真冬の人魚

複雑な哀しみを抱えた、孤独な美女。
誰にも打ち解けないように見えるそのひとの心を優しく開いたのは、底抜けに明るい青年の一途な恋心と、彼を囲む仲間たちの温かさ。

孤独な心を開くためには、無理強いしてもダメなんですよね。包み込むような周囲の温かさや明るさに触れて初めて、固まった心が溶ける。その過程が、若さの溢れる明るい雰囲気で描かれ、とても魅力的です。行きつけのお店も、本当にどこかにあるようなほっとする温かさを持っていて、とても印象的でした。

明るく一途な恋心と、溌剌とした温かさが、相手の心を変えていく。そんな爽やかな心のやり取りを感じられる、素敵な作品です。

こういう能天気な男が現実にいるだろうかと呆れ、いるかもしれないなと思い直し、こういう男だからこそ、この物語が成立したんだなと納得しました。
一方、女性の登場人物の方は、人物像がハッキリしないまま。なんとも不思議な短編だと思いました。
何処に焦点を当ててコメントすべきかに腰が定まらないので、今回は我ながら間抜けです。

　少ない字数でこんなに多彩な登場人物、物語を描けるな、と感服しました。
　後ろ姿にときめいて声をかけようとする青年とその仲間たち。
　そして行きつけのしゃれた店に顔なじみのマスター。出されるメニューの匂いまで感じられそうです。

　美女の最後の台詞が物語全体に言い知れぬ余韻を出しています。
　こんな学生生活、送りたかったな……。

　一人のシングルマザーを巡る、どこか哀愁の漂う物語。深みのある文体と、どこか儚げな登場人物達が魅力です。
　限られた青春の中に、彼らは何を思うのか……。