読んだらダメな異世界小説だからな、読むなよ? ふりとかじゃないぞ、ほんとに読むなよ?

犬のニャン太

ダメだって、読むのやめたほうがいいよ。まじで。

 あーあ、開いちまったか。

 やめとけって言ったのにな。

 まあ仕方ない、始めようか。


 とりあえず先に言っておくけど、俺こうゆうの興味ないし、やる気も全くないんで戻るなら今のうちだよ。途中で引き返すのは全然ありだから、さっさと戻ったほうがいい。ちっとも面白くないしな。


 描写とか面倒だし、やろうと思っても出来る気がしないから、そっちの脳内で補完してほしい。


 夜だ。

 だいたい九時から十二時くらいの間に家に着くことが多くて、平日なんかは夕飯もろくに食えない日々が続くことも珍しくない。


 家はマンション。

 十二階建ての八階、一応は都内だから外は明るいよ。

 三十五年ローンで買ったんだが、残念ながら新築じゃない。


 ちゃんとイメージ出来てるかな、まあ出来てないと言われてもこのまま進むけどね。


「ただいまー」


 何の変哲もないサラリーマンさ。

 歳は三十代。中肉中背、特にイケメンでもなければ不細工でもない。


 言っておくがニートでも自宅警備員でも童貞でもないからな。


 この日は直帰でたまたま早く帰れたんだ。


「おかえりなさい」


 妻だ。

 どんな女かっていうと、可愛い女だ。

 読者さんの思い浮かべる理想のアイドルでも想像してくれ、それで構わない。


 俺にとってはどんなアイドルよりもイイ女なわけだから、それで間違っちゃいないさ。そうだろ?


「ぱぱぱおかりー」


 可愛いだろ、息子だ。

 可愛いと言え、そこは譲らない。


 くりっくりの汚れない瞳。

 ようやく覚えた日本語はまだ不自由だが、それも可愛い要素だろ。

 とにかくべらぼうに溺愛してる。

 こないだ買ってやったおもちゃを片手に、よたよたと覚束ない足で駆け寄ってくるんだぜ?

 萌えるだろ?


 萌えると言え、言わない読者さんは鬼か悪魔かウンコだからな。


 ま、そんな感じだ。


 面倒くさいから端折るけど、次の日俺は事故にあった。


 何だか知らんが神様の手違いだとかなんだとか言われて、別の世界で新しい身体をくれると言われたんだ。



 それを、俺は断った。


 剣と魔法の世界だとか、冒険だとか、どうでもよかった。

 巨乳美女のハーレムには若干心が揺らいだけど、それは内緒だ。


 そんでさんざん神様と話し合った結果、こうして語り部とやらをやらされてるわけだ。


 今更後悔しないでくれな、ここまで読んだからには、ここから先は読者さんの自己責任で頼むよ。



 で、俺の物語はここまでなんだ。


 愛する妻と子のいない世界なんて興味がない。

 そんな場所で、妻と子を忘れてしまうかもしれないそんな場所で、新しい人生を始めるなんて興味ない。むしろお断りなんだ。


 自己責任って言ったけど、それって結構大事でさ、次に異世界へ誘われるのが君。


 君はこれから異世界とやらに行くそうだ。

 俺がここで物語を終わらせるから、代わりに君が行くことになる。


 どんな世界でどんな物語を描くのかは君次第、自由だそうだ。


 それこそお断りだって?

 いや、だからさ、散々書いてあったろ、読むなって。


 直ぐに戻れって言ったろ、最初のほうでさ。


 俺は人生を終える。

 妻と子の将来を憂う気持ちはあるけど、ばっちり生命保険に加入してあったから、経済的には心配してない。ローンも無くなるしな。


 じゃ、素敵な異世界を描いてくれ。

 楽しい物語を描いてくれよ。



 あ、もし、まだ少しだけ余裕があったらさ。



 俺の妻と子に伝えてくれないかな。


 「ありがとう」って。

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