エピローグにしてプロローグ
ダンタリオンは空を見上げていた。彼がいるのは、新魔王城の近くにいくつか存在する遺跡、その一つのすぐ近くである。
(結局、ベリアルはここに気付くことはなかったか……案外スケるんあたりが探索に来ていた方が、何かに気付いていたかもしれんの……)
そう、ここは魔王ゲーティアの探索任務の多くを請け負っていたベリアル軍が、最初期から何度か調査した遺跡である。まあ、灯台下暗しともいうし、第一これだけ近いところに魔王ゲーティアの復活の手がかりなどがあるなどとは、思いもしなかったのだろう。
(それでも慎重ではあった……何度か同じ場所を常に別の者に探索させるようにし、惰性で調査が行われないようにもしていた……とはいえ、ベリアル自身かスケるんでも来なければ、痕跡さえも見つけられんだろうな)
なぜなら、その痕跡をあえて隠したのはダンタリオン自身の魔術だったのだから。
彼は魔術の腕だけなら、ベリアルでさえ比較にならないほど卓越していた。よって、ベリアルやスケるん級の魔術の腕があればともかく、それ以下の魔術の腕の者には痕跡を見つけることなど到底出来まい。
より正確にいえば、魔術の腕が卓越した幹部たちはもうダンタリオン以外にもいたが、人間と魔族の戦の最中滅ぼされてしまった。
(だから……などとは微塵も思っておらんが)
ただ、彼は実の所飽いていた。人間との戦いに。いや、正確には人間と戦って魔族を守るという行為に……である。
といっても、彼は別に魔族を守るために人間と権益を争う戦をすることで、結局魔族も損害を出すといった、そういったことに対して何かを感じていたわけではない。むしろ逆である。彼は実のところ、魔族が滅びようがそれ自体はどうでも良かったのである。同族の死にも、感傷的な何かを感じたりはしなかった。
彼が人間との戦いを行っていたのは、単に人間をいたぶることに快楽を感じていたことと、何より自分が死ぬのは嫌だと思っていたからに過ぎない。自分が死ぬのが嫌だから、脅威となる相手を殺してしまえばいい。実に簡単な理屈である。
(じゃが……均衡はもうとっくに崩れてしまった……魔族が負けるのはもはや時間の問題じゃったからな……)
ゆえに、彼は先代の勇者との戦いが終わった時点で、魔王ゲーティアを復活させる準備を着々と整え、今代の勇者が現れた頃には魔王を復活させられる段階にきていたというのに、あえて魔王の復活を行わなかったのだ。
(魔王ゲーティアは、冷徹かつ冷酷な異世界の魔族の王ではあるが、王なりのプライドもあるようじゃからな……ここまで天秤が傾かん限り、盟約を守ろうとしたじゃろうて……)
そう。ダンタリオンにとって、同族などどうでもいいのだ。ただ、自分が生き残れさえすればいい。そのためには同族を生贄に捧げてもいいとさえ思っていたが、ある程度の戦力が揃っていればゲーティアは最低限の盟約は守ろうとするだろう。
ただ、ここまで魔王軍の戦力が人間に劣ってしまっては、ゲーティアとしてももはや手段を選べるような状況ではない。魔王ゲーティアには、こちらの世界の生命体をあちらの世界の強大な魔族へと変貌させる力がある。もっとも、ある程度の条件を整える必要がある上に、いままでは盟約があったのでこちらの世界の魔族が変貌させられた事例は、さほど多くはなかった。
変貌させられた魔族は、もはや戦闘を行うだけの存在になる。そのためだけに生き、戦いによって死ぬことを恐れない狂戦士となるためだ。魔王ゲーティアは、味方をするこちらの世界の魔族を友軍として扱う、という最低限のことは意外と律儀に守っていた。
だが、もう魔王ゲーティアがそれを魔王軍に所属する魔族に行わない理由は存在しない。戦力を整えるという盟約が破られているのだから。一方で、復活の儀を行ったダンタリオンは例外である。ゲーティアは、そういった面では意外に義理堅い面もあった。付け加えると、復活の儀を行えるだけの力量を持った魔族が、さほど多くはないということもある。ゲーティアとしても、最低限の保険としてダンタリオンを残しておくべきだと判断するだろう。
(まあ、アシュタロスたちがどうなるかは知らんがな……)
さて……では、異界の王とこの世界の知的生命体、全てを対象にした戦いを
ダンタリオンは、彼の企みについて誰も考えが及んでいないだろうと思っていた。今代の勇者が、ダンタリオンがとっくの昔に魔族を裏切っていたのではないか……と考えていたことなど知らずに……
とはいえ、彼女でさえも今ダンタリオンが復活の儀を行おうとしている、ということは流石に察知してはいなかったのだが……
とにもかくにも、人間と魔族の双方にとって脅威となる、新たな戦いが静かに幕を開けようとしていたのだった。
そして、『女同士で子作りしたい女魔導師が勇者となったら2 』へと物語移ろう……
女同士で子作りしたい女魔導師が勇者となったら シムーンだぶるおー @simoun00
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