めたるギツネ3人娘
うかまこ
第1話
『めたるギツネ3人娘』
むかしむかし、お江戸に将軍さまがいたころ、山に囲まれた丹波篠山国のめたる村に、「まけきらい」という名の稲荷神社がありました。何でも、負けず嫌いの殿様を支える神社の守護神は、やっぱり負けず嫌いのキツネたち。神社の境内で開かれた相撲大会には、強い力士に化けたキツネたちが出場し、よその国からきた力士たちを打ち負かしたそうな。殿様は大喜び。この物語は、そんな神社のそばに住む、歌と踊りが大好きな3人の少女のお話です。3人の少女は、ひょんなことから、地球を守るための戦いに巻き込まれるのです。
ドンドコドン、どどんこどん、「でかんしょーー♪うぇんぶりーーー♪」
あたりがとっぷり暮れたころ、まけきらい稲荷神社の境内で、3人の少女が歌と踊りの稽古をしています。歌が上手なのは、他の2人より二つ年上の「スー」、踊りがうまくて双子みたいに似ているは「ユイ」と「モア」。3人は、お城の広場で開かれる夏祭りに出演することが決まり、毎晩集まって練習に励んでいます。太鼓の音と歌声が夜空に響きます。
「おーい、まだ稽古しとるんか。精が出るのうー」
コバじいが、提灯を持って様子を見に来ました。コバじいは、3人が通う寺子屋「めたるだを」の先生です。白いひげと赤いちゃんちゃんこがトレードマークです。
「みんな、そろそろ稽古はおしまいにせんか。もう真っ暗や。空には星がようけ光っとる。きれいやぞ。ほら、みんな見てみい」
「あっ、ほんと」「きれいだわー」「キラキラ輝いてる」
3人は練習をやめて夜空を見上げます。
「あっ、流れ星っ」モアが声を上げました。
赤い星がスーーっと尾を引いて流れていきます。
「願い事しなきゃ」「早く」「はやくっ」
「歌で外国の人を楽しませたーーい」とスー。
「新しい踊りを世界にはやらせるぞーー」とユイ。
「踊りの大会で優勝するぞーー」とモア。
「あれっ、あの流れ星、なんだか変じゃない」「マツタケみたいな形」
「上下にゆらゆら動いてる」「色も変わった」「どこかに落ちて行くみたい」
3人とコバじいが目で追っていると、流れ星は急降下して見えなくなりました。
「どこかに落ちてたら、大変なことにならないかしら」スーが心配そうに言いました。
「落ちたとしても、ここからは行けない遠い所じゃ。心配してもはじまらん。さあ、帰るぞ」コバじいの一言にみんな納得し、「はーい」と家路につきました。
ボッチャーーーン!尾を引いて流れていった星は、アジア大陸の大きい川に落ちたようです。辺りには家も建物もないので、誰も気づきません。しばらくの間、ブクブクブクと泡が水中からわき上がりました。ザッパーーーン!突然大きな水しぶきが上がり、マツタケの形をしたロケットのような細長いカプセルが浮き上がってきました。しばらく水面で小刻みに揺れた後、潜水艦のハッチのような扉がパカッと開きました。
ハッチの中から、銀色の宇宙服を着た人が、1人、2人、3人、順番に出てきました。カプセルの上にのって、話し合っています。人間と同じような体をしていますが、よく見ると顔は赤、青、緑。赤い顔は鼻が長いテング、青い顔は頭に2本の角をはやした鬼、緑の顔は、くちばしのような口でカッパに似ています。手袋をした手の指は、4本です。どうやら地球の人間とは違う生物のようです。
「やっと着いたな」「ああ、でもここは水の上だな」
「水なら、眠っているモンスターを感知できるな、あれを使えば」
「早くここのモンスターを見つけて、作戦開始だ」「オウ」
3人は、カプセルの上から、何かの液体を少しずつ垂らし始めました。
「よし、ここはこれでOK。次は人の多い村へ行こう」「オウ」
3人の宇宙人は、ハッチからまたカプセルの中に入りました。シューールルルー。マツタケ型カプセルは、川面の上をすべるように走り、村へと向かっていきました。
3人が住む「めたる村」の隣にある「のぎざ村」では、10年に1度の儀式が近づいています。
「どうして小百合がいけにえなのよ」「おかしいわ、年貢米の低い家から順番で娘を差し出すなんて」
のぎざ村の娘たちが、竜神池の近くを歩きながらしゃべっています。
「昔は、池から竜が飛び出してきて、村人たちを食べたっていうんでしょ。すっごい大きな竜が」とひめか。
「大丈夫よ。だって、本当は竜が出てきたことなんてないって。あれは村人を恐れさせる架空の伝説だって。アキじいから聞いたし。きっと竜なんて住んでないのよ、あの池には」と小百合。
「そうね。いないわよね」と友達のえりかたち。
「私、大丈夫だから、心配しないで」と小百合。
「そうね、時間が過ぎたら、いけにえの台から逃げてくればいいのよ」
「そうそう、だれも責めないわ」とえりかたち。
娘の声が響く竜神池の水面が、少しずつ波打ち始めました。ザザザザザ。水面から、竜のひげの先と、二つのぎょろっとした目が出てきました。
竜のような目は、歩いている娘たちを音も立てずに見つめています。
娘たちは、おしゃべりしていて竜神池の波や竜の目には気づかず、歩き去っていきます。ブクブクブク。竜の目は、ゆっくりと静かに沈んでいきました。
夏祭りが2日後に迫った夜、めたる村の3人娘はその日も稲荷神社に集まって歌と踊りの稽古をしました。空には紅い月が光っています。稽古を終えて休憩していたとき、林から、聞いたことのない鳴き声が聞こえてきました。
コン、コン、キューーン、キューーン、キュルーーーン
「何かの鳴き声が聞こえるわ。苦しんでるみたい」最初にモアが声を上げました。
キューーン、キュルーーン、キュル……
「ほんと、苦しそう。助けてあげなきゃ」とユイ。
「よし、みんなで助けに行こう。あの声は、そんなに遠くじゃないわ」
スーがそう言うとみんな立ち上がり、鳴き声がする林へ入っていきました。
しばらく林の中を歩くと、黄色いものが見えました。
「あっ、あれじゃない。子ギツネがじっとしてるみたい」
3人が近づくと、体に血をつけた小さいキツネが横たわっていました。
「よしよし、もう大丈夫だよ」
スーが子ギツネを抱き上げて言いました。
「あれ、この子ギツネちゃん、よく見るとしっぽの先が七つに分かれてる」
「えっ、どれどれ」「ほんと、七つの尾を持つキツネだーー」「なんだかかっこいいー」3人が交代で子ギツネを抱きながらはしゃいでいます。
「子ギツネちゃん、どこに持っていったらいいかしら。動物のお医者さんなんて近くにいないし」とモア。
「そうだ、近くのまけきらい温泉に連れて行こう。あそこの湯は傷にいいって、聞いたことある」とユイ。
「でも、あの温泉は、子供が夜に入っちゃいけないって言われているわよ。不吉なことが起こるって」とモア。
「そんなの言い伝えよ。子ギツネちゃん、だいぶ弱ってるみたいだから、放っておくとあぶないわ。温泉へ行きましょう」
スーが言うと、ユイとモアは「わかった」と納得した返事。
「子ギツネちゃん、傷がよくなる温泉に連れてってあげるからねーー」
「それまで辛抱するのよー」「いいこちゃんねーー」
3人は、スーの胸におとなしく抱かれている子ギツネを連れて温泉へ歩きました。
3人は温泉に着くと、露天の湯船の前で着物を脱ぎました。
「よしよし、怖くないからね」
スーは子ギツネを抱きながら器用に着物を脱ぎ、抱えたままゆっくりと湯に入りました。
「あーー、やっぱり温泉は気持ちいいねえーー」ユイが腕を伸ばして言いました。
「どう、子ギツネちゃんは怖がってない?」とモア。
「大丈夫みたい。ちょっと震えてるけど、目はしっかりしてる」とスー。
お湯につかって気持ちよさそうにしている子ギツネの体を、ユイとモアが優しくなでて上げます。
「よしよし、もう大丈夫」「傷は治るぞ。良くなる良くなる」
「ねえ、この傷って、かまれた痕じゃない。何かにかまれたのかな?」とユイ。
「そうかもね。同じキツネか、タヌキかオオカミか」とモア。
「こんな小さい子ギツネちゃんを」とユイ。
「これって、もしかしていじめ?」とモア。
「動物界にもあるのね、小さいものをいじめることが」とユイ。
「いじめはだめよ。許せない。自然界の食物連鎖は別だけど」とスー。
「そう、イジメ、ダメ、ゼッタイ」と3人は声をそろえました。
「ねえ、この子ギツネちゃん、すごーーくかわいい目をしてない?」とモア。
「ほんと、かわいい」「天使みたいな目」
「目が印象的だから、この子の名前は目太郎ってどう?」とスー。
「えーー目太郎なんてーー、ちょっとへん」とユイ。
「ゲゲゲの鬼太郎の弟みたいだよーー」とモア。
「そうかあーー。じゃあー、一文字増やしてメタ太郎ってのは」
コンコン。そのとき、スーにだっこされている子ギツネが、うんうんと小さくうなづきました。
「ほら、子ギツネちゃんも気に入ったみたいよ」とスー。
「オッケー、異議なーーし」「じゃあ、お前の名前は今からメタ太郎だぞ」「がんばってけが治せよ、メタ太郎」3人の笑い声が響きました。
3人とメタ太郎がお湯から上がろうとしたとき、ゴーーという音が響いて、温泉の底から渦が巻き始めました。
「えっ、何これ」「足が引っ張られるーー」「ああー、もうだめーー」
湯船につかっていた3人は、突然できた渦巻きに引き込まれたのか、あっという間に姿を消してしまいました。
3人は気を失ったまま、お湯にもまれるように流され、お湯のトンネルの中をどこかへ運ばれていきます。スーたちは、何か夢をみているようです。
3人の夢の中に、大きなキツネのお面が現れました。キツネのお面は、少しずつ口を開き、煙を吹き始めます。そして、しゃべり始めました。
「グオーー、おまえたちに、グオーー、特別な力を与えようーー、グオーー。おまえたちは、その力を使ってグオーー、敵と戦うのだ、グオーー。一生懸命戦うのだグオーー、わかったなーーー、グオーー」
パッシャーーーーーン
3人の体が、投げ出されたようにどこかに到着しました。暗い洞窟のような場所。そこにも温泉のような湯船があり、3人は天井の穴からそこへ落ちたようです。
「うーーん、ここはどこ?」最初に意識を取り戻したユイが湯船で立ち上がり、辺りを見回しました。スーとモアはまだぐったりしています。
「スーさん、モアちゃん、目をさまして」ユイは2人の体を揺さぶります。
「う、うーーん」「えっ、なにーー」2人がゆっくり目を開けました。
「大変よ。なんか、どこかわからない場所に来ちゃってるみたい」とユイ。
「ここどこーー。なんだかやばいーー」とモア。
「うーーん、とにかく落ち着こう。家に帰る道を探さなきゃ」とユイ。
「3人とも、驚かせてすまなかった。けがはないか」
洞窟に、突然コバじいの声が響きました。
「3人に、覚悟して聞いてもらわないといかんことがある」
コバじいは、どこから来たのか、湯船の近くに歩いてきました。3人は、肩まで湯につかったまま、コバじいの顔をじっと見ています。
「わしは今、コバじいではない……。まけきらいギツネ神の化身なのじゃ。天から降りてきて、今はコバじいの体を借りてしゃべっておる。ゴッホン……3人には、地球を守るために、戦ってもらわなければならない」
「えっ、なになに」「なんの話?」3人ともポカーーーンとしています。
「実は今、この地球の人類に、危機が訪れておる。遠い星から宇宙人が来て、滅亡したはずのモンスターを次々によみがえらせているのじゃ。そのモンスターたちを自由に操り、世界中の町や村を破壊し、人々を襲い始めておる」
「えーー」
「でも、どうしてキツネ神さまはそんなこと知ってるの」とモアが尋ねました。
「うむ。実は、わしは世界中のよろずの神々と、水鏡で通信しとるんじゃ。海の向こうの大陸の山神も、そのモンスターにはてこずっておるそうじゃ」
「どうして私たちが戦うの?」ユイが尋ねます。
「大メギツネの神が、おまえたち3人に力をさずけてくれたからじゃ。……おまえたちが、トンネルの湯にもまれて気を失っている間にな」
「えっ、力ってどんな?」とユイ。
「うむ。新しい力を説明しよう。まずスーは、鉄板に穴を開けるほどの力強い拳と岩をも砕く大きい声。次にユイは、10歩の跳躍で富士山の山頂まで行けるほどの強く速い足。そしてモアは、どんなに速く動くものでもつかまえて投げ飛ばすことができる強い腕と手じゃ」
「えーー、ほんとにーー」とモアは自分の手を見ながらいいました。
「だが、その力を正しく使うには、修行を積まなければならない」とキツネ神のコバじい。
「えーー、どんな修行ですかあ」とユイ。
「うむ。神ばやしのみんな、出てきてくれ」とコバじいが声を上げます。
「おうっ」「おす」
かけ声が響くと、白い着物をきた4人の男がどこからか飛び降りてきました。
4人のうち3人は肩まで伸びた長い髪、1人は坊主頭。みんな手に楽器を持っています。
「神ばやしの4人を紹介しよう。三味線は2人いて、速弾きが得意な大神とその師匠でもある小神。大型の6弦琵琶を弾く坊主頭の棒神。そして、親譲りの太鼓とドラの名手の青神。彼らの演奏に合わせて稽古を積むと、身についた特殊能力を自由自在に使えるようになる。……あしたから、みっちり稽古を積んでくれ、たのんだぞスー、ユイ、モア」
「おす」「おす」「おっす」
コバじいは、そのあとばったりと倒れました。そして、まけきらいギツネ神が体から離れたのか、「うーーん、わしはどうなっとったんやろか」と眠りからさめたように立ち上がりました。その横では、娘3人と神ばやしの4人が早くも稽古を始めています。
ドンドンジャカジャカビンビンビーーン。3人の動きに合わせる神ばやしの演奏の音が、洞窟に響き続けました。セイヤ、ソイヤ、セイヤ、ソイヤ!3人が稽古するかけ声も響きます。
セイヤ!ソイヤ!セイヤ!ソイヤ!はーしーれーーー!
しばらく月日が過ぎた頃、隣の「のぎざ村」では、明日の竜を迎える儀式へ向けて、準備が進められています。小百合は、練習のために「いけにえの台」に歩いて向かっていますが、足がもつれて前へ進めません。よろよろして、台の手前でバッタリ倒れてしまいました。
「小百合、大丈夫?」近くにいた友達のひめかが走り寄り、抱きかかえます。
「う、うん、大丈夫。ちょっとめまいがしただけだから」
「ふーーん」とひめかは小百合の顔を見つめます。
「よし、小百合。あしたのいけにえは、私がかわってあげる。あなたはもう帰りな」そう言うと、ひめかは小百合から離れて、いけにえ台の方へ歩きました。
「だめよ、ひめか。竜に殺されちゃうわ」と小百合。
「大丈夫よ。竜なんてほんとはいないんだから。こんないけにえ台も、本当はいらないのよ」
ひめかは笑顔で言いました。
翌日の夕方、3人娘は神社の境内で稽古しています。
「みんな、だいぶ腕を上げたようだな」
まけきらい神社の境内で、コバじいが3人に声をかけました。
「あら、コバじい、また東京弁。またキツネ神さまが降りてきてるのね」とひそひそ声でスー。
「きょうはお前たちにいいものを持ってきた」
コバじいは、担いでいた袋の中から、3着の服を取り出しました。
「勝負服じゃ。かっこいいぞーー」
コバじいは、3着の勝負服をむしろの上に並べて置きました。黒が基調の忍者装束に似ていますが、袖や肩、すそに赤いフリルのような飾りがついています。
「何だか、かわいーー」と3人。
「そうじゃろう、そうじゃろう。だが、かわいいだけじゃないぞ。これを着ると力がみなぎるのじゃ。このフリフリ飾りが力の源じゃ。さあ、着てみなさい」
「おす」
3人は木の陰でそれぞれの勝負服を身につけ、髪の毛も動きやすいように赤いリボンで束ねました。
「ユイちゃん、かっこいいじゃーーん」「モアちゃんこそ、いい感じ-」「スーさんこそ、いいねー」「ほんと、いいねー」「いいね!」「いいね!」……。ほめあっていた3人は、テンションが上がって、踊り始めました。いいね!いいね!いいね!
「おーい、そこまでっ」コバじいが一喝します。
「3人とも、よーく聞け」「おす」
「となり村の竜神池には、大きなラギア竜が住んでおるのじゃが、最近ようすがおかしいようじゃ。昔は若い娘のいけにえを差し出せばおとなしくしておったが、最近は夜な夜な日本中を飛び回って暴れているそうな。どうしてそうなったかはわからんが、このままでは村があぶないと、村の長老の守護霊が助けを求めてきたんだ」
「まさか、私たちに退治しろっていうんじゃないでしょうね」とスー。
「そう、そのまさかじゃ。お前たち3人でラギア竜をやっつけてほしい」
「うっそー、私たちにそんなことができるのかしら」とユイ。
「できるぞ。お前たちには、勝てるだけの力がついとる。ただ、3人の力をうまく組み合わせて戦わなければならない。わかったな」とコバじい。
「おす」「おす」「おっす」3人は拳を握って返事をしました。
隣の「のぎざ村」では、いけにえ儀式の夜を迎えました。大勢の村人が、いけにえ台がある竜神池の周りに集まっています。小百合がゆっくり歩いていけにえ台に行こうとすると、そばにいたひめかが走り出しました。ひめかは、いけにえ台の向こう側にいる長老たちの方へ走りながら、大声を上げます。
「長老――。いけにえは私がなります。私が今から台に上がります。許してください」
ひげモジャの長老はひめかの顔を見ながら口を開きます。
「なんじゃ、急に。どうしてお前はいけにえになりたいんじゃ。理由を言え」
ひめかは足を止めて、しゃべり始めます。
「はい、いけにえに選ばれた小百合は、いま風邪をひいて体調をくずしています。長老が前に言われたように、体の中の血が濁っている状態です。そんな娘を食べて、竜が満足するでしょうか」
「ほう」と長老はひめかを見つめます。
「まずい血をのまされた竜は、落ち着くどころか、逆上して暴れ回ると思います。そうなるとこの村は危ない」
「ふむ」と長老は腕を組んで考えているようです。
「よし、わかった。そこまで言うなら許してやろう。お前がいけにえだ。台に上がれ」
「はい」っとひめかは台に向かいます。
「ひめか、だめよっ!そんなこと」
台の近くまで来ていた小百合がひめかに声をかけますが、ひめかは小百合の肩をポンとたたいて台に上がりました。
「大丈夫よ。竜なんて来るわけないから」ひめかは小声で小百合にささやき、台の上に仰向けで横たわりました。
台の周りでは炎が上がり、村の年寄りたちが「ラギーア~、ラ~ギア~~」と竜を呼ぶ呪文を唱えています。
しばらくすると、静かだった池の水面が少しずつ波打ち始め、中心部から渦が巻き始めました。渦はどんどん大きくなり、池全体に広がっていきます。
「くるぞ、ラギア竜が出てくるぞーーー」池の周りにいる村人が騒ぎ始め、走り去る人もいます。
グオーーー、グワオーーーーーー
池の中から大きなうなり声が聞こえてきます。
ザッパーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
池の中から銀色の竜が空に向かって飛び出しました。水しぶきも大きく上がり、いけにえ台や周りの村人が水浸しになります。
グワオーーーン
ラギア竜は空高くで長い胴体を渦巻いたかと思うと空中で動きを止めました。
そして、鋭い目でいけにえ台のひめかを見つめます。
「きゃーーーー、たすけてーーーー」
いけにえ台であおむけのひめかは、力を振り絞るような大声で悲鳴を上げました。
「あれ、悲鳴が聞こえた。……あれは、ひめかの声」
まけきらい神社で稽古を終えたスーが、耳をすましながらつぶやきました。
「えっ、隣村のひめかちゃん?確か、生き別れたスーさんの姉上の」とモア。
「そう、幼いころ、村が戦に巻き込まれて生き別れになった姉のひめかよ。あの声、覚えているわ。ひめかが、助けを求めている。頭に響いたわ」とスー。
「もしかして、池からラギア竜が出てきたのかも」とモア。
「早く助けに行かなきゃ」とユイ。
「でも、どうやっていくの」「うーーん」
「んーーひらめいた!いい方法があるわ。時間がないから、実行しながら説明するわ。ねえ、モアちゃん、スーさんを現場まで投げ飛ばして。その強い腕で」
ユイがパンと手をたたいて言いました。
「えっ、あっ、はい。スーさんを投げ飛ばせばいいのね。わかった」
モアはスーの両腕をぎゅっとつかむと、グルングルンと振り回し始めました。
「えいやっ」モアは遠心力が高まった時点で、思いっきりスーを投げ飛ばしました。「あーれー」と、スーは尾を引くように空高く飛んでいきます。降りていくスーの視界に、ほえているラギア竜が小さく見えてきました。
グワオーー、グワオーーー!
いけにえ台の上にいるラギア竜は、ブオーーブオーーと大きい口から炎をはき始めます。竜の目と、いけにえ台にいるひめかの目が合いました。
グワオーーーーーーーーーーーー!
竜は大きい口をさらに大きく開け、いけにえ台のひめかに襲いかかります。
ズッゴーーーーーーン!!
轟音がとどろいた瞬間、ラギア竜がいけにえ台の上空から吹っ飛びました。
「ふう~~。ぎりぎり間に合ったみたい。あぶなかった」
着地したスーが、左手を振りながら言いました。投げ飛ばされた勢いで、着地する直前に左拳を竜の頭にくらわせたのです。スーの正拳突きは、ラギア竜の頭蓋骨に食い込んだようです。
「こわかったでしょ。もう大丈夫よ。竜は動けないと思うわ」
スーは、いけにえ台の脇にいたひめかにほほえみかけました。
「さあ、早く逃げて。ここは私にまかせて」「うん、でも、スーちゃんどうしてそんなすごい力を?」
「くわしい話はあと、あと。今は逃げて」「わかった」
ひめかたちが立ち去ろうとした瞬間、ゴンゴンゴンと地響きがしました。
グワオーーーーーーーーン
はね飛ばされたラギア竜は、まだ生きていました。頭をかち割られたことで逆上し、全身を真っ赤にして上空に飛び上がりました。上空でとまり、ジッとスーやひめかたちを見ています。
「やばいっ、まだ超元気みたいー」スーがつぶやきます。
ブワオーーーーーン!ギュルギュルギュルルルーーーーン!
空中のラギア竜が、急にぐるぐると回り始めました。
「えっ、何」
バシューーーーンッ!
スーが動きを止めて竜を見上げた瞬間、竜の尾がのびてスーをはね飛ばしました。スーは「うわあーー」と声を上げ、ポーンと近くの山の上まで飛ばされます。
「や、やばい」
山の方を見ると、逆上した竜が、大きな口を開けて、またひめかたちを食べようとしています。
グワオーーーーーン!バシュ!グオグオーーーン
竜の動きが一瞬止まり、そのまま空中から落下しました。
ドーーーン。
「ふー、よかった」「間に合ったみたいね」
竜の近くの地面で、ユイとモアが寝転がったまま顔を見合わせます。
「あいたたた。竜のやつ、堅かったーー」
ユイが右足をさすりながら言いました。空から落ちてきたユイのキックが、竜の頭に直撃したようです。
「もー、ユイちゃん激しいだから。私を肩車したままあの強烈キックかますなんて」
「仕方ないでしょ。ひめかさんが危なかったんだから」
足が強いユイは、モアを肩車したままジャンプしてこの村まで飛び、着地にあわせてラギア竜にキックしたのです。
「でも、さすがねーユイのキック。この竜、ぴくりとも動いてないわ」
モアが、地面に横たわっているラギア竜の顔に近づいて言いました。
「まだまだ、油断できないわ。とどめをさしましょ」
モアがそう言った瞬間、動かなかった竜の目がパチッと開きました。
「やばいっ」「逃げてっ」
ユイとモアが竜の顔近くから飛びのいた瞬間、竜は大きな体を起こしました。
グワオーーーーン
竜は尻尾を振り回して飛び上がり、少し離れた所にしゃがんでいるひめかをめがけて襲いかかります。
「あぶないっ!」
大きい口を開けて急降下したラギア竜に向けて、ユイはハイジャンプキックを
かまそうと飛び上がって右足を急回転させます。
「やばいっ!」パクッ、ズゴーーーーン!!
ユイのキックはラギア竜の後頭部に当たって竜は吹っ飛びましたが、しゃがんでいたはずのひめかがいません。
「ひめか、ひめかーーーーーーーー!」
山の上に飛ばされたスーが叫びます。
「もしかして、ひめかさんは……」とユイ。「そう、キックが当たる直前に食べられちゃったのよ。あの大きい口で。私、見た」とモア。2人はくやしそうに顔をゆがめます。
飛ばされたラギア竜は、落ちた場所からゆっくり飛び上がり始めます。
「モア、早く肩に乗って、ジャンプするよ」「オッケー」
ユイがジャンプして竜に近づいたとき、肩車されたモアはその尻尾にすばやく左腕を伸ばしました。
「えいっ」
ユイが声を上げた瞬間、竜の動きが空中で止まりました。その尻尾の先を、モアの左手がぎゅっと握りしめています。
「さあ飛ばすぞー-」とモアは竜の体をびゅんびゅん振り回し始めます。
「モア、こっちよ。こっちへ投げて。私の真上に」
山の上から、スーが叫んでいます。
「オッケー、いっくよー」
モアは勢いをつけて、竜をスーがいる山の上の方へ投げました。
山の上のスーは大きく息を吸い、上を向いて待ち構えます。
上空の竜がスーの真上に来た瞬間、雷が落ちたような音と地響きが天地を貫きました。
「かかってこいやーーーーーーーーーーーー!!!!!」
スーが上を向いて発した大声が、一瞬のうちに竜の体を抜け殻のように変えました。
竜はへなへなになって落ちてきます。3人は竜が落ちた場所に駆けつけます。
「ひめか、ひめかーーー」
スーは、ぐったりして白目をむいた竜の口を両手で広げて、呼びかけます。
「ひめかさん」「ひめかさんっ」ユイとモアも、竜の体をゆすって呼びかけます。
「う、うーーーん」竜ののどあたりから、か細い声が聞こえてきました。
「ひめか、ひめかの声よ。ひめかは生きてる。ユイちゃん、モアちゃん、ひめかを口から出すわよ」
「わかった」とユイ、モア。ユイは足で竜の尻尾から腹までを踏みつけ、モアは手で竜ののどを絞ります。
「さあ、一気にいくよ。せーーのっ」スーのかけ声で、モアが力を入れてのどを絞ると、竜の口が大きく開いて何かがポーーンと飛び出ました。
「う、うーーーん」飛び出て地面にうずくまっていたひめかが声を上げます。
「ひめかーーー」スーがひめかのもとに走ります。
「ああ、スーちゃん」ひめかはもうろうとしながらも、スーに気づいたようです。「ひめかねえちゃん」スーは、ひめかを抱きかかえて、その体をぎゅっと抱きしめました。2人の目に涙があふれます。離ればなれになって、5年ぶりの再会でした。「スーちゃん、ありがとう」「うん、ほんと、よかった」……。
「ふーー、スーさんの大声はすごすぎるわー。耳ふさいでてもジンジンする」とユイ。「あの声は超絶よね。そう、あの大声技の名前は、超絶ウルトラスーパーボイスがいいわ」とモア。「うん、それいいかも。何だかバテレンの言葉みたいだけど。あの大声に勝てる生き物はいないからね」とユイもうなずきました。
「うーーん、ラギア竜がやられたか。予想外だったな」
マツタケ型カプセルの内部で、3人の宇宙人が、画面に映ったラギア竜とスーたちを見ながら話しています。この時代の地球では考えられない近代的なモニター画面が20枚ほど並んでいます。
「あのラギア竜にウイルスは効いていたのか」テングが横にいるカッパに聞きました。「効いてたよ。あの竜はもともとあんなに大きくないし、力も強くなかった。高くは飛べないし、炎もはかなかったはずだ。ウイルスに感染して、大きさは10倍になり、飛ぶ力は100倍近くになっていた」とカッパ。「ずっと眠っていたのが、ウイルスで目を覚ましたんだしな」とその横にいる鬼が言いました。
「そうか。てごわい奴らが現れたようだな。小娘3人なのに」と鬼。
「小娘たち、どうしてあんな力を持ってるんだろう」とカッパ。
「今はわからん。だが、負けることはない。ウイルスの力はまだまだ大きくなる」とテング。「どうする。この日本で新たな眠るモンスターを捜すか?」と鬼。
「いや、今はいい。この日本征服には秘策がある。しばらくはヨーロッパ侵略を進めよう」とテング。「オッケー」「じゃ、いくか」と鬼とカッパ。
めたる村の寺子屋「めたるだを」では、スー、ユイ、モアの3人がいつものように同年代の男女と講義を受けています。
教師のコバじいが「食べ物の名前について考えてみるか。さて、力うどんというのは、なぜ力うどんって言うと思う?よーく考えてみろ。さあ、スー、なんで力うどんっていうのかわかるか?」
「えっ、は、はいっ。んーーー、それは、うどんの職人さんが、思いっきり力を入れて麺をうったうどんだからですう」とスー。
ワッハッハッハッハーーと寺子屋内に笑いが起こります。
「スーさん、またとぼけたことを。もちが入ってるからですよ」とモア。
「よし、次は歴史の問題じゃ。この肖像画、だれの絵かわかるか。んーーモア、わかるか」
急にあてられて慌てるモア。「えーーーと、その人はたしかー、徳川家康さま。おひげがえらそうだし」
「ばかもーーーん、これは織田信長公の姿じゃ」とコバじい。
「やっべーー、モア、幕府のお役人に打ち首にされるでーー」
モアに気がある隣の席のジロベイが、モアをからかいます。
寺子屋内で爆笑が続く中、コバじいが真剣な顔になって言います。
「スー、ユイ、モア。突然だがちょっと来てくれ。頼みたいことがある」「みんな、すまんがしばらく自習しておいてくれ」
コバじいは目で合図して3人を寺子屋から連れ出します。
「海の向こうの西の国々で、怪物たちが暴れているそうじゃ。向こうの言葉でモンスターというんじゃが。西の神々が助けを求めてきよった」
寺子屋を出たところで、コバじいは3人に伝えます。
「でも、海の向こうってどうやっていくんですか」とモア。
「私の足でも、太平洋を飛び越すのはしんどいわ」とユイ。
「そうじゃろうそうじゃろう」とコバじいは笑顔になって、後ろに置いていた大きな巾着袋から何かを取り出しました。
「これは、すっごいぞーー」とピンク色をした玉手箱を差し出しました。
「何ですか、それ」とスー。
「これはな、秘密の箱じゃ」とコバじい。
「何ができるんですか、その箱で」とモア。
「よしユイ、ちょっと開けてみろ。上のふたを」とコバじいは片手に持った箱をユイに手渡します。「あっ、はい」とあわてて受け取るユイ。
「開けちゃっていいんですか、ほんとに」「ああ、開けてみなさい」
ユイがゆっくりと箱のふたを開けると、箱の中からポワーーンと大きい泡玉が出てきました。泡玉は、目の前で宙に浮いたままじっと止まっています。
「これは、きみたち3人の乗り物だ。その泡玉の中に飛び込んで中に入れば、どこへでも飛んでいけるぞ」とコバじい。「へーー」と3人は目を丸くします。
「それとこれもじゃ」とコバじいは、巾着袋から、ラッパのような長い筒を取り出しました。「これは、超絶メガホン。スーの超絶ウルトラスーパーボイスで、周りにいた人が耳を壊されないようにするためじゃ。スーよ、大声を出すときは、必ずこれを対戦相手に向けて、声を漏れないように出すのじゃぞ」
「は、はい」とスーは、コバじいから超絶メガホンを受け取りました。メガホンは縮めて畳むことができるので、スーは小さく畳んでふところに入れました。
「海の向こうのエゲレスという国の神が、助けを求めておる。大きな牙を持つ、トラの100倍はありそうなモンスターが暴れておるそうじゃ。名前はドランゴ。
早くいかんと、人々を食い尽くして多くの村が絶滅しそうじゃと」
「コバじい、この泡玉でどうやってエゲレスへ」とユイ。
「秘密の箱のふたに、世界地図がかいてあるじゃろう。行き先に赤い光がともっておる。その場所を頭に描いて『そこへ行くぞ』と強く念じるのじゃ。泡玉は、その念を感じて行き先まで飛んでいってくれる」
「へーー」と3人はまた目を丸くします。
「さあ、のんびりはできん。3人とも頼んだぞ」「おす」「おす」「おっす」
スー、ユイ、モアが泡玉の中に飛び込むと、3人を乗せた泡玉はすうーっと空に上がって、エゲレスの方へ飛んでいきました。
エゲレスの首都ロントンの上空にくると、出来たばかりというバッキンゴム宮殿が見えてきました。人々が、宮殿に向かって長い列をつくっています。宮殿へ逃げてきたようです。
「グワオーー、グワオウーーーー」ダダダダダダダッーーー!
けたたましい音がする方向を3人が泡玉から見下ろすと、長い牙を持ったトラのようなライオンのようなモンスターが、荒野をバッキンゴム宮殿に向かって走っています。大きさはゾウの10倍くらいあり、目の前の大木や岩を打ち砕いて進んでいきます。
「なにあれ、すっごい勢い」とユイ。
「このままだと宮殿に突っ込んで、中にいる人たちにぶつかっちゃう」とモア。
「よし、ゆっくりはしておれない。行くよ、ユイ、モア」とスーが気合を入れます。
「おす」「おす」
「ママーーーー、たいへんだよーー!4本足の大きなバケモノが、すっごい勢いでこっちに向かってくるよーー」
宮殿内の王室で、トマト王子が双眼鏡で外を見ながら叫びました。
「トマト、落ち着きなさい。ここの城壁は、鋼鉄でできているのよ。破られるわけないわ。大丈夫。それより、近衛兵たちに銃撃するよう命じなさい」
「はい、ママ、そうしまーーす」。トマト王子は、横にいる母のエリザボス女王にいいつけられると、大きな返事をして王室を出ました。
「早く、みんな早く入って」宮殿のすぐ外で、大きな声が響きます。
人々の列は、駆け足で宮殿の門に入っていきます。そのすぐ後ろに、ロントンで伝説の牙狂獣と伝わるモンスター、ドランゴが迫っています。「早く、はやくっ」門番が叫びます。
ガシャーーーン。列の最後尾の人が門の中に入った瞬間、宮殿の鉄門が閉じられました。
ドッガーーーーーーン。すぐ後に、また大きな激突音が響きました。走ってきたドランゴが門に体当たりしたのです。
「やばい、城壁が破られた?……かな」とモア。
上空の泡玉の中から3人が宮殿を見つめます。城壁は破られず、ドランゴははね返されたようです。
「ほーーら、うちの城壁は強いんだぜーー。入れさせないぜーー。ねっ、ママ」
トマト王子がうれしそうにエリザボス女王の顔を見ます。
「油断しちゃだめです、トマト。あいつはまた向かってくるわ」と女王。
「はい、はいっ。見てきまーーす」と王室を出るトマト王子。
案の定、はね飛ばされたドランゴは、勢いをつけてまたぶつかろうと、城壁を見ながらゆっくりと後ろにさがっています。
「ユイ、モア、急ぐわよ。ラギアのときのあの作戦で。私はあっちで待ってるから、すぐ降りて」とスー。「おす」「おす」とユイ、モア。
ドランゴは、さっきより速いスピードで城壁の門に向かってまた走り始めました。ドドドドドドドドドドドドーーーーーー!
門の中では、中庭に集まった民衆の前で、トマト王子が「大丈夫、この門は完璧だから、破られません」と説明しています。
ドッカーーーーーーーーーーン!!!
大きな激突音とともに、鉄の門が吹っ飛ばされました。グワオーーンと雄叫びを上げて、ドランゴは庭にいる民衆を見ながら近づいてきます。
ドン!よいっしょ。モアとユイが宮殿の庭におりました。
「私が牙をつかまえてぶん投げるわ」とモア。
2人が民衆の前で身構えると同時に、ドランゴは突っ込んできます。
ドランゴが角と牙を前にして突っ込んできます。モアは両手を広げて身構えます。ドドドドドーーーー!モアが角をつかまえようと手を握った瞬間、ドランゴは角をプイッと横に向けてモアの手をすり抜け、モアを肩ではね飛ばしました。
ドランゴはトマト王子や民衆の方へ突き進んでいきます。
バシューーーーーーーーーーーーーン!
けたたましい音とともに、ドランゴは高くはね飛ばされました。トマト王子の前で、ユイが右足を高く蹴り上げています。
「ふーーーーー、ぎりぎりで間に合った。あぶなかった」とユイ。ドランゴを蹴り上げた足をゆっくり戻します。
ドランゴが飛んでいく方向へ、モアが全速力で走っています。
ドランゴの落下地点に来たモアは、落ちてくるドランゴの牙を左手でぎゅっと捕まえました。そして、ドランゴの体を左腕でぐるぐる回し始めました。ドランゴは目を白黒させています。
「スーさん、いっくよーーー」とモア。「オッケー-」とスー。
スーは懐から取り出し長い超絶メガホンを、口にあてて上に向けています。
「スーーさん、いったよーー」とモアは振り回していたドランゴを勢いよく投げました。ドランゴはスーのいる所へ飛ばされていきます。
スーは大きく息を吸って超絶メガホンを口に当て、ドランゴの方に向きました。
「アモーーーーーレーーー!ユウト、アイリ、おめでとうーーーーー!」
地響きとともに大音響がとどろき、スーの声の槍がドランゴの体を貫きました。ドランゴの体はへなへなとスルメイカのようになって落ちていきます。
「ふーーー、ちょっとあわてたわ」とのどをさするスー。
空を見上げてその様子をみていた宮殿内の人々から、大きな拍手が沸き上がります。
宮殿の庭では、キック攻撃を終えて宮殿を出ようとするユイに、トマト王子が歩み寄ってきます。
「あの………、ユ、ユイさんとおっしゃるんですか……。さっきお友達がい、言っていました………」
「はい、ユイですけど」ユイは立ち止まって振り返り、答えます。
「ユイさん、ユ、ユユユユユ~~~~~ユイさん」と王子。
「はい」とユイ。
「ぼぼぼぼぼーー僕はあ、あなたしか見えなくなりました」
「あ、はい」
「ユ、ユイさん、僕はあなたが好きになりました、……けっ、けっ、結婚してください」トマト王子が、丸い顔を真っ赤にして、右手を差し出して言いました。
びっくりしたユイは、ゆっくりとトマト王子に歩み寄っていきます。
トマト王子の顔に顔を近づけたユイは「ありがとう。うれしいわ」とつぶやいて、トマト王子のほっぺたにチュッとキスをしました。
トマト王子は目を丸くして、顔を真っ赤っかにしました。頭から湯気が出ています。「……ユイちゃん……まじユイちゃん……」
「でも、ごめんなさい。まだ結婚はできないの。私17歳だし。やらなければならないことが、あるから。気持ちだけ、受け取らせていただきます」ユイはトマト王子の目を見つめながら言いました。
「は、はい」トマト王子は、体をかちかちにしてうなずきます。
「もーー、トマト王子は、何をやっているんだかっ。……でも、目のつけどころは悪くないわね。……すてきな東洋の女子」エリザボス女王が、宮殿の2階の窓から、庭のトマト王子を見つめながら言いました。
「うーーん、たいへんじゃ、たいへんじゃ」
日本に戻った3人が勉強をしている寺子屋「めたるだを」に、コバじいが小走りで入ってきました。
「スー、ユイ、モア。すまんがちょっと来てくれ。急用じゃ。あっ……みんなは自習しといてくれ」コバじいは3人を連れ出し、門の脇で話し始めます。
「世界中の神々が助けを求めてきておる。3人にぜひきて欲しいと」とコバじい。
「えーー、モンスターはそんなに現れてるんですか」とモア。
「そうじゃ。あちこちで暴れ回っておるようじゃ。それに、先日のエゲレスでの活躍が、世界中の神々に知れ渡ったのじゃ」
「わかりました。どこへでも行きます」「もちろん」「もちろん」と3人。
「そうそう、3人に強い味方が増えたぞ」とコバじいは、巾着袋から何やら道具を取り出しました。
「スーには、マントと耳栓。超絶ウルトラスーパーボイスの効力を高め、自分の身を守るための道具じゃ」と手渡します。
「ユイには、超絶ウルトラキック用の靴。これをはけば、キック力がこれまでの3倍になるぞ」
「モアには、超絶スーパーグリップ用の手袋。握る力と速さがこれまでの3倍になるのじゃ。みんな、つけてみい」とコバじい。
3人はさっそく身につけます。
「うーーん、なんだか強くなったみたい」とユイ。
「そして、これからの海外遠征には、神ばやしの4人も一緒に行ってサポートする。彼らが演奏すれば、ざこモンスターたちは全滅じゃ。強い味方になる」
「えっ、4人もどうやって移動するんです?」とスー。
「キツネ神さまが、4人乗りの泡玉を作ってくれたんじゃ。スピードも3人乗りと同じじゃ。一緒に行けるぞ」とコバじい。
「ひゃっほー」「やった」「心づよーーーい」3人は飛び上がって喜びます。
「ユイ、こっちに蹴ってよ」「オッケーー」ズゴーーーーーーーン!
エチプトのピラミッド近くに、モアとユイの声が響きます。
「モア、ちゃんと上に投げてよ」「心配すんなって」ビュオーーーーン!!
「アモーーレーー!はーしーれーーーーー!」!!!
スーが超絶メガホン越しに声を上げると、飛んでくる怪鳥モンスター・リオレの体に声の矢が命中。リオレはへなへなペラペラになって落ちてゆきます。
地上では、ざこモンスター・ジャギャーの群れが次々と現れて人々を襲おうとしますが、神ばやしの4人が、演奏して音波ビームでなぎ倒していきます。ボスモンスターを失ったざこモンスターは弱々しく、次々やられて全滅しました。
次の舞台は、スベインの大きな洞窟の中。えたいのしれない液体を噴き出す毒虫モンスター・ネブランが、都市部で毒液をまき散らした後、洞窟に入ってこもっているのです。
ブブブブブーーーベッチョーーーーーー、ピュッピュッピュッ!
「きゃあーーーっ、何これーーー、気持ちわるーーーーい」モアが叫びます。
天井に張り付いているヤモリのようなネブランが、洞窟に入ったユイとモアに向かって毒液を吐きました。2人はあわてて飛びよけました。その瞬間、黒い毒液が、2人の服にかかりました。「うえっ、くっさ」とモア。
「よし、私がジャンプキックであいつを蹴り落とすわ。モアちゃんは、落ちたあいつを、すぐに投げて外に出して」とユイ。「オッケー。でもユイちゃん気をつけてよ。そいつ何だか、よくわからない感じだから」とモア。
「よし、いくぞっ」ユイは腰をかがめて勢いをつけ、ジャンプして、天井に張り付いたネブランの腹のあたりに右足キックを当てました。
ブシューーー、ギャーーー!
ユイの右足がネブランの腹に食い込み、ネブランは悲鳴を上げて、傷口から黒い毒液をまき散らし始めました。
「やばいっ。ユイ、はやくそいつから離れて」モアが声を上げます。
「わっ、だめっ、足がこいつにひっかかって」ユイは足がネブリンの腹にめり込んだまま抜くことが出来ず、宙づりになったまま、傷口からの毒液を体中にかけられています。
「たっ、たすけてっ」もがき苦しむユイ。
「ユイちゃん、腕を伸ばしてっ、引っ張るから」モアがユイの下からジャンプして、宙づりになったユイの腕をつかもうとします。しかし、ネブランがブルブル動くので、ユイも振り舞わされて腕がつかめません。
「スーさん、たすけてーーー」モアが大声を上げます。
「なにっ、危ないのかっ」洞穴の出口で待ち伏せしていたスーは、走って洞穴の奥へ向かいます。
「おーーーい、どうしたーー、今行くぞーーー」
スーが全速力で走ってネブリンと2人に近づきます。
グワッ、ブシューーーーーーーーッ!
走っていたスーは、ネブランが吹きかけた毒液を、まともに顔や体に受けてしまいました。毒液が黒くて、よく見えなかったのです。
「ま、まずい。………力が入らない」スーの足が止まります。
宙づりになったままのユイは、体中に毒液をかけられ、意識がもうろうとなり、動けなくて白目をむいています。
「やばい。なんとかあいつをつかまなければ」モアがジャンプを繰り返しますが、ちょこちょこ動くネブランによけられて、うまくつかめません。
「ま、まずい。誰か……助けて……。このままじゃ、ユイが死んじゃう」モアが声を上げます。
ベンベンベンベンベンベベンー、ビンビンビンビビーーーン!
洞穴に三味線と琵琶の音が響き始めました。
「神ばやし、参上!」4人の声がそろいます。
「待たせたな。もう大丈夫だ」と琵琶をかきならす棒神。
「遅くなってごめんねーー」と三味線の弦を強くはじく小神。
4人の演奏が洞窟内を震わせ、天井に張り付いているネブランのプヨプヨした体もブルブル震えています。演奏の音に共鳴するように大きく頭も振り出しました。口からは白い泡を吹き始めました。
「よし今だ。モア、この背中に乗ってジャンプし、ユイの腕を引っ張って」と大神。
「おす」モアはすばやくジャンプし、左手でユイの右腕をつかんで引っ張りました。ズボッとユイの足はネブランの腹から外れました。
「よし、音響大増量!あいつを振るい落とすぞ」ドンドーーン。
青神のかけ声と太鼓の音で演奏は大音響になり、共鳴して震えていたネブランの体が天井から落ちました。
「モア、そいつをこっちに投げて」洞穴の出入り口近くにいるスーが叫びます。
「おすっ」モアは手袋の左手でネブランの尻尾をすばやくつかみ、3回振り回してスーの前へドンと投げました。
「みんな、耳をふさいで!」スーはそう呼びかけると、超絶メガホンを、起き上がろうとしているネブランの顔に向けました。
「イジメ!ダメ!ゼッタイーーーーーーー!」
スーの超絶ウルトラスーパーボイスをまともに受けたネブランの体は、しばらくブルブル震えた後、ブシューと黒い毒液をまき散らしてバラバラにはじけて残骸だけになりました。スー、モアと神ばやしの4人は、飛び散る毒液をうまくかわし、地面の残骸を見つめます。
「ふーー、てごわかったぁ~。モア、ユイはどう?助かりそう?」とスー。
「うん、心臓はちゃんと動いてるから。今からハンドパワーでユイの体から毒を抜くわ」とモア。「頑張って。モアにしかできないことだから」とスー。
モアは、手袋をつけた左手を、仰向けに倒れているユイの胸に当てて、目をつぶって一心不乱に念じます。
ビヨーーーンビヨヨーーーン、ドドドン、べんべんべんべーーーん♪♪
洞窟内に、幻想的な音楽が流れ始めました。
「集中力と能力が高まる曲だ。気にせず続けてくれ」棒神がつぶやきます。
「う、うーーーん」ユイの口が、かすかに動きました。
「ユイ、ユイ、目をあけて」モアがユイの肩をつかんで揺さぶります。
「う、う~ん」ユイがゆっくり目を開けました。
「私、どうしちゃったのかしら?あ、あの気持ち悪いモンスターは?」
「もう大丈夫よ」モアがユイの体を起こして抱きしめます。スーと神ばやしの4人がうれしそうに見守ります。
「よかった。毒が抜けたのね。モアありがとう」スーが言いました。
「私、足があいつから抜けなくなって、毒液まみれにされたんだ。……助けてくれたのね。ありがとう」ユイがお礼を述べます。
「遠慮なんかいらんぞ。みんな仲間じゃ」と大神。
「でも、神ばやしさんたち、どうやってここに来れたんですか。こんな洞穴に突然現れたけど」とモア。
「実はな、俺たちが乗る泡玉は、地中に潜れるんじゃ。そして、わき出るように地中から現れることも出来る。何だかおばけみたいじゃろ。俺は、空から降りてくる方が好きじゃけどな」青神が説明すると、みんな大笑いです。
「超絶ウルトラキーーーーック」ユイの右足が雷竜モンスター・オウガの腹をとらえ、オウガの体は空高く吹っ飛ばされます。「アカツキダーーーーーー!」スーの超絶ウルトラスーパーボイスで、オウガの体は木っ端みじんになり、北極の雪山に散らばりました。
「超絶スーパーグリッーープーーー!」モアの左手が、火炎獣モンスター・アグナの尻尾の先をつかんでぐるぐる振り回し、空高く放り投げます。「エビバディジャーーーンプーーー!」スーの声の矢がささったアグナの体はズタズタに裂けて、ギラウエア火山の山すそに落ちました。
「スーさん、さすがねーーー、その声は無敵だわ」とユイ。
「ふだんはのどを痛めないように声をおさえてるから。ここぞの場面では大声が出るのかしら」とスー。
「ねえねえ、スーさん。あの超絶ウルトラスーパーボイスのとき、何をしゃべってるの?どこの言葉かよくわかんないんだけど」とモア。
「んーーーー、実は自分でもよくわかんないの。無心になったとき、自然と腹から出てくる言葉みたい」と首をひねるスー。
「へーーー、何だか未来の人の言葉みたいだよね」とユイ。
3人娘がしゃべっているはるか上空には、マツタケ型のカプセルがゆっくり旋回して飛んでいます。中からサイファー星人が3人を見ています。
「またしてもあいつらにやられたか。いまいましい」とカッパ。
「このままでは、移住計画が実現できんな。あいつらを倒さなければ」と鬼。
「よし、あの作戦を実行しよう。日本へいくぞ」とテングが指示しました。
カプセルは、太平洋の上を日本に向かって飛び始めました。
「はあ~~久しぶりの日本はいいわね~~」とモア。
「ほっとするわ~~」とユイ。
「おーーい、メタ太郎~。油揚げ持ってきたよ~。出ておいで~」
まけきらい稲荷神社の境内から、スーが森に向かって呼びかけます。
「おーーいメタ太郎。どうしてるのー。出っておいで~」モアとユイも呼びかけます。ガサガサッと枝が揺れる音がして、メタ太郎が森から顔を出しました。
「メタちゃん、お久しぶり~~。こっちにおいで~~。はい、よしよし」
スーがいつものようにメタ太郎を抱きかかえます。
「よしよし、元気だったか」コンコン、ク~~ン。
七つ尾ギツネのメタ太郎は、首を何度か横に振り、さびそうな目でスーの顔を見つめます。
「どうしたの、メタ太郎。元気ないぞ……。ほら、油揚げよ。食べて元気を出して」スーが油揚げを差し出しました。メタ太郎は、しばらくスー、ユイ、モアの顔を見つめた後、油揚げをくわえて、また森の中へ走っていきました。
「あっ、メタ。もう行っちゃうの」とユイ。
「なんだか今日のメタ太郎、へんだったね。いつもと違う」とモア。
「そんなこともあるでしょ。体調が悪いのかもしれないし。気にしない、気にしない」。スーがまた境内の舞台に戻ると、ユイ、モアも戻り、一緒に稽古を再開しました。
数日後、境内で3人がしゃべっています。
「ねえ、スーさん、聞いた?」とユイ。
「なに、なに、聞いてないよ。何~~教えて~」とスー。
「昨晩、となりのケヤキ村に、でっかいモンスターが出て、集落を荒らし回ったらしいのよ。若い子も老人も大勢がが踏まれて殺されたって」とユイ。
「どんなモンスターなの?」とスーとモア。
「……それがね、めっちゃ大きいキツネだったらしいのよ。村人が言うには。それに、尻尾が何本もあるキツネだったって」とユイ。
「えーー!それってまさか……」スーとモアの声がそろいます。
「メタ太郎じゃないの。その姿は」とスー。「でも、メタ太郎はそんなに大きくないわよ。集落を踏みつぶすなんて、できないよ、メタには……」とモア。
「そういえばメタ太郎、この前ちょっとおかしかった。病気みたいで」とユイ。
「よし、今度もしキツネのモンスターが出てきたら、必ずみんなで行きましょう」
「おす」「おす」
「大変だーー。隣のけやき村にまた怪物が出たぞーーー。キツネのバケモノらしいぞーーー」
次の日、寺子屋「めたるだを」に男の子が駆け込んできました。
「えっ、けやき村のどこ?」とスー。
「何でも、けやき山のふもとの集落だって」と男の子。
「さあ!ユイ、モア、行くよ!」スーが席についているユイとモアに声をかけ、足早に寺子屋を出ました。
ユイが秘密の箱から泡玉を取り出します。「さあ、いくよ」3人は泡玉に飛び乗り、現場へ向かいます。
キュイーーーーン、コーーーーーン!
甲高い鳴き声を上げて、巨大ギツネが集落を跳びはねています。家々が崩れる音と、悲鳴が響いてきます。
「うそっ、あれ、メタ太郎。すっごくおっきい。山みたいだよ」とユイ。
「でも、あの顔、姿はメタ太郎よ。やめて、やめてーーー!」
「やめてっ、メタ太郎――!」3人が大声を上げます。
山のように巨大なメタ太郎は、跳びはねるのをやめて集落の前でじっと伏せ、七つの尾を天空へ広げます。コーーーーーーーーーン。
メタ太郎が空に向かって吠えると、空が急に曇り、真っ黒い雲が上空に出てきました。
ゴロゴロゴロゴロゴローーー、ピシャーーーーーーーン!
雷が、集落の真ん中の家に落ちました。わらぶき屋根の大きな家は、炎を上げ、中から村人が飛び出します。
「えっ、何だか雷を狙って落としたみたい」とモア。
「うん、そうかもしれない。天気を操る力を持っているのかも」とスー。
「放っておけないわ。私が蹴りを入れてやる。モアちゃん、私をあの顔めがけて放り投げて」とユイ。
「オッケー」とモアはユイの腕をつかみ、泡玉の開いたドアから、ユイの体を勢いよく投げ飛ばしました。
「メタ太郎、目をさませーーーー」
バシューーーーン、ズドン!
ユイの体が猛スピードでメタ太郎に向かい、右足の超絶ウルトラキックが目の下に決まりました。
「いいぞ!」「決まった!」スーとモアが声を上げます。
キックを食らったメタ太郎は、2、3回首を振り、また元の平気な顔に戻りました。
「くそっ、きかないか。大きすぎるわ、あの体」とユイ。
メタ太郎は、地面に降りたユイを見て、また七つの尾を上に広げます。
「コーーーーン」と空へ鳴き声を上げると、空からユイに向かって弾丸のような物が連射で降ってきました。
ダダダダダ、ダダダダダーー!
「あぶないっ」モアが声を上げ、ユイはとっさに体をねじります。弾丸の直撃は免れましたが、弾は、頬と右足をかすめました。血がにじんでいます。
「何、この弾みたいなの」ユイは、落ちてきた物を手に取り、見ました。
「これ、雹だわ。雹で狙ってきたのね。もうっ」
メタ太郎は、すぐ上を飛ぶ泡玉に視線を移します。
メタ太郎の瞳が茶色からオレンジ色に変わり、口を大きく開けました。
ゴーーーーーーーゴーーーーーーーゴーーーーッ
メタ太郎の口から超高温の炎が噴射され、スーとモアが乗った泡玉を狙います。ボワーーーーン!
「うわっ、あちちちちっ」泡玉を運転していたモアが急いでよけたため、直撃は免れましたが、炎の熱は内部に及び、泡玉はゆらゆらと蛇行します。
揺れる泡玉の中で、スーはじっとメタ太郎の顔を見つめています。
「モア、メタ太郎は目がうつろよ。誰かに命じられるままに動いている」とスー。
「ほんとだ。夢遊病者みたい」とモア。
「よし、モア、メタ太郎の耳に近づいて。目をさまさしてやる」
「おす。危ないけどやってみるわ」
モアは泡玉のハンドルを傾け、ゆっくりメタ太郎の顔に近づきます。
スーは超絶メガホンを持って、ドアを開けました。メタ太郎が泡玉の方を向き、口をゆっくり開けています。
「スーさん、はやくっ」とモア。スーはメガホンをかまえて、大きく息を吸います。
「メターーーー、目をさませーーー、命令してる奴らを教えなさーーい!」
スーの超絶ウルトラスーパーボイスが、メタ太郎の三角の耳に突き刺さります。メタ太郎は一瞬目をつぶり、またゆっくり目を開けます。スーたちを見る目の色がオレンジから茶色に変わりました。そして、ゆっくりと大きな口を開けます。
「ス、スーさん、やばいかもっ」モアがあわてます。
メタ太郎は口を閉じ、斜め後ろの雲の方を向いて、「コーーーーン」と大声で鳴きました。スーとモアが、その方向を見ると、雲の間に、マツタケ型のカプセルが浮かんでいるのが見えました。
「あれよ、あそこに指示してる奴らがいるのよ」「うん」「よし、ユイを拾ってあそこまでいくよ。頼むよモア」「おす。まかせとけーーー」
モアが急ハンドルをきって急降下し、地面にいたユイを乗せるとまた急上昇。泡玉はカプセルに向かいます。カプセルは黒かった外観が電磁波を帯びたように銀色に輝きだし、白いレーザービームを発射してきました。
「あぶないっ」ユイの叫び声が泡玉内に響きます。「心配すんなって」とっさの急ハンドルでレーザービームをよけました。
「どんな相手でも、まずは話し合いよ。やることやらなきゃ」スーは、超絶メガホンを構え、ドアを開けます。絶え間なく発射されるレーザービームをよける泡玉から、メガホンで狙いを定め、大きく息を吸いました。
「あなたたちは、何者なのーー!どこから来たのーー!なぜこの星を壊し、生き物を殺すのーー。こたえなさーーーい!ヒア・ユア・ボーーイーースーー!」
スーの超絶ウルトラスーパーボイスはカプセルを直撃し、カプセルはレーザービームの発射をやめ、ユラユラ揺れ始めました。
「なんじゃーー、あの大声は!耳がじんじんする」とカッパ。「これはきついな。振動でカプセルの機器がだいぶやられたようだ」と鬼。「うーーーん、やむをえん。奴らと話して、こちらの事情を説明するか」とテング。
「おーーーい、どうするのーーー。もたもたしてたら、また大声だしちゃうよーーーー!」と超絶メガホンでスー。
「や、やばいですよ。もう一回やられたら、このカプセルはもたない」とカッパ。
「話し合いに応じましょう」と鬼。「よし、あいつらを招き入れるぞ」とテング。
カプセルは、上空で停止したまま、棒形のスピーカーを突き出しました。
「ワレワレトハナシタイノナラ、コチラニキナサイ。シツモンニハ、カプセルノナカデオコタエシヨウ。サア、コチラニキナサイ」
「なに、えらそうに。カプセルに来いだって」とユイ。
「大丈夫かしら、あんな所に入るの」とモア。
「この際、ためらっていられないわ。いくわよ、ユイ、モア」「おす」「おす」
スー、ユイ、モアが乗った泡玉が、ゆっくりとカプセルに近づきます。すると、カプセルの扉が開き、中から赤いじゅうたんのような通路が出てきました。じゅうたんは、近づいていた泡玉へ伸びてきます。
「よし、いくよ」「おす」「おす」
3人は、泡玉から出て通路のじゅうたんにのります。すると、通路は自動的にスルスルと動き、3人はカプセルの中へ入っていきました。
カプセルでは、テングを真ん中にカッパ、鬼の3人が立って待っていました。
「ヨウコソ。キミタチノハタラキニハオドロイタヨ。コノホシニ、コンナニツヨイイキモノガイルトハオモワナカッタ。ハナシアオウ……ピピピ」
「望むところです。では、答えてください。あなたたちは、どこから、何の目的で来たのですか」スーが強い口調で尋ねました。
「コタエヨウ。ワレワレハ、コノホシカラ3オクコウネンハナレタサイファー星カラヤッテキタ。ワレワレガ、コノ星にスムコトガデキルヨウニスルタメニ」とテング。
「3オクコウネンというのは、遠いのですか?なぜ、あなたたちがこの地球で住まなければならないんですか?」とスー。
「ウム、ヒカリノハヤサデトンデモ、ナンネンモカカルトオイトコロダ。ワレワレサイファー星人ハ、ソコニスムコトガデキナクナッテイタ。ダカラ、ウツリスメル星ヲサガシテ、コノチキュウニキタ」とテング。
「住むことができなくなったって、どういうことですか?」とモアが聞きます。
「ワレワレノ星ハ、ココヨリブンメイガススンデイル。イキモノヲヨミガエラセテ、ツヨクスルウィルスヲツクルコトモデキル。ワレワレハ、ブンメイヲモットススメルタメ、ワレワレトオナジウゴキガデキルロボットヲカイハツシタノダ」とテング。
「へー、ロボットだって、なんだかすごーい。それでそれで」とユイ。「ユイ、ちゃかすところじゃないでしょ。静かに」とモア。
「ソノロボットガ、チノウヲシンカサセ、ワレワレニハンコウスルヨウニナッタ。ソシテ、ロボットタチハ、ワレワレサイファー星人ヲセイフクシ、コロスカドレイニスルヨウニナッタノダ。イキノビルタメニ、スメル星ヲサガシタ。ソシテ、カンキョウガヨクニテイルコノチキュウヲミツケタノダ」
「どうしてロボットと仲良く暮らすことはできなかったの?どうして、地球に来て、モンスターを使って地球の人間たちを支配しようとしたの?」とスー。
「ソレハ、タタカッテカタナイト、イキラレナイカラダ。ロボットモタタカイヲシカケテキタ」とテング。
「私たち地球の人間と神は、こちらから戦いをしかけてないわ。一緒に仲良く生きていくことを考えるのが先でしょう。生まれたその星で、ロボットと一緒に生きる方法は考えたの?」
「ソンナコトハ、ムイミダ。ロボットハタタカウコトシカカンガエナクナッタ」
「やってみないとわからないでしょう。もう一度、生まれ育った星で住むことを考えて、挑戦してみなさいよ。私たちも力を貸すから」
「エッ、キミタチノソノチカラヲカシテクレルノカ……」
テングはカッパ、鬼とひそひそ相談を始めました。相談は終わり、テングはスーの前に立ちました。
「モウイチド、サイファー星デスムコトニイドムコトニシタ。アナタタチノチカラヲカリタラ、デキルカモシレナイ。チカラヲカシテクダサイ」
テング、カッパ、鬼の3人が頭を下げてスーたちに頼みました。
「おっす、喜んで」「もちろんよ」ユイとモアが笑顔で了解します。
「うーーん、ちょっと待って。いちおう『まけきらいギツネ』の神さまの了解を得ないと」
スーは手を合わせて目をつぶり「コバじい、コバじい、出てきてください。お願いしたいことがあります」と念じました。
「おおっと、えらい所で呼び出されたな」と、コバじいがカプセルのドアの隙間から姿を現しました。
「話は聞いておった。スー、ユイ、モア行ってこい。サイファー星人のためにひと肌脱いでこい」
「おす」「おす」おす」
「もちろん、最終目標は、宇宙は一つ、ジ・ワンじゃ。みんなが仲良くなることを目指すんじゃぞ」
「おす」「おす」「おす」
「そうそう、神ばやしの4人と、ウイルスを抜いて元の大きなに戻ったメタ太郎も連れて行け。いざというとき、役に立つはずじゃ」とコバじい。
「アリガトウゴザイマス」テングたちはお礼を述べ、サイファー星へ行く準備を始めました。
「さっそく出発じゃな。みんな体に気をつけて。宇宙の平和のために頑張ってくるんじゃぞ」とコバじい。
「おす」「おす」「おす」
ビシューーーーーーーーーン
「いってらっしゃーーーい」
コバじいやひめかたちに見送られて、スー、ユイ、モアと神ばやし、メタ太郎を乗せたマツタケ型のカプセルは、サイファー星に向けて飛び立ちました。
地球の平穏は戻りましたが、メタルぎつね3人娘たちの戦いはまだまだ続くようです。 終わり
めたるギツネ3人娘 うかまこ @Bebimeta55
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