2。『…………なんでさ』









 目を覚ました。



 質素だが調度品は全て質の良さそうな物ばかりが置いてある部屋のベッドの上である。



「……………確か、ジラードさんに保護されたんだったか」



 一瞬混乱したが、昨日の事を思い出し、そう呟いてから部屋を見渡す。


 窓というか、バルコニーの様なモノが見える大きな硝子の嵌った扉からは、明るい陽の光が差し込み、既にお昼くらいの時間だと主張している。

 いつもの通りの時間に寝ていたのなら確実に午後だろうが、昨日は精神的な疲れのせいか多分夕方くらいの時間に寝たから、十時から十一時だろう。 きっと。



「ジラードさんは仕事かね…………どうしようか、これから」



 取り敢えず今日はどうすればいいのか…………というか飯はどうするんだろう?

 明らかに飯の時間とはズレてるだろうし………………。



 そんな事をツラツラと思考しながら、自分の格好を眺める。

 ジャージの様なズボンにヒートテック素材のタートルネック、そして裏がボアでフードが大きく、口元までチャックのある、袖がブカブカなパーカー。 フワフワのルーム靴下も履いていて、それらの服の上からジラードさんが貸してくれたローブ。

 …………というかローブのままで寝たのか俺は。 駄目だろ。


 試しにローブを脱いでみt、さっぶ?!

 …………ローブは必須の様だ。 仕方無いネ。


 ローブは着たままモゾモゾと掛け布団をどかして、また意味も無く部屋を見渡す。



「マジでどうしy (ノックの音) …………? なんだろ?」



 ローブのフードを引っ張りながらドアに目を向けると、男の人の声が聞こえてから、誰かが入ってきた。



「Harness、** ***………*** **⁉︎」(ジャキッと剣を構え

「え、ちょっ、え?」



 なんか憲兵というか警護の騎士的な人が入って来たと思ったら思い切り警戒して剣に手をかけてこっちに何かを言ってきた。

 …………あー、ここジラードさんの部屋だし、滅茶苦茶ド偉い人の部屋でローブ着た怪しい奴がベッドの上に居たら警戒するよね………って、どうすりゃいいのさ⁈



「*** *** **! *** **!!!!」(剣を抜いて詰め寄ろうと

「え、ちょまっ、待って待って⁉︎」


 思い切り剣先をこっちに向けたまま近寄ってきたので慌てて剣持ってる人と反対側のベッドの横に降りて隠れ、ちょっと顔を覗かせる。


 そしたら、なんかめっちゃ怒鳴りながら剣突きつけてきた。 マジ恐ぇ。



「ヘ、ヘーネス……ヘーネスぅー………」(ぷるぷる震えつつ涙目



 剣恐い。 マヂ無理。

 画面の向こうのモノを見るのと実際向けられるのとでは勝手が違うから。 コレ下手したら死ぬって恐怖が襲ってくるから。


 フードを両手でぐーっと掴んで引っ張りつつ震えて蹲りながらジラードさんを呼ぶ。

 ジラードさーんヘルプミー! もしくは執事さんでも可!



「………Lia?」

「! ヘーネスぅーッ‼︎」(涙目



 そんな風に考えていたら、ドアの方からジラードさんの声が。


 思わずベッドの横から飛び出しジラードさんの方に駆け出すと、突然ジラードさんが怒鳴った。


 ビクッとして止まったんだが、すぐに優しく声をかけて来て手招きをしてくる。 剣持ってる人の方をチラッと睨みながらだけど。


 横目で見ると、剣を振り上げていた………斬られかけたって事か。 ジラードさんの制止(恐らく)がきかなかったらヤバかった。


 ビクつきながらおずおずとジラードさんに近寄り、服の裾を摘む。

 ジラードさんは優しく声をかけてくれながら頭を撫でて抱き締めてくれた。 顔を見るに怖がらせてごめんね的な事を言っているんだろう。 とても申し訳無さそうに眉尻を下げた表情をしている。



「ヘーネス………」(ぷるぷる

「**、**。 ** **** ***。」(申し訳無さそうに頭を撫でて抱き締めつつ

「ヘーネス、ヘーネス…………」(ふるふるふる

「**。 ****、Lia?」

「ヘーネスー…………ふぇ……………」(じわぁ、と涙目になり

「**ッ⁈ *、***、***! * ** **** ***………*?」(慌ててあやし

「リアルファンタジーとかマジクソくらえ………ご都合主義なら言語が通じないとかツメの甘い事してんじゃねーよ、マジふぁっきん………」(目をこすりつつ低い声で

「Li、Lia?」

「現実のバカー、クソ外道ー、鬼ー…………いつもの事だけど。 いつもの事だけどォ!」



 現実に対して罵倒しつつ、ジラードさんから離れて目をこする。


 一通り滲んでいた涙を拭い終わり顔を上げると、ジラードさんは剣を持ってる人とめっちゃ恐い顔で会話をしていた。 剣を持ってる人は既に剣を鞘にしまい、直立不動で冷や汗を流していそうな表情だ。 多分絶対流してる。


 何を話しているかはサッパリわからないが、暫く会話をして、剣を持ってる人は軽く涙目になりながら部屋から出て行った。


 ジラードさんは何を言いながら、また申し訳無さそうに頭を撫でてくる。

 まぁ、下手したら死んでたし仕方無いけど……ちょっと気に病みすぎだと自分は思うぞ、ジラードさん。


 なのでもう気にしなくていいという意味で、彼の頭を撫で返してみる。 両手でわしゃわしゃーっと。


 最初は戸惑っていたけど、次第に苦笑を浮かべ、最終的になんかほっこりした顔になったので撫でるのをやめる。


 そこにちょうど執事さんが食事を運んで来た。 どうやら昼食の時間らしい。


 詳細は省くが、二人分にしては若干多いであろう料理を食べ、デザートも完食して一息吐いた。 殆ど当たりだが、たまに個人的な外れがあったのが食文化の違いを感じさせた。

 見た目は彼方あちらとほぼ同じだったが、やはり異世界という事だろうか。 不思議な見たことの無いモノもあった。 主に果物で。

 あ、あと此方こちらには頂きますにあたるモノはあるが、ご馳走様にあたるモノは無いようだ。 ジラードさんが食事前に何やら言いつつ祈っていたし、宗教的なものだろう。


 少しずつ此方の情報を覚え、脳内のノートに纏めておく。

 最大のネックはやっぱり言語の壁だ。 会話出来ないと辛いなぁ……。

 徐々に覚えていくしかない、か。



「ヘーネス、ヘーネスー」(ちょいちょい、と袖を引っ張り

「** ***? Lia。」

「ヘーネス、言葉、文字、教えて?」(ジェスチャーをしつつ



 言葉と言った時に、手を口元でパペットを話させる時の様に動かし、文字と言った時に、ペンを握っている様な手で空中に何かを書く様な動作をし、教えてと言った時に、何かを貰う動作をしてから自分の米神をコツコツ叩き両手を差し出しつつ首を傾げる。

 これでわかってくれるといいんだが…………と思っていたが、杞憂だったようだ。

 笑顔になりながら、何かを言いつつ頷いてくれた。


 だがその直後に少し困った顔で、テーブルに置いてある書類?を見る。

 仕事どうしようって感じかな。



「あー、えぇっと………ヘーネス。 自分、横に置く、仕事、どうぞ」(再びジェスチャー



 自分と言った時に自身を指差し、横に置くで何か箱みたいなのを持って脇によける動作をし、仕事と言った時は書類を指差し、どうぞの時は何かを差し出す動作をした。


 これを見てジラードさんは苦笑して、何かを言いつつ頭を撫でてくる。


 多分、謝っているんだろう。 さっき頻りに繰り返していた言葉を言っているし。


 気にしなくていいと言いたいが、まだ此方の言葉を知らないので、仕方無く彼の頭を撫でる。


 ジラードさんは苦笑したまま書類の置いてあるテーブルに向かって座り、自分もその隣の椅子に座って書類を覗き込む。


 ……………うん。 全くわからん文字だわ。


 でも何処と無くラテン文字に似てる、かな? 所々は…………キリル文字とかギリシア文字?

 まぁ全部手書きだから、筆記体になっていて正しい形はわからんが。


 うーむ、文法とかは英語に近いんだろうか………………どうなんだろ?

 大文字っぽいのと小文字っぽいのがあるから、彼方と似た感じなのはわかるが……………。

 あと、記号? ドットとコンマらしき物があるから多分それは彼方と同じだと思う。



 ジラードさんはサクサクと書類を進めていく。 サインをして判子を押したり、所々印をつけてサインしたのとは別に分けたり。

 サインは自分の名前だろうし、ヒュースジラードってこんな感じに書くのかー、と観察する。

 最初に書くのはジラードさんの名前だろうな、間違いなく。


 しかし、紙はやっぱり高価なんだろうか? 羊皮紙では無さそうだし、随分と質が悪そうな感じだが。

 藁半紙じゃなくて………コットンペーパー?の分厚い感じ。 色は茶色っぽくて、茎を使ってあるらしく繊維がよく見える。


 洋紙ってどう作るんだっけ?

 確か、木から作ったパルプをどうたら、って筈だったが……………和紙だったら、中学の時に部活で作ったんだが。

 うーむ、こんな事になるなら調べればよかったか…………いや、木のパルプで出来た洋紙は、かなり強い薬品を使うから早々出来ないんだったか?

 コットンペーパーは和紙みたいにそこまで強い薬品使わないんだったか…………どうだっけ?




 ………………うん! わからんからいいや!

 俺にNAISEIチートは無理だ。 そもそも政治とかの頭使うのが無理。 ゲームとかでも脳筋プレイだしな。


 やはり現代の化学技術や機械は凄い。



 取り敢えず、単語から覚えないとな………この歳で勉強するとかマジで怠いが、大学とか専門学校だと思えばまだマシだろうか。



 さっさと覚えて会話がしたい。 さっきみたいな事が起きないとも限らないし。

 あー…………帰りてェー…………………。

 帰って小説読んでネトゲしてェー……………。









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 夜になりました。


 結局今日は横でずっと書類を眺めていただけだった。


 昼食より豪華だが量は少なめになった夕食を食べ、そういえば昨日は風呂入ってない上に服も変えてないなと思い至ってしまった。 ……臭く無いよな?


 昨日は仕方無いと諦めるとして、流石に今日も入らないのは問題だろうという事で女官風のメイドさんにジェスチャーして風呂入りたいのと服を変えたいと伝えてみる。

 ジェスチャーとはいえ腕を伸ばしてこする様な動作をしたり、頭を洗う様な動作をしたり、服を摘んで示してから脱ぐ動作と揉み洗いする様な動作をしただけだが。


 それでもキチンと伝わった様で、頷いてからジラードさんに話しかけて一旦部屋から出て行った。


 暫くして等間隔で印の付いた紐と比較的厚手の生地のドレスを何着か持って来てくれた。

 ガッツリパーティ用です!的な物ではなく普段使い用のシンプルな生地のドレスで、プリンセスラインやベルラインの物が多い。 袖口は、エクステンションやサーキュラーカフスが殆どだ。


 紐はメジャー代わりでアレで測るんだろうなと考えながら、ローブは着たままパーカーを脱いでいるとめっちゃフリッフリのピンクのドレスをジラードさんがニコニコしながら持ってきたので全力で拒否した。 強いて言うなら冷たい視線でいいえを連呼するだけ。 ジラードさんはしょんぼりしてドレスを元の場所に置いた。

 ちなみに、パーカーの下に着ていたヒートテック素材のタートルネックは薄いから別に下着にならなくてもいいだろうと脱いでいない。


 というか一応自分女なんですが。 なんでジラードさん出て行かないん?

 冷たい視線続行しつつジラードさんを見つめていると、女官風のメイドさんが察したらしく何かを言って追い出した。 流石です。


 パーカーで隠していた腹を測れる程度にガードを緩める。

 デ、デブじゃないし。 ぽっちゃりだし。(震え声

 内心で言い訳しつつ服の上からサイズを測られ、それが終わるとドレスを示される。 選べという事だろうか。

 青が好きだからその中から、地味めな感じでワンピースみたいなデザインのエンパイアドレスにした。 腹周りが目立たないし。

 首周りはハイネックで、ゆるめの長袖で、袖口はエクステンションのドレスだ。 裾は足首のちょい下くらい。 色はロイヤルブルーの生地。


 本当はズボンが良いんだが、言葉がわからないし伝えるのが面倒なのでドレスでいいや。


 というかなんでこんな都合良く自分が着れるサイズのドレスがあったのかね。 謎だわ。


 まぁいいか。 出来るメイドさんは、俺が選んだドレスの丈やら細かい所を直し、一旦横に置いて他のドレスを持って出て行った。 片付けるんだろう。


 そのまま待っていると、下着らしき小さな布と大きな柔らかそうな布を抱えつつ、小瓶やらを携えて帰ってきた。

 そして簡素なサンダルを差し出される。 履いて風呂まで歩いてくれって事だろう。


 それを履くと、出来るメイドさんは部屋の中の入り口とは違うドアを開いて指し示す。

 覗くと脱衣所のようで、その奥にもう一つドアがあり、そちらは近代的なシャワーと蛇口とよくセレブな奴で見る猫足の湯船があった。 なんで此処だけ現代風やねん。 まぁ、便利で良いけども。


 シャワーは外して手に持てるタイプで、近くには操作パネルの様な物があり、湯船の蛇口の近くにもある。

 試しにシャワーを排水口に向けて、暖色系のボタンをタップしてみる。 お湯が出た。

 そしてそのボタンの下にはバー表示があって、スライドで動かせる。 右に行く程に熱くなるみたいだ。 めっちゃ便利。

 もう一度ボタンをタップすると止まった。 寒色のボタンは水なんだろう。

 シャワーヘッドを戻しつつ周りを見渡すと、ゴワゴワしたフェイスタオル的な大きさの布があり、それの近くに固体の石鹸と液体の入った瓶が置いてあった。 石鹸は多分身体を洗う為の物?で、布も身体を洗う奴だろうか。 でもこの液体なんだろう?


 メイドさんを見て、瓶を指差し首を傾げる。

 出来るメイドさんは何かを持ってお椀の様にした掌に傾け、両手を擦り合わせて頭を洗う仕草をした。 成程、シャンプーか。

 念の為石鹸と布を指差す。 身体を洗う仕草をしてくれた。 どうやら正しいらしい。


 納得し、使い方もわかったので脱衣所に戻る。

 メイドさんは服を脱がせようとしてくれたが、全力で拒否して出ていただいた。

 流石に知らない人に全裸見られるのはちょっと。 ぽっちゃりしてるから出来るメイドさんみたいなスレンダー美女に、お風呂の世話とかされたくないです。

 納得出来ない顔をしていたが、柔らかい布と下着とドレスを置いて出て行ってくれた。


 さて、入ろう。 着込んでたから脱ぐの面倒だけど。 ズボンの下にレギンス履いてるし、タートルネックの下には半袖のTシャツとカップ付きのタンクトップを着ているから。

 でもこれでも寒いんだよね………寒いの嫌いですわぁー。

 ローブ脱いだらすげー寒かったが我慢して、ぱっぱと脱いでシャワーを浴びる。 湯船にお湯張りながらね。

 んでもってさっさと頭洗って身体洗って、お湯の溜まった湯船に浸かる。


 風呂って良いよね。 心の洗濯って言うし。

 湯船に浸かりつつ、気分がいいので話す程度の声量で歌い始める。 自分の好きな歌を三曲くらい。 好きな中でも綺麗なメロディラインの物を選曲した。


 歌い終わって一息吐く。



「ババンババンバンバン、あービバノンノ………っと……………」



 湯船の縁に寄りかかりながら顎を乗せつつ、有名な歌の一節を口ずさむ。


 あったまったし、そろそろ上がろう。 長湯しすぎて風邪引きたくないし。


 柔らかい布で頭を拭いてから身体を拭き、下着を着t……………ブラ無いやん。

 しまった。 さらしでもいいからほしいって言っとくんだった。


 代わりを探して周りを見渡す………柔らかい布が二枚あるな。 これでいいや。


 身体を拭くのに使わなかった布をさらしの様に巻く。 少々短いが仕方無い。

 下は横を紐で縛るタイプのショーツだった。 ゴムは普及していないんだろう。


 ドレスは被って着るタイプだった。 非常に楽でいい。 その上からローブを羽織った。 髪が濡れてるから、フードは下ろしたままね。


 サンダルをパタパタ鳴らしながら、ジラードさんの部屋に戻る。

 ちなみに脱いだ服は脱衣所にあった籠に入れて抱えて出た。


 あ、そうだ。 ヒートテックのとふわもこの靴下とカップ付きのタンクトップはゴシゴシ洗わないでほしいって伝えないと。 あとさらし欲しい事も。



 ………あれ? そういやメイドさん達の名前聞いてないや。 聞いとかないと…………。


 部屋に戻ると出来るメイドさんが小瓶とかと共に待機していた。

 すぐに小瓶の液体を使って何かをしようとしたがそれを押さえ、自己紹介とさらしと洗濯の事をジェスチャーで伝えてみる。

 微笑んで、頷きながらウィーって言ってくれたので多分大丈夫だろう。 あと、出来るメイドさんはアーシアさんというらしい。


 脱いだ服の籠は横に置いてソファに座らせられ、髪をよく拭かれてからアーシアさんが何かを唱えるとブワッと炎が髪に纏わり付いてから消えた。 髪を乾かしたんだろうけど、ちょいビビった。

 そして、いくつかある小瓶の一つを手に取り、髪に馴染ませられながら梳かされる。 所謂椿油みたいな感じなんだろう。


 それが終わると一度手を拭ってから別の小瓶の中身を手に取って、顔や手や足にすり込まれる。 髪にすり込んだのも手足にすり込んでるのも、どちらも俺には香りが強めだから、後で伝わるかわからんけどもっと穏やかに香るのが良いって伝えてみようか。


 てか多分一緒の入浴拒否してなかったら全身やられただろうな……洗うのも全部。 一般人メンタルの俺に耐えられるわけ無い。


 香油?をすり込み終わり、色々ジェスチャーして香りの事を伝えると、アーシアさんはキョトンとした顔をした後ウィーと言ってくれた。


 フードを被り、アーシアさんから少し離れて部屋の中を見回す。 ジラードさんはまだ部屋の外なんだろうか。



「ヘーネスー、ヘーネスー?」



 流石に寒い廊下にずっと居させるのは可哀想というか良心が痛むからもう終わったと伝える為に呼んでみる。


 …………来ない。 居ないのだろうか。



「ヘーネスー………ヘーネスーっ?」



 少し大きめに声を出して呼ぶ。



 ………………来ない。 何故だ。

 別の所に行っているんだろうか?



「ヘーネス? ヘーネスーッ?」



 さっきよりボリュームを上げて呼んでみる。


 ……全然来ない。 やっぱり、部屋の外には居ないのか?


 入り口の外に居ないか見に行こうとしたんだが、アーシアさんが俺を引き止めてソファに座らせられた。

 その上頭を撫でられながら何かを言われる。 ヘーネスって言ってたから、呼んでくる的な事を言ったんだろうか。


 アーシアさんは、小瓶や洗濯物を持って出て行った。


 そしてすぐにジラードさんが来る。 何か慌てながら話しかけつつ駆け寄ってきて頭を撫でてくれた。

 なんか此方に来てからよく頭を撫でられるな。 まぁ、ちょっと嬉しいけど。


 取り敢えずもう寝たい。 眠気が来たので袖で目をこする。

 そしたら何故かぎゅうぎゅう抱き締めてきた。 なんでさ。


 でもなんか安心するし幸福感がある。 彼方では抱き締められたりする事は皆無だったので戸惑いが残っているが、抱き締められたり頭を撫でられるのは好きかもしれない。


 ………ちょっと恥ずかしいやら気まずいやらで複雑な心境になってきたな。

 一応相手は男性だし、そろそろ離れてもらおう……だけど、やっぱもう少しぎゅーってしてもらっていたいかも…………これ割と気持ちがいいから。


 成程! これが乙女ゲー主人公達の心境か!

 そら抱き締められたらあーなる(慌てたり等)よなぁ……。 これ結構ヤバい。


 しかし眠い。 このまま寝落ちしかねない。


 あぁ、そうだ。 そういやーこの部屋ベッド一つしか無いじゃん。


 しゃーない、俺はソファで寝るか。 でっかいし早々落ちやしないだろう。 ジラードさんはベッドに押し込んどけばいいや。

 この部屋ジラードさんのだし。



「んぅー……ヘーネス、ヘーネス」(ぽんぽん、と腕叩き



 強めに抱き締められている腕を叩き、離してもらう。


 んで、両手を合わせておねんねのポーズをとって。



「…………寝よう?」(手を顔の横に持っていき首を傾げ



 眠いので寝たいというジェスチャーをする。



 それに対してジラードさんは。



「ッ…………! ン゛ッ……………!!」



 口を押さえて顔を背け、悶えていた。


 ………………なんでさ。



 暫く悶えた後に、頭を撫でてくれるジラードさん。


 そのまま頭を撫でたまま何か言いつつベッドに歩き始めたので、ジラードさんの背中を押してベッドまで行かせた後自分はソファに行く。


 そしてソファで丸まって寝ようとしたら、何故かジラードさんは慌てて俺を抱えてベッドに寝かせた。 なんでさ。


 俺一応もうすぐ二十歳の女なんですけど。

 男性と同衾するのは流石にアウトだと思うのですけれど。


 首を傾げちょっと眉を顰めた疑問顔でソファに行こうとすると、ジラードさんに頭を撫でられながら阻止された。 勿論、サンダルは既に脱がされている。

 そしてそのままジラードさんも布団に入ってきて横になり抱き締められる。 寝つきの悪い子供にする様に、ぽんぽんと背中を叩かれながら。



 …………なんでさ。

 ガッチリ抱き締められているから抜け出す事も出来ない。 諦めるしか無い様だ。





 仕方無いので諦めて寝ることにする。


 ………………………でも。 ほんと、なんでさ。

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空から墜ちたなら。(更新停滞中) 狼月宵 @Hiverlia

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