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夏秋冬

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街を歩いているといきなり球体の中に閉じ込められた。あ、これは、あれだ、例のやつだ。

他にも捕えられた人々がいるらしく球体がごつごつとぶつかる音がする。そして「助けて」とか「ここから出して」などという叫びや悲鳴が聞こえる。でもあれに捕まって逃げて来たという人の話は聞かない。きっともうあきらめるしかないのだ。


どれくらいの時間が経ったのだろう。いや、少しの時間も経ってないのかも知れない。そもそもここには時間と言う概念がないのかも。異世界というか異次元というか、何らかのバーチャル世界にトリップしてしまったような感覚だ。


するといきなり球体から解放された。狭苦しい球体に囚われていた解放感から微かな望みを抱いたが、それは瞬時に打ち砕かれた。ここはジムだ。目の前には見知らぬ人が立っている。が、彼も捕えられた一人なのだろう。僕は彼と闘わなくてはならない。彼と闘う理由なんてない。彼に恨みも憎しみも抱いてはいない。けれどローマの闘技場で死闘を強要される闘士のように、逆らう術はない。僕は彼と闘う為に球体から外に出された、それだけなのだ。


彼もそれを悟ったようだ。僕を倒さなければ自分の未来がないということを理解したようだ。奴隷がその運命に逆らうことができないように自分の宿命を感じとったのだろう。彼から戦闘の意志が湧きあがってきたのが見える。


僕は彼と闘った。腕をつかみ、拳で顔を殴りつけ、腹に蹴りを食らわせる。勿論僕も同じように掴まれ殴られ蹴られる。どちらも死力を尽くして闘う。それが今の僕たちに課せられた仕事だからだ。今僕たちがやるべきことは闘うことでしかない。


ついに相手は体力が尽きて起き上がれなくなった。僕の勝ちだ。無意味な闘いではあるが勝利の味はする。そして闘いを一つ終えたことで、僕には学ぶべきことが沢山あった。相手がパンチを繰り出す前に盛り上がる肩の筋肉、掴みかかろうとする時に反動をつける体のひねり、それらが目に焼き付いている。次の闘いではそのような挙動から敵が次にどんな行動を起こすのかが分かるだろう。僕は経験をひとつ手に入れた。闘う前の僕よりもきっと強くなっているだろう。


ふと気付くと僕はまた球体に閉じ込められていた。次の闘いでもきっと勝ってみせる。囚われの身である僕には闘う意外のことはできないのだから。


おしまい

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