第終説 虎耳の告白

 境内から出るのは危険だと判断した葛ノ葉さまは、すぐさま自分を姿見の井戸から脱出できるようにしてくれた。社務所のかたわらにあった竹製のはしを借りて、例の井戸に掛けてりる。冷やりとした井戸の内部は、自分が思っている以上に深かった。徐々に入り口の光が見えなくなる。井戸底に辿たどり着くと、再び梯子をのぼる。井戸の梯子を上っていくにつれて、出口の光が見えてきた。梯子を上りきると、そこには見慣れた光景が広がっていた。自分が辿り着いた先は、旧校舎横にある古井戸だった。そして、目の前の葛葉くずのはグラウンドには、ある二人がいた。それは、虎耳とらがみおお先生だった。

和泉いずみくん何故なぜ、ここに来たの?」

 自分に気づいた虎耳が問いかけてきた。

「それは…」

 答えに行きっていると、虎耳とらがみの前いるおお先生が話に割り込んできた。

『お前ら、そういう関係だったのか?』

「和泉くんは、関係ないわ。」

 かさず、虎耳が言い返した。虎耳の言葉を無視して、大神渚先生は自分の方へ身体を向ける。すると次の瞬間、やり投げのようにして大神先生が何かを投げつけてきた。突然の出来事に自分は全く反応できず、身体を腕でしかなかった。するととつじょ、目の前に影が飛び込んできた。両腕を広げると、目の前には虎耳が倒れていた。

「虎耳!!」

 咄嗟とっさに自分は、虎耳へ駆け寄る。

「ごめんね。和泉くん、こんなことになってしまって…」

「しゃべるんじゃない!」

 虎耳の華奢な身体には、無数の五寸釘が打ち付けられていた。真っ白な制服に血が滲む。

「でも、これでいいの。これで…」

「どういうことなんだ?虎耳!」

 口から血を流しながら、弱々しい声で、自分の問いかけに答えてくれた。

「本当の私は、人間じゃないの。虎の残像…私の先祖は、ぬえ。そして目の前にいるおお渚の先祖も同じ。」

「ありがとう、和泉くん。これで、すべてが終わる。サヨウナラ…」

「虎耳!しっかりしろよ。虎耳!虎耳!…」

『慈しむ末路…』

 虎耳の残声をさえぎるようにして、大神渚先生が呟いた。

「虎耳を返せ!」

 自分は睨みつけた。

『次は貴様ダアアア』

 大神先生が自分に向かってきたその時。

『アアア…』

 突然、大神が叫び声を震わせる。そして、そのまま絶命した。混乱する中、天から声が聞こえた。

「"似て非なるモノ"。つまりは、相関関係の由縁。それで、お互いに封殺された。元々、祖先が同じだからじゃのお。」

 葛ノ葉さまのコトが、葛葉くずのはグラウンドにむなしく響き渡るだけだった。

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葛ノ葉稲荷譚 新庄直行 @Shin__Nao

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