商店街での再会

仁志隆生

商店街での再会

 大阪市営地下鉄谷町線の駒川中野駅で降り、改札を出ると目の前に地下道がある。

 そこを通って地上に出て、左側の道路を挟んで向こう側に見えるのが大阪三大商店街の一つと言われる駒川商店街である。


「ここに来るのって何年ぶりやろか?」


 俺は以前この近くに住んでた。

 そしてよく家族全員でここに来ていたもんや。

 買い物したりたまにどこかで何か食うたりと、本当に懐かしーなあ。


 俺が今日なんでここに来たかと言うと、なんかよーわからんが急にここに来たくなった。

 今までこんな事なかったけどなあ。

 ま、いいか。 




「へえ~、ここコンビニになったんか~、前は服屋さんだったのに」

「お、時計店まだあるやんか~、あの花屋も」

 昔はこうやったなあ、今はこうなっとんのか、と物思いに耽りながら商店街の中を歩いていた。


 そういえば以前はもっと人通り多かった気がするんやが。

 今もそこそこ歩いているがなあ。

 そう思いながら商店街の中央あたりまで来て

「あ、そういや昔奴がここにあった店でバイトしとったなあ」


 奴とは高校の時の友人である。

 奴は何を思うたか知らんが高二の秋に突然退学して皆の前から姿を消した。

 ホンマあいつがいなくなった時は悲しかったわ。


 今どうしてるんやろ?

 元気にしとるんやろか?


 そんな事を考えながら商店街の端っこまで来てしまった。

 さて、戻ろかな、と思ったら


「なあ。ちょっとちょっと」

 後ろから誰かに声をかけられた。

「はい? ……あ、ああ!?」

 振り返ってみるとそこにいたのは

「久しぶりやなあ」

 さっきまで思ってた奴だった。

 てかお前、昔とあんま変わっとらんやんか?

「あ、ああ久しぶりやな」

 俺は驚きながら奴に言うと

「なあ、俺急におらんようになったやろ。皆どう言うてた?」

 いきなりそれかい!

 どう言うたろか、と思ったが

「寂しがってたのもいたがなあ、おらんようになってせいせいした、てのもいた」と 正直に答えてやった。

「そーか、そりゃそうやな。俺は」

 うん、こいつってワルやったもんなあ。

 でも根は良い奴なんだよな。


 いつだったか俺が授業中具合悪くなって倒れた時、俺を担いで保健室まで連れてってくれたんや。


 ベッドの上で気がつくと、近くにこいつがいた。

 ずっと側についていてくれたようで礼を言ったら

「俺が授業サボりたかっただけや。気にすんな」

 とか笑いながら言った。

 でも「大した事なくてよかった」とボソッと言ったの聞こえてたぞ。

 ホンマにこいつは~(笑)って思ったわ。


「なあ、何で急に学校やめておらんようになったんや?」

 俺は奴にずっと疑問に思ってた事を聞いた。

「ああ。俺ってあの時問題ばっか起こしてたやろ。それで親に勘当されて学校も退学させられたんや」

「は!?」

 そんなんて、こいつの親はいったい何を見とったんじゃ!?


 俺は心の中で叫んだ。


「そして知り合いに紹介してもろた工場で二十歳まで働いてたんや」

 奴は髪を掻きながらそう言った。

「そうやったんか。で、その後は?」

 奴は黙ったままだった。


 しばらくして

「……なあ、お前は今何してんや?」

 俺にそう聞いてきたので

「俺か? まあ学校出てからずっと同じ中小企業に勤めとるわ」

 やはり正直に答えた。

「へえ、じゃあ部長にでもなっとるんか?」

「アホ抜かせや。係長がやっとや」

「まあそうやろなあ。お前ってあんま出世欲なさそうやし」

「ちゃうちゃう、単にボンクラなだけや」

 俺が手を振って言うと

「ホンマにボンクラやったら何十年も同じ会社におれるかいな。係長になれるかいな。お前自分で気いついとらんだけでちゃんと人の役に立っとるんやろ」


 ん~、そうか?

 まあ、お世辞でもそう言うて貰えて嬉しいわ。


「そうや、お前がバイトしてた店もう無くなっとるの知っとるか?」

 俺が尋ねるとこいつも知ってたようで

「おやっさんが十年前に亡くなったんで店畳んだんや」

 そう言うた。


 それからしばらく思い出話をした。


「あ、もうこんな時間か、そろそろ帰らな」

 奴がそう言った。

 気がつけばもう空が赤くなってた。

「そうか。なあ、今度はいつ会える?」

「ん~、来年の盆あたりか?」

「やっぱそーか。なあ、お前って今どこに」

「小学校の近く。てかさすがに気づくわな」

 奴は苦笑いで答えた。

「ああそうか。あそこかい。わかったわ」

「ほなまたな。あ、お前はまだこっち来んなよ」

「わーとるわ。まだまだ行けへんわ」

 そう言って俺達は別れた。


 俺が昔通ってた小学校の近くには墓地がある。

 奴はそこに眠ってんやな。

 何で若くして逝ったのかは言わんかったが、それはまた会った時に言ってくれるんかな?


 しかしなあ、俺もう定年間際で頭も剥げてもうたジジイやけど、今日は何か高校の時の口調にしとうなったわ。


 もしかして口調もここへ来たくなったのも奴の仕業か?


 まあいいわ。そんじゃまた来年会おうや。



 俺は心の中でそう呟きながら商店街を後にした。

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