青年の存在そのものが、まさに神が起こした奇跡である。

こんなに短絡的な青年が、いままで生きてこられたこと自体が不思議である。




青年は、その持ち前の正義感からなのか、死せる前に、派手に悪人を殺しまわってやろうと計画した。

馬鹿としか言いようがない。

そして、青年は、麻薬の売人の部屋漁りを始めた。

なにか、麻薬の出元につながる手がかりがないかと思ったのである。

指紋が付くということも考えずに、さらには玄関の鍵を閉めるといったこともせずに、ただ、部屋の机のところにきちんと積まれていた紙の山を無造作に漁って、部屋中に散らかした。

この行動だけでも、青年の短絡的思考が知れよう。

さて、青年は後悔した。

積まれていた紙の山の中に、目的のものがないと分かった。

しかし、この散らかった部屋の中では探し物もしにくい。

そう思って、部屋を片付け始めたのである。

阿保である。

麻薬の売人が人を信用させるためなのか、元々、部屋は片付けられていたのである。当然、床も片付けられていた。

もとより、片付ける必要などなかったのである。

さて、床に散らばった紙を机の上に綺麗に戻した後、青年はうむむと考え込んだ。

机の上に山積みになった紙以外に手がかりになりそうなものが見つからなかったのである。

棚に並んだ本に目を向ければ、本に巧妙に挟まれた、麻薬の売上について書かれた資料があったのであるが、いかんせん青年は短絡的なのである。

さすがに、本にはものを隠せないだろうと、本棚には目も向けようとしなかったのである。

間抜けである。

すると、悩んだ青年は、突然あっという声を上げて、部屋にあった絵画を突然剥がした。

テレビドラマの影響で、絵画の裏に何か隠されているのではと考えたのである。

実に短絡的である。

しかし、絵画があったところの壁を調べてみても、隠し金庫のようなものはなかったのである。

とても残念に思った青年は、絵画を戻そうと手をかけた。

その時はたまたま、絵画の裏が上のほうになっていたので、絵画の裏の木枠がよく見えた。

そして青年は、その木枠に何かが挟まれているのを発見した。

それは青年が求めていた手がかりであった。




青年は、再び罪を重ねようとしていた。

運送屋の事務所に無断で立ち入って、2tトラックを盗もうとしていたのである。

手がかりの資料に記載されていた、麻薬の出元のヤクザの事務所に、トラックで突っ込もうとしていたのである。

どこからそんな発想が出てきたのか、私にも全くわからない。

その青年の正義感がそんな凶行に走らせたのか、それともその青年が短絡的だからこそそのような凶行に及ぼうとしていたのか。

間違いなく後者だと思う。

突っ込む前に、まずトラックで頑丈な壁を壊せるものかどうかを考えてほしいものである。

しかし、その青年は躊躇しなかった。

ためらいもなく、事務所に保管されていたトラックのカギを奪って、トラックを動かしたのである。

なぜ普通の車でもなく、バスでもなく、2tトラックであるのか。

その青年にしては、珍しく理由があった。

転生系小説では、主人公はいつもトラックに轢かれているよな!

そこからトラックを連想したのである。

バカバカしいことである。

そんな軽い理由で選ばれてしまった2tトラックがかわいそうである。

青年が運転するトラックは、無事に道路に入った。




これは余談であるが、トラックが盗難に遭ったことで後日、警備が強化された。

そして、警備が強化されたとは思わず、前の警備を想定して、強盗の計画を立てていた殺人の罪にも問われている強盗グループをを、あっさりと拘束することができた。

トラック1台を壊されるか、全部盗まれるか。

どちらもよくはないであろう。

しかし、青年のおかげで軽い被害で済んだのも事実である。




ヤクザの事務所は、不動産屋の中にあった。

不動産屋は、漏れてはならない系統の個人情報を大量に扱うところである。

警察も、簡単には介入しにくいだろうという思惑があったのだ。

その不動産屋の2階では、組員が十数人集まって、シノギの確認をしていた。

いつも通りの日常であった。

そう、いつも通りの日常となるはずであったのだ……。


2tトラックが、ガラス張りの窓を突き破ってくるまでは。


不動産屋を見たことがあるだろうか?

大体の不動産屋は、表側が大きなガラス張りの窓なのである。

そして、その窓のところに、扱っている物件が幾多も貼り込まれているのである。

さて、その青年は本当に運が良かった。

目指しているヤクザの事務所が、不動産屋を隠れ蓑にしていたので、2tトラックで突っ込むことができたのである。

発想と行動は短絡的であるが、その青年は本当に運が良かった。

同時に、敵対者にとってこれほど恐ろしいものはないのである。

常軌を逸した思考と、天より与えられし豪運。

これほど予測できないものはないのである。




トラックに突っ込まれたヤクザ達は本当に不運であった。

青年の阿保な行動に巻き込まれたのであるから。

しかし、慈悲はない。

そのヤクザたちは、麻薬に強盗にカツアゲに、殺人まで幅広く行っているのである。

これまでの行為が跳ね返ってきただけのことである。

トラックが突っ込んできて、まず、不動産屋の所長が跳ね飛ばされたデスクの下敷きになって、潰された。

不動産屋の所長もヤクザの一員であるので、巻き込まれたかわいそうな被害者とかということはないのである。

すると、上から騒ぎを聞きつけた殺気立った組員たちが、駆けつけてきた。

それぞれ武器を持って、今にも臨戦態勢である。

2tトラックから降りてきたかすり傷ひとつない・・・・・・・・・青年はあることに気が付いた。

何度でも言うが、この青年は短絡的で、馬鹿で、阿保で、間抜けである。

その青年は、組員達が持っている武器を見て、自分が武器を用意していないことに気が付いたのである。

もう一度言う。馬鹿か。




しかし、その青年は、冴えない頭の代わりに、天運を持っている。本当にもったいないことである。

その青年の足元に、ある武器が転がっていたのである。

それは、不動産屋の所長のデスクの引き出しに入っていた拳銃である。

豪運もいい加減にしやがれ。

その青年はその拳銃を拾って、ヤクザたちに向けたのである。

そして、名乗りとか、脅しとかも、そして会話することすらなく、実に短絡的に拳銃をぶっ放したのである。




素人が、拳銃を撃って人の急所にきちんと当てられる確率は大変低い。

そう、低いのである。

それなのになぜか青年が撃った銃弾は、青年の狙ったヤクザには当たらず、しかし、それた銃弾は別のヤクザの急所に当たったのである。

改めて言う。なにそのチート運。

青年が躊躇なく撃った6発の銃弾は、面白いようにヤクザに当たっていく。




撃ちきった拳銃はもう役に立たない。

ヤクザはまだ10人は残っている。

普通なら、反撃を喰らっておしまいである。

いや、もうすでに反撃は喰らっていた。

ヤクザの方も、青年に遅れはとったものの、拳銃で反撃し始めたのである。

しかし、銃弾は青年にかすりすらしなかったのである。

お前は神に愛されているのか。

ああ、神はなんと理不尽なのだろうか。

次に、その青年は、足元にたまたまあった金属バットを持って、組員たちに襲い掛かった。

確実に距離は縮まっているはずなのに当たる気配のない銃弾に、しばらくパニックのあまり、銃を乱射していた組員たち。

しかし、何人かが、バットの餌食になったところで、その青年はそういうものだと理解したのである。

今まで、彼らは、修羅場の時は豊富にある拳銃に頼っていたのである。

強い武器に頼り過ぎていて、近接戦の経験が少なくなっていたのである。

しかし、彼らは、青年がそういうものだと理解した瞬間、戦い方を変えることにしたのである。

彼らにしては良い判断ではなかろうか。

機を逸してしまっている気もするが。




その青年は、あまりにも短絡的である。

考えなしである。

そして、自分の命をあまりにも軽く見ているのである。




ヤクザたちが全滅したところで、ヤクザの親分が出てきたが、あまりにも遅く、ついわざと役に立たない部下を全滅させたのではないかといぶかしんでしまう。

それぐらい遅かったのだ。

RPGで部下が全滅するまで、姿を現さない魔王ぐらいには。

さて、青年の様子はどうか。

腕から吹き出る血の勢いと、喘いでるような呼吸の周期が一致していて、もし他の人が居たならば救急車を呼ばれているほどの、大けがを腕に負っているのである。

さて、なぜこんなことになっているのか。

改めて言うが、この青年は短絡的な大馬鹿である。

だが、この青年の馬鹿というのは、成績や学力的な意味ではなく、突発的事態の対応など、頭脳的な意味である。

この青年は馬鹿で阿保だが、知識を理解できないほどではない。ただ馬鹿だから、変な使い方をしてしまうだけである。

つまりこの青年は、漫画や小説を人並みには読んでいるのである。

真実を知っている私だからこそ改めて言う。

この青年はとんだ大馬鹿である。




漫画によくあるパターンの中で、こんなパターンがある。

肉を切らせて骨を断つ。

敵の攻撃をあえて喰らって、その代わりに敵に大きなダメージを与える戦法。

この青年は、そんなシーンを読んで、こういう戦法をとる主人公かっこいい、と思ってしまったのである。

そう、思ってしまった・・・・のである。

そして、その青年は愚かにも、それをさっきの組員たち相手に実行してしまったのである。

まず、持っていた武器である金属バットを、手を滑らせたふりをして、上に放り投げた。

このシーンを見ていた組員は、突然の行動にきょとんとした。青年がわざとバットを捨てたようにしか見えなかったのである。

青年は内心ドヤァとしていた。手を滑らせたようにしか見えないだろう!どうだ?(と本人は本気で思っています。)と顔をしかめる演技をしながら、そう思っていた。

そして、組員が襲い掛かってくるのを、今か今かと、待っていたのである。

そして、その策謀は奇跡的に成功してしまったのである。

改めて状況を説明しよう。

組員側からみると、青年は何人ものの仲間の命を奪い去った憎き仇である。

青年の大根役者っぷりにも、騙されてしまう組員が出てくるのは、ある意味仕方ないことなのである。

銃刀法に違反しているであろうサバイバルナイフを持った組員が、青年に襲い掛かる。

仲間が止めるのも聞かないで突っ込んでいった組員の攻撃は、あっけなくヒットしてしまう。

青年が腕で止めたのである。

そして、これを狙っていたんだ!といった顔をして、もう片方の腕で、組員に殴りかかったのである。

その殴打は、人を一撃で殺すほどの威力ではなかった。

そんな威力など、ボクサーやヤクザなど、本職の方々にしか出せないだろう。

しかし、青年の放った拳は、なぜか顔のごく限られた一部にしかない急所にヒットして、見事に組員を冥界に送ったのである。

倒れた組員を前にしてどや顔をしている青年。

シュールである。

そして改めて言いたい。この大馬鹿青年。

わざわざ、攻撃を受けずとも倒せただろうが。

組員を倒した代わりに、ドクドクとあふれ出る血が体力を奪っているぞ。

何度でも言う。この青年は短絡的でど阿保である。

そして、残り一人の組員の胸には、いつの間にかサバイバルナイフ(・・・・・・・・)が刺さっていた。

青年が殴った衝撃で吹き飛ばされたナイフが、コメディのように最後のひとりの胸に刺さったのである。

こうして雑魚は全滅したのである。

青年があまりにも短絡的過ぎて、失笑を禁じ得ないが。




さてこれ、部下が全滅してようやく出てきたヤクザの親分であるが、彼の見せ場はなかった。

先ほど青年が放り投げて、天井になぜか刺さっていた金属バットが絶妙なタイミングで外れ、親分の石頭にクリーンヒットしたのである。

堂々と出てきて、いかにも悪役らしい名乗りをしようと思ったところにこの仕打ち。グフォと咽ってしまうのも当然であろう。

この親分、仲間想いといったようなことはなく、部下を、かわいがってやれば自分の手足のように動いてくれるロボットのようなもの、としか思っていなく、部下が全滅したところで、ほとぼりが冷めたころに新しいチームを作れば問題はないだろうと考えていたのである。

バットの衝撃に頭を揺さぶられて、気絶しかけた親分であるが、そこはさすが親分といったところか。伊達に長年前線でタイマンを張っていただけのことはある。

体がよろめいて、膝をついたが、気絶はしていなかった。それどころか、すぐさま立ち上がり、青年の顔に拳をたたきつけてやるつもりだった。

しかし、そんな彼に更なる不幸が襲い掛かった。

先ほど、彼は膝をついたのであるが、その膝がついた部分に、ちょうど日本刀の刃が存在したのである。

つまり、彼は、膝をついたとたんに予想外の傷を負ったわけである。

思わず、顔に似合わない高い声で、ギャッと叫んでしまうのも仕方ないであろう。

先ほどからの、予想外の致傷の連続に、親分の精神がちょっと凹んでいた。

一般的に、受けると分かっているダメージより、予想外のダメージのほうがいろいろ痛いと言われているが、親分の様子を見ているとまさしくその通りであろう。

さて、日本刀の刃がチクリと膝に刺さって、ギャッと叫んだ親分は、そのあと後ろに飛びのいた。もちろん倒れるつもりなどこれっぽちもなかったが、たまたま飛びのいてつい一歩後ろに下がった足の下に、なぜか武器として持ち出されたバナナの皮があったというのは、彼にとってはわけのわからない不運であろう。

バナナの皮であるが、本当に滑るのかというと、これが思いっきり滑るのである。バナナの皮の滑りについて研究したものがイグノーベル賞として認められるほど、バナナの皮の滑りは国際的にも認められているわけである。

漫画的表現は嘘ではなかったのである。

なぜ、ヤクザが武器として使おうと思ったのかはさておき、バナナの皮はそこにあったのである。

親分は、後ろに飛びのいたところ、バナナの皮でさらに滑り、後ろに思いっきり倒れたところ、階段のへりに頭を打ち付けてお亡くなりになられたのである。

刑事ドラマとかで、階段から突き落とされた人が、口を大きく開けた間抜けな顔を横に向けて、あおむけにあへっと倒れている。あんな感じで倒れていたのである。

実に哀れである。青年が手を出すまでもなくフルボッコである。

これまでの悪行が返ってきたのかと思ったが……それにしてはあまりにもシュールな死に方である。

はたから見ていると完全にコメディである。

怪我を負った青年の代わりに、チート運の総攻撃である。




さて、ヤクザは全滅した。

麻薬の出元を叩くという青年の目的はこれで達成されたのである。

やりすぎのような気がしなくもないが。




さて、改めて言うが、青年は短絡的で大馬鹿である。

しかし、大馬鹿は大馬鹿なりに考えて、結末を迎えようとしているのである。

そう、青年は今は崖の上だ。

本当に青年は、短絡的で短絡的で大馬鹿である。

ヤクザを全滅させるという行動を起こさなければ、執行猶予付きで10年ほどの実刑、しかも麻薬依存治療付きで終わったというのに本当に大馬鹿である。

今や青年の罪はさらに積み重なり、殺した人の数は膨らんでいって、死刑など軽く超えるぐらいには殺してしまった。

もちろん青年は逃げるつもりなどない。

ただ、最初に決めた筋書通り、自殺するだけである。

なのに、青年はまたも大馬鹿をやらかしてくれやがったのである。




青年は、死を目前にしているというのに、なぜか高揚感を感じていた。

そう、自分がまるで悲劇の物語の主人公のように、感じられていたのである。

改めて言うが、青年は短絡的で阿保である。

どうせなら、死ぬ前にいっそのこと悲劇の主人公をロールプレイングをしてみようと思ってくれやがったのである。

青年が今立っている崖は、自殺の名所として有名な崖であった。

それこそ、自殺する人を止めるために、誰かが時々パトロールするぐらいには。

つまり本当に死にたいなら、止められる前にさっさと身を投げるべきなのである。

もちろん、青年は本当に死ぬ気であった。

だが、青年は短絡的で考えなしの阿保である。

あっさりと自分の気分で演劇を始めてしまったのである。

青年は、崖の反対側にある、森のどこともしれぬところ暗がりに話しかけながら、崖に向かって、一歩一歩後ろ歩きで踏み出していく。


「ああ、なぜ世界中で起こるはずだった悲劇が、我に集まっていく!」


お前に集まっているのは間違いなく幸運である。


「これが、世界の選択だというのか!我一人に不幸の運命を押し付けて、世界を平和にしようというのか!」


これまでに周りに理不尽を振り撒いてきたお前が言うことか。


「そして、今も厄災の目は、我をつけ狙っている!厄災の目、お前は、我をここに追い詰めて何をしようというのか!」


自分の意志でここに来たんだろうが。


「そうか……もう死の運命からは逃れられぬのか。ならば、最後に自ら選ばせてもらおう!」


中二病的言動でノリノリにかっこつけているが、全部知っている側としてはバカバカしすぎて見てられないほどである。


「我は、自ら死を選ぶ!厄災の目よ、お前に我を殺すことは不可のうぅぅぅぅぅ!」


改めて言うが、青年は短絡的で阿保である。

練習もなしに演劇をしようとしたつけがここで回ってきたのである。

締めのセリフで、崖から飛び降りようとしていた青年は、目測を誤って、セリフの終わりを言い切る前に、崖から足を踏み外してしまったのである。


「言い切らせろよぉぉぉぉぉ!」


最期まで青年は短絡的で阿保で大馬鹿であった。




ちなみに余談であるが、青年が特攻していった、暴力団事務所の組長と協力関係を結んでいた、某警察庁長官がいたのである。

しかし、暴力団の全滅により、そこに警察の捜査が入った。

そして、一介の警察官が、そこで癒着の証拠である書類を発見したのである。

その警察庁長官にとっては不運なことに、そこの警察署に子飼いの部下はいなかった。

その書類は、捜査二課とかマル暴だとかに渡って、結果、警察庁長官が退任することになったのである。

完全に余談ではあるが。



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