エゴ

三枝 敦

エゴ

 自分が産まれた。

 紛れもなく今の両親が産んだ。


 そして、教えられてきたんだ。

 人には優しくしなさい。

 家の事を手伝いなさい。

 勉強に励みなさい。

 ボランティアは素晴らしいことだから、進んでやりなさい。

 年長者は敬いなさい。

 親の言う事は守りなさい。


 それはもう、沢山の事を刷り込まれてきた。

 僕らはその言葉を信じて生きて来た。

 だって、他には信じるものも指標になるものも何一つないのだから。

 信じなかったら怒られて、怖い目にあったり痛い目にあったりするから。


 けど、それがとたんに全部、馬鹿らしくなってしまったんだ。


 気がつけば自分は他人にとっての何なのか考えてしまった。


 年上の好きな物にあわせていたら、自分の好きな物を見つけることすら出来なかった。


 両親は金がないからと、代わりに僕の時間を奪って、僕は自分を卑下することでいざこざも、負の感情もなくなった。


 他人の為に尽くして、僕に残ったのは喪失感と、これが正しい事なんだっていう確信だけだった。


 そっか。僕は両親が創った子供なんだ。腹を痛めて産んだ子だ。両親が居なければ産まれなかった子だ。


 だから、両親の使いたいように使えば良いのだ。


 それこそが世界のルールなんだ。たとえそれが刷り込んだ人達だけが得する内容だったとしても、ズル賢い奴が利益を得る考えだったとしても、それが誰かのエゴだったとしても、それは正しい事なんだ。


 ああ、世界ってこんなにも生きづらいんた。


 こんな事なら、アダムとイヴも知恵の木の実もなければよかった。生も死も、神も人も、幸福も悲劇も、なければよかった。何もかも、なくなってしまえ。


 そして一緒に、僕が生まれた事もなくなってしまえばいいのに。

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エゴ 三枝 敦 @678705

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