KIMERA@1st - Enfance dragon,rêve de quoi? -

@beat_zebull

#-01[Se'lection de Dieu]

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 満月が綺麗な夜、部屋の窓から入り込んだ隙間風の足音が部屋中に鳴り響く。部屋の中は必要最低限の家具と奥に机がひとつ、そして部屋の隅にはいろんな物が詰められたダンボールが数個、無造作に積み上げられているだけである。

 いかにも空き部屋と間違われても仕方ないこの部屋。それもそのはず。この部屋は祖母のものであり、その祖母は六年前にすでにこの世を去った。

 私は埃の被った机の上のライトの電源を入れる。電気供給はこの家からのモノなのでライトは問題はなく点灯して机を筆頭に部屋に淡い光を提供した。

 机の上には一つのノートが置かれている。これは亡き祖母の手記。右目に深く残る縦一文字の傷跡と共に私へと残してくれた唯一の遺品。私は何度も読み返した古びた手記をまたゆっくりと開く。



 私は【インモラル界】・【リアサルン大陸】観測者《木々ノききの若草わかくさ》の八代目・《狐森こもり 紫苑しおん》。これからも紡がれるであろう《語り手》の後継者に我が代で起きた戦争、【瑠璃蝶々るりちょうちょの微笑み】の詳細をここに記録させて頂きます。


 まずはこの話の根底にある【ひと】と【よう】の話。もし先の時代に双方どちらかが死滅している可能性を考慮し、記載させていただきます。


 【人】――――。

 説明するまでもなく我々、人類のことです。こちらの世界で生きる【人】も私たちの世界で生きる【人】も何も変わりません。欲に忠実で、己たちの繁栄のためなら他の種族たちはもちろん、同じ【人】たちでも蚊帳の外。なにか不祥事があれば神に祈りを捧げ、祈っても水面に見える藻のような、どうでもいい、己が綺麗で保てるためにばれても傷口が広がらない程度の罪だけを贖罪する、キレイゴトで身を繕ったもっとも忌み嫌われる種族です。そして食物連鎖のヒエラルキーのどの階層にも属さない、いえ属すことのできないイレギュラーな種族。それがわたしたち【人】なのです。

 この事実はどう歴史をくつがえそうが変わることのない事実です。それは【リアサルン大陸】、いや【インモラル界】にすむ【人】も同様。人は沢山の罪を犯しすぎました。


 そして【人】より昔から【リアサルン大陸】に生息している動物や植物の特徴や遺伝子を持つヒト型生物、通称・【よう】。その名を持つ生命の誕生。いや、それに至ったまでの進化の過程は未だ多くは語られておらず、今後も語られることもなく時間は過ぎていくことでしょう。


 【妖】。【あやしい】という意味を持つ言葉。我々の世界では【あやしい】を二文字並べて【妖怪】とも呼ばれていますね。この【妖怪】は当時の科学では証明しきれなかった【現象】を架空の生物の習性ということに置き換え、民を驚かせるために作られたと言われている、ある意味その【現象】を示す単語です。これは私の個人的な意見ですが、確かにこれ以上不可解な現象が起こるよりも、迷信でも民に恐怖心を植え付けることにより、発生の原因を抑制し再発防止に繋げることは正解のひとつだと思います。

 例えば「狐が化けた美女に精力を吸われた」という話。よく聞く話ではありますが、ただ少し頭の足りていない男が頭の良い女にたぶらかされ、利用され、捨てられただけの話でしょう。その話が現代にも受け継がれ、現代人により更に過大解釈されてしまい、現代社会では愛らしいキャラクターとしてでられている。話が広まった当時の人が聞けばどんな反応をするのか、少し興味がある話ではありますが、現代社会ではひとつの定番として定着されています。

 しかし、もしかしたら。もしかしたらの話ですが本当は存在していた、いや存在しているのかもしれません。そんな存在自体が霞のようにあやふやであり、有象うぞう無象むぞうであり、でも存在を否定することはできない。【妖怪】はそんな架空上の生物です。


 そんなモノの名を冠する種族、【妖】。もちろん、その呼び名を定めたのは【人】たちです。【妖】は動物や昆虫などと同じく純血種から亜種、突然変異種など様々な【種属】というカテゴリーがあり、その全ては現在でも判明・把握しきれていません。もしかしたら現在でもその【種属】は増え続けているかもしれません。なので我が代では【種属】という枠組みは取り払われており、大きく五つの【部族】に分類されていました。しかし後述の大戦後は再び【種属】を名乗る者も現れ、現在では【種属】・【部族】のどちらを名乗るかは集落により完全に違うようです。


 狼や虎など森の住民たちの遺伝子を強く受け継ぎ、地を駆け巡り、攻撃的で一番危険な部族であるとされていた【金轟族こんごうぞく】。

 魚類たちと同じように海を優雅に泳ぎ回るもっとも知能が高く、基本的には温厚だが時には作戦に支障がでるなら仲間でも切り捨てるほど冷酷な一面を持つ【翠岺族すいれいぞく】。

 空を華麗にに飛び回る鳥の特徴を持ち、もっとも【人】に近い思考を持ち合わせ、常に何を考えているのかわからず周りからは不気味がられていた【部族】、【樺燕族かえんぞく】。

 我々の世界でもあちらの世界でも存在自体が伝説レベルに該当する存在であり、龍の血を濃く受け継ぎ高貴なるプライドの持ち主が多い【部族】、【來迅族らいじんぞく】。

 そして少数しか確認されていなく、語り継がれた伝承も少なく、現代でも未だ謎多き【部族】、【輝鱗族きりんぞく】。


 元々、慣れ合いを嫌い、同【種属】間でも交流が少なかった【妖】ですが、他【種属】との抗戦に疲労し、嘆いた者たちはやがて争いのない、【妖】たちが手を取り合える世界の創造への一歩。和平交渉を発案しました。

 しかし【妖】の中で和平を結ぶにも死と血の絶えない数えきれない日々が必要でした。確かに戦の中心にいた者たちの中でもその考えに関心、賛同する者もいました。ですが、やはり戦いが全てと考える者も少なからず存在しており、全ての者がその考えに至るわけではありませんでした。

 やがて時は流れ、悲願の和平を協定。その記念に【妖】たちは和平の記念のシンボルがそびえ立つ街・【五候天下ごこうてんか】を作りました。選抜された各代表は共に杯を交わしあい、【部族】という枠組みを撤去し、各【種属】繁栄と恒久平和を誓い合いました。


 これで世界が平和になったなら、どんなに嬉しいことだったでしょうか。私は今でも許すことが出来ません。あの者がした悪事を。


 それから何年もの時が流れました。そして遂に【妖】は自分たちと姿かたちは似ているが、その特徴からどの部族にも分類されない【種属】・【人】と邂逅してしまいました。

 ……果たしてこの邂逅はあってよかったのかでしょうか。どこから歴史は間違えたのでしょうか?現在の結果を見ると私はこの邂逅は決してあってはいけないとものだったと、今でも噛みしめて思います。


 ……話を戻しましょう。

 【妖】は【人】との邂逅を『奇跡』とまで呼び感涙ししました。【妖】たちは【種属】の枠を超え手を結ぶことが出来た、その時の喜びを知ってる者が多かったというのが大きかったのでしょう。代表たちは早速、先発隊を編成して、【人】の集落に接触を試みます。

 しかし、接触した集落は最初に【妖】と出会った【人】の本能に忠実な「恐怖」体験を聞いており、集落の者達は未知なる生物への対抗策として武装化。すでに話し合いなど出来る状況でなかったのです。

 そして新たな仲間を迎え入れることを待ちきれないほど喜ぶ【妖】の先発隊は【人】の集落に接触。そして先発隊は【人】から鉛球のシャワーという歓迎を受け、無残にも全滅状態に。辛うじて生きていた数名は研究の為に捕獲されました。


「この生物には剣は効果があるのか?」「痛みは感じるのか?」「我々より優れた種族なのか?」「生態系はどうなっているのか?」「なぜ動物たちの特徴を纏っているのか?」「感情はあるのか?」「どこまで拷問に耐えられるのか?」


 捕獲された者たちは毎日のように行われる実験の道具として辱められ、途中実験で亡くなった者に対しても研究の糧にする、まさに死すら冒涜する実験が行われました。


 やがて月日が流れ、先発隊から全く連絡がないことを不審に思った上層部は新たに隠密潜入隊を編成。そして例の集落に向かわせたところ、無残な仲間の姿に怒りを募らせ襲い掛かる者もいたとも聞きます。しかし、【人】は【妖】の歴代の戦士すら「新たに補給された実験動物」としか見ていませんでした。

 【妖】側は辛うじて戻って来た数名の隠密潜入部隊の者に現状を聞き、唖然。すぐさま捕らわれた者たちの救出作戦を考案していたのですが、それよりも早く、他の【人】の集落に【妖】の存在・弱点が知れ渡ってしまい、【妖】の集落が次々と急襲される事態となったのです。

 未だ【人】と分かり合いたかった【妖】達は防戦一方でした。しかし次々と虚しく死んでいく仲間たち、凌辱される女性たち、非常食として扱われる子供たち。【妖】側の我慢はついに限界を超え、【妖】はついに、いえやっと【人】全滅作戦に乗り出します。


 そして、ついに大陸の歴史上最も大きな戦い、第一次人妖大戦、通称【瑠璃蝶々の微笑み】が勃発しました。


 ――第八代目・木々ノ若草の手記より抜粋



 私はそっと祖母の手記を閉じる。

 生物というモノは見慣れぬ物に過剰な恐怖心、綺麗に言えば防衛本能が働く。いくら友好的に接しても初対面でそれが無くなるということは絶対にあり得ない。

 ……さて、初見の皆様に少しだけ補足を。


 まず【リアサルン大陸】とは、私たちが存在する次元上には存在しない【インモラル界】と呼んでいる次元に存在する大陸国である。ちなみに今、私たちがいる時空は【ピーキーアンサー界】と言われている。

 この【リアサルン大陸】。他大陸国からはもちろん一つの【国】として見られている。だが、内情は国内で無数の《国》に分裂しており、この《国》というものは私たちで言う《都道府県》と同等の存在だと思ってもらえばいい。《国》の傘下にはもちろん市町村に値する小さな町村などの行政区域が存在するが、国の行政機関の《本庁舎》、我々で言う《県庁所在地》は漏れなく所属国と同名である。

 なぜ、国々が分裂しているかというと、さきほど祖母の手記でも語っていたように【人】と【妖】の対立がひとつの問題である。例の大戦以降、【人】と【妖】間は冷戦の状態にあり、各領土への不可侵が暗黙のルールとなっている。それ故にお互いの縄張りを主張するして、各々が勝手に国内に国を設立してしまったということだ。それが綺麗真っ二つに分かれているなら実に解かりやすいのだが、【人】も【妖】も各地に点々と生息してしまっているうえ、中には【人】と【妖】が共存している《国》もあると聞く。また【人】のみの《国》と【妖】のみの《国》が隣り合っていることは少なくなく、閉鎖的生活を強いられていることからか、見事なグローバルな社会が出来上がってしまっている。なのでと言うべきか、故にと言うべきか、どの《国》も何か特記した特徴があり、自分の《国》の常識が他の《国》で通じることは殆ど無い。

 ちなみにこの世界に『地図』と言う概念は存在するがモノは存在しない。あっても地域地図ぐらいだ。

 地図が作れない理由は先述の対立問題ももちろんあるのだが、この世界には【人】や【妖】以外にもゲームやアニメで出てくるような未知の巨大生物も生息している。なので下手に未開拓地を詮索することは死に直結する。ため出来ないのだ。

 またついでで伝えておくと、我々が普段慣れ親しんでいる犬や猫、カブトムシや蟻などの動物や昆虫、クローバーや薔薇などの植物も普通に存在する。


 ふと右目に今も残る傷を右手でなぞる。

 今から紡ぐは『私』のお話。《平和》を叶えられなかった祖母の夢を継ぐのではない。さぁ、私の物語を始めよう。


 物語の始まりは海に隣接した昔は新鮮な魚を使った郷土料理が有名な漁師国だった《国》、【ラースペント】。現在は生活補助電化製品を中心に機械工業が急速発達し海が近いことを良いことに、リアサルン産と名ばかりのラースペント産の電化製品を主力に他【国】との貿易を主にした工業都市となってしまっており、漁業はすっかり寂れてしまっている。だからと言ってその漁業が完全に廃れたわけではなく、今でも美味しい代々伝わる伝統料理を提供する店は存在する。だが、辺りの海は廃棄汚染水の影響などで突然変異の奇妙な魚が取れたり満足な大きさまで成長しないモノが繁殖している環境となっており、提供すること自体が難しくなっている。このことに関しては《国》も危険視しており、食用魚の培養プールの建造が急がれている。


 そしてこの物語の主人公は【ラースペント】の隣町、旧ラースペントでもある【プリオール】に住む白く煌めく髪を持つ少年、《レキ・ルーン・エッジ》。これから彼の周りで起こりゆく怪異にどう立ち向かっていくのか、この《九代目》がしかと観測させてもらう。


 私は机の電気を消した――。

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