第8話「捜査の依頼」

 前回までのあらすじ


 木庭の逃亡を助け、ヴァリアント・ハンターの本部に連行された鎖渾。


 鎖渾は今まで知らなかった異形狩りの本当の姿を知った挙句、一ヶ月の停職処分を受ける。


 木庭の安否を案ずる癒花。


 不安と悔しい気持ちが癒花の気持ちを掻き立て、やがてガラステーブルを癒花は破壊してしまう。


 ぶつけようのない気持ちを自傷という行為で鎮めることしかできない自分。


 突きつけられた現実。


 癒花に残されたのは、これからの生活や木庭に対する不安と、自傷した手の痛みだけだった…。



 ―PM8:32頃―


 ―非政府組織・附属教習所―



「――――いいか、カグマを倒すには“コア”を狙え!」


「奴らは内部に頑丈な蔓で覆われた核(コア)を持っている。」


「それが奴の心臓だ!」



 軍人のようないかつい顔をした男が胸に手を当て、教習所に居る見習いハンター達に講義をしていた。


 その顔には紫色のラインが縦に2本描かれていた。


 彼の名はビーヴィス・キャロル。


 誰もが恐れる異形狩りの鬼教官である。


 大きな観音扉には異形の怪物カグマと思しき解体図が描かれていた。



「‥コアは“結晶体”と呼ばれる特殊な構造をしている。」


「言い替えれば、我々人間が持つ“魂”そのもの!」


「それらを破壊しなければ、カグマは倒せない!」


 ビーヴィスは所内で、熱血的な指導を徹底的に行っていた。



「うわぁ、また鬼教官の熱血指導始まったよ…。」


「何時間続くんだろ、これ…。」


 ビーヴィスの話を聞き飽きた連中は呟く。


「んっ!!!!」


連中の視界にに鬼教官ビーヴィスの顔が映った。


「ひぃっ!」


ビーヴィスは目を極限まで見開き、恐れおののく訓練生を威嚇する。


「そこで何をぶつぶつ言っているっ?!」


「ここは俺のステージだぞっ?!わかったかっっ!!!!」


ごつごつした太く力強い指で連中を指差しながら、物凄い形相でビーヴィスは連中に怒鳴り散らした。


「は、はぃいいっ‥。」


恐れおののいた連中は凝縮した。


「いいかっ!」


と、顔を上げたビーヴィスは周りに居る訓練生達に向けて告げる。


「非政府組織でありながら、政府が正式に認めた防衛組織。」


「それが、我々ヴァリアント・ハンターだっ!!」


「討伐対象は“秩序を乱すカグマ”のみ!」



「ヴァリアント・ハンターは、市民の安全を第一に行動する治安部隊でもある!」



「‥近頃、一部の組織による愚行が浮き彫りになっている。」


「それを抑制するのも、我々ヴァリアント・ハンターの任務だ!」


「一口たりとも、奴らに大口を叩かせてはならんっ!」



 ―同じ頃・癒花の家―


 静寂な夜。


 右手に包帯を巻いた癒花は、スマートフォンで誰かと電話をしていた。


 もう暗くなったのに、家の灯りも点けず、ソファーに座り込んでいた。


「‥私、これからどうしたらいいんでしょうか?」


 癒花は電話の相手に尋ねた。


『癒花さん、大体の状況は分かりました。』


『僕もできる限り、全力でサポート致しますので、ご安心を。』


 通話の相手は若い男性のようだった。


『木庭君のことも、見つけたら声掛けしてみます。』


「はい、どうかよろしくお願いします。」


 ピッ‥


 癒花は通話を終えた。


「木庭…。」


「今頃、何やってるんだろう。」


 癒花はスマートフォンを握りしめた。



 ―捜査本部―


 灯りの消えたオフィスで、スマートフォンを握る1人の若い男性が居た。


 ガラス窓から月が顔を覗かせている。


 光が反射し、男性のメガネをチラつかせる。


 ふと、男性は意味あり気に呟く。


「…カグマを狩るカグマか。」


 その男性は、さきほど癒花のスマートフォンから聴こえてきた青年の声にそっくりだった。


 どうやらこの男性は、癒花の相談を受け付けた青年で間違いなさそうだ。


 が、その時よりもなぜか声のトーンは低めだった。



「‥面白いことになって来たな、この世界も…。」


 青年は月を眺めながら呟いた。



 ―その頃、遠く離れた夜の街―



 大型ビルとビルの間に座り込む木庭少年の姿があった。


 その近くには、彼を逃がすために使われたバイクが横たわっていた。


 他にあるのは、壊れかけたゴミ置き場だけ。



 木庭は被弾した左足のズボンを捲る。


 血が滲んだジーパンの裏で、被弾した左足が内部に埋まった銃弾を自然治癒力で押し出す。


 コロロン…


 しばらくして、銃弾は静かに音を立て、大地に落ちた。


 その後、上着を捲り、被弾した右脇腹に意識を集中させた。


 ムクク‥


 肉体が修復されると同時に、銃弾が外に押し出されていく。


 そして…。


 カラン‥


 修復された右脇腹から一発の銃弾が外に押し出された。


 傷跡も次第に消えてなくなった。


 恐るべき修復能力である。



(‥ヴァリアントが使う武器は、普通よりも殺傷能力が高めに設定されている。)


(下手に当たれば命はない…。)


 木庭は、追われる身となった現実にどう接したらいいのか、思い悩んでいるように見えた。



 ザッ‥


「!?」


 突如、木庭の周囲に人の形をした複数のカグマが集まってきた。


 彼等は人間社会の闇に隠れて生きる、人の心を持たないカグマだった。



「きっ‥。」


 木庭は両手を揃えるように構え、まるで刃を引き抜くように灼狩ノ剣を召喚した。



「ウォオアアアア…。」


 カグマ達は不気味な声を上げ、木庭に襲い掛かった。


「はぁあっ!!」


 フヒュウン!


 木庭は灼狩ノ剣で風を斬った。


 ザンッ!


 そして、襲い掛かってきたカグマを斬った。


 普通の武器では斬る事が出来ない分厚い蔓の膜が、灼狩ノ剣によって引き裂かれる。



 すると、花の形をしたダイヤモンドのような結晶体が、月の光に照らされ輝いた。


 ザクッ!


 木庭はすかさず、灼狩ノ剣を突き立て、そのコアを破壊した。


 ヒュルッ‥


 破壊したコアから剣を引き抜くと同時に、中に残っていた生命エネルギーを瞬時に吸収する。


 キィン!


 そして、近くに居たカグマ目掛けてランダムに、攻撃を繰り出した。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


 ザン‥ッ



 その後。


 木庭少年はひたすら、カグマを狩り続けた。



 ―翌朝AM11:27―



 暖かな太陽が照りつける住宅街。


 大きな木を中心に設置された街角のベンチに、木庭少年は座り込んでいた。


 昨日まであった閑散とした空気が嘘のように、穏やかな空気に包まれていた。


 コツ、コツ‥


 ふと、首を項垂うなだれていた木庭少年の視界に、黒い男性用の靴が見えた。


 その靴は、正面から木庭少年に向き合う様に立ち止まった。


「‥キミが、木庭零斗君かな?」


 木庭少年は黒い靴の持ち主から声を掛けられた。


 木庭はゆっくりと顔を上げる。


 そこに立っていたのは、30代くらいのメガネを掛けた青年だった。


 よく見ると、前日の夜に月を眺めていた青年と似ていた。



「はい。」


 木庭は返事をする。


「初めまして、捜査官の高橋です。」


 高橋と名乗った青年は軽く会釈した。


「早速だけど、君に話したい事があるんだ―――――。」


「来てくれるかい?」


「……わかりました。」


 しばらくして、木庭少年は高橋青年の後をついて行くことにした。



 ――――彼が、自分に接触してきた真意を探るために。



 ―捜査本部・会議室―



 ブラインダー越しに太陽の光が差し込む薄暗い空間で、木庭と青年は話をしていた。



「‥噂は聴いてるよ。」


「また“同胞狩り”を始めたんだってね?」


 メガネを掛けた青年・高橋は木庭に尋ねた。



「人聞きの悪いことを言わないでください。」


「こっちは好きで狩ってるわけじゃないんです。」


 木庭は高橋に反論した。


「‥それに、彼らは人にもカグマにも害を与える存在です。」


「狩らない理由がどこにあるというんですか?」


 木庭は高橋を問い詰めた。


「別に、同胞狩りを辞めろと言ってるんじゃない。」


「秩序が保たれるならむしろ、続けて構わない。」


「‥と、僕は思ってる。」


「あくまで個人的な意見さ。」


 高橋は上目遣いで木庭を見つめる。


 メガネを掛けてるせいか、かなり理知的に見える。


「予め言っておくけど、他の連中より僕らは君の行動に肯定的なのさ。」


「そこは理解してほしい。」


「――――ただね、“身の危険を顧みない行為はどうか”って、僕は思うんだよ。」



「どういうことですか?」



「つまりね、一歩間違えれば君の行動は周りを敵に回しかねないということだよ。」



「“カグマでありながらカグマを狩る”――――、君の行動がね。」



「秩序を守るためなら、許されるんだろ――――?」


 木庭は険しい表情で高橋を見つめた。


 影になってよく見えないが、木庭の右手が禍々しい光を放っていた。



「連中に認められたらね。」


 高橋は続ける。


「たぶん“ヴァリアント・ハンター”の奴らも、君の存在を危険視している。」



「――――出会ったら最期、戦いは避けられないよ…?」


 高橋は横目で木庭を見る。


「わかっています。」


 木庭もまた、覚悟を決めた表情で答える。



「‥ところで木庭君。」


 と、高橋は振り返った。


「なんでしょう?」



「今話題のニュース、何だか知ってるかい?」


「‥VRMMOCEPですか?」


 木庭は高橋の質問に答えた。


「ぶっぶー。」


「違うんかよ!w」


「話題と言えば話題だけど、僕が気になってるのはそれじゃない。」


「じゃあ何ですか?」


 木庭は多少イラついた表情で高橋に先を促す。


 すると、高橋の口が動いた。



「‥反政府組織―――――。」


「!?」


 木庭は高橋が告げた言葉に衝撃を受けた。


「知ってるようだね?顔に書いてある。」



「知ってるも何も、反政府は俺達カグマの敵です‥。」


「ほとんどのカグマは、ヴァリアントこそが脅威だと思い込んでいる。」


「だが、実際はそうじゃない。」


「反政府組織“サヴァイバーズ・ハンター”こそが、俺達カグマの“真の脅威”だ…。」



“反政府組織サヴァイバーズ・ハンター(残党狩り)”。



 非政府組織ヴァリアント・ハンターは、秩序を乱す異形を狩る集団。


 それに対し“サヴァイバーズ・ハンター”は、人間の脅威と化すカグマの存在そのものを、地上から排除するために活動する暗部組織…。



「‥それが、今回何をしようとしてるんですか?」


 木庭は俯きながら高橋に尋ねた。


「訊くまでもない話さ、あの事件も絡んでるんだから。」


「‥君は覚えてるかい?」


 高橋青年は振り返るかのように語る。


「‥数年前、東北地方の某所を中心とした、大規模なカグマの反乱が起こった。」


「政府により発足された非政府組織ヴァリアント・ハンターは、最悪の事態に備え、政府の指示通り“都市部への侵入を食い止める特殊な防御壁マリア・シールド(試作品)”を発動させた。」


「――――しかし、それが悲劇を加速させた…。」



「防御は完璧だった。」


「だが、完璧過ぎたがために、一度張った防御壁は長時間解除することができず、避難してきた民間人や傷ついたヴァリアント・ハンター達は皆、見殺しにされた。」



「‥それが、反政府組織の誕生に拍車を掛けたとも言われている。」


「……………。」


 木庭は静かに、高橋の話に耳を傾けていた。


 高橋は話を続ける。


「何とかカグマの反乱は鎮圧されたものの、防御壁の外に動員された多くのヴァリアント・ハンターが犠牲になった。」


「‥反政府組織の構成員は、当時犠牲になった民間人の親族や、ヴァリアントに深い関わりを持った人物。」



「彼等はその時のことを政府に、そしてカグマに、向けようがない矛先を向けた。」


「…つまりサヴァイバーズ・ハンターは、政府とカグマに対する“憎しみ”で生まれた組織。」


 木庭はそう言うと、顎に手を当てて考え込んだ。


「‥木庭君。」


 ‥と、高橋は木庭の名前を呼んだ。


「君に一つ、頼まれてくれないか。」


 高橋はブラインダーの隙間から漏れた光でメガネをチラつかせながら、木庭を見た。



「…何でも言ってください――――。」


「サヴァイバーズ・ハンターを止めるためなら、俺はこの命を燃やします。」


 木庭は高橋に誓った。


“サヴァイバーズ・ハンターを止めるために、命を燃やす”と――――。



「よく言った。」



「‥じゃあ、編入学手続きを。」



「は、はい?」


「ここに署名して。」


「こ、これは…。」


「VRMMOCEPを採用した、政府公認の高等学園パウスの入学申請書だ。」


「君には学園パウスの転校生として、学園内に潜入してもらう。」



「て、転校生…。」



「手続きが通れば、そこの学生として君は通うことができる。」


「お、応募資格は?」


「2061年4月現在で満7~18歳になった者。」


「経済的な事情を除いて、その他の身分は一切問わない。」



「また、この学園に入学するためには専用の機材が必要なんだけど…。」


「そっちの面は、僕らがサポートする。」


「だから君は、学園生活をゆっくりと楽しんでくれ給え。」


 ポムッ


 高橋は木庭少年の右肩に手を置いた。


(い、依頼が‥、学園編入学…。)


「一体、何のために‥?」



「―――――奴らが攻めに来た時が勝負だ。」


「!?」


「くれぐれも気を抜かないように。」


 高橋は木庭少年の耳元で囁いた。


(なるほどな…。)


「あ、そうそう。」


 高橋は思い出したように机を漁った。


「これを君にプレゼントしよう。」


「それは?」


「僕らが造ったスマートフォン。」


「君専用のだ。」


「連絡手段が無いと、何かと不便だろ?」


「ス、スマートフォン…?」


 木庭少年は高橋から黒いスマートフォンを受け取った。


「大丈夫、通話料とかはこっちで負担するから安心して(^_-)-☆」


「いや、使う以前に使い方がわからないのだが…。」


「木庭君、そこは慣れだよ!みんな初めから使えるわけじゃないんだから!」


「あ、はい‥。」



「‥ってことで、今後ともよろしく頼むよ?」


「木庭君。」


「これは僕らだけの秘密だ。」


 高橋は上目遣いで木庭少年を見ながら告げた。


「‥わかった、協力する。」


 木庭は高橋の依頼に同意した。



 新たな物語の歯車が今、動き出そうとしていた…。


 ――捜査資料室――


 数分後。



「‥本当に大丈夫なんかぁ?」


 大柄のぽっちゃりとした男性は、手拭いで吹き出る汗を拭きながら高橋に訊いた。


「何がです?」


「あの子だよ、君が連れて来た子。」


 ぽっちゃりは訝し気な表情で、自身の後ろの窓に映る木庭少年を親指で指した。


 木庭少年は真剣な顔で願書にシャープペンを走らせていた。



「あー、彼のことなら全く心配要りませんよ。」


「ヴァリアントの知り合いも、彼のことは認めています。」


 資料棚に保管されたファイルを仕分けしながら、高橋は答えた。


「‥そもそも、なぜそこまであの少年に拘る?」


 腕組をした50代の男性は、高橋に尋ねた。



「彼は他のカグマとは違います。」


「その辺のヴァリアントにも引けを取らない、選ばれた能力の持ち主です。」


 高橋は断言した。


「なぜそう言い切れる?」


「そ、それは…。」



「――――捜査官の勘‥、ですかね。」


「ふんっ、またそれか。」


 半分呆れたように男性は言った。


 その反面、どこか納得したような顔をしていた。


「おまえも中々鋭い勘の持ち主だからな。」



「期待してるぞ?高橋…。」


「ありがとうございます。」



 一方、木庭は‥。


 ポキッ‥


「うわ、また折れた。」


 力加減が解らず、30秒で21回の頻度でシャープペンの芯を折る木庭。


「てか、文字すら書けない…。」


 字の汚さは最高クラス。


「どうだい?木庭君(^_-)-☆」


 資料室から戻って来た高橋が尋ねて来た。


「‥なぁ、パソコンで打った方早くないか?これ…。」


「そ、そうだね。」


 木庭の字を見て、さすがの高橋も木庭の提案に同意する。



 木庭に与えられた最終手段…PC。


 しかし!


「私は貴校を…」


「W‥、A‥、T…。」


 早く打てない!


 タイピングの遅さ最高クラス!


「いや、一々誇張しなくていいから…。」


「か、代わろうか?」


 高橋は尋ねた。


「頼む‥、後は任せた!」


「Σ(゚□゚;)」


「明日から本気出すっ!(多分)」


 その後、木庭は高橋に(願書の)匙を投げた。



 ―学園パウス・オペレーター管理室―



 電子回路のような近代的な空間様式。


 様々なコンピューターや電子機器で構築された管理室内で、学園パウスの運営を担当する職員達は昨日の夜から、メンテナンス業務に追われていた。



「座標134.98、正常です。」


 白衣を着た男性職員が片手でパソコンを操作し、モニターを見ながら言った。


「許容人数の拡張に伴う、拡大範囲を確認しました。」


「‥システムは良好です。」


 ポニーテールをした茶髪の女性職員が言った。


「うん、悪くない。」


 椅子に腰かけ、資料を片手に足を組む白衣の男性はコーヒーをすすった。


 その後しばらくして、眠たそうな瞼を上げ、モニターを眺めた。



 この男性の名は須谷友史。


 VRMMOCEPを搭載したオンラインスクール“学園パウス”の開発者である。


 現在はプロジェクトチームのリーダーとして、運営の指揮や定期メンテナンスに於けるシステムの管理、及びシステム拡張に伴う対策やコンテンツの開発に力を入れている。



 カサカサ‥


 須谷は懐から白いスマートフォンとデバイス機器を取り出し、コンピューターに接続した。


 ピコン‥


 スマホの音声認識システムを起動した須谷は、携帯の小型マイクに向かって声を掛ける。


「アリス。内部のセキュリティ管理システム、及び多機能構成プログラムの効率化はどうだ?」


 ピヨンッ


 すると、水色のツインテールことアリスが、須谷の携帯画面に現れた。


 アリスは以前、学園パウスの宣伝をTVでやっていたキャラクター(自律型AI)である。


「はい、今のところ問題はございません。長期化プログラムは事実上安定しています。」


「そうか。」


「‥学園内の様子はどうだ?みんな楽しそうか?」


「はい。まだ開校して1ヶ月ですが、ほとんどの生徒さんはみんな学園生活を充実しております。」


 報告し終えると、アリスは微笑んだ。


「うん、それは朗報だ。」


 須谷も嬉しそうに言った。


「そのうち学園祭も開かれるでしょうから、その時の写真でも後日送りますね。」


 アリスは楽しそうに須谷に言った。


 AIとは思えない程、感情表現が豊かだった。


「わかった。楽しみにしてるよ。」


「みんなも、業務お疲れさま。」


「後はゆっくりお休みください。」



「お疲れ様でした。失礼します。」


 数分後、メンテナンス業務を担当した職員たちは帰宅した。


 時刻は21時を過ぎていた。


 須谷は尚もパソコンでコンテンツの開発を進めていた。


「‥さて。僕も一休みするか。」


 須谷はノートパソコンを閉じようとした。


 ブッブ


 パソコンから通知のアラームが鳴った。


「ん?こんな時間に通知か。」



 須谷はパソコンのメールボックスを開いた。



[件名:親愛なる須谷様へ]と書かれていた。


「誰だ?政府関係者でもない限り、僕のメールアドレスを知っている人物はいないはず…。」



 ピロン‥


 須谷はメールを開いた。



[近日中に学園パウスを閉鎖しろ。by.SH]



「閉鎖‥だと?」


「SHとは、一体…。」



 ヴィーンヴィーンヴィーン!


 赤いランプが部屋中に点滅し、警告音が鳴り響いた。


「なっ、ウィルス!?」


「まさかこのメール‥、スパムか?」



「アリス!緊急事態だ!内部へのウィルス侵入を阻止せよ!」


 須谷は誰も居なくなった管理室で叫んだ。


 赤く点滅したライトの光が、須谷の緊迫した顔を濡らす。


「了解ですっ。」


 モニターにアリスが映った。


 夜の学園パウスの景色が戦闘バージョンに変わる。


 アリスもまた可愛らしい衣装から水色の鎧合金(戦闘スーツ)で身を包んだ。


 大量の銃器が双方の手から出現し、背中には合金製の翼が生えた。


 アリス戦闘モードだ。


「アリス!学園の入口に防御シールドの設置を頼む。」


「はい。防御シールドを周囲に設置しま‥!?」



 ズギギギ‥


 空間の捻じれから巨大な4足獣のような外見をした物体が現れた。



「あれは‥。」


「―――――ウィルス型破壊兵器…。」


 須谷は息を呑んだ。


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<≪狩喰魔⊸モノクロストローク 緋威 シン @akaimegi

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