うちのコンビニにも彼女が置かれるようになった。

@masahiro

非日常に埋もれる日常。

 自動ドアが開くと、コーヒー機の隣に、五人の「彼女」がつぶらな瞳で今か今かと購入を待っていた。全員、特別綺麗な顔立ちではないけれど、不細工というわけでもない。

 ついに僕のバイト先のコンビニにも、「彼女」が置かれる日が来るとは。このご時世だし、いつかは来ると思っていたけど。さて、いつ買われるのだろうか。

 案外、全く売れなかったりして。そう呟いたら。

 もしそうなったらいよいよ世も末だねぇ。店長が顎の肉を揺らして笑った。

 しかし僕の予想は見事に外れて、五人のうち四人はすぐに購入された。最後に残った一人は一週間ずっとそこで微笑んでいた。

 さらに一週間経って。店長は、こりゃもう売れないねぇ、と腕を組んだ。

 僕は壁際でぽつんと立ち尽くす「彼女」に目を向けた。横顔に期限切れの笑顔が張り付いている。哀愁、という言葉をふいに思い出した。

 その後の事をよく覚えていない。

 気がついたら六畳半の自宅で「彼女」と向き合って正座をしていた。

 何となく恥ずかしい。簡単に自己紹介を済ませた後、料理を作って貰った。

 白米、味噌汁、肉じゃが。どれも美味しかった。味付けも悪くない。ちょっと濃いかなと思ったけど。それは少しずつ僕の好みを教えていけば良いかと思う。

 風呂を済ませて、僕と「彼女」は布団に寝転がる。布団は一つで、二人で使う。すぐ隣で僕を見つめる「彼女」。ちょっと狭い、けどそれもいいかな。

 おやすみ。

 そう言いながら、頭を撫でてあげた。ゆっくりと、「彼女」の長い上下のまつげが合わさった。

 僕は「彼女」の頬に手を伸ばす。

 金属の塊を包んだシリコンは、本物の人間の頬の柔らかさを再現していた。ただ、その体表は酷く冷たい。

 世界から「女性」が消滅して早三年。こんな未来が来るとは思ってもなかった。

 世界中の男は嘆き、悲しんだ。どうやら人類は僕らの世代で終焉を迎えるみたいだ。

 しかし子孫云々は置いておいて、それでもやはり男性は女性を求めた。女性の形をした様々なモノが作られた。コンビニに「彼女」が置かれるようになった頃にはすでに「そういう」類いのモノが世に溢れていた。売れ残ってしまうほどに。

 そんな世界は案外平穏だ。世界の男はこのまま滅ぶ事を受けいれたのか、毎日は何事も無く潰れていく。男らしくないな、と思う。それじゃ滅んで当然だ。


 最近、よく考える。僕らは異性を求めているのではなく、愛を求めているのかもしれない。そして、作り物の愛で、満足してしまっているのかもしれない。コンビニで、買えるのだ。愛が、すぐそこで。

 愛が溢れる夢の世界。それは今日も、機械のハリボテで成り立っている。

 おやすみ。

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