JudgemenT

CoMu

エピローグ

 幾つものビルが佇む中、その隙間を住処としている'物'がいる。

隙間に一人、月を綺麗に照らし囲むようにして注目を浴びているている'人だったもの'がある。

そこには恐らく元は'人'を表していたであろう肉塊が転がっている。

「また誰かがやられたらしいよ、最近多いよな。」

肉塊を取り囲む様に状況を捜査する声、嗚咽する音、気を失っている人がいる。

 だが、ソレだけは周りとは違っていた。

まるで老婆の様に引き笑いを浮かべなから少し離れたところで観察していた。

自身の起こしたイベントであんなにも皆が騒いでいる。

「実験は成功、感動だ。嗚呼、皆喜んでいる、なんて気持ちが良いんだ。」

小柄で特別体格がいいわけでもなく、人混みに紛れてしまえばすぐに見失う、

そういった印象を受けるソレは、

次のイベントについて心踊らせながら考えていた

もっと注目を浴びるためには、もっと喜んでもらえるにはどうすればいいか

「そうか!今度はテレビの報道中に報道者全員をぐちゃぐちゃにしちゃえばいいんだ!」

次回は壮大なイベントになる、そう確信して。


 柔らかな日差しがさしていた。

心地の良い気温、天気、湿度、肌触りの良い風

社会が始まる少し前、人々はモニターに目を向ける。

それを狙ったかの様に朝の顔がモニターへと流れこむ。

流れる映像に、目を向けながら皆朝食を食べる。

 報道陣は昨夜起こっていた肉塊の前で声高らかと歌っている。

それはまるでコーラスの様に同じ言葉が遅れてやってきて、どこかの合唱団かと思うほど大きく群れをなしていた。

周りの群衆は昨晩にも増して大きくなり、まさに今なにか大きなイベントが起こるのを待ちわびているかの様だった。

 この時を待ちわびていた。

腕に特殊な装置をはめ、腰にはおもちゃの様な銃を装備、子供の様な笑みを浮かべて報道陣を下に見てたたずんでいた。

「最高の会場じゃないか!あぁ、みんな僕の為にありがとう!今日はとっておきのショーを披露するよ!」

そう言って、報道陣に銃を向ける。

なんて言いながら決めようか、終わりだ?

「終わるのか。」

そうだな、じゃあビンゴ!

「それじゃ1発で決まらねぇだろ」

たしかにな、それじゃあダサい。では・・・って、ん?

おかしい、今ここには自分しかいないはず。なのに後ろから返答が返ってくる。

「誰だ!」

思わず振り返った先には、黒いスーツをまとい、髪をオールバックにしている男がタバコをふかして立っているではないか。

よう、と軽く手を上げるとまたすまし顔で明後日の方向を見ている。

状況を飲み込むより早く、本能的とも言える速度でソレは銃口を黒スーツの男へと向けた。

「ぼ、僕の邪魔をするんじゃない!これから楽しいショーの始まりなんだ、か観客は下で見てろ!」

ソレはかなり高圧的に言い放ったつもりだったが、戸惑いを隠せないまま目が踊っていた。

それを察してか、黒スーツの男はチラリとソレを見たが、またすぐ明後日の方向を見ていた。

舐められているのは嬉しい事じゃない、体の内側から体温が徐々にあがり、頭まで熱が伝わってくるのがわかった。

なんだこいつは、ただ見た目がいかついだけで特に何もしてきやしないじゃないか。

こいつもただの観客か、そうだそうに違いない。そう思うとスーッと熱が冷めて、平静を取り戻すことができた。

「仕方ない、今回は特別だぞ、だが邪魔はするなよこっちは大勢の観客に見てもらわなきゃならないからな。」

決まった。今の僕はとても大きな存在に見えているに違いない。いや、元から偉大だったか。

口が緩み、体の緊張も大分ほぐれ、ソレは自分がもとより行おうとしていたショーに目を向け始めた。ついでに決め台詞も決めたらしい。

「おい、誰が観客だバケモノ」

体が沸騰するほどの熱を持ちながら、今度は先程よりも早い速度で銃口を黒スーツの男へと向けた。

「誰がバケモノだ!僕は白石カイだ!ふざけたこと言ってたらぶちぬくぞ!」

そう言うと、黒スーツの男は鼻で笑ってこちらを見ていた。

許さない。限界だ。こいつを先に仕留めよう。

そう思って引き金に力入れ、中に入っていた液体を黒スーツの男へとぶちまけた、かに思えた。

ソレは何が起こったか理解できない様だった。中に入っていた液体は無色透明だ、

なのに今出ているのはなんだ?赤色?

そっと視線を斜め右に向けると手首から先が無い。あ、そうか、僕から出たのか。

「いったぁぃい!なんだ!なんで手がないんだよ!俺の手どこいったあ!」

向けていたはずの銃は空中に舞う中、おかしな事に少し離れたところにいた黒スーツの男は、真横に立っていた。

あまりの速度に状況が飲み込めず、思わず尻もちをついた。

「おまえ、異次元から来たくせに、異能も使えねぇのか。ったくちゃちなやつだ。」

なぜこいつは僕の事を知っている、僕の変身は完璧なはず、もしかして。

ふと装置をハメてあった腕を見るとそっちからも赤い液体が流れ出ている。

最高の日が、こんなやつのせいで最悪の日じゃないか、何てことだ。許せない。

許しはしない。全力でこいつを殺さねば、そうだコロス、コロス。

その瞬間、体中が大きく鼓動を初め、まるで数十年分の成長期を超短期間で行っているかのように急激に体が変化していった。

体には棘の様な物が生え、革は分厚く、切れた腕は生え戻り、頭には鋭く尖った大きな角が生えていた。

2m、3m・・・5mの大きさまで成長を遂げたところで、体の鼓動が静けさを取り戻していった。

「ほう、なんだ異能あんじゃんか。」

黒スーツの男はまだ平静を保っている、こちらの世界に来てからこの姿を見て生きたやつはいないというのに。

黒スーツの男は吸っていたタバコを指でこちらに飛ばしてきた。

むっとなったが、こちらも負けじと平静を保った。

数秒のいがみ合いが続く中ソレは先に

「オワリダ、オマエハオレニハカテナイ」

そう言ってその巨体から放たれるとは思えない速度で腕を男に振った。

しかし、黒スーツの男はひょいと軽々しく避け、喋り始めた。

「自己紹介がまだだったな。俺は小上悠。異界審査諮問委員会から来た。

異界のやつらが悪さしてねぇか回ってんだ。」

異界審査諮問委員会?何を言ってるんだこいつは。

だが所詮は人間、当てれば即死。次で決める。

「あ、そうそうお前に言うことがあったんだ、」

黒スーツの男は続けた何かを言おうとしたが、すかさず次の一手を繰り出した。

肉にあたった感触、骨の折れる鈍い音、終わった。偉そうにしていたがあっけなく終わったな。

「ジャッジメント、死罪だ。」

今何か言ったように聞こえた。なぁに死ぬ間際に言おうとした戯言にすぎん。

すっきりしたらどこか暖かな懐かしい感覚が、体中を巡っていた。

勝利した時の感覚だろうか、それともイベント成功時の感覚だろうか、

おかしい、頭がまわらない、そういえばなぜ体が俺の目の前にある?

目も霞んできた、おかしい・・・オカシィ・・・

 小上はポケットにあったタバコを取り出し火をつけ、また明後日の方向を向いた。

「さてと、仕事終わったし、呑みにでも行くかね」

小上はビルの屋上からひょいと飛び降りると、何事も無くタバコをふかしながら

早々と飲み屋を探しに大通りへと歩いて行った。






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