1のうら。『森で空を見上げたら、子供が墜ちてきました。byジラード』
side.Hyuthjilard
森で空を見上げたら、子供が何かを叫びつつ墜ちてきました。
人が墜ちてきたという事に混乱したけど、慌てて風の魔術を使い、ゆっくりとおろして横に抱き留め、顔を覗き込む。
「……………大丈夫か?」
「………ふぇ?」
恐怖でか、ギュッと閉じられていた目が開く。
見えた瞳は、艶やかな黒に近い焦げ茶色だった。
歳の頃は11・2歳の少女といったところかな。 だけど表情の所為でそれよりも幼く見える。
未だにきょとんとしているから、状況が理解出来ていないんだろう。
「どうしたんだ?何所か痛いのかな?」
そう聞いてみるけど、キョドキョドとして視線を忙しなく泳がせるふっくらとした少女。
「え?え?…え、あ、ぅ…ふぇ……………っ」(じわぁ
「ど、どうした?やっぱ痛いのか?」(焦り
突然少女が涙目になる。
焦って痛いのか聞いてみるも、少女は返事を返してこない。
ぷるぷる震えつつ服のフードを押さえて……あ、もしかして寒いのかな?
見た事の無い服で、フードの内側は毛皮の様になってるけど、下に履いたズボンはこの寒い中では耐えられなさそうな程度に薄い生地(見た事の無い不思議な素材)だし、足もとを見れば、靴も履いていなかった。 ふわふわしたよくわからない靴下を履いてはいるが、室内ならともかく外では意味が無いだろう。
そう思い至り、自分のローブを脱いで少女に着せてやる。
このローブは、温度調節だけでなく魔術攻撃を防いでくれる優れもので、とても重宝している物だ。
魔術攻撃だけでなく、それによって起きた物理的なダメージも軽減してくれる特別製なのだ。
まぁそれはいいとして。
「ふぇ……ふゆぅ?」
「ほら、これでもう寒くないだろう?」
ローブのフードを被せ、ポンポンと頭を撫でてやる。
「ぅゆ……………??」
「さてー……どうしようかなぁ…………」
少女はビクビクとして何かを話そうともしないし、まず空から降ってくるなんて通常ではありえない。
……どうしてこうなったんだっけか。
思い返してみようか………………。
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Recollection in.
いつもの様に自分の執務室で朝から書類を捌きつつ、本来ならコレ僕じゃなくて役人がやるべき事だよねとか考えていると、ノックとともにドアの向こうから声がした。
「殿下。プリュージャスでございます」
「ああ、ジャスか。入れ」
「失礼いたします」
そんな言葉と同時に入ってきたのは、僕が小さい頃から僕の執事をしているジャスだった。
彼はとても優秀で、若くして執事長を勤め上げている。
城の中でも一番の執事と言っても過言ではないだろうと思う。
「何かあったかい?」
「そろそろ昼食の時間です。如何しますか?」
「もう昼か。じゃあ、ここで取るからサンドイッチとかで。………ちなみに、午後から休みになったりとかしないかな?」
「その積んである書類が全て終わらせてあれば、直ぐにでも?」
「うっわぁ……面倒くさい」(積んである書類の量見て顔顰め
「明日になったら増えますので、今日中に終わらせた方が宜しいかと。」
「うー……こんなの僕じゃなくて役人にやらせればいいじゃーん………」(机に突っ伏し
「殿下はいずれ王になるのですから、この手の仕事は今の内に慣れておかないと大変ですよ?」
「うぐぅ……王になるのに異存は無いけど、書類は面倒くさいなぁ…………」
溜息を吐き、書類の捌くスピードを速める。
全部積んで机の上に置いたら多分僕の頭を超えるんじゃ無いかという位ある紙の束達を横目で睨み、手を動かし続ける。 この調子なら遅くても午後三時には終わるだろう。
「では、そのように。」
「頼むよ。……あ、あと持ってくる時紅茶とクッキーもよろしくね?疲れてるから甘いのが欲しいんだ」
「承知致しました。これで失礼いたします」
緩やかに一礼をして、ジャスは部屋から退室していく。
紅茶とクッキーは楽しみだけど、早くこれを進めないとね………ほんと面倒くさーい……………。
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…………あー。ようやく終わった。
今は………午後三時半過ぎ、か。 ちょっと伸びちゃったな。
ティータイム取りすぎたかな? ま、いっか。
「でも今日の分はおーしまい!これからどーしよっかなー?」
近衛の鍛錬に顔を出してもいいし、軍の方もいいかもな。
近衛っていうのは近衛騎士団の事で、主に城の中の警備をしている。 あと、式典や国境の警備をしてるのはこっち。
軍は王国軍の事で、国内での巡回や捕物は勿論、国内の災害復興の為に派遣されたりするのはこちら。 それだけでなく国外へ戦闘しに行くのも、こちらの方だ。
まぁ、今は冬だし特に有事というわけでも無いし、どっちも忙しい訳じゃなさそうだから行ってもいいよねー?
そんな事をツラツラと考えつつドアを開くと…………何故か、風に違和感を感じた。
「…………やけに精霊達が静かだな」
いつもなら風が吹く度に風精霊達がきゃいきゃいとはしゃいで歌っているのに、今はそれが無い。
今の時期なら森の方から風が吹いてくる筈だから………森に何かあったのかも。
その上、何故か一刻も早く向かえと、今直ぐ行けと、第六感が声高に叫んでいる。
ざわつく心を抑えつつローブを羽織り、メイドに騎獣と森に行ってくると伝えて、ネィジュに跨り駆け出す。
「ネィジュ。森の……そうだな、泉に向かってくれ。そこに何かある気がする」
“ くわんっ♪ ”
「頼んだぞ、ネィジュ?」(頭をワシワシ撫で
“ くわぅん♪ ”
泉は精霊達の泉と呼ばれていて、森の奥深くに存在している。
そこは水の大精霊が守護していて、精霊が生まれる場所とも言われているんだ。
今は冬なので、走っても大丈夫な程分厚い氷が張ってる筈。
森の中を駆けていくと、泉に近付くにつれて精霊達がざわつき始めた。
《くる……くるよ!》《あっちからくるよ!》《こっちにくる!》《あっち!》《こっち!》
「来る……何が来るんだい?」
《おっきいの!》《でもちいさいの?》《おっきくてちいさいの!》《ちいさいけどおっきいの?》
「お、大きくて小さい?小さいけど大きい?要領を得ないな……」
叡智を宿している大精霊と違い、普通の精霊達は小さな子供の様な知能しか持ってないから、大まかな事ならともかく詳しい情報を得るには不向きだ。
でも泉で何かあるのは確実なみたいだね。
《くるよ!くるよ!》《おっきくてちいさいの!》《ちいさいけどおっきいの!》《すきだよ!》《ぼくもー!》《ぼくもすきー!》
「好き……精霊達はその来る何かが好きなのか」
精霊達が好きなもの…………?
思い付かないな。
そうこうしてる内に泉に到着した。
ネィジュに泉の周りの探索を頼み、何かあったら知らせるように言って行かせる。
さく、さく、と雪を踏みしめつつ泉の真ん中へ慎重に進む。
氷は全く割れる気配はなく、まるで地面が続いているように感じる程しっかりしている。
《くるよー!》《くるくる!》《もうすぐくるよー!》
「もう直ぐ……って事はまだ来てないのか」
足もとの雪を意味もなくザクザクと踏み固めつつ、周囲を警戒する。
そうしていると、精霊達が一斉に叫んだ。
《きた!》
《きたーッ!》
《 おちて きた!》
「ん?おちて…って」
精霊達の声に紛れて誰かの叫び声が聞こえる。
声のする方向を辿り、空を見上げてみると…………子供が、空から降ってきた。
風精霊達がキラキラと光って視覚化出来るほど、その子供に纏わりついていて。
……いや、風精霊だけじゃない。 様々な精霊達が子供に纏わりついていた。
「………あっ、見惚れてる場合じゃなかった!」
慌てて風魔術を使う。
子供に既に纏わりついているから、集める必要も無く直ぐ発動出来た。
《 《 《 《 《 《 だいすきー!きゃはははははははははは!!! 》 》 》 》 》 》
ぶわっ!と風精霊達が広がって墜ちるスピードを下げる。
精霊達がキラキラ光って、輝く粒子を纏っている様な感じの子供を見て惚けつつ、腕を広げてゆっくりと抱き留めた。
抱き留めた後精霊達は離れて近くに漂い、こちらの様子を伺っているように感じる。
………………そして、冒頭の状況に繋がるんだ。
Recollection out.
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精霊達にここまで好かれているなんて異常だよね、これ………。
この子に下手な事をすれば精霊達に滅ぼされかねない。
「………よし。保護して城に連れていこう」
ぷくぷくして可愛いし、小動物みたいだし、絶対連れて帰れって第六感が叫んでるし。
まぁ、そうじゃなくても子供をここに放置するなんてあり得ないんだけど。
結論を出して来た道を帰ろうとすると、少女は何故かビクッとして涙目になり震え始めた。
「ぅえっ?……ぅっ、ひぅ、ふゆぅ〜……ッ」(ぷるぷるぷる
「なッ?!ほ、ほら泣くな!大丈夫だから、な?」(焦り
軽く揺すってあやしつつ、頭を撫でてやるも、そのまま泣き続ける少女。
「(グスッ、グスッ)*****ー……………?オウチカエリタィ……………」(ぷるぷる
「あー、泣くなよ、ほら。な?大丈夫だから。大丈夫だから…」(あわあわ
あーもぅ、仕方無いな!
早く暖かい所に連れて行ってやらないと。
「ネィジュ、来い!」(走りつつ
“ くわぁーんん!! ”
「ネィジュ、城まで頼む。乗せてくれるか?」
“ くわぁーんっ♪ ”
「ああ、ありがとう。ネィジュ」
お礼を言いつつネィジュを撫で、飛び乗って城まで駆け出す。
「ほら、直ぐに暖かい所に連れて行ってやるからな」
そう言って少女の頭を撫でたあと、前を見据えて進んでいく。
……森を抜けた。
ここから城までは直ぐだ。 ちょっと走って城に着く。
ネィジュから降り、少女を抱えたまま自室へと向かう。
早足で歩いていると、向こう側からジャスが歩いてきた。
「……殿下?その抱えている子供は?」
「空から墜ちてきたんだ。精霊達から好かれてるようだったし、ぷくぷくして可愛いから保護した。」
「可愛いから保護って………何をしてるんですか貴方は」(呆れて溜息
ジャスに溜息を吐かれてしまった。 可愛いからっていうのは言わなくて良かったかな?
「……とにかく、貴方の事です。自室まで連れて行くのでしょう?私がこの子供を運びます」
そう言ってジャスが彼女に手を伸ばs 「にゅうっ………(ぷるぷる)」 ……伸ばしたら、僕に体を押し付けるようにしてジャスの手から震えつつ遠ざかろうとした。
思わず吹き出した後、笑ってやる。
「……………お前は駄目みたいだね」(ニヤニヤ
「………そのようで。」(再び溜息
ジャスをからかってると、少女がまたぷるぷる震えながらフードを押さえて何かを呟いた。
「オウチカエリタイ…********* ******** オウチカエリタィー………」(ぷるぷる
「……さっきもオォチカェリタィって言ってたけど、どういう意味なのかな」
「さぁ……? どうやら言語が異なるようですからね」
「新ソル語以外の言語使うとこなんてあったっけ?」
「どうなんでしょう……この子供の使う言葉は我々の言葉と発音からしてかなり違うように聞こえますし…………」
「うーん……取り敢えずこの子の為に食事を用意してくれないかな?なるべく食べやすいか、消化に良い物を」
「承知致しました。メイドにそう伝えてきます」
「うん。よろしくね」
「では、失礼いたします。」
一礼してジャスが去っていく。
それを見つつ再び自室に歩き出す。
少女は何かに怯える様に、常に周りをキョロキョロ見回していた。
広い所が苦手なんだろうか?それとも人?
悪いけど、そうやってビクビクキョロキョロしてるとますます小動物じみて可愛く見える。
縮こまる少女を観察しつつ歩き続けて、ようやく自室に辿り着いた。
部屋に置かれたソファに真っ直ぐ向かい、彼女をそこに下ろして話しかける。
「ここは僕の自室だよ。さっきご飯を頼んでおいたから、それが来るまでローブ脱いで待ってようね?」
そう言ってローブを脱がせ始めた。
最初は部屋の中だからかおとなしく脱がせられてたんだけど…………
「……………に゛ィッ?!!」
ローブを完全に脱いだ途端、猫が潰れた様な声を出してローブをひったくり、再び着込んで一息吐いた。
「ぅに………(はふぅ……)」(ふるふる
「…………寒かったのかなぁ…………?」(苦笑
部屋の中とはいえ今は冬。
暖炉もつけてないし、部屋の温度はそこそこ低い。
僕はそこまでじゃないけど、もしかしたら彼女は寒さに慣れてないのかもしれない。
そうと分かれば暖炉をつけた方が良いだろう。
暖炉を覗き込み、変なのは入ってないかとか薪は足りるか確認する。
「えぇっと………うん。大丈夫だな」
少し足りない薪を二・三本投げ込んで、手を振る様にして魔力を流し、暖炉に設置してある術式を発動させる。
暖炉に刻んである魔術陣が発動した式に反応し、中に火を起こす。
ちゃんと火が付いたのを確認してると、彼女が何かを呟きつつ驚いていた。
「………ん?どうかしたかな?」(首傾げ
彼女は呆然としたあと、何かに頭を悩ませ始める。
…………あ、そうだ。
「じゃあ…自己紹介しようか。名前言えるかな?な ま え。」
「……………………
首を傾げつつ言葉を繰り返す少女。
「うーん……名前じゃわからないかぁ………えっと」
「殿下。」
もう一度聞こうとしたところで、そこにジャスが入ってきた。
「ん?どうした?」
「その子供の食事を手配しましたが………何かわかりましたか?」
「丁度この子の名前を聞く所だったんだ。ただ、名前という言葉の意味を理解してない様子でね」
「そうですか。ますます困りましたねぇ………」
二人して頭を悩ませる。
「うーん。どうしたものか…………」
「言葉が通じないのは痛いですね。通じさえすれば多少は意思疎通が図れるのですが………」
「そうなんだよねぇ………」
「それにしても……殿下、何でもかんでもポンポン拾われると困りますよ?」
「何でもかんでも拾ってないだろー?」
「ネィジュの事はどうなんです?アレも勝手に拾ってきたでしょう?」
「ア、アレは懐いてついて来ただけだし…」(目逸らし
「殿 下。」
「うぅ………………」
拾い癖があるみたいに言わないでくれよぅ……そんなつもり無いのにな。
そんな風に会話をしてると、彼女がオズオズと話しかけてきた。
「*、**ー…****ー*………?」
「ん?どうかしたかい?」(顔覗き込み
「***………………」
暫し考えたあと拙いやり方ではあるものの、ジェスチャーを交えながらこちらの言葉を使って質問してきた。
「****………くわぁーん、ねぃじゅ?*……**、
ネィジュの鳴き真似をした時は、猫がおねだりをするように手を握ってくぃっくぃっとして、殿下と呼んだ時は僕の方を指差していた。
多分、あのくわぁーんと鳴く生き物の名前がネィジュで、僕が殿下って名前なのか?と聞きたかったんだと思う。
知らない言語と少ない情報でここまで理解するとは……。
この子は中々頭が良いのかもしれない。
感心していると、ジャスが彼女に何度も頷いて答えていた。
「ええ、ええ。その通りです。……案外この子供、頭が回るようですね?殿下。」(僕を見やり
「
「えぇ。子供とはあなたの事です」
「この子はただの子供じゃつまらないよ。あとこの子にまで殿下なんて呼ばれるの嫌だよ?」
ジャスに文句を言いつつ、彼女に僕の名前を教えようとする。
「僕の愛し子。僕の名前はヒュースジラードだよ。言ってごらん?ヒュースジラード、だよ」
「ひゅーすじらーど?」
彼女が僕の名前を繰り返すものの、どこか発音が変な感じがする。
「違う、違う。ヒュース、ジ、ラー、ド。」
「ヒューす、ジ、らぁ、ド?」
「違うよ、僕の愛し子。ジ、ラー、ド。」
「ジラぁド?」
「うーん…………」(苦笑
中々ちゃんとした発音にならない。
もう一度名前を呼んでもらおうとしたんだけど、面倒くさくなったのか彼女は僕の言葉を遮ってきた。
「でんか!」
「いや、あの、ジラード………」
「でんかッ!!」
「……………うん。もうそれで良いよ」(苦笑
ふんすっ、といった感じの音が聞こえそうな表情で頷く少女。
そのあともう一つ気になったらしく、チョイチョイ、と僕の袖を引いてジャスを指差しつつ聞いてくる。
「でんか、でんか。****、なまえ?」
「ん、こいつか?」
答えようとしたが、ジャスが姿勢を正して自己紹介をしたので、眺めておく。
「まだ名乗ってませんでしたね。私の名前はプリュージャスです。以後お見知り置きを」
「ぷ、プりゅージャス?」
「ジャスで結構です。」
「ジャス?」
「えぇ。」
「**。**、***………」
少女は名前を聞いて納得し、逡巡したあと拙い発音だけどこちらの言葉を使い、自己紹介をしてくれた。
「***………
「イベーリア?」
「
「あ〜……リア?」
「
どうだ!とでも言いそうな顔で胸を張る少女……リア。
可愛いけど、思わず苦笑が深まってしまう。
苦笑を深めていると、横からジャスがサラリと発音してみせる。
「(クスクスッ)言われてしまいましたね、殿下?イヴェーリア様だそうですよ?」
「なんでお前は言えてるんだよ…………」
「…………
「えぇ。他にもイヴェーリアさんと呼ぶ事もあります。因みに殿下はヒュースジラード様ですね。」
「***………****
でんかー、ジャス*、ジャスさん?」
「あぁ。さんはね、僕、ジャス、リア、ネィジュ、ほぼ誰にでも使えるんだよ」
「***…*** ***********。*********?オケェ、******** ******」
理解出来たのかうんうん頷いているリア。
やっぱりこんな直ぐに理解するなんて、子供なのに凄いな。
さっきから感心しっぱなしだ。
そんな風に思っていると、ドアがノックされた。
「殿下、お食事をお持ち致しました。」(ドアの向こうから
「ああ、食事が来たようですね」
「そうだな。入れてくれ」
「承知致しました。……入りなさい」
「失礼いたします」
ドアが開き、メイド二人が料理の乗ったカートを押して入ってくる。
有能そうな……実際有能な女官として居てもおかしくなさそうなメイドがEarthia(アーシア)で、その後ろにいるふわふわした抜けてそうなオーラのメイドがSpinnea(シュピーネア)という。
ちなみにどちらも僕付きのメイドだ。
アーシアが入ってきた後、リアに気付いたようでその事を聞いてきた。
「そちらは?」
「殿下が保護された方です。食事は全て彼女に食べさせる物ですよ」
「成程。だから胃に優しい物や食べやすい物を、と言ったのですね」
「プリュージャス様〜。保護ってこの子どうしたんですか〜?」
「何故僕に聞かないんだ……………」
「殿下の御手を煩わせる程では御座いませんので。」
「ので〜?」
「殿下はそのまま彼女の相手をお願いします」
「むぅ…………」
リアを保護したのは僕なのに………。
まぁいい。 リアにご飯を食べさせよう。
「リア、ご飯が来たから食べれるかい?ほら、これとかどうかな」
そう言いつつパン粥の器を、スプーンと一緒に彼女に差し出す。
するとリアは、器に顔を近付けて……くんくん、と匂いを嗅いだ後にコテン?という擬音が付きそうな様子で首を傾げて何かを呟いた。
首を傾げて疑問顔で何かを考えている様子がひどく小動物を思わせて………可 愛 い 。
しかも最初の! くんくんって! 子犬かなにかか! 可愛い‼︎
色々と口から漏れそうになったので、慌てて片手で押さえた。 ヤバイヤバイ。
そんな様子の僕を見て更に疑問顔になってた彼女だけど、取り敢えず食べてみる事にしたようだ。
器を受け取り、一口食べた彼女は……顔を顰めた。 そしてビミョーと繰り返し呟く。
ビミョーってどういう意味だろ? 顔を顰めてたし、悪い意味なんだろうけど………。
でも顔を顰めつつちゃんと全部食べきるみたい。 がっつかない程度にかき込んでる。
そうしてパン粥を食べきった後、何かを言いながらジェスチャーし始めた。
「うぇー………***、****** ****……………」(ジェスチャーしつつ
「? 美味しくなかったかな………何か飲む物を」
吐きそうな声で何かを飲む仕草をした後両手を差し出してくる。
飲む物が欲しいんだと思うけど……そんなに美味しくなかったかな?
とにかくジャスの方を向いて飲み物を渡してやってと命令する。
「そうですね。何か果実水の様な物は持ってきてますか?」(アーシア見て
「ええ。オランジーエの果汁を割った物が」(頷き
どうやらオランジーエの果汁の水割りがあるらしい。
口の中がサッパリするから僕も好きなんだよね。 オランジーエ。
アーシアがピッチャーからコップに注いで、彼女に直接渡そうとする。
けどリアは、警戒しているのか僕の陰に隠れたまま受け取ろうとしないので、思わず苦笑しつつ代わりに受け取った。
「どうぞ、お嬢様」(コップ差し出し
「……………………………」(陰に隠れつつジー…と見つめ
「…………貸して。僕が渡そう」(苦笑
多分さっきのパン粥が美味しくなかったからこれも警戒してるんだろうとおもうけど、大丈夫だよー?と示す為に一口飲んで見せて笑いかけながら差し出してみる。
それを見てオズオズと手を伸ばしてコップを受け取り、またくんくんと嗅ぐリア。
大丈夫と判断したのかくぴりと一口飲んだリアは、パァッと表情を輝かせた。
美味しかったみたい、よかったよ。
「♪」(くぴくぴ
「これは気に入ったみたいだね?」(口元を押さえつつも微笑ましげに
くぴくぴとちょっとずつ飲むリア。
ブンブンと振られる尻尾が幻視出来る程ご機嫌だ。
それが可愛すぎてまた口から何かが漏れ出てきそうになったので、両手で口元をしっかりと押さえつつ彼女を微笑ましげに眺める。
暫くして飲み終わったようなのでコップを受け取り、野菜のスープを渡す。
「(ふー…ふー…ふー…ぱくり)**ッ!うぅ……(ふー、ふー)」
再びくんくんと嗅いでから、熱々のそれを食べようとしたんだけど……猫舌なのかな。
ビクッとしてまた息を吹きかけて冷ましてる。
ようやく冷めた一口のスープを啜り、彼女はまた表情を輝かせた。これも気に入ってくれたみたい。
無言で黙々と食べ続けて、スープが無くなったら他の皿を渡して、とカートに並んだ料理を一つずつ食べてもらった。
「………*******」
カートの料理を全て食べ終わった後、両手を合わせて何かを言うリア。
そして胃の辺りをさすりつつ何かを考え始めて………額を押さえて呻いた。
「…………****………………」(額押さえ呻く
「リア?大丈夫か?」(心配そうに顔覗き込み
「ぅあー……………***** *******」(呻きつつジェスチャー
「飲み物、かな……?はい、どうぞ」(オランジーエの水割り注いで差し出す
「*********………***」(押さえたまま飲む
遠い目で何かに頭を悩ませているみたいだけど………どうしたんだろ。
飲み終わったコップを受け取り、彼女を見つめる………………あ、うつらうつらし始めた。
食べてすぐ眠くなるとか、まるでちっちゃな子供だ。
もしくは警戒と緊張が、あったかいご飯食べてまんぷくになったおかげで解けたのかな?
なんとか眠気を飛ばそうと頭を振ったりしてるけど、この感じじゃ寝ちゃうかな。 いっそ寝かせてしまおう。
ベッドの縁に腰掛けていたんだけど、そこから立って彼女を抱えて横にならせて布団をかけ、頭を撫でつつぽんぽんとする。
最初はあわあわしながら何か言いつつ起きようとしたけど、ぽんぽんしてる内に眠気に抗えなかったのか。
仔犬や猫の様に丸まって寝てしまった。 可愛い。
取り敢えず、人が来る度ビクビクしてたから暫くは彼女をこの部屋で寝泊りさせて、僕もなるべく側に居てあげよう。 書類仕事は此処で出来るし、ここに来るのは僕やジャスにアーシアとシュピーだけだし。
あと僕が仕事をするついでに、新ソル語を教えよう。 言葉が通じないのは不便だからね。
部屋から出すのは言葉がある程度通じる様になってからでいいだろう。 言葉が通じない状態で拐われなんてしたら……ただでさえ誘拐ってだけで大変なのに、言葉が通じなかったら保護されてもどこの子かわからないからおかしな所に連れて行かれかねない。
必要最低限は覚えてもらわないと。
…………それにしても。 あんなに精霊に愛されてるなんて、君は一体何者なんだろうね?
ふふふっ♪
これから楽しくなりそうだなぁ………………ね、リア♪
side out. Hyuthjilard
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