シーン7、8:隼は再び空へ

=======バックトラック


▼隼人

 侵蝕率:154%

 ロイス5個

 Eロイス2個

 Dロイス生還者(+3個)

 リマインドソウル(+1個)

 →68%減少、生還


▼志津香

 侵蝕率:138%

 ロイス6個

 Eロイス2個

 →42%減少、生還


=======シーン7:星は夜へ


 ふと、隼人は気配を感じ取った。

 複数の人間がこちらに向かっている。


「あ、これはヤバイな」


 やってくる連中の正体に行き当たり、隼人は思わずそうこぼした。


隼人:UGNのタカ派が動き出したのか。しまった。

志津香:何の話ですの?

隼人:ココのエージェント、全員チャロに洗脳されてたんだと。だからやけに素直に俺たちの言うことを聞いていたんだが。それが今解けたから、おそらく――。

GM:うん。緊急警報が鳴り響くね。

隼人:そうなるよな。どうするよ。

志津香:それを言うなら、もうひとつ別の問題もありますわ。

隼人:ん?

志津香:今まさに、ここにマスターマインドの部隊がやってこようとしているのです。

隼人:はぁ!? なんだそれ!

志津香:経緯は省きますが、チャロさん狙いですわ。

隼人:うへえ、戦ってなんかいられねえな。じゃ、とっとと脱出するか。

志津香:そうもいきません。


「ここで我々だけ逃げれば、この船の人たちは奇襲を受けて全滅します」


 大問題だ、と眉根を寄せる志津香に思わず隼人は言う。


隼人:この状況でもまだそれを言うのか。……あんた、いい人だなあ。

志津香:な、なんですの一体。

隼人:いやあ、思ったままを言ったまでさ。じゃあ俺は先に脱出するわ。ここの連中にチャロが見つかるとヤバイだろ。死んだ扱いにしておかないと。

志津香:脱出って……、どうやって逃げますの?

隼人:走って。

志津香:……もう一度おっしゃってください?

隼人:だから走って。《軽功》あるから。

志津香:なんだか盛大に納得いかない気もしますが、まあいいでしょう。ではチャロさんの事後処理についてはお任せください。

隼人:ああ、頼りにさせてもらうぜ。なんかいろいろ苦労かけるな。

志津香:なにこれくらい。査問会に呼ばれた時に比べれば……!

隼人:あんた、本当に苦労してんだな。


「じゃあ、俺は――」

「ちょっとお待ちになってください」


 さっそくとばかりに隼人が走りだそうとしたところを、志津香が止める。


志津香:隼人さん。突然ですが、ナイトフォールに入りませんか?

隼人:えっ? なんだよいきなり。

志津香:最後だから言うのですわ。この事件を通じて、あなたの人柄、能力、信念、すべて見させていただきました。遺産の脅威に対抗するには十分、いえ十二分です。


 志津香はまっすぐに隼人を見据えている。

 嘘や冗談ではないことは、よくわかった。


志津香:先に言っておけば、最初からそのつもりだったのです。ナイトフォールには人材が足りませんので。

隼人:そうだったのかよ……。

志津香:チャロさんのような子を助けるために、力を貸してもらえませんか?


「…………」


 隼人は悩む。

 だが、答えは意外とあっさり出た。


「やめておくわ。ただ――」


 腕の中で眠るチャロを見る。


「こいつみたいなヤツがいるときは、いつだって言ってくれ。どこへでも駆けつける」


志津香:立ち位置を変えるつもりはない、ということですか。

隼人:こっちの方が気楽でいいんだ。それにきっと、この方が俺が助けたい人に手を差し伸べてやれる。

志津香:残念ですわ。でもそういうことでしたら。

隼人:悪いな。……ところでナイトフォールって給料どうなってんだ?

志津香:え? おそらく一般エージェントに比べれば、十数倍以上は。

隼人:…………。

志津香:悩んでますの?

隼人:いやいやいや! ちょっと、ちょっとだけだ! ともあれ――。


「じゃあな。後をよろしく」

「ええ、またいつか」


 互いにそう言い残し、隼人と志津香は別れた。


志津香:ふう、あの方は到底つなぎ止められませんわね。これは仕方がありません。さて、わたくしはわたくしの仕事をいたしますか。


 この後の志津香について、記録にはこうある。


 彼女は混乱し、銃口を向けるUGNエージェントたちを一喝。マスターマインドの部隊が迫っていることを教え、ディメンジョンゲートにて撤退を促した。

 さらに彼女は撤退作業中のしんがりをつとめ、FHの部隊を食い止めたという。


志津香:テレーズさんにはタカ派への貸しとして、うまく使っていただきましょう。……さあ、わたくしも帰って瑠璃さんたちに土産話でもいたしますか。


 夜に飛ぶ、隼の話を。


=======シーン8:再会を約束して


「ふうううう、やっと着いた」


 砂浜にたどり着いた隼人は、チャロを降ろすとそのまま座り込んだ。

 とうに意識を取り戻していた少女は、おずおずとその言葉を口にする。


「あの……、ありが、とう……」


隼人:なに。はじめからキミを助けるつもりで来たんだ。問題ないさ。

GM:「……ええと、その」

隼人:どうした?

GM:「これから、あたし、どうしたらいいのかな」


「本当に、あたし何もわからないんだ。行く場所もないし、行きたい場所も……」


 うつむくチャロに、隼人は言う。


隼人:そっか。じゃあ連れてってやるよ。

GM:「えっ? ど、どこに?」

隼人:キミみたいな子を、幸せにするのが得意なヤツのところにさ。


 隼人は立ち上がり、チャロの手を引いて歩き出した。


「う、うん……」


 少女もまた、彼の後ろをついていく。

 そして――。


 隼人たちがたどり着いたのはUGNのとある施設。

 隼人の昔の相棒にして、チルドレンの教官をつとめる玉野椿は、チャロを紹介されてこう言った。


「この子、どうしたの?」


隼人:み、道ばたで拾った……。

GM:「あのね……。いくらなんでもその嘘は無いんじゃない?」


 あきれる椿。

 隼人は次の言葉がくるまえに、素早く土下座した。


隼人:そういうことにしておいてくれー! UGNに伝えて欲しくないんだ! 野良のオーヴァード少女を拾ったってことにしておいてくれー!

GM:「……なにか事情があるんでしょ。それはまあ、察するけど」と椿は言う。しばし考えた後、「はあ。しょうがないな。そういうことなら預かるわ」。

隼人:さすが椿さん! 話がわかる!


「じゃあ、この子の名前は?」


 椿の問いに動揺したのはチャロ本人だ。


「え、名前……?」


 チャロという名前は、彼女のものであって、そうではない。

 だが――。


隼人:チャロだ。こいつはチャロ。

GM:チャロが隼人を見上げて言う。「それで、いいの?」

隼人:おう。使ってやれよ。

GM:「……うん」


「チャロ。あなたは何かつらい……本当につらいことがあったんでしょう」


 椿はチャロに目線を合わせ、肩に手を置いて言う。


「大丈夫。ここにはそういうのは無いから。安心していいのよ」

「うん……」


 椿の温かさが伝わったのか、チャロは涙ぐんでいた。


隼人:やっぱ、まかせてよかったな。

GM:「何か言った?」

隼人:いや、なんも。それじゃ、俺はそういうことで。


「待って、お兄さん!」


 去りかけた隼人を、チャロが引き留める。


「その、本当に今までごめんなさい。それから、ありがとう。あの、それから、ええと……」


 隼人はうなずいて、次の言葉を後押しする。

 

「また、会える?」


隼人:おう、いつだってな。


 チャロは力強いその答えを聞いて。


「うん!」


 初めて、心の底から笑った。


                                     〈了〉

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ダブルクロス・リプレイ・オーヴァーズ 矢野俊策 @shunsakuyano

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