第14話 ロイエの独白②

「他にすることもなかったから」

そう姫様は仰られましたが、そんなことが出来る者がどれほどおりましょうか。姫様に王位継承権を放棄させたいのはやまやまですが、姫様の条件を呑んでしまえば、己の王としての不出来さを認めてしまうことにも繋がると、王は理解しておりました。結果、その場に集った国を担う者達は姫様を認め、尊敬し、条件を呑まない王に見切りをつけることとなりました。もし条件を呑んでいたとしても、大公家に嫁げば永遠に妹姫の殺意溢れる嫉妬からは逃れられず、後宮に閉じ込められても、姫様の才を目の当たりにした臣下達は姫様を手放すことに難色を示したでしょう。どう転んでも、姫様が幸せになれる道はなかったのです。王は臣下達の前で恥をかかされた、と思われたのでしょうね。それ以降から、妹姫以上に姫様を疎んじ、敵意を隠そうともしなくなりました。

何故? 何故?? 姫様だとて王の血をひく子どもではありませんか。為政者ならば、己がプライドと国を天秤にかけたなら、迷うことなく国を選ぶものでしょう? 何故、姫様ばかりが、諦めたように微笑まなければならないのですか?! 己の存在が父親にとって良くないものだと敏感に察して言葉を控え、妹姫からは嘲られる。それを長年甘んじて受け入れてこられたのにッッ!

『情けをかけるべきではない相手に情けをかける』

元アスカン公であらせられるエイハブ様の言葉は的確です。姫様も、そんな己の甘さを充分理解しつつ、いつも微笑まれる。逃亡生活も三年になりますが、今もって王と妹姫の諦めの悪さには感心してしまいます。そんな中で出会ったジュリア様…、ジュリアとの出会いは、ある意味衝撃的でしたが、わたくしは密かに期待しておりました。

ノウェム国では、国王が序列関係なく、次代の王を選ぶ方針を昔からとられております。この度の王太子選抜もそうであったとか。噂に聞いただけでも第一王子のバジル殿下の醜聞は酷いものでしたもの。当然と言えば当然の流れなのでしょう。ですが、やはり愚かな王族というのはどこの国にも存在するものです。姫様は滞在されている恩義を返す為にエイハブ様と共に第一王子の動向を探り、逃亡生活中でありながらも、公の場に姿を現すことを決められました。そこには、己の逃亡生活を手助けして下さるエイハブ様への真摯な想いを感じ取ることが出来ます。エイハブ様も柔らかく苦笑いされただけにとどまりました。姫様のことをとても理解しているエイハブ様ですから、姫様のそんな行動も、予測の範疇だったのでしょう。

久方ぶりに姫様を飾り付けるのはとても心が踊りました。真っ白な首元まで隠れ、腕の裾は手首の上までが見えるほどの広さを持った異国風のドレスと、髪に真っ白な生花を挿しただけでしたが、他の色合いは、姫様の美しさを損ねてしまうので使いませんでした。姫様は単純に「重くない」、と喜んでおられましたが、黒目黒髪の双黒に、白だけの色合いは姫様の美しさを存分に引き立てておりました。ジュリアを褒めちぎられた姫様ですが、ジュリアが姫様の美しさに一瞬言葉に詰まった様子には全く気付いておりませんでしたわね。どうしてそういったところは鈍いのか、と残念でなりません。

その後、わたくしからの情報と現アスカン公からの話を聞いたジュリアは、密かに願っていた願い通り、姫様のお付きとなったのです。わたくしも共犯ですが、悪いことをしたとは微塵も思っておりません。

姫様が諦めたように微笑まれる姿が避けられないものならば、その憂いを少しでも取り除くのが従者の役目。姫様の理解者を増やし、未来には姫様のそんな表情を晴らせるほどの賛同者を得ること。地道で気の遠くなるような時間が必要かもしれませんが、わたくしの身勝手で行うのです。



(アイネとジュリアが地図を見ながら話をしている)

アイネ:(地図を折り畳みながら)「この国へは行ったことがないんだよね」

ジュリア:「ワタシは行ったことがありますから、多少なりとも案内が出来ます。鍋料理が名物となっているのですよ」

アイネ:「そうなんだ。それなら、お昼はそれにしよう」

ジュリア:(道の小脇に落ちている物に気付き、身を屈める)

アイネ:「ジュリア?」

ジュリア:(手に枝から落ちた花を持っている)「風で落ちたのでしょうね。まだ綺麗なのに」(そう口にしつつ、アイネの髪に器用に花を挿す)

アイネ:「………ジュリアはさ、こんなことが平然と出来るから女性から憧れられるんだよ」

ジュリア:「そうですか?」

アイネ:「そうなの! まあいいや。さ! 早く街に着いて、ご飯食べよう。ロイエ!」(ロイエに振り返り、笑う)

ロイエ:「……はい。姫様。(お供しますわ、どこまでも。貴方様の憂いが晴れて、本当の笑顔が垣間見られる、その瞬間に立ち会う為にも)」


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某国の女王(候補)は、婚約破棄された女性騎士を仲間にする @akishino

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