僕らのシアワセ計画

kiL

第1話

Plan0




愛してるって言われたかったわけじゃない。


抱きしめてほしかったわけでもない。



ただ楽しく食事をしたかった。

何気ない日常の会話がしたかった。

笑いかけてほしかった。



けれど私にはそんな価値なんてないんだ。



だから今日こそ終わりにしよう。


私なんか生まれてこない方がよかったんだから。




この闇に溶けるんだ────



***




繁華街を少し外れた13階建ての建物の非常階段の13階。


裏道に面したそこは明かりが全然なくて真っ暗だ。



私のお気に入りの場所で、今から人生に幕を降ろす場所。




「何してるの?」




私一人だけだと思っていたから、急な問いに肩が強張る。



「ここ僕の場所なんだけど。」



男の人の声なのはわかるけど、低くも高くもないし、何の感情も感じられない。



「君、泣いてるの?」



半分くらい体を彼に向けたところで、そう言われた。


自分が泣いていることにその時やっと気づいた。



「ここで死なれたら困るし、僕に話してみる?」


「……」



黙り込み俯いたけれど、彼の視線を感じる。




「……産まなきゃ…よかったって………」




もう誰でもよかった。



世間一般では異常な、私の普通を聞いてほしかった。



「…あんたのせいで……苦労ばっかりって………」



絞り出すような私の声を彼がどんな顔をして聞いているのかなんて知らない。



「産んでよかったことなんてないって………


私の人生をめちゃくちゃにしたあんたなんかいなくなればいいって…」



どんどん声が震える。



「殴られるのも蹴られるのも痛いけど…そうじゃなくて、苦しいよ………」



そこまで零した私は、熱に包まれた。



「大丈夫、大丈夫。


僕が君を、幸せにしてあげる。」



私を抱きしめた彼は、誰よりも優しくそう言った───


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