与えられたキュウリ


 人は誰しも、片手にキュウリを握りしめてこの世に生まれてくる。

 一人に一つ与えられたキュウリ。それをどう扱うかは自分次第。

 生でかじるもよし、皮を剥くもよし、味噌をつけるもよし、酢の物にするもよし、漬け物にするもよし、気に入らないあの子の後頭部を殴るのも、それが人として良いのか悪いのかは置いといて、よし。許す。


 生きていると時として、他人のキュウリが羨ましく思えることもあろう。

 あの子のキュウリ長いな、アイツのは色が綺麗だな、あの子のは太くて噛み応えがありそう、だけど自分のはなんだか頼りないな………。隣人のキュウリは立派に見えてしまうものだ。仕方のないことだから、嫉妬の炎にキュウリを晒してしまう人間を愚者と呼ぶのは忍びない。だって、自分の持ち合わせたキュウリの魅力には、自分ではなかなか気づきにくいものだから。

 よく見てごらんよ。そのキュウリの色。長さ。形。その色が淡いのか、濃いのか、短いのか、長いのか、歪なのか、スマートなのか。そんなことは大した問題ではない。


 大切なのは、それがあなたのキュウリであるということ。それだけ。

 与えられたのは一人に一つ。それだけ。


 自分のキュウリに自信が持てない?

 苦しいから捨ててしまいたい?


 ………わかるよ。捨ててもいいよ。それは自分で決めればいい。

 ただ、捨てる前に、「それと同じものはこの世にはひとつも無い」という綺麗事を、その尊さを、もう少しだけ、価値として見つめてみてごらん。


 最後にこれを読んでくれた大人たちが思ったであろうことを言うよ。

 別にこれキュウリじゃなくてもよかったよなあ。


 疲れてるのよ。


 きはを



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