異界と異能者

 ここは東京、と呼ばれていた場所にあたる。

現在、東日本第16区画と呼ばれている。その中にある第22地区。

そこに異界審査諮問委員会本部が設置されている。

本部といっても本当に設置されているだけで、ビルを所有しているわけではなく、

ただフロアを借りているだけである。

「昨日起こった15地区での肉塊事件についてだが…」

会議室と書かれた板が貼られてある小さな部屋で年輪を何度も重ねた様な顔をした老人が数人相手に早々とため息をつきながら話をすすめる。

「事件が起きた場所近くのビルの屋上で、人間とは別の死体が転がっていた。」

またか、周囲にはそんな雰囲気が漂う中、一人タバコに火をつけ明後日の方向を向いている人がいる。

その姿に周囲は慣れているのか、各自好き勝手な行動をとっていた。

「お前だ小上!誰が殺していいといった!'アレ'は'あっち'へ送還するだけだろ!」

年輪がまた更に年輪を重ねたような厚みを増して怒鳴っていた。

「人間殺しておいてそれはないでしょ~所長。それじゃフェアじゃない。殺られたら殺りかえせばいい、どうせ異界へ行ってもまたすぐ戻ってきますぜ。」

タバコの煙を検知して警報装置が作動、まるで一点を狙うかのように壊れかけの警報装置は、年輪を重ねた樹木へと水を与え始めた。

ぐっと上がっていた熱は警報装置の放水によって無事沈下し、またため息をつきながら話をすすめる。

「確かにそうかもしれん、だがなこれは'あっち'との契約なんだよ。'こっち’とは技術も進んでるし、異能と呼ばれる固有の能力を持っている。俺たちゃぁそんな奴らと戦争しても勝てやしない。だからあちらさんの契約を鵜呑みにするしかないんだよ、わかるよな?」

またこの話か、もう何度聞いたことだろう。誰も微動だにせず各自の追い求める世界に没入している。小上もため息をついてはタバコをふかせ、あさっての方向を向くばかりであった。樹木もいつもの事だとわかっていながらも、所長であるがゆえに言わずにはいられない。だがそれでも彼に任せるには理由がある。

それは異界者とまともに争えるのが彼一人だからということだけではなく、所長自身もこの契約に納得のいかない部分があるからでもある。

 異界とは、5年前突如ゲートと呼ばれるポータルの様なものが現れ、そこから異能者と呼ばれるいわゆる特殊能力を持った生命体が現れた。

ヤツらは国同士の争いを行わない代わりに、世界の3分の1植民地とし、異能者の行いについては、問題と思われる事象が発生した後、全て異界へ一旦送還され、異界で処罰を受ける約束となっており、原則的に人間が異能者を処罰することはできず、又、保護や逮捕も出来ない。問題の報告、送還作業、その他異能者に関する行動、管理を人間界でまかなっているのがこの場所である。

「別におとなしくしてればそのまま送還して終わってましたよ。でもね、攻撃してきたんだからしょうがないでしょ、正当防衛、正当防衛。」

またか、また正当防衛かこいつはいつも正当防衛という。だが私は知っている、いつも煽りちらして相手が攻撃するのを待っている。それを正当防衛としてくるのだ。

呆れ果て、もはや何もいうことはないとそっと席を立ち上がりあえなく会議は終了。

各自もそれに合わせてなのか気がつけば既に片付けられており、そそくさと会議室を出て行く。

「さて、今日はどこへ呑みに行こうかね。」

そう行って小上も立ち上がり、夕日のさす大通りへと歩きはじめる。

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