無職、出会う


アリシアへ

 どうも、オルスです。例の件、王を問い詰めたらあっさりゲロりました。その場でブッコロ宣言したら、聖賢、解任されたので、今は無職のオルステッドです。必要物資を外国まで採りにいくので、今日出発します。



 僕はアリシアの机の上に残してきたメモの文面を思い出し、少し笑った。多分、アリシアはあのメモを見て、また頭を抱えるだろう。面白くて仕方が無い。


 ベルウッド王国ーーー元々僕がいた国は大陸から南に突き出た半島の付け根の部分丸々を占めている。その南には国が一つあり、ミーウラ共和国といって、長年ベルウッド王国とは親交の深い国だった。


 僕はそのミーウラ王国の南部。海に面した山脈の内側の荒野にやって来ていた。そう、必要な資材を収集するために。


「さぁて、アイツのダンジョンはどうなっているかな? 状況によっては魔力の少しくらいはーーー」


 僕は足を止めた。同時に少し落胆した。何故ならいつも感じていた魔力の波動が、全く感じらなくなっていたからだ。


「そ、うか。当然か。ダンジョンマスターとはいえ、人間か。七百前の、人間の友人が、生きてるはず、無いか」


 僕にはダンジョンマスターの友達がいた。ダンジョンというのは、魔法生物『ダンジョンコア』の家のことで、侵入者の魔力や地脈から魔力を吸収、ダンジョンポイントという形に変換して、ダンジョンをさらに拡張する能力がある。

 ダンジョンマスターはそのダンジョンコアの契約者のことで、コアの能力を高め、その全てを行使することができる存在だ。その代わりに、コアが壊れると後を追うように死んでしまう特性がある。逆に、マスターが死んだからといってコアが壊れるわけでは無いのだが。

 今回の目的は、その友人のマスターに会って、ダミーコア(ダンジョンに設置される、予備のコア。これが残っている限り、ダンジョンはいくらでも再生できる。ただし、本体のコアが破壊されれば性能は格段に落ちる)を譲ってもらうつもりだった。僕が全力で魔力を放出すれば、持って半日。1時間で七万ダンジョンポイント換算。ダミーコアは一つ五万ダンジョンポイントで変換できるはずなので、それで譲ってもらおうと思っていた。


「全く、時の流れというのは、世知辛いものだね……おや?これは?」


 僕はかつての友とは違う。でも、非常に近い魔力を感じていた。出力は弱いが、大体何があるのかは予想できる。


「マスターのいない、ダンジョンコア?」


 口に出して、それが正解だとわかった。

 ……これはいい。結果としてはダミーコアを使うより手っ取り早い。友人に会えないのは少し寂しいが、よくあることだ。

 僕はそのダンジョンに足を進めた。










 ダンジョンの領域内に入ると、魔力の質が引き締まったのがわかった。おそらく膨大な力を感知して、警戒しているのだろう。だが、それはダメだ。

 僕の目的は交渉であり、侵略では無い。なので、僕は周囲の魔力をさらい、ダンジョンコアが覗いている方向を特定すると、こう言った。


「ダンジョンコアさん? 見ていらっしゃるのでしょう? 僕に敵意はありません。少しお話ししませんか?」


 これだけじゃ弱いか?僕は自分用に持ってきた菓子の箱を掲げて言った。


「この通り、お土産もありますし」



 念のため、この場で止まっていると、正面から白狐の幼体が歩いて来た。その瞳には僅かながら確かな知性と気品があり、ダンジョンコアのモンスター生成のセンスが伺えた。

 その狐についていくと、僕がたどり着いたのはコアの間ーーダンジョンコアが安置されている場所だった。


「ようこそ、とでも言ったほうがいい?」


 僕はその日、天使に出会った。

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恐怖使いのダンジョンマスターは、人類に真正面から敵対する 天皇山蓮 @ren-tennozan

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