第4話
「はぁ、はぁ、………中々、勝負がつきませんわね………」
「はぁ、はぁ、………そうね………」
あの後、かき氷早食い勝負は全くの同時に食べ終わって、引き分けという事になった。その後もたこ焼きの早食い勝負、りんご飴早舐め勝負、わたがしアート勝負、型抜き正確勝負、ひよこ雌雄判別勝負、等々いくつかの勝負を繰り広げたんだけど、熱くなったわたし達の動きはミスを生むことは無くて、引き分けが続いた。
ふと境内に設置されている時計が目に入った。その長針はすでに10の数字に掛かっている。
わたしの視線ではるかも時計に目が行く。
「もう時間がありませんわね」
「そうね」
このままじゃあ水原君との待ち合わせ時間までに勝負が付きそうに無い………どうにかして決着つけないと………。
そんなわたしの焦る気持ちを察してか、はるかが口を開いた。
「次の勝負で決着をつけましょう」
「そのつもりよ! さ、何の勝負をするの?」
さっきのお面をつけてなりきり勝負はわたしが決めたから、今度の勝負内容決定権ははるかにある。さぁどんな勝負をしかけてくるの?
はるかはわたしの横をすぅっと通り抜けると、境内の中にある、お札やお守りを売っている所へと向かった。
ん? そんなところで何を………?
そのわたしの疑問はすぐに解かれることになった。
「これで、勝負ですわ!」
はるかが掲げたそれは………。
「おみくじ………?」
「そうですわ。このおみくじを振って、出た自分の運勢の高かった方の勝ちという勝負ですわ!」
なるほど、運も実力うち。時間がない今となっては最適な勝負ね。
「いいわ! おみくじ勝負で決着を付けましょう!」
勝負の行方は全く分からない。だけど、ここで負けるようなら、水原君と今夜一緒に遊んでも、進展が生まれなさそう気がする………。そんな杞憂を払う為にもわたしは、このおみくじではるかに勝つ!!
お金を巫女さんに渡して、おみくじの箱をガラガラと振る。
わたしの運勢! 強くあれ! わたしに未来を拓かせて!!
強く想いながら振っていると、箱から一本の棒が出てきた。
その棒の数字は、
うっ………。
四十四番。
………いやな数字引いちゃったな………。
でも、振り直しなんて出来ない。しかたなくわたしはその数字を巫女さんに教えて、おみくじを貰い受ける。
大丈夫よ! いくら不吉な数字だとしても、おみくじの内容とは関係ないはず! 案外大吉とかかもしれないし………。
わたしはプラス思考のままで、おみくじを開いた。そこにあった運勢は………。
………きょう………。
紙の中にあった文字は、コを横にした中にメが入ってる漢字………。
凶。
「ひよの、ついていませんわね。こればっかりはどうしようもありませんわ」
………最悪………。よりによって、どうしてこのタイミングで凶なんてひくのよぉぉぉ………。
絶望の淵に追いやられたわたし。その横ではるかもおみくじの箱を振り出した。
かなり気が楽だろうな………。凶以外を引けば確実にはるかの勝ち。そして、長く続いた勝負の勝者もはるかで決定ということになる。ううぅぅ、水原君とのデートがぁぁ………。
もうなんか涙が出そうだった。そんな中、はるかが貰ったおみくじを開いた。
一体、はるかはどんな運勢だったんだろ?わたしと同じで凶とかだったらいいのに………。
そんな事思っていると、目の前の彼女が急に崩れ落ちた。
? 一体どうしたんだろう?
彼女の様子を伺おうと、更に近づいた時、わたしは彼女のおみくじの内容が目に入ってしまった。
え………? これって………?
「なんですの………! この凶って………この大のついた凶ってなんなんですの………!!」
はるかは搾り出すような声を出した。
そう。なんとはるかのおみくじにあった運勢は、わたしよりも悪い運勢の大凶!
つまり、この最終勝負おみくじ良い運勢だった方が勝ち勝負はわたしの勝ちって事!?
「悔しいですけど………祓木祭出店勝負は………ひよのの勝ちですわ」
はるかはその言葉を紡いだ瞬間、ガックリと頭を垂れた。
「やったぁぁーーーーっ!!」
わたしは思わず大きな声を出して喜んだ。
これで、水原君と心置きなく祓木祭を楽しめる! 二人の関係の進展だってありえるかもしれない!!
一時間掛かったはるかとの祓木祭出店三番勝負は、二勝一敗十引き分けという長い戦いは、運の僅かな差でわたしが勝利の女神に微笑まれた。
午後七時。涼しい夜風と心地よい御囃子につられて、多くの人が祓木祭へと足を運んでくる。わたしの前を右へ行く人、左へ行く人、何人もの人の波が過ぎていった。
はぁ、どうしよ~~! 緊張してきちゃった~~~! わたしから誘ったんだけど、どんな顔して水原君を迎えればいいか分かんない!
とにかく、今まで通りに、学校の中と同じような感覚で、あんまり意識しないようにすればヘマしないはず!
頬を両手でパシパシ叩いて気合を入れる。
ふと目をやった境内の時計の長針は徐々に傾き始めてきた。
そろそろ来る頃かな?
辺りに目を配らせて、人並みの中に彼の姿がいないか探してみる。
だけどそれらしい影は、ない。
用事ってのが長引いてるのかな?
放課後彼が言ってた言葉を思い出してみたりする。決して彼が来れないだなんて予想は一切考えない。考えたら現実に起こりそうで恐いもの。
その時、わたしの巾着袋が揺れた。
中を覗くと、ディスプレイを光らせたスマホが原因だった。いつまでも続くバイブの振動に、通話がかかってきている事に気付く。
スマホを手に取り画面を見ると、そこに表示されていたのは、待ち焦がれている相手の名前。
「水原君!」
思わずこぼれる声を気にする意識はなく、慌てて通話ボタンをフリックして、スマホを耳に当てる。
「もしもし?」
「あ、水原だけど」
「うんうん。どうしたの? まだ用事が終わってない?」
「それなんだけど………ごめん! いけなくなっちゃった!」
「えっ!?」
水原君の思いがけない、思ってはいけなかった言葉がわたしの耳を突き刺した。
「なんか今日親戚が集まる日だったみたいで、家を出られなくなっちゃったんだ。ほんとごめんね!」
更なる彼の言葉にわたしは凍りつく。身も心も………。
「………あ、う、うん………。大丈夫よ………今日急に誘っちゃったんだし、しょ、しょうがないわよ………うん」
言葉は出るものの、頭の中は真っ白。
「ごめんね。今度はちゃんと付き合うから。じゃあ、今夜はほんとにごめん!」
「ううん、気にしないで。それじゃあ、また明日」
その後、耳に入ってくる機械音をわたしはしばらく聞いていた。
………………………………。
……………………。
……………。
………。
「うわぁぁぁぁぁぁ~~~~~んっ!!!」
なんでーーーー!? どうしてこうなっちゃうのーーーー!? せっかく頑張って勝負にも勝ったのにーー!! あーーーん!!
目から涙が滝のように流れてくる。
その時、
「可愛そうなひよの………私が慰めてさしあげますわ!」
背中に衝撃が当たり、わたしの腰をギュっと抱きしめる細い腕が見えた。
後ろを振り返ると、そこには、
「え!? は、はるかっ!?」
御堂はるかがわたしの体に頬を摺り寄せている姿があった。
「どうしてはるかがここにいるの?? さっき帰ったんじゃないの??」
「帰りましたわよ~。でも、あのおみくじを結んでいくのを忘れてましたので、結びに戻りましたの。そしたらひよのが泣いてるじゃあありませんの! そんなひよのを抱きしめずにはいられませんわ!」
はるかの言葉にわたしは心の中がじわっと暖かくなった気がした。
水原君に断られちゃって、寂しかったから、余計にはるかの存在が嬉しいものに感じた。
「ありがとう、はるか」
指で涙を拭って、笑顔ではるかに言葉をかけたわたし。
「う、嬉しいですわひよの! もう一度ひよのに会えて、こんな優しい言葉をかけられて………これもあのおみくじを結んだからですわね」
ん?
その時、わたしの脳裏に何かが過ぎった。
もしかして!
わたしは思いついた事を確かめるべく、さっきのおみくじを再度広げて目を通してみる。
その中の一つの運勢に目が止まった。
「恋愛運勢………待ち人現れず………これだーーーー!!」
わたしは予感的中の結果にはるかを振り放そうと動いた。
勝負に勝った事で、すっかりこんな危なげなおみくじを結ぶのを忘れてた! これよ! これがいけなかったのよーー!!
「離してはるかーーー! このおみくじを結ぶのーーー!!」
「いいえ、離しませんわ! ひよのと一緒にもっとお祭りを楽しんで、あなたのハートを今夜こそ私のものにしてみせますわ!」
「いやぁぁぁ~~~!! 水原君とのデ~~~~~~トぉぉおおおお~~~!!」
蛍の光が夏を運ぶ月夜の下で、お囃子と和太鼓の音の中にわたしの叫び声は消えていったのだった。
おわり!!
夏祭り~あなたのハートを今夜こそ~ 神無月招央 @otukimi
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