もしも29話→30話の間がこんなだったら

mk-2

もしオタ二次創作です。温泉回を書いてもよいと聞いて以下略

★もしオタ二次創作★



 ――――白爪百合華に招かれるまま、豪邸にて突然のお泊まり会を催すことになったみずきたち。


 小田原城での激しい戦闘。五人目の魔法少女の登場。そしてこれから重大な事の次第を説明されるであろう中でのお泊まり会。


 皆、戸惑いはあったが……突然の展開の連続にみずきたちはすっかり疲労していた。


――――他人の家とはいえ、遠慮はあまり無かった。


 何に遠慮? それはもちろん――――


「よくわかんねえけど、お泊まり! つったら! みんなで風呂に決まってんだろぉ! あー、クタクタだぜ……うおっ!? これまた広い温泉じゃあねえか! ヒャッホーイ!!」


――――他人への遠慮など恐らく最も少ないみずきは、温泉に案内されるなり誰よりも早く脱衣場で荒々しく服を脱ぎ捨て……香りたつ湯の中へ思いっ切りダイブした。何十坪はあろうかと思われる白爪邸内の浴場の一角で豪快な音とともに湯飛沫が上がる。


 風菜は溜め息を吐き、脱衣場から遠巻きにみずきを見て苦笑いをする。


「やれやれ……小学生男子かあやつは。なんか女捨ててる以前に精神年齢を疑いたくなってきたわい」


「風菜は風菜で達観し過ぎだよ……どこからその落ち着きが出るの……まあ、口調だけならボクとお互い様だけど」


 ボクっ子キャラを意識する息吹は服を丁寧に脱衣籠に入れつつ、老人口調の風菜に呟く。


「はは、珍しく息吹に一本取られたのう……いよいよ仲間として馴染んできたようでなによりじゃ」


「なっ! そ、そんな……なか、ま……だなんて……」


「うむうむ。友達いないオタクはやはり『仲間』という言葉に弱いのう」


 友情アピールをされて赤面する息吹を、風菜はちょっと意地の悪い笑顔で見遣った。


「……そ、それよりも、さ」

「うむ?」


 息吹は風菜に背を向けて身をよじる。


「……は、恥ずかしいから、向こう向いててくれる?」


「なんでじゃ? 女子おなご同士じゃろうが。恥ずかしがる必要など……」


「は、恥ずかしいもんは恥ずかしいの! ボク……ずっと弟と二人暮らしだし……女の子同士でお風呂入ったことなんて一度も……」


「わ、私も…….ちょっと苦手、かな……」


 風菜と息吹からやや離れたところで同じく恥ずかしそうに背を向ける沙耶。


「なんじゃなんじゃお主ら。こんな時だけ乙女になりおって」


「あのDS並に浴場ではしゃいでるみずきが女子力無さすぎるだけだって! 慣れてないんだから、恥ずかしいよ……その……は、裸見られるとか……」


 息吹は既に浴場で奇声を発して遊び倒しているみずきを指して言った。


「うーむ……」


 風菜は息吹と沙耶を交互に見遣り、少し考えた。


 息吹は本人が言うように裸の付き合いが無いから恥ずかしがっているようだが、沙耶はそれ以前の距離感があるように思える。


「……まあ、息吹はともかく、沙耶は仲間になって間がないからのう……」


 沙耶はさっきの小田原城での戦いで仲間に加わったばかりだ。例え女子同士と言えど、まだ遠慮があるのだろう。


 だが、それを察した風菜はニヤリと笑った。


「なら、絶好の機会ではないかの?」

「えっ?」


 息吹と沙耶は首を傾げる。


「裸の付き合いというもんはの、お互いの親睦を深める絶好の機会なんじゃぞ。G〇IN〇Xなどのアニメ制作会社も、『人物同士が仲を深めるには一緒に風呂に入るのが一番』と演出の鉄板にしている……とか何とかあそこのDSのようなJKが言ってたのう。だから、ほれほれ!」


「風菜、やっ、ちょっと!」

「わわわっ!」


 風菜は息吹と沙耶の服を脱ぎ取り、二人の背中を押して強引に浴場に入った。


「おっ! 遅かったじゃあねえかよみんな! なあ、見ろよこのマーライオン的な滝が出るとこ! 修行が出来るぜ修行が!」


「一体何の修行じゃ……それよりも、この二人何とかするのを手伝え、みずきよ」


「あ? 何とかって?」


「見てわからんか? この二人の恥ずかしがりようを」


 風菜が指を指せば、背を向けて赤面し、小刻みに震える息吹と沙耶の姿がある。


「なーにしてんだよ、息吹、沙耶!こっち来いって!」


 みずきは湯から飛び出て歩み寄り二人の手を引く。


「や、やだって言ってるでしょ……もう! 先に湯あたりしてよ! ボク、後で入るから……」


「わ、私も……もうちょっと後でいいかな〜……なんて」


「のう、沙耶よ……」

「え……?」


 風菜が思い付いたような顔を一瞬してから沙耶に告げる。


「実は、さっき白爪百合華の執事さんから聞いたんじゃがの……ここの温泉……なんと有馬の湯らしいぞい」


「えっ!? まさか、あの太閤・豊臣秀吉が愛した名湯から!?」


 沙耶が途端に食いついた。風菜は、やはりな、と言った面持ちで続ける。


「いやいや。さすがに太閤の湯の方の有馬とは距離が離れすぎてるから違うがの……なんと! かの聖武天皇の子、阿部内親王が湯治に訪れた有馬療養温泉から湯を引っ張ってきてるのじゃ! 霊験あらたかな霊泉で皇族だけでなく、源頼義・義家・頼朝・北条時頼などの名だたる武将たちが立ち寄――――」


「名将たちの残り香ああああ! らっひょおおおおぉーーーいっ!!」


 目をカッと見開き、風菜の話を最後まで聞くまでもなく、歴女のスイッチがフルテンで入った沙耶はみずきに負けない勢いで温泉にダイブした。


「へえーホントかよ風菜? 随分詳しいなあー」


「……なーんてな。確かに地理的には近いが、有馬の湯かどうかはわからんぞい。鉄オタの土地勘を舐めるでない。イシシ」


 風菜は沙耶に聞こえないように小声で、しかし得意気に笑った。


 そして、みずき同様に湯と戯れている沙耶を遠目に見つつ語る。


「沙耶は歴女という側面から攻めれば案外あっさり輪に溶け込めるかもしれんのう……非オタの友達に見せるのとはまた違う、本当の自分を自由に、無理なく……ま、アッシらのようなオタクたち限定じゃがの」


「お前……相変わらずズル賢いな……でもグッジョブ! おかげで距離が縮まりそうだぜ!」


 みずきは笑顔で風菜とハイタッチした。


「まあまあ……さて……息吹よ」

「う……」


 風菜の目が光り、ジロリと息吹を見る。


「あいにく沙耶は快く温泉に入るようじゃ。はみ出し者はお主一人だけになってしまうの〜? どうする? 恐いならやはり後で独りぼっちで温泉に入るか? イッシッシ♪」


「う、うううう…………」


 息吹は悔しそうに唇を噛む。


 形勢は一対三。息吹が疎外感を感じるには十分である。


(どうしよう……温泉早く入りたい……でも裸を見られるのやだ……で、でもせっかく友達になったのにまたハブられるなんてやだ……友達…………ああ、もうっ!)


 息吹は葛藤し足元がふらつく。


「いい加減素直になれよ、息吹! いいか? 自分の魂の中から聞こえる声に従うんだ」


 みずきも歩み寄り、暗示催眠でもかけるようなトーンで語りかける。


「う、うう……」


「『どうしよう……みんなからハブられるなんてやだ……』」


「うっ、うう〜……」


「『でも、それ以上にみんなと一つになりたい……』」


「……う!?」


「『きっと、みんなと同じ温泉に入ればみんなと溶け合う快感を得られるに違いない……オ〇ニーなんて目じゃあない。でもボクのつまらないプライドが邪魔して……ああ、でも悔しい感じちゃうビクンビクン――――』」


「ねーよっ!!」


 息吹は顔を耳まで真っ赤にして男もドン引きする妄想に浸るみずきを引っぱたいた。


「お主……いつも思うが本当に女か? マインドが男に寄りすぎではないかの……もしお主が男じゃったらHENTAI行為で訴えられるトコじゃ」


「いてて。いいじゃん、女が男みたいなエロ同人的妄想したってよお。『英雄色を好む』って故事がパンチマンのギャグ回でも堂々と――――」


「……あーっ!! わかったよ! 入ります! みんなと温泉入りますっ!!」


 しょうもない漫才を繰り広げるみずきと風菜を見て、自棄になった息吹はとうとう観念してズカズカと足早に湯に浸かった。


 明らかに怒って拗ねてしまった様子の息吹を見て、みずきと風菜は顔を見合わせた。


「……湯には浸かってくれたが……す、すこーしやり過ぎじゃったかのう……?」


「執拗に攻められて遂に陥落し、みんなと溶け合う道を選ぶ息吹……すっげー萌え……!!」


「聞かんかバカモン。少しは反省せい。まあ、輪に加えるためとはいえアッシもちょっとやり方が強引じゃったが……お主もデリカシーというものを少しは……」


「何だよ! 私はいつも通り振る舞ってるだけじゃねーか。そ、そりゃみんな仲良く温泉入って欲しいけどよ……私は無理強いするつもりは無かったぜ。コスいやり方で無理矢理策にハメようなんて、雰囲気が悪くならあ」


「はーん? お主が『雰囲気』云々を抜かすか? 女子力0どころか『死ぬ』と書いて女死力がみなぎるお主がのう!?」


「なーんだよ! だいたい風菜だって…………」


「お主こそいつもいつも…………」


――――

――――――――

――――――――――――


 湯の脇でみずきと風菜が口喧嘩を始める一方、温泉では周辺の造形物に頬ずりをする沙耶と湯の中でいじけて三角座りする息吹がいた。


「はあ〜……これが源頼朝が浸かった湯〜♪ これが北条時頼が対面したマーライオン〜♪ ……ん? そんな年代にマーライオンなんて日本にあったっけ……?」


「……そのマーライオン的なのは後から作られたものじゃあないの? もしくは虎か何かを模して作ったとか……ボク、歴史は詳しくないけど……」


「あっ、そうかー! ……むむっ? でももしも仮にマーライオンがずっと大昔に日本に伝来していたのなら……歴史的新発見!? テルマ〇ロマ〇的なタイムパラドックスが!? ああ〜! ロマンが止まらないっ!!」


 目を輝かせて幻想に浸る沙耶を見て、まさかこの湯は風菜が出任せで特別な湯だと言い張った(本物である可能性はゼロではないが)とは言えない息吹。


「……沙耶って、ホントに歴史が好きなんだね……歴史のテスト、この前何点だった?」


「100点! あ、地理や公民も大好きだよ、歴史上の人が関わってくるし!」


「……愚問だったね。ボクもゲームの知識や腕前が学校とか実社会で役に立てばいいのになあ……」


 もともと優等生であり、趣味に没頭している時の充実具合を見て息吹は沙耶が羨ましくなった。思わず溜め息を吐く。


「……あるよ。息吹にもきっと。自分の持ち味を活かせる世界が……私だって歴史が大好きだからって、必ず実社会で得するとは限らないし……」


 沙耶は落ち込んだ様子の息吹を見て少し冷静になり、顔の緊張を緩めて言った。


 沙耶は息吹に寄り添って続ける。


「ゲームが大好きだって、きっと活きる場所があるよ。私はゲームの世界はあんまりわからないけど……ほら! 最近ではゲームクリエイター以外にも……格ゲーとか強い人が大会に出たりするんでしょ? 私そういう人たちの番組見て感動しちゃった」


「……プロゲーマーとかいうやつ? あの人たちはもはやゲームを楽しむためにやってないよ…………」


「楽しむためじゃないって?」


「その番組、生活習慣について伝えてなかった? 練習専用の部屋作って、実力者同士で一日十数時間以上練習するんだよ? もうあれはゲーマーじゃあない、アスリートだよ……アクションゲームはスポーツになる時代が来たんだよ……ギャンブルに等しい世界だよ…………」


 息吹はゲーマーとしての腕前がそれなりにある者ならではの競争世界の厳しさを想像し、眉をひそめた。


 だが――――


「ゲームがスポーツ!? ふわー……カッコいいじゃあない! じゃあ、息吹はいずれチャンピオンだね!!」


「へっ?」


 息吹は驚き、沙耶の顔を見る。


「……簡単に言ってくれるねー……普段ゲーセンで練習してる時も結構しんどいんだよ? 上には上がいるし……」


「上がいるから楽しいんじゃあないの! いいな〜……チャンピオン……トロフィーとか貰って、ゲームの歴史に名を刻むんだね! そんな息吹と友達なんて、私、誇らしい」

「……沙耶……」


 息吹は感慨に浸る沙耶を思わず見つめた。


「……ボク、初めはゲームが好きなだけで何の取り柄も無かった。弟に迷惑ばっかり。魔法少女になった時も……自分の欲望のために力を使って酷いことをした」


「……うん……」


「……で、でも……こんなボクでも応援してくれる人がいるなら……が、頑張っちゃおうかな……どこまでやれるか、わかんないけど……」


 息吹は夜空を見上げ、照れくさそうに頬をポリポリと掻いた。


「その意気だよ! 息吹がチャンピオンになれば、サイン色紙とか貰い放題だし! ゲームの歴史に名を残す人が身近にいるなんて♪」


「……案外、私利私欲なんだね……またも意外な一面……」


 欲望に忠実に夢を語る沙耶に、息吹は思わず拍子抜けして頭を垂れた。


「……沙耶。ボクたち、友達としてやっていけそうだね……さっきまでどこか遠慮がちだったのに」


 沙耶は目を細めて答える。


「……自分の趣味に自信持てなかったから、オタクじゃない人とだけはいっぱい付き合ってきたから多少は、ね……でも、それは本当の私じゃあない。まだ仲間に入れてもらったばかりだけど……魔法少女として……いいや、友達としてみんなに会えてよかった……」


「……あんなどこか頭のネジが飛んでるような子たちのだけどね……」


 息吹は沙耶と共に口喧嘩をしてはしゃぐみずきと風菜を眺めて言った。


「あ……そういえば」


「ん? 沙耶、何?」


「その……みずきって……大きいね……その……む、胸が…………」


「う……確かに」


 沙耶は自然と湯の中で腕で胸元を隠した。


「私……実はさっき恥ずかしがってたの、女の子同士だと……む、胸のサイズ……を……とやかく言われるの、苦手、だから……」


「そうだね……ボクも激しく同意」


 風菜との口喧嘩で身体を振るたびに豊かな胸を揺らすみずき。対する風菜は……揺れるほど豊かではないようだ。


「……沙耶も……結構あるじゃん」

「やっ、うう、やめてよ〜。そういうのが嫌なんだって……そういう息吹は……………あっ」


「それ以上続けたらボク怒るマジで怒る魔法少女に変身してでも暴れる忌々しい巨乳めがががが」


 そう語気を強めて言う息吹の胸はお察しである。


 男性なら、裸の付き合い(ボーイズがラブとは限らない)で自分と他人のイチモツを比べて落ち込むものだ。女性もちょうど胸のサイズがその『比べて落ち込む』部位に当たる。


 遠巻きに見ても豊かなみずきのバストを睨み息吹は唇を噛む。


「……ボク、また腹立ってきちゃった。あの二人、湯に引きずり込んで来る」

「お、御手柔らかに、ね? 息吹……」


 息吹が湯から上がり、ズカズカとくだらない口喧嘩を続けるみずきと風菜に声をかけようとした、その時――――


「ごきげんよう! 湯加減はいかが? 魔法少女の皆さん。せっかくの温泉ですから、ジュースをお持ちしましたわ〜」


――――この豪邸の主。百合華がお盆に何やら猪口ちょこを乗せて脱衣場から入ってきた。


 その胸元は――――


「あ……百合華? ……って! スッゲー! でけえー!? 風船みてえー!!」


「あら……うふ、それはどうも……」


――――五人の中で一番ご立派な胸を持っていた。みずきは思わず大声を上げ、他の三人も豊かな胸に目を見張る。


 感じる視線と驚嘆の声に満足気な表情の百合華。


「スッゲー! ちょ、揉ませろよそれ! 柔らかそー!」


「あんっ……大胆なアプローチね、みずき。みずきも素敵なカタチしてるじゃあない♡」


「あっ、やっ! わ、私は別に……乳はデカくてナンボだろお! うっひょー!」


 みずきは勢いこんで百合華の胸を鷲掴みにした。喘ぐ百合華。その百合華にも舐めるように自分の胸を撫でられ嬌声を上げる。


女子おなご同士で何をやっとるんじゃ、お主らは……」


「――――」


「大変! 息吹が息してないの!!」


「……やれやれ。アッシも大概じゃが、そこまで胸をコンプレックスにするもんかのお……」


 同じヒト科メスとは思えないご立派な胸を見て、貧乳の息吹は意識が遠のいた。否、意識を失いたくなるような精神的ダメージを受け、格ゲーで言うインチキ臭い10割コンボを決められたようにK.Oされたのだ。


 沙耶は懸命に息吹を励ます。


「あらあら? のぼせてしまったかしら? うふっ、冷たいジュースでも飲めばマシになりますわよ……ワタクシも湯に……」


 堂々とした面持ちで湯に浸かる百合華。みずきも後に続いて湯に浸かる。


「明日には……ワタクシたち魔法少女にとって重大なことを知らせなければなりませんわ……」


「えらくもったいぶるのう……よっ、と……五人いるんじゃし、今話しても良いのではないかの?」


 何やら含みのある表情をする百合華を見つつ、風菜も湯に浸かった。


「……それには色々と準備が必要ですのよ。ワタクシたちに協力してくれる人たちも紹介しなければなりませんし……今夜は疲れを癒し、親睦を深めるべきですわ!」


「都合の良いように事を進めるのう……」


「さあさあ! まずはこのジュースで乾杯といきましょう!」


 百合華は五つの猪口を乗せたお盆を湯に浮かべ、自分の猪口を手に取った。


「おっ! 温泉にジュースなんていつ以来だあ? 贅沢だぜ、へへ」


「邪険にしても仕方ないか……」


「……こうなりゃ自棄だよ……百合華! 冷蔵庫の中身無くなるまで飲み倒すからね、ボク! くっ、うううう」


「息吹、大丈夫? じゃあ、私も……」


 五人とも猪口を手に取り、高らかに掲げた。


「かんぱーいっ!!」


 温泉で温まった身体。冷たいジュースは五臓六腑に染み渡る。



 ……はずなのだが、飲み干してすぐに皆、異変に気付いた。


「……なんか……ジュースにしては変な味じゃのう……のう、沙耶よ?」


「本当……それに……何だか身体がますます熱くなるような……のぼせた……か……な……」


「ごくっ……ぷはーっ……百合華ぁー……君、乳がデカいからって調子のんじゃねえーよお……ひっく」


「ひっく……何言ってんだあー……息吹ぃ……ひと昔前の偉人もぉ……言ってたじゃあねえかよお……『貧乳はステータスだ! 希少価値だ!』」


「やかましーっ! 羨ましいもんは……ひっく、羨ましいのー……」


「うふふふふ……」


(かかったわね。猪口の中身はお酒でしてよ……ちょっとキツいけど……まあ、酔えば明日には忘れる程度のアルコールだから、健康には問題ないわ)


 百合華の罠にかかったみずきたちは、たちまち身体が火照り、酔っ払ってしまった。こんなことをするのは――――


「皆さんとの本音トーク! あわよくば、もっと踏み込んだ裸のお付き合いがしたい! から!」


「ひっく……百合華ぁー……お主、誰に……ひっく、話しとるんじゃー?」


「うふふ……ねえん……みずきさぁん…………♡」


「ふあ……!?」


 百合華はみずきにぴったりとくっつき、イヤらしく身体を撫でる。


「ワタクシぃ……♂と♂の甘美な関係はもうだいぶ飽きてきたの……だからあん……女の子同士の繋がりも知りたいわぁ……」


「あン……うひゃひゃ、ゆ、百合華……くすぐったいってえー! あはははは!!」


「……もう……意外と鈍いのね……わたくしに『百合華』の名前に相応しい悦びを教えてン……これなら、どう? ん〜っ!」


「むが!?」


――――酔いのまどろみの中、あっさりとみずきの唇は……百合華に奪われてしまった!


「ぷあ……えっ……?」


 みずきは何が何やらわからない。


「あーっ!! ボクのみずきを! ボクのみずきをーッ!!」


 その情事を見て、息吹は激昂した!


「みずきはぁ……ひっく、ボクのモノなのおー! ボクの方が……みずきと、こうやって、こうやって……むぅ!」


「むおっ!?」


――――今度は息吹から、熱い接吻を受けてしまうみずき。


「……っぷはあっ……これだけじゃあ、ひっく……無いもんねー! ボクとならみずきと……もっとこんなことやそんなことを…………」


「うはははは! ひっく……いいぞー! もっとやったれー、息吹ぃ……お主たちの艶姿あですがたは……アッシの相棒でひとコマひとコマ切り取ってやるわいー」


 風菜はダッシュで脱衣場からカメラを持ってきて、複雑に絡み合う♀×♀の世界を激写していく……。


「Let's party!! ひゃっはー!! 私が……ひっく、私こそが名君・伊達政宗だあーっ!! 遂に私自身が歴史に名を刻むのさぁ!! いやあーはっはっはっはっ!!」


 沙耶も某スタイリッシュ英雄アクションの主人公の構えを取り、辺りを爆走する。沙耶はオタク趣味を解き放つ時もそうだが、それ以上に理性のタガが外れると最も人が変わるタイプかもしれない。


「……ぷはーっ…………嬉しいぜえ、息吹ぃ……今夜こそ私のモノにしてやるぜえーっ!!」


「あんッ……そんな……みずき、ボクのち〇び……駄目……はげしっ……」



「百合華も来いやあーっ! わははははは!!」


「えっ……ま、まさかここまでスゴイことになるなんて……ひゃあああっ!? あンっ…………」


 ――――それから数時間……魔法少女たちによる酒池肉林の宴が催されたのだった…………。


――――

――――――――

――――――――――――


「おはよー……ふああ」

「おはよう、みずき……」


 翌朝。みずきと息吹は何となく違和感を感じながらも挨拶をした。


「ねえ……昨日の夜、ボクたち……何して過ごしたんだっけ?」


「今それ言おうと思ったトコ。なーんだったっけ……百合華に晩御飯御馳走されて……温泉に入ったはずなんだけど……あれ〜?」


「それな……ボクも温泉に入った辺りから記憶が無いんだよね……」


「おはよう。みずき、息吹……私も昨日の夜何があったか思い出せないの……ま、まさか、敵の攻撃!?」


「それは無いと思うがの……何かあればこのデカい屋敷じゃ。異常があればすぐ気が付くはず。何よりアッシらを前後不覚に陥れるぐらいなら、アッシら全員殺られてしまってもおかしくないんじゃあないかの?」


「う……確かに」

「だよなあ……何があったんだあ?」

「あっ! 思い出したー!」


 沙耶が手を打ち鳴らし息吹を見る。


「――――息吹の将来の目標の話! いつか、プロのゲーマーとしてチャンピオンになれればいいねって!」


「え……あっ! そうだね。確か沙耶とそんな話をしたなあ」


「チャンピオン? カッコよさげだぜ! 何の話したんだよ? ま、まさかの主人公の座を横取りして王道路線のキャラ作りを!?」


「バカ。何でそうなんのさ……」


「そんなことよりも、アッシの相棒のカメラ……何か様子がおかしいんじゃ……何かやたら水に濡れておるし」


「ボクの将来はそのカメラのコンディションに劣るのか……」


「ひ、ひがまない、ひがまない!」


「……ひがむ? うーん……そう言えば……昨日の夜に何が酷くひがんでた気が……思い出せない……でも微妙に思い出したくないような…………」


「ぬおっ!? この前撮った車体のベストショットが消えておるではないかあああ!! ……む? 他にもやたら誰かに削除されたような跡が……みずきよ! お主、何かしたか!?」


「し、してねーし! 私カメラのこととかわかんねーもん!」


「おはようございます、魔法少女の皆さん……」


「おっ! おはよー!」

「はあ……また次のベストショットを狙うしかないかの」


「おはよう。百合華、何で部屋の本棚に♂×♂な本が……いや、何でもない」

「おはようございます。……あれ? 何か、疲れた顔してない? 大丈夫?」


 百合華はとっさにあさっての方向を見る。


「……も、問題ないですわ! ちょっと、今日の説明のために……つい夜更かしをしてしまっただけで……」


「おいおい、大丈夫かあ? 頼むぜ、五人目、最後の魔法少女さん!」


 みずきがそう告げて、みんなと移動を始めた。


(……何とか……昨夜のことは忘れてくれたみたいですわね……証拠隠滅も間に合って良かった。でも、まさか……女の子同士が……こんなにスゴイなんて……ワタクシにはまだ早いかしら…………)


 百合華は悔恨を感じつつも、唇に残る違和感とその身体の芯が熱く疼く感覚を味わい、噛み締めた。

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