第3話

「さ、気を取り直して、次の勝負と参りましょう」

 すっかりさっきの落ち込み具合は抜けていて、またもキリっとした顔がそこにはあった。

「さっきの勝負は私の負けでしたので、今度の勝負も私が決めさせていただきますわ」

「オーケー。今度の勝負は何なの?」

「次の勝負は、あれですわ!」

 またもビシっと指差したその先にあるお店の暖簾には、やっぱり達筆な字体で今度は『しゃてき』と書かれていた。

「今度は射的で勝負ってわけね」

「そうですわ」

 頷くはるかとわたしはその暖簾の元で足を揃えた。

 店のおじさんの威勢の良い声に迎えられたわたし達。

 この射的屋さんは、四段の棚にそれぞれ色々な景品が並んでいる。

 基本のジッポライター、お菓子、ぬいぐるみ、おもちゃ、レトロゲームソフト、そして絶対に倒れなさそうなゲームハード。品揃えは、まぁよくある射的屋と同じ感じ。

 はるかがまたもわたしの分のお金もおじさんに渡して、コルク銃と弾を借り受けた。

「さぁ、ひよの、あなたからお撃ちなさいな」

 そう言ったはるかは借りた銃の一丁をわたしに渡して、コルク弾はわたしの目の前に置いた。

「これの勝敗の付け方は?」

「倒したものの総合の価値がより高かった方が勝ちですわ」

 彼女は景品の方を見つめながら答えた。

 つまり、倒し易い小物ばかりを狙ったんじゃあダメって事ね。

 わたしも改めて景品を品定めする。

 弾は六発。よく狙っていかないと。ここは倒し易そうで、高価なゲームソフト辺りを狙っていきたいんだけど、いかんせん、あれって後ろに支えがあるのよね。しかも結構丈夫な支えが。

 小学校の頃、ゲームソフトが欲しくて、狙っては弾かれ狙っては弾かれの繰り返しを幾度となく繰り返した記憶がある。支えの存在に気がついたのは小学校高学年の時だったかな?とにかく、あれは罠。狙うんだったらやっぱりジッポライター辺りでしょ!

 わたしは銃にコルク弾を仕込むと、一番上の段に置いてあるジッポライターに狙いを定めた。

「見せてあげるわ! わたしの力!」

 右手で持った銃のトリガーガードを支点に、勢いよくコルク銃をグルリと一回転させる。そして銃口が狙いと直線となるタイミングで引き金を引いた。


円月早砲えんげつさっぽうっ!!!】


 コルク弾が一直線に狙ったライターへと向かっていく。

 刹那、ライターが中空に高く吹き飛ばされた。

 遠心力が加わったコルク弾が狙い通りにライターの中心点を撃ちぬいたのだ。

 わたしはその後の五発もジッポライターを狙って、確実に捉えて、六個のジッポライターを取った。計一、二万円くらいの価値になったんじゃないかな?

「悪いわね。もうジッポライターはほとんど取っちゃったわよ。先に撃たせちゃったのは失敗だったんじゃないの?」

 余裕の表情を見せるわたしに、しかしはるかは、わたしよりも余裕の表情で返してきた。

「まぁ、見ていてくださいまし」

 そういう彼女は銃を持つと、景品を見据えた。

 はるかは何を狙うって言うんだろう………?

 しばらくして、彼女は狙いを決めたのか、銃を構えた。

 刹那、彼女から凄まじいオーラが放たれ始めた!

 なっ!? い、一体このオーラは何なのっ!?

「こんな動かない標的を撃ち取るなんて、赤ん坊でも出来ることですわ!」

 その言葉を紡いだ瞬間、はるかの目がカっと見開かれた。


 〖一点集中ピンホールショットっ!!!〗


 その声が辺りに響いた直後、わたしの視界には信じられない光景が広がった。

 空中に、客を引き寄せる為だけにそこに置いてあるといって過言ではない、絶対に撃ち取れるはずのない、あのゲームハード『プレイテンション4』が浮かんでいた。

 刹那、それは重力に引かれて地面へと落ちていく。

 それに引かれるように、六つのコルクの弾がパラパラと落ちてきた。

 わたしと、当然店のおじさんが愕然とするのを横に、はるかは「ふぅ」と一息吐くと、構えを解いた。

「四万円程、ゲットですわね」

 ニコリと笑う彼女。あのオーラはすでに消えているが、あたりにまだその余韻が残っている。

 どうやら、さっきのはるかの業は弾を撃って、瞬時に装弾をして発射。それを六発分すべて一瞬で行ったらしい。しかも全弾寸分の狂いも無くプレイテンション4の中心点を撃ちぬいていたのだろう。普通の六倍以上の力、だからあんな光景が生まれた。なんて凄まじい業なのよ………。

「幼い頃から叔父様にクレー射撃場に連れて行ってもらっているので、射撃には自信がありましたの」

 いや、クレー射撃をしてたとしても、あんな事は出来ないと思うんだけど………。

 とにかく、この射撃勝負ははるかの勝ち。これで一勝一敗のイーブンで振り出しに戻っちゃったってわけね。



「さ、次が最後の勝負ですわ。今度の勝負内容はひよのがお決めになっていいですわ」

 さっきの勝ちで、すっかり勢いに乗っている様子のはるか。だけど負けるわけにはいかない! ここで負けたら、せっかく水原君との関係に新しい進展が起こりそうなチャンスがなくなっちゃう! 負けられないっ!!

 わたしは周りの出店を見渡した。

 何か、何かはるかと勝負して有利に運べそうな出店は………はっ! あれだ!

 わたしの目に留まったその出店には、色とりどりのシロップが並び、シャリシャリと心地の良い音が氷の山を生み出していく夏祭りに欠かせない出店の一つ。そう、夏の暑い季節には心をときめかせてしまう魔法のデザート『かき氷』屋さんが目に入ったのだ。

 かき氷の早食い! この勝負ならお嬢様なはるかには不得手な勝負に違いない! それに、かき氷はわたしの好きな食べ物でもあるし、負けるはずが無い!

「はるか、最後の勝負はあれよ!」

 わたしは見つけたかき氷屋さんに指をさした。

「かき氷、ですの?」

「そうよ、かき氷の早食いで勝負よ!」

 わたしは突き出していた指をそのままはるかに向け直して、声をあげて宣言した!

「なるほど。そろそろ喉も渇いてきましたし、ちょうどいい勝負ですわ!」

 よし! 勝負成立! この勝負もらったわっ!

 わたしの心の中の確信を知ってか知らずか、はるかはニヤリと笑った。

 ん? 余裕って事なの?

「私かき氷が一番の好物ですの。一日に二十杯くらい余裕ですもの。この勝負頂きましたわ!」

 な、なにーーっ!? お、思わぬ計算違いだわ………でも、わたしだって、かき氷好きは誰にも負けない自信はある! 簡単な勝負じゃなくなったみたいだけど、この気持ちにかけて、絶対に勝ってやるんだから!

 わたしとはるかは、お店の前に行ってそれぞれのかき氷を頼んだ。

「ブルーハワイ一つお願いします」

「イチゴを一つお願いしますわ」

 二人にかき氷が行き渡ったところで、第三勝負の幕が開かれた!


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