第5話 未知との闘い 2

ふわふわと俺の歩く速度と同じくらいで進む球体。すでに立体画像はオフになっており、風船のようのんびりと、しかし確固たる速度でたゆたっている。


そいつに連れられるまま森のなかを歩いて二十分ほどして、告げられた。


「間もなく敵性成物・オークの居住区らしき場所にたどり着きます。目的は偵察でよろしかったですね。ここから先は腰を落として進んで下さい」


球体はそう告げると地表に着陸し、ころころと坂道を登りだした。

警告を受けてから、言われるまま頭を低く進んでいくと、やがて野営地を発見した。


「 ‼‼‼」思わず息をのむ。口を押えて、その光景を凝視する。

根本から折れた巨大な木の麓に、そいつらはいた。


オーク。緑ゴリラの怪物たち。


服装は先程のと同じ、相変わらず裸に腰布。落ち着かない格好ではあるが、こちらはボディペイントをしているものが何匹もいる。


森の中にある開けた場所。その中心にある焚き火の回りには、むりやりはっつけたといわんばかりのパッチワークのテントがいくつも張られておりあたりには動物の死骸や骨が散乱している。

そして辺りには、何匹ものオークたちがたむろっていた。


その傍らに、後ろ手に縛られ地べたへと座らされている人影があった。

ウェーブがかすかにかかった金色の長髪を持った、二人の少女。片方は十代半ば、もう片方は十に届くかどうかと言うくらいか?金髪に碧眼の白人だ。


人間だ!俺は一瞬そう思ったが、間もなく違和感を覚える。

問題は一か所。

耳。その連中は、耳がとがっていた。


普通、あんなふうに人間の耳はとがってはいない。


「確認するけど、あれは人間と違うのか?」

「構造としては非常に似ていますが、別の種族に分類されます人間にない器官を複数有しており、生存能力としては人類より優れているといってもいいでしょう。特に脳の大きさと機能を見る限りでは、おそらくは同等かそれ以上の頭脳を持っていることは推測可能です」


そう。実に人間にそっくりだ。正直な話、耳が違う、というくらいしか差異は見つけられなかった。いや、彼女らも衣服をまとっているから、その中身は知らないが。


「案外他の宇宙人ってのも、みんな人間に似ているのか?」

「いいえ。地球型人間系ギアリィとみられる星人は、全体の中では3パーセントにも満ちません。」


あそう。じゃあ完全に偶然、そういうタイプの相手と遭遇してしまったというわけか。こいつによれば、だが。


人間に似た、女の子たち。その二人の少女が、連中にとらわれている。その事実は、俺にとっては嫌な事実だ。見捨てれば胸が痛むという事実で。


それに。なんというか、あの、耳の長くて金髪で整った顔立ち、というのは、非常に有れっぽい。オークにとらわれているのも込で。しかし、口にだすのもなあ。

「ちなみに対象の種族名はマスターの知能に合わせてエルフと仮称しますが、よろしいでしょうか」

「お前の翻訳が優秀で腹が立つよ」


エルフの少女をオーク達から助けるかどうか。

目の前の問題は少しだけシンプルになった。


「あの子たちを、どうするつもりだ」動揺しているせいか、うわずった声でそう尋ねる。


「その主語はオークたちが、でよろしかったでしょうか。……焚火のまわりに、複数の種族の骨が転がっています。あれらと先ほどの光線情報から鑑みるに、オークは極めて雑食性の強い生物です。食料として捕食される可能性は高い。捕獲されてから時間はたっていないようですので、おそらくは今晩か明日の朝までには食されるものと推察されます」


食われる。その言葉に、俺は動揺する。


「誰か、助けは……こないのか?」

「それは不定です。情報が足りません」

くそ、そりゃそうだ。つまり、自分が見たものを自分の目で考えるしかない。


二人はトーテムポールのように不気味な意匠の木の柱に括り付けられている。手首からは血が滲んでおり、相当強い力で拘束されているのがわかる。


血。そう。赤い血だ。彼女たちも、血の色は赤いんだ。

そうして先程の光景を思い出す。オークを殺した時のことを。


頭を吹き飛ばし、脳みそをぶちまけてやった。

奴らの血は緑色だった。気持ち悪いとは思ったが、可哀想だとは思わなかった。

彼女たちが食われて、俺はそう思えるか?


「……あの子たちを、助けられるか?」

「それはあのオークたちを殲滅し、彼女らを連れて逃亡するという解釈でよろしいでしょうか」


俺はコクリと頷いた。


「ああ」と言えればよかったんだが、一応「……いや、ちなみに、気づかれずにっていうのは?」と聞いておく。球体は一瞬ジェスチャで首を振られる。

「視認する限りでは、対象の足元に複数の怪我を確認できます。……逃走後にオークたちに気づかれたとして、この野営地にいる個体たちの追跡から生き残ることは困難と予測されます」


つまり助けて逃げ出すのは不可能。

助けるというのなら、連中をぶっ倒せってことか。


「敵の数は?テントの中には何匹いる?駆けつけてきそうな奴は?」

「周囲に反応はなし。群れとしてはまだ仲間がいることは間違いないですが、先ほどの殲滅した個体の雄叫びのおかげで向こうに出払っているようですね。

天幕の中にも熱源反応はなし。現在視認可能な五体で全てです」


よくそいつらと遭遇しなかったな、とぼやくと、遭遇しないように進みましたから、と球は言った。こいつまじ有能か。


「そんで。さっきの、腕輪の奴はあと何発撃てる?」

「残念ながら、あまり多くありません。起動させてから時間がたっていないのもあります。出力を調整し、オークに対して致命傷となるようにすれば、四発までは発射可能です」

四発。

よりにもよって、四発だ。

5-4=1。指をおって計算しても、小指は折れない。

どうやっても、一発足りないな。


いや。それだって、一発も外さなければ、という話だ。実際にやるとなれば、そう都合よくことが進むはずがない。


ちなみに他に武器機能はないかと尋ねたが、「ありません」とばっさり。そうなるか。


敵は強力。武器は足りない。そして助ける理由もない。

だとすれば。俺はーーー。


「教えてくれ。どうすれば俺はあいつらを倒せる。俺に、知恵を、貸してくれ」


改めて、俺は謎の球体に頭を下げる。


「すでに計算は完了しています。現状の情報分析によれば、成功率は67パーセントになります。三割ほどの確率でマスターは死亡します。それでもやりますか。なんのために?」


「男だからな。かわいい女の子は、放っておけないだろ」

「理解不能です」

球体はそう言って、沈黙する。


 そうだろう。今のはもちろんただの強がりだ。でも、そうでもしないと自分を奮い立たせられない。

七割ほどの成功率で、でも三割で死ぬ。悪くはない公算だが、普段死ぬ確率は一割もないのだ。危険というのはそういうことだろ。

七割だから良いってもんじゃない。


じゃあ、何のために?

なんのために。

そんなの俺にだってわからない。けれどもやるしかない。いまいち自分を納得させてやれる、うまい理屈は見つけられなかった。


でも、腹を決められた自分が、少しだけ誇らしい。


「―――しかし命令には従います。では、現在可能な作戦行動について説明したいと思います」


――――――


俺たちには時間がない。

「現在先ほどの個体を探して他の部隊が探索中ですが、発見すればその後の動きは不明です。最悪此方に戻ってくる可能性もある」


それまでにこいつらを始末し、逃げ出さないといけない。


だから、作戦の打ち合わせと手順を確認するすると、すぐに実行に移された。

「では、作戦行動を開始します」

その言葉に頷くと、俺は茂みを移動する。


注目するのは、一番外側にいる三体。

円を作って座り込んでいるそいつらに意識を集中する。

気づくなよ。頼むぞ。風上にならないよう、気配を辿られないようにと言われたルートを進んで敵の陣地を回りこみ、所定の位置につく。

するとすぐさま球体は動き出した。


「   !?」

三匹が立ち上がる。武器を手にとり、戦闘態勢に入る。


第一段階。

オークたちのキャンプに向かって球体が、斜面から転がっていく。


斜面側にいたオークは、自分たちの元に突然現れたそれに、反応する。


だが、それがただの球体だと判断すると、一気に警戒度数が下がる。声を上げるには至らない。そりゃそうだ。こいつらの文明レベルで、こんな鉄?の塊が動いたり喋ったりするなんて、思うはずもない。


だが、油断はしないようだ。

そのまま戸惑ったように、武器を構えたままそれを囲む。


それが突如として浮き上がると、動揺せざるを得ない。

そりゃそうだ。いまどき腰みのまいて槍で戦っている連中だ。生き物でもないそれが突然動き出し、ましてや自分たちの目の前で浮き上がるなんて、想像もつかないだろう。


浮き上がった球体は、そこからふわふわと森のほうへと動き出す。それに吸い寄せられるように、そのうちの二体、三体が追いかけてくる。


よし。かかった。


俺は茂みの中を進み、死角から近づいていく。

よし、これで射程圏に入った。

遠くから球体を眺めている個体に、茂みから照準をつける。


もう一つの問題は、ここからだ。あの光を、ぶっ放せるかどうか。

使い方は一応レクチャーされている。


---拳を握りしめ、そこから動かないまま拳を打ち出すイメージを持つ。


先ほどはやむなく球体がリモートコントロールしたが、実際は撃つのは所有者の意思。

精神によってうち放たれる、光の弾丸。エーテルショット。


行け!おれはありったけの闘争心を視線に載せて、拳を突き出す。


だが、出ない。もし外したら。俺にできるのか。奴らが



そんな葛藤が、俺の迷いのせいか、隠れていた茂みが揺れる。

そこで俺は、殺そうとしているオークと目があった。


やばい。こちらを認めた相手の眼筋が収縮した。

見つかった。高速で回転する脳によって、スローモーションで相手がこちらへと体を向けようとしているのが、俺には見えた。


思わず声が漏れそうになる。


来るな。


そんな思いを漏らして突き出した右手は、ついに発動した。

腕輪が一瞬の煌きを放ち、光の弾丸を発射する。


瞬きの間。


内臓をぶちまけながらオークは即死。

その反応に気づいたもう一匹が、声を上げると同時に、もう一匹への狙いをつける。

発射。


相手はこちらの攻撃方法に反応する間もなく、体の半分をごっそり撃ち抜かれる。

二発で二匹。悪くないペースだ。だが、それで相手はすでに警戒態勢をとった。武器を手に取り、こちらへと投げつけてきた。


俺は茂みから飛び出し、陣地の中に入り込む。

オークが声を上げた。別のオークが向かってくるのが見えた。もう一匹も、動き出しただろう。


俺は素早く火を挟むようにして、二匹から対角線上にいちどる。


槍をかまえつつ、こちらを囲もうとしてくる。

上等だ。俺は高鳴る心臓の赴くまま、動き続ける。


そして、オークのすぐ後ろで、大声があげられる。オークによる大声だ。

しかしそれは仲間の声じゃない。罠だ。


発生源は、球体から。先ほど俺を見つけたオークの声だ。音声解析のためということで、録音してあったらしい。


敵がいるぞ。こっちにこい。そんな感じの意味らしい音声を聞いた連中は思わず背後へと気をそらした。

その隙をついて、俺はエーテルショット。

さらにもう二体のオークを葬ることに成功する。


これで、四体。

球体による攪乱と、エーテルショットによる各個撃破。

基本はきわめてシンプルな作戦だ。球大による予想外の動きや音と、俺の武器を使った一

撃必殺を活かした作戦。ここまでは成功した。四体のオークを倒すことに成功した。


だが、最後の一体。一匹だけ外れた場所にいたこいつには、もはや射撃は通用しない。

要は弾切れだ。


そんな相手を前に、おれがどうしたか。


俺は踵を返して、逃げ出す。山の斜面に向かって。先ほどまでいた茂みに向かって。

こちらが不利と見るや否や、相手はそのまま怒りの声を上げながら、追ってきた。

心臓がバクバクする。呼吸がめちゃくちゃで、肺が爆発しそうだ。


「かかったな」


俺は悪役が言いそうなセリフを、悪役面でいいはなつ。丁度それから数秒後、突如オークが足を転げて、地べたに体をたたきつける。


仕掛けは簡単。木の後ろに隠れていた球体が、仕掛けてあったワイヤーを足に引っ掛けたのだ。攻撃用の機能ではないとはいえ、荷重200kgまで耐えられるというそのワイヤーを使って、足をひっかける罠が生まれた。


ダメージは大したことない。そのおかげでできたチャンスこそ、俺の武器だ。

俺はきびすを返して、斜面を駆け下りる。


背中を向けて起き上がろうとする相手に向けて、俺はあらかじめ木の影に立てかけておいた、最初に遭遇した時に頂いたオークの槍を、突き刺しにいく。


速度と体重が乗った一撃。コイツをぶっさす。


ここまでは、うまく言っていた。うまく行き過ぎていた。


だから俺が調子に乗ったのも、無理からぬことだ。


背中は、骨に覆われていないため刃が通りやすい場所。肩甲骨よりも下の部分に当てて、ぐりぐりとえぐるよう回せ。

そういわれていたはずのとどめの一撃は、しかしその頭部へと刃を向けていた。


くたばれ。俺のどこにあったのかわからない、闘争心とやらが暴走していた。


「いけません」ビー、と球体が音を鳴らしながら制止させようとする。


だが、頭に血が上っている俺にはそんな声は聞こえない。

此方を睨みつける顔面めがけて槍を放つ。

その穂先は、相手の頭部に飲み込まれた。


そう。飲み込まれたのだ。


そいつは顔を上げて、なんと槍を歯で受け止めてしまったのだ。

ぎりぎり、と刃をかみしめるオークを前に、俺は一歩も動けない。


そうしてやがて、気がつけば刃はぽきりとおられていた。なんだと。


あ、やばい。失敗した。


血の気が引いたのが分かった。刃のなくなった槍を持て立ち尽くす俺の前に、オークは立ち上がる。


そうして、歯の間に挟んだ槍の刃を、こちらへと投げつけてきた。


今度は俺が地べたを転げる番だった。胸元を刃がかすり、熱を持つ。

とっさに傷口を抑えつつ、俺は必死に転がる。

俺は絶望的な気分で、走り回る。


オークが雄たけびをあげて、追いかけてくる。仲間を呼んでいる。だがそれ以上に、プレッシャーがかかる。やばい。本当にやばい。


「やばいやばいやばい」小声でつぶやく。


オークに背を向け全速力で逃げ出そう焦る俺は、しかし、柱に括り付けられた二人をみて、その足を止める。


二人は突然現れた俺の姿に驚きつつ、俺を目を見張って見つめている。

その濡れた瞳の中、俺は見てしまった。

かすかに滲んだ希望の光。それを。


だめだ。逃げちゃだめだ。冗談とかパロネタとかじゃなく、逃げちゃダメだろこれは。


この子たちの命がかかっている。その事実が体にのしかかり、俺の足をかろうじてそこにつなぎとめた。


体格的には勝ち目はない。だが、やるしかない。


俺はとりあえず、その場に落ちていた山刀らしきものを、少女たちに投げ渡す。転がったそれに視線をよこしてから、年上の少女と目があう。俺はコクリとうなずく。

少女はすぐさま足をつかってそれを引き寄せようとし始めた。



そうだ。それでいい。せめて彼女たちは、助けなければ。

俺は焚き火を挟んで、敵と対峙する。


この炎。こいつを挟んでいる限りは、距離がつめられることはない。相手の動きに合わせて逆方向に動けばいいのだ。バターになるまで回ってやる。

長く持たないのはわかっている。時間を稼ぎながら、球体に助けを求める。それしかないだろう。


だが、そんな簡単な目論見を相手はやすやすと打ち破る。相手は炎を一気に飛び越えてきた。


まじかよ。顔をひきつらせながら背後に下がろうとするが、それが失敗だった。


下がる動きより、前に出る動きのほうが距離は上。

相手は一気に踏み込んできて、気が付けば俺はオークに組み伏せられていた。


やべえ。とっさに手にしたオークの槍を相手の顔面へと突き刺そうとする。相手は再び、顎で受け止めようとする。


同じ手は食うかよ。俺はひねるようにして槍の軌道を下げて、顎の下へと槍を突き立てた。

オークは苦痛の声を漏らす。


だが、浅い。角度が悪かったせいで、脳天まで突き抜けることなく、斜めに貫通してしまった。これじゃあ、動かされると抜ける。マウントを取られている状況は変わらない。


おまけに、突き刺した槍の柄を相手は握ってきた。槍がぎしぎしと悲鳴を上げている。相手の馬鹿力で、コイツがへし折られるのは時間の問題だろう。


やべえ。詰んだ。


身動きが取れず逆転の手段がない現状は、そう言い表すにふさわしいだろう。


死ぬ。このままだと、殺される。


俺がその現実に突き当たることに、時間はかからなかった。

「   !!!」別のオークの声に、ビクリとする俺。

新手、ではない。

球体がオークの背後へと浮き上がり、先ほどのオークたちの声を上げる。気をそらそうとしてくれている。


だが、相手は俺から目を離さずに、腰に刺してあった山刀を背後に振るう。投擲された武器が当たり、球体はごとん、と地面に落ちてしまう。

同じ手は通用しないのか。


もうだめか。俺は今度こそ絶望しそうになる。すでに相手の吐息がはっきりわかるほど接近されている。唾液が顔に滴り落ちる。悪臭がむわりと鼻に入り込んでくる。

獣の匂い。死の匂い。


食われる。食われるのか、俺は。


「  !」

それは、オークではないものの声。

声の主は、つい先程まで囚われていた少女。


いつの間にか、高速から抜け出した長耳の少女が、その背後に立っていた。

両腕からはひどい血が滲んでいる。


ぼろぼろの立ち姿。華奢な体で気勢を上げているのがわかるが、だがそれが何になる。

小さな少女に、コイツは倒せない。

逃げろ。俺はそう伝えようと口をパクパクとさせるが、彼女の凛とした瞳は動かない。

彼女は俺と同じように、両手を突き出し、何かを唱えていた。


その声に呼応するように、空間に変化が起きた。

少女の手の先、掌から突如として幾何学的な紋様が現れ、彼女の前に広がっていった。なんだ、何が起こっている。


「    。    ……    !!」


そうして光の円陣から放たれたのは---氷。


いくつもの氷柱が、まるで見えない幕の向こうから投げつけられたかのように、宙に浮んだ魔法陣から飛び出してきたのだ。それはまるで吸い込まれるかのように、オークの背中へと突き刺さっていく。


 オークの動きが突如強直し、此方の体を締め付ける力が一瞬強まると、やがてくたりと力が抜けていく。そうしてだらり、とそいつは力を失い、倒れこんできた。


「   、   ……」


そして氷の刃が放たれた元。そこには、少女が木の棒を構えて立ち尽くしてた。


「……今の、なんだよ」


大きく肩を上下させながら、茫然と俺はつぶやく。


俺はオークの遺体をのけて、立ち上がる。


そうして相手と向き合う。一体何をしたのかと。お前は一体誰だと、疑問がぐるぐると回る。だがそんな言葉を発することなく、俺は気がつけば地面に膝をつく。


駄目だ。どうやら俺の体はもう限界らしい。意識が白濁としていく中、俺はふと思った。


ああ、そういえば。


エルフってやつは、魔法が得意って相場が決まっていたな。


俺はそんなことを思いながら、意識を失っていった。

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