第2話 ランカーの実力を見せてやる!


 大量に転がるワームの死骸を避け、ひた走る。シアン避難シェルターまでの距離は……シアンで確信したところ、後1時間も走れば辿り着く。

 そりゃあ、海獣の撃退・殲滅が任務なんだろうけども……戦場で民間人を放置って、酷いよねぇ。


 息を切らしながら必死に走る。

 こんなとこで止まりたくないし、海獣がでてくることを想定すれば暢気に歩いてなんかいられない。


 中年の体力を舐めないで欲しい。

 体中が汗だくで、今にも倒れてしまいそうだ。目の前がチカチカ光って、真っ白になったりもしている。





 どれだけ走ったのか、あぁクソッ。酒飲みてぇ。ガンガンにクーラーを利かせた部屋で寝転がってのんびりしたよなぁもう。

 たく、いっそのこと海神でも落ちてりゃあいいのに――――



「………嘘、でしょ」


 口から漏れた言葉は、目の前の光景を否定して欲しい、というものだった。

 

「なんで、なんで中型――アギオンがいるんだよぉ……」


 10mを平然と越える巨体。

 胴体が丸く、手足の代わりに4本のヒレが飛び出ている。

 爬虫類のような顔つき。

 二股に分かれた尻尾。


 下手な大型よりも強いと言わしめる、最強の中型。



 アギオンが――避難シェルターを破壊していた。

 巨体を揺さぶり、地面を砕く。

 口元に集めた水を吐き出し、コンクリをバターナイフの如く切り裂く。かと思えば、ヒレの周囲に水球が浮かび上がり周辺を爆撃する。爆撃された範囲にあったはずの民家が跡が残さずに消し飛ばされた。



 最悪な展開だ。あの場にいた奴らは、助からないだろう。

 

 何のために走ってきたのだ――そう思った瞬間、体から力が抜け地面にストン、と膝をつく。

 もうこれ以上は走れそうにない。運動不足を自覚している中年の体力がどれだけ低いのか、こんなところで知るはめになろうとは……人生とは不思議なものだ。



 大きく息をすって、吐く。

 それを数度繰り返し、息を落ち着かせる。

 ワームが近くに居ないのはありがたいが、次のシェルターに辿り着ける体力はないし、仮に辿り着けたとしても――無事な保証はない。


 なにせ、逃げ込むはずだったシェルターが、目の前で破壊されているのだ。この光景を見て、別のシェルターが安全だとは到底思えない。



 絶望に浸っていると、彼らが来た。

 見覚えのある紫の海神、その後を追うデフォルトの海神――アルファ小隊と呼ばれていた彼らだ。



 しかし、俺はまったくもって期待してなかった。

 海神は所詮、小型を相手取るための機体だ。中隊規模でなら勝てるだろうが……1小隊程度では話にもならない。

 

 いったい、どうするつもりだと言うのか――――








『あれが中型かぁ――突っ込むぞ!』

『だあああああ馬鹿かアルファ1! 隊長に命令されていただろう! 僕たちは牽制役だ、仮にも小隊長なら上官の命令を聞けって!』


 中型の海獣――アギオンの上空で滞空しつつ通信を交わしている。

 人型ではあるが、脚部と背中に取り付けられたブースターが飛行を可能としている。


『いやいや! お前俺の部下じゃん? なら上官の命令を聞いとけって!』

『残念ながら、あなたよりも上位の命令だ』

『つっても、あれをあのまま放置したら被害が凄いことにならねぇか?』


 ディスプレイを拡大し、アルファ2に送る。

 シェルターを破壊し、そこら中に暴虐の限りを尽くすアギオンが映されたディスプレイを見ても、アルファ2の意見は変わらなかった。


『馬鹿ですか。あんな巨体相手に海神で何ができるんですか? 素直に援軍を待ちますよ』

『わかったわかった。上空からミサイルとライフルで牽制する』

『アルファ2了解』


 それならば危険は少ないし、牽制は元々任務内容に含まれている。


『いくぞおらああああああ!』

『単機で突っ込むな馬鹿!』


 アルファ1が空中からミサイルの残量を気にせずばら撒きながら突撃していく。アギオンが飛ばしてくる水球をアサルトライフルで撃ち落しながら高速で近づいていく――――



『ボオオオオオオオオッ』


 汽笛のような鳴き声――それが聞こえた瞬間、すべてのミサイルは爆破した。


『……うおい、ミサイル利かないのかよ』


 主力兵装の一つが封じられたのと同義だった。

 射出される水球には限りがないのか、常に10前後の数が浮かび上がっている。一つ一つはそれほど大きくない。つっても1mはあるだろうが。



『アルファ1! そこを離れてください!』


 アサルトライフルで高速で飛んでくる水球を撃ち落しながら、時折アギオン本体にも銃弾を撃ち込んでいたアルファ1は気付いていなかった。

 遠距離から支援に徹していたアルファ2だから気付けた。アルファ1に迫る水球を撃ち抜きながら撤退を再度促した。


『早くそこから逃げ――』

『チッ、わかったよ。そんなにおこ――――』


 直後、それは起きた。

 高速機動をしているアルファ1の機体を――真っ二つにする水の線。

 一瞬の出来事だが、ディスプレイに明確に表示された。


 アルファ1の生命反応もロストしている。

 脳が理解を拒否した。

 赤く表示されたロスト表記。助からない。いや、すでに死んでいる。


『――くっ』


 機体を翻し即座に撤退を試みる。距離を取っていたおかげか、そこまで追撃がくることはなかった。


『マクス1! 聞こえていますかマクス1!』


 ノイズが走ったあと、声が聞こえてくる。


『どうしたアルファ2? 何を慌てている?』

『アルファ1が墜ちました……』

『――詳しく話せ』

『………アルファ小隊2機で中型――アギオンと遭遇し牽制及び妨害に出ました。その際、増援を要請しました』

『増援……? いやいい、続けろ』


 マクス1の少しばかり戸惑った雰囲気が、ディスプレイ越しに伝わってくる。

 

『はい。アルファ1がフォワードを務め、私がサポートに回りました』

『ふむ、いつも通りの陣形だな』

『こちらに注意を惹きつけることに成功し、増援が来るまで粘るつもりだったのですが……くっ』

『そうか、報告ご苦労。本作戦中はエイシス1の直援につけ』

『はっ』


 通信が切れたことを確認し、呟く。


『……そんなものを要請された覚えはないぞ』


 通信エラーか?

 それとも、なにかしらのバグが発生したのか? 

 ……考えたくはないことだが、誰かが途中で止めたか?


『ここで考えても仕方ない、か』


 アルファ、エイシス、両小隊にオープン回線を開く。


『近場のワームを片付け次第、ポイント72に向かえ。アギオンを狩るぞ』

『アルファ2了解!』

『エイシス1了解です』

『アルファ2、奴の戦闘データを送れ』

『――――送りました』


 ディスプレイに戦闘動画が流れ始める。

 ……奴の戦闘パターンは遠距離が基本か、水の高圧縮線が厄介だ。水球に気を取られたら――一撃で墜とされる。


『感謝する。アルファ2、足の遅いお嬢様をしっかりエスコートしてくれよ?』

『えぇ、任せてください。次は墜とさせはしません』

『え? なんの話してるんです? 厚樹さんがいないみたいですけど?』

『――――っ』

『あー……あいつは死んだ。それと、アルファ1と呼べ』

『えぇ!? あの人が死んだって……あれでも、うちのエースじゃないですか!』


 エース。それがあっさり墜とされた。それは衝撃的なことだ。隊全体に及ぶ影響を考えれば頭が痛くなる。マクス1が眉間を揉み解す。


『その話は作戦が終わってからだ。エイシス1、お前の機体が今回のキーパーソンになる』

『いやいやいや! 無理ですって! 私、これが初の出撃ですよ? 普通に死にますって!』

『安心しろ。僕が全力で君を守ろう』

『そういうことは雰囲気のいい場所で言って欲しいです!』

『我侭言ってないで早く来てくれよ? 俺は先にいく』


 片手をあげて、加速する。

 ついでにオープン回線を閉じる。


『さて、俺1人でどこまでできるかな』


 見えてきた海獣――アギオンに照準を合わせる。

 ヒレ4つ、胴体、頭部、尻尾2つ。すべてに照準が終わるのを確認し――発射する。と同時に全力で加速する、アギオンに向けて。

 発射されたミサイルを追うようにして近づく――――


『いやっはああああああっ。スペシャルディナーのお時間だぜえええええ』

『ボオオオオオオオオッ』


 予想通り吠えた。低い重低音をそこら中に撒き散らせ、ミサイルが爆発していく。


『これでも食っとけやあああああ』


 ブワッ、と爆発の煙からマクス1の海神が飛び出してくる。その両手にはアサルトライフルが片手に一つずつ握られている。ぶつかる直前まで突っ込んでいき、トリガーを絞る。


 煌く閃光。鳴り響く銃声。2丁のアサルトライフルによってもたらされる銃弾の雨。


『ボォォオオオオオオ』


 体中を削られ、血を流し、なんとか逃れようと水球を張り巡らせるが、圧倒的な火力の前には意味がなく。

 悲鳴をあげながらのた打ち回っている。

 あまり長く近くに居ても、いつ水球または水の圧縮線を飛ばされるかわからない。


『たらふく食ってもらえて嬉しいぜ』


 それだけ言うと、勢いのままに真横を通り過ぎる。

 追いかけてくる水球はミサイルをばら撒き相殺していく。


 ミサイルが壊されるといっても、水球が飛んでくるタイミングにあわせて、吠える、なんて器用な真似はできないようだ。



『ボオオオオオオオオオオオオオッ』

『満腹になって運動がしたいってか? はっ、付き合ってやるつもりはねぇな』


 加速した速度に、加速用のペダルを踏み込む。

 このままの速度では危険だと、本能が告げている。


『――――――ぐあっ』


 今までとは比べ物にならない慣性重力が体を襲う。かなりの負荷が掛かっている、喚くほどの余裕はない。

 全身を押しつぶそうとする重力に耐えながら、アギオンが映ったディスプレイを表示させる。



『ボオオオオ!』


 嫌な予感は当たっていた。

 アギオンが吠えると――ヒレから大量の水を生み出していく。体が萎んでいくことを考えれば、生み出しているのではなく、あの丸い体に溜めていたのだろう。


『何をしようってんだ?』


 迂闊に近づくのは危険だ。

 態々距離を取ったのだ、お嬢さんが到着するまで、遠距離から遊んでいるのがいい。下手に近づけば、あの水で何かをされそうだ。


『……ん? あの水、なんであそこで留まってやがる……』


 細くなったアギオンを中心として、渦を巻いている。

 しかし、丸かった体が細くなり、蛇のような体付きになった。昔の伝承にいたという龍のように見える。


『嫌な気しか……――うお!?』


 渦から発生した小さな渦が、襲ってきた。

 うねりながら、途中にあるものを呑み込み迫ってくる。


『くっそがああああ』


 ――――ダダン、ダダン、ダダン

 2丁のアサルトライフルが火をふく。しかし、すべての弾薬は渦へと呑みこまれ消えてしまう。

 そこまで速くはないのだが、3本の渦が逃げ場をなくすようにして動いている。


『チッ、厄介だな……』


 空に居ては逃げ切れないと判断し、地面に着地する――水球が飛んできた! ブースターを噴かせ、無理やり後ろに飛ぶ。そこを渦が追撃してくる――


『こりゃあ、1人で戦えねぇわ――』


 ミサイルをばら撒き水球を蹴散らし、渦同士の隙間を抜ける。

 地面に着いてからの無理な機動であちこちにガタがきている。これ以上の戦闘は厳しい。更にいえば、先の渦を無理やり抜けるため両腕ごとアサルトライフルをもってかれた。ミサイルの弾薬も1割残ってない。




『データは揃った。後はエイシス1に任せるとしようか』


 そう呟いた後、推進剤の残量を気にせず盛大なバックジャンプを実行する。


 離れた位置まで後退できた。

 奴とて、ここまでは追ってこない。かなりの距離をバックジャンプで稼いだ。



 オープン回線開き、呟く。


『お嬢様はまだかね? おじさん、そろそろ限界よ?』

『こちらアルファ2。すでに到達しています。しかし、マクス1が戦闘中のため迂闊に入ることができませんでした』

『うおい! いんなら通信送ってこいよ! おじさん死にかけたからね?』

『その結果、つまらないミスをされても困りますので――我らがレディは集団戦を得意としませんので。ミンチがご希望なら、すぐにでも送りましたが?』

『あー、そいつは困るな。おじさん、まだ死にたくないし』

『――――さっきから聞いてれば……! 仕方ないでしょ! ケートスは海神みたいな汎用機じゃないんだよっ』

『知ってますよ、レディ。マクス1、戦闘は可能ですか?』

『近くにいんなら、見たろ? 両腕やられてブースターもガタガタ。そもそも機体がこれ以上持ちそうにねぇ』

『了解。アルファ2及びエイシス1、これよりアギオンとの戦闘に入ります』

『おー了解、了解。お嬢様を守ってやれよ』

『うう、守られなくても戦えますよ! そこで観ててくださいね!』


 ピッ

 回線が切られた。どうやら、結構怒っているらしい。アルファ2のフォローに期待するとしよう。










『エイシス1、戦闘に入る際、遠距離攻撃に気をつけてください』

「わかってますよ。でもでも、ミサイルいーっぱい詰め込んできました!」


 遠距離戦を補うため、大量のミサイルを積んだ歪な機体。ただでさえでかい機体なのに、多量のミサイルを積んだ結果、かなり歪な見た目になってしまったのだ。


「それに私、これでもランカーですよ?」

『えぇ知ってます。確か4位でしたよね』

「おおっ、よく知ってますね!」


 隊の皆には話したことないんだけど、なんで知ってるんだろう?


『隊では有名でしたよ? 無理して大人っぽいキャラを演じてるって』

「わきゃああああ!? なななななんで知ってるんですかあああああああ??」


 なんで知ってるの!? 

 大人っぽく振舞ってるの知られたくなくて誰にも言ってないんだよ?


『あ、アギオンが見えました。水球はなるべく僕が撃ち抜きます。あなたは――前だけを目指してください』

「う、うーっ! あとで問い詰めるからね!」


 あ、消えた。うぅ……あとで覚えてろ……。


 ――――ピピピッ


 警戒音とともに赤いディスプレイがつく。いくつもの水球がこちらに向かって飛んできている!


「むぅ。その程度の攻撃でっ! 私が怯むとでもおもってんのかーっ!」


 ペダルを踏み込み、両手に握ったレバーを全力で前に倒す。背中に取り付けられた3つのブースターが推進剤を燃やし、爆発的な速度で加速する。

 大半の水球はアルファ2の射撃によって撃ち墜される。しかし、撃ち墜せなく残った水球が被弾するが、加速したケートスの前では然したるダメージではない。


「――――直線だけならっ速いんだよーっ!」

『ボオオ!?』


 ――ガンッ

 重たい衝撃が走り、機体を揺らす。

 勢いのままに押し出していく。アギオンを盾に、何度も建物にぶつかっていき貫通させる。


「どうよ!」

『油断しないでください。までアギオンは生きています!』

「知ってるわよ。でもさぁ、もう第二形態だし。わりと楽に勝てる――――」


 ――――ピピッピピッピピッ


「な、なにこのアラート?」

『エイシス1! すぐに逃げてください! 先ほど、マクス1を襲った渦が戻ってきました! それと、水球の数が100を超えて――――」


 一際大きなノイズが走ったあと、ディスプレイには何も映っていなかった。


「アルファ2!? どうしたのアルファ2――――」


 どうしたの? と叫ぼうとして、固まってしまった。

 周囲に浮かぶ大量の水球、3本の渦、これはまずったかもしれない。


『ボオボオオ!』

「――――くっ」


 高速で飛んでくる水球に弾き飛ばされる。

 前面ではなく、背面から というのが痛い。これでは耐えることも防ぐことも――――いや、手段がないわけじゃない!


「なめるなあああああああ」


 全箇所のミサイルポッドを開く。

 生きるか死ぬかの瀬戸際だ、豪勢に振舞ってやろうじゃないの!!!


 荒々しく発射ボタンを叩く。

 水球とぶつかり合い相殺されていく。

 だが、完全に相殺するには距離も足らない数も足らない。


「――――きゃああああっ」


 大量の水球、渦がケートスに被弾する。

 渦で装甲は剥ぎ取られ、水球で機体が激しく揺らされる。

 ――これじゃあ、私が先に潰れる……!


「なん、とか……しないと……」


 辛うじて残った脚部の格納部からハンマーを取り出す。

 この場でアギオンと戦えるのは私だけだ。皆やられちゃった……。このまま私がやられちゃえば、この街を守れる人がいなくなっちゃう……!


「ああああああああああっ」


 レバーを握る手に力を込めて、ハンマーを振るう。飛んでくる水球を弾き飛ばし、こちらを削ろうとする渦とぶつかり合う。

 ハンマーと3本の渦が拮抗し、ケートスの脚部から伝わる衝撃で地面がえぐれる。


「負けないっ、負けられないんだっ」














 時は少し遡る。



「こんな場所でドンパチしないでくれないかなぁ」


 守ってくれるのはありがたいけど、こんな場所で戦われると逃げられない。さっきから流れ弾が飛んできて迂闊に動くこともできない。


「別のシェルターになんかいけそうにないしねぇ……」


 どうしようかなぁ。

 逃げ出したいのだが……。

 まったく手段が浮かばない。


「――――ん? んぅ!?」


 こっちに向かって突っ込んでくる――海神! なんで?

 全力で走る。ガクガクする足に活を入れ走る。


「な、何でこんなにはしらなぁいかんのよぉおおお」


 叫んだところで状況が変わるわけでもない。死にたくなかった走るしかないと、気合で走る。


 盛大に火花を散らし、多くの民家を巻き込んでようやく止まった。


「――――っ、死に、そう……」


 今度ばかりは体力が尽きた! 

 もうこれ以上は走れないっ。走りたくないぞ!


 地面に寝転がり、空を仰ぐ。

 



「はあぁ、死ぬかと思ったぁ」


 息が整い、ようやく立ち上がれた。

 いったい誰がこんな迷惑なことを?


 墜落してきた海神の元まで歩いていく。



 外部から開けられるレバーを回――回し……かったっ! なんだこれ? 開かないんだけど!?

 必死こいて開けた。自分にこんなパワーがあったのかと驚くくらい全力で開けた。


 プシュー、とどこか気の抜けた音が響く。


「おーい、誰が入ってんの? 返事して……くれ……ない、かなぁ……」


 うわぁ、悲惨だねぇ。

 墜落の衝撃に耐えられなかったのか、あるいは何かをされたのか……。機体に外傷はないし、数発もらってパイロットが気絶、そっから墜落して――ってところか。


 しかし、目の前に念願の機体がある。持ち主は死んでる。……これはもう乗るっきゃないでしょ!?

 死体を丁寧に降ろし、民家の下にでも寝かせとく。

 どうせ誰かが回収にくるでしょ。



 刺さっていたエンジンキーを、ゆっくり回した。

 ディスプレイが点灯し、操作系の場所が光り始める。


「うお……マジで、同じなんだ……」


 あちこち弄ってみるが、オケアノス・ライドと完璧に同じだ。


「これなら……!」


 両手に握ったレバーを動かし、機体を起き上がらせる。

 重たい感触とともに体に掛かる負荷――本当に動いている! 動いているんだ! 

 

 ――ピピッ


『こちらマクス1、いったいどうなっている? 返事をしろアルファ2、アルファ2!』


 渋い顔のおっさんがディスプレイに映り吠えている。見た感じ40代後半ってところか。……しかし、オールバックに無精髭か……。かっけぇな。


「あぁなんだ、そのアルファ2って奴は死んだ、たぶん」

『――誰だ貴様』


 そんな怖い顔で見ないで欲しい。俺の弱い心臓がぽっくりとまっちゃうよ? ただでさえ生活習慣病が気になる年だってのに……。


「通りすがりの民間人」

『正気で言っているのだろうな?』

「正気も正気、俺はただのおっさんですよお?」

『軍の機体を勝手に動かしておいてぬけぬけと――――まぁいい。貴様、こちらからはそっちの状況がわからない。ケートスの戦闘情報を送ってくれ』


 これって拒否権あんの? あるなら使いたいんだけど……。


「あいあい……ちーっと待ってねぇ……あぁこれか……ずいぶんと劣勢だねぇ」

『――――くっ。貴様、海神に乗った経験は?」

「ないよ?」

『……その機体で銃を撃つことくらいはできるか?』

「できるねぇ」


 乗ったことはなくてもゲームと同じだし。俺ように改造はされてないけど、海神だしねぇ。これなら多少は強いんじゃないかなぁ。言わないけどね。


『ならばケートスの援護に向かってくれ。――あぁ、その機体に無断で乗ったことはそれでチャラにしてやる』

「脅しなんて怖いことしないで欲しいなぁ」

『貴様の戦果に期待する』


 ――ブッ。ディスプレイが消える。


「勝手に期待されても困るんだけどねぇ……」


 まぁ、乗らせてくれるってことだし。おじさん頑張っちゃうよ。

 残弾は……6割あるんだ。十分。推進剤は……5割か、結構使うんだけどなぁ。まぁなんとかしよう。機体のダメージは……胴体がちとやばいくらいかな? 近距離で殴りあいでもしなきゃ平気だあね。



「じゃあ、行ってみようか!」


 ブースターを噴かせ、空に舞い上がる。急いでいくなら空を行ったほうが速い。せっかくの飛行用ブースターが付いてるんだ、使わないのはもったいない。



「ひゃっほー!」


 高速で目標地点に近づいていく。肌に感じる慣性重力はゲームの時と同じもの。これなら――――まだ、まだ――まだ、加速できる!


 遮るもののない空!

 これが、これが空というものなのか!

 確かにこれは感動だ。

 空に憧れる気持ちってのを理解できる。それを海神で飛べるなんて、幸せすぎて気絶しそう……。



 ――ピン


 唐突に拡大されたディスプレイに――驚愕した。

 めちゃくちゃ見覚えのあるケートス(改造)が中型海獣――アギオンにフルボッコにされていた。


「マジでぇ……?」


 流石に顔見知りだったら後味が悪い。

 助けられるなら助けとこう。


「あ、ハンマーで渦と……力比べし始めたなぁ……」


 いったい、なにしてるんだろう……、水球ばかばか当たってるよ……。あれって、ゲームなら海神を一撃で沈める威力はあるんだよ? なんで耐えてるの? 重装甲のケートスでも数発が限度でしょうに。


「仕方ないなぁ――――」


 加速しながら水球を撃ち抜く。うん、飛行ブースター久しぶりに使ったけど、案外どうにかなるもんだねぇ。


 ――ピン


『アルファ2、生きていたんですか!?』

「残念、俺はアルファ2じゃねぇのよ」

『じゃあ誰ですか!?』


 あ、なんかすっごい子供っぽい。少なくともディスプレイに映ってるようなロリじゃなくて、もっと大人っぽいお姉さまキャラだったよ?


「うーん。ヒント、今朝は楽しかったねぇ」

『それで分かれと!?』


 あ、この娘、からかったら面白い。

 MISAはお嬢様みたいな喋り方だったのに、この娘は……なんというか、子供っぽい。


「えぇ? ――あ、ちょっとしゃがんで」

『この状況で!? 無理です――』


 ――――タンッタタンッタタタンッ

 渇いた銃声。

 ケートスに迫っていた10の水球が破裂する。


「おー、しゃがめるじゃない」

『あなっあなたっ! 今、しゃが、しゃがむ前に撃った! 撃ったよねえ!?』


 体制を崩しながらも渦を跳ね返し、しゃがんでみせた。全国4位は伊達じゃないのだろう。


 逆噴射で速度を緩め、ケートスから少し離れた位置に着地する。――おっと、推進剤が3割切った。ちょっと盛大に噴かしすぎたかなぁ。まあ、間に合ったしね? 結果オーライでしょ。


「水球は全部こっちで対処するけど、渦は任せていい?」

『――はあっ! わかった。後で誰か教えないよ!』


 ボロボロになったケートスを見る限り、ミサイルは使えなさそう。そして俺が知っているMISAなら、他に遠距離武装は積んでいない。

 となると、自然俺が水球を担当するしかない。

 

 MISAが渦を壊し、アギオン本体を叩くまで水球を壊し続けるしかない。


「……あれ? なんでブースター使わないの?」


 動き方が変だ。彼女の戦い方はブースタ-で速度と威力を上げ、敵を粉砕するパターンをもっとも得意とする彼女がまるでブースターを使わない。しかし、ハンマーの使い方は完全にMISAだ。


『壊れたの! 水球に! 壊! され! たのっ!!』


 器用に渦を弾きながら返答してくる。意外と余裕あるねぇ。


「そうなの? じゃあ地道に削るしかないねぇ。……ところでさぁ、出してくる水球少ないんだけど、なんだか知ってる?」


 閃光を煌かせ、銃弾を的確に水球へ当てていく。同時に飛んでくる数は少なくて30ちょい、多くて100ちょい。これではゲームに劣っているぞ。

 正直、1丁のアサルトライフルで対応できるか不安だったのだが、これなら余裕だ。少なくとも、あと100増えても対処できる。


『はあ!? どこが少ないのよ! むしろ多いくらいだわっ!』


 そうかぁ?  

 これなら2位の飽和射撃のがやべぇぞ?

 ミサイルが認識できない量飛んでくるし。


「速度だって遅いくらいだしなぁ。精々ミサイルより速い程度じゃない? ホーミング付いてるのがムカつくけど」

『あああああもおおおおおっうるっっさい! ちょっと黙って! 私、忙しいの!?』

「やーだってさぁ。まだ第二形態だろ? 渦使って龍フォルムだし。この後の第三形態、どうすんの?」


 アギオンの最終形態――それこそが、下手な大型よりも強いと言わしめる原因だ。簡単に言ってしまえば、近接特化型、それだけ。


『――――なる前に、決着をつけるっ』

「無理だと思うよ? ほら――」


 すでに第三形態へと移行したアギオンがディスプレイに映っている。

 溜めた水を使い切り、細くなった体――それが筋肉で盛り上がり、ヒレの代わりに3本指の腕が生えている。尻尾は膨張し巨大化している。口にはずらりと牙が並び、額には角が生える。


『嘘……』

『うおーい!? 余所見はいいけど、渦の対処はしてくれないかなっ?』

 

 民家の瓦礫を引っ掴み――渦に投げ込む、瓦礫の重さで渦の狙いが逸れ、ケートスの真横にあった民家が削り取られる。


「――あ」


 その所為で、水球への対処が遅れる。ケートスではなく海神に狙いを絞った12の水球。この位置からでは、アサルトライフルで狙いを定めるのは不可能。


 さて、どうしたものかなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶望のエリュシオン くると @kurut

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ