Mission.1 俺の夢――GCT.116 5/6 13:00――

「一磨! 進路希望出したの?」

 昼の1時。腹も膨れて眠い時間帯なので、少しでも休もうと机に突っ伏していたところ一人の少女に起こされた。この厄介そうなのは一之瀬一葉いちのせかずは。俺、一之瀬一磨いちのせかずまの従妹で、このクラスでは委員長をしているしっかり者だ。相手にするのはめんどくさいが。

「・・・・・・なんだ、夢か。それでなんだ?」

「進路希望書! 出したの?」

「…出してない」

「出してないって…提出日今日の昼までだよ?」

「出したって別にそれで未来が決まるわけでもないし、別に出さなくていいや」

「出さなくっていいやじゃなくて出さなきゃならないの!」

「このご時世、ひと昔まで普通にかなった夢が叶わないのにどう書けと…。どうせ先生たち大人が期待してるのは『軍人』って文字だけだろ?」

「それは…」

 銀河共通時刻(GCT)105年、俺たちの住んでいる惑星『クリシア』と『エルミナ』、『クレアスラ』との3惑星間の戦争、通称『惑星間対戦』が繰り広げられた。戦争勃発の理由はいたって簡単、エルミナとクレアスラは土地が痩せていて満足に食料確保も出来ず、ついに資源も豊かな土地も豊富なクリシアを攻めたというわけだ。惑星間での資源不足による格差、それによって起こされる争い事―――116年前に地球という星で打ち出された移民政策の欠点だとされるが、5歳の俺にはもちろんそんな理由分かるはずもなく、目の前の暴力に何の意味も見いだせなかった。

「でもこの前『パイロット』試験は主席だったじゃない」

「俺は飛ぶ気なんてない。内申点のためだ」

「そうだな…花屋あたりがいいかな」

 割とマジで言ったつもりなんだが一葉にはふざけて言ったと思われたらしく、

「もう真面目に答えて!」

 と言ってきた。

「真面目に言ったつもりなんだが…、あとは『へカーティア』に乗ることくらいかな」

「ふーん、『へカーティア』ね。花屋よりまともじゃない」

 へカーティア――11年前に起きたあの戦争を止めた貨物船団の名前だ。あの時あの丘でミサイルから守ってくれた銀髪の少女(のちに彼女はアニスという名前だってことがわかった)が艦長をしている船でもある。11年前のあの日突如現れて、戦争を休戦状態に持ち込み、一番被害を受けたクリシアの復興を助力したのは有名で教科書にも載っているくらいである。どうやって休戦条約を結ばせたかは知られていないが…。

「でもへカーティアに入るのって相当運が必要じゃなかったっけ?」

「だから夢だって言ってるだろ。花屋で十分だ」

 と言って、ファイルから進路調査書を取り出し『第一志望 花屋』と書いて、一葉に渡し、つけに突っ伏した。

「もう! 真面目に書いてよ!」

 俺は一葉の言葉を寝ているふりをして聞き流した。


 そして今日の授業が終わってペットボトルに入ってるお茶を飲んでいると、放課後になると一人の男子クラスメイトが寄ってきた。名前は『木村 スレント』で俺の友人だ。地球からの移民とこの星の原住民であるクリシア人とのハーフらしい。クリシア人は平均的に背が低く、そのせいか若干俺達移民組より160㎝と背が低い(それでも原住民として結構デカい方である)。

「なぁ、なんで一葉ちゃんすねてんの?」

「ん? あぁ、よく分からんが俺の進路調査を聞いてからずっとあんな感じだ」

「あぁ納得。 あんまり一葉ちゃん泣かせんなよ。 あの子はうちのクラスの女神なんだから」

「女神て…。そんな大層なもんじゃねぇよ」

「いやいや、このご時世にあんな可愛い娘(こ)が同居してることなんてないぞ?」

「お前も可愛い妹さんいるじゃねぇか」

「妹と従妹はちがうんだよ!」

「16年も一緒にいりゃ同じだよ!」

「いろいろ違うぜ。例えば結婚が出来るとか出来ないとか…」

「ゴホオッ、ゴホ! ゴホ! スレント! いきなり何言い出しやがる! むせちまったじゃねぇか!」

 しかしそんなことはスレントにはどうでもよいらしく、笑いながら

「すまん、すまん! で、お前の夢ってなんだよ?」

「別に決まってない」

「じゃあ、進路希望はなんて出したんだ?」

「…花屋」

 そこで一瞬沈黙に走ってから、

「プッ、ブハハハハッ! 一磨が花屋? パッとしない、唯一の特徴が目つきが悪いぐらいのお前が?」

「そこまで笑うことかよ!」

「あぁ! このクラスの奴らに言ったら全員笑うぜ!」

「やめれ! そんなことされたら明日から不登校になるわ!」

「少なくとも、今職員室は笑いの渦だろうな」

「うっせぇよ。じゃあお前はなんて書いたんだよ」

「俺か? 俺は父ちゃんが整備士やってるから、整備士って書いたぞ」

「・・・・・・普通過ぎてつまんね」

「つまんなくて悪かったな! 一応聞くが第2志望はなんて書いたんだ? さぞコメディアンの一磨さんは面白いことを書いたんだな?」

「それは…」

「お? こっちが本命か。人に言わせたからには、本当のこと言えよ」

「・・・・・・へカーティアに乗ること」

「ほぉ…。花屋よりはインパクトがないが、これはまた…」

「今度は憐れむような目で見るな!」

「だってあれに乗るってことは、あの貨物船団に入団するってことだろ? この11年間一回も入団募集してるとこ見たことないし、あったらきっと倍率が天文学的数字になるぜ」

 確かにいままであの貨物船団が入団募集しているところは一度も見たことも、聞いたこともない。やったらやったらでえげつないことになるのは確実だが…。

「でも…そのうちやるだろ」

「生きてるうちにあったらいいな…って冷やかしたいとこなんだけど、ここで一磨に朗報!」

「何? ジュースでも奢ってくれるのか」

「今のくだりからどうジュースを奢るってことと結びつくんだよ…。じゃなくてへカーティアの入団募集が行われるかもしれないって朗報のこと!」

「なんで分かるんだ?」

「おーっと、こっからは情報屋として料金をいただくぜ?・・・って待て待て待て! 冗談だから、財布出すのやめろ!」

 そう言ってポケットから財布を取り出そうとしていたところを、スレントは慌てて止めた。

「ったく…。友人から金を取るかよ。まぁこれで第2志望が本命なのは確実か」

「お前もややこしいことすんじゃねぇよ。で、今までなかった入団募集がある理由は?」

「勝手に決定するな。まだ可能性の話なんだが、3か月ほど前父ちゃんの会社にへカーティアの人間が来たらしいんだ」

「なんでへカーティアの人間だってわかったんだよ」

「あぁ、父ちゃん曰く黒地で赤の縁取り、胸に金の刺繍がしてあったそうだ」

 スレントが言った特徴は、11年前に見られたへカーティアの制服と酷似している。

「それでどうしたんだ?」

「一つ宇宙船を作るために、ドック一つと作業用に何人か借りれるか聞きに来たんだと」

「それで出来たらその船の船員が必要になるから募集がかかると…。確かにありそうだな」

「そもそも、この11年間一度も船を作ろうしたことなんてなかったからな。しかし出来るのって何年後なんだろうな…」

「整備士希望のお前が分からなかったら、俺にもわからん」

「普通だと2年だが、あの謎のベェールに包まれたへカーティアの船だから想像もつかん。

 お前がもし入団したら祝ってやる」

「あぁ…まぁ入団募集があったらの話だけどな…」

 そこからは学校の出来事や昨日の話をして過ごした。しかし、まさかあんなことが起こるとは思いもしなかった。


~Go for the next!~

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イチノセカズマの運行記録 蓮咲蓮 @Ren_Hasusaki

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