第15話 酷い中2病

「いいワイバーンだ。手入れも行き届いている」

 修也がかけられた声に後ろを向くと黒髪をポニーテールにした女性がいた。

「あんたは」 

「ああ、冒険者のセシル=ブレイヤだ。北の魔族地の国境ダンジョンまで行きたくてね。まあ、早く行きたいと思って、丁度ワイバーンがいると聞いてやってきた。所有者は誰だ」

 茶色のなめした皮鎧に腰にはバスタードソードが冒険者らしいが、濡れ羽の烏色の黒髪をポニーテールにした170くらいの長身の女性ということで違和感を感じる。

 また、顔が整っていて、どこぞの貴族の女性といった方がおかしくないように思える。

「そこのフェリシーって商人だが」

「へへへ。フェリシーです。おいくらでのせませうか」

 もみ手で商人が擦り寄っていく。目がお金の目になって、欲望丸出しになっていて、馬鹿っぽい。

「はいはい。黙れ黙れ。セシルさんは国境ダンジョンまで行きたいんですよね。腕は立つんですか」

「まあ、冒険者ギルドでは中級レベルといったところ。とはいえ、南の竜族のある山脈の中にある古代遺跡は5階まで踏破した。仲間は5人だったな」

「へー、私もあそこは知っていますが、悪くないですね。その近くまで行くんで国境の町まで連れて行けば問題ないですか?」

「話が早くていいな。金はいくら出せば」

「お金はいいです。それよりも1日はかかるんで、そのときの護衛に入って頂ければ十分です」

「ちょっ、悠美、私の金ヅ」

「はいはい。空の移動だからって、油断は出来ないんだからさ。護衛は私とそこの中2病だけじゃちょっと足りないと思っているんだから」

「そりゃまあ、不安要素は多いからそうだけど」

 どうやらきな臭い事に巻き込まれていそうな感じがする。やはり、別の方法のほうが良さそうではなかろうか、などと修也は思う。

「まあ、空は野生のワイバーンとか、下級グリフォンとかがいたりするからね」

「カロリナ、それはどういうことだ」

「わかりやすく言えば、空にも頭の悪いモンスターが結構いる。とはいえ、1日で魔族領まで行く手段は多くないし、すぐに見つかるかどうか」

 なるほど。他の選択肢を探すとなると容易でないということになる。

 あまり考える暇も無い状況では強硬手段も考えざるを得ないということだ。

「ま、そういうことで春休みが終わるまでに行く手段としてはある程度は我慢してもらわないとね」

「まあいい。いざとなれば幼女メイドを盾にすればいい」

「ヒドッ。ボクは」

「あとは幽霊メイドを使うという方法もある」

「私、幽霊だから逃げますし触れることなんて」

「その辺は根性だ」

 根性、そう、根性さえあればなんでも出来る。

 それが佐野家の美学。

 そして、修也は根性ですべてを乗り切ってきたのだ。

 思い出すだけでも苦しいことがあったが、根性だけで人生を乗り越えることが出来るということを知っている。

「いやいやいや。出来たらすごいですよ。私、記憶無いですけど、根性だけで何もかも出来たら怖いですよ」

「うーん、幽霊メイドちゃん、あながち修也だけにそれだけが間違いとはいえないんだよな」

「へ?」

「根性だけで異世界を渡ってきて、色々と手に入れたことがある。だから、いつしか修也はとんでもない二つ名がある」

「それって」

「言うな」

 思い出すだけではきそうになる。

「はいはい。わかりましたよ。中2病」

 

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ドSな勇者と召使な幽霊 阿房饅頭 @ahomax

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