第2話 不運な帰り道

仕事帰りにコンビニで買い物をして帰る。

毎日のルーティンとも言える行動だが、このルーティンで私が得られる物は毎日のコンビニ弁当による偏った食事と、自炊よりも割高な事によって日々軽くなる財布くらいな物だ。あぁ……家事の出来る嫁が欲しいです。



それにしても今日はツイてない。

朝から夕方の今に至るまではいたって普段通りの1日だったのだが、仕事が終わり家に帰ってくるまでにいくつか不運に見舞われてしまった。



まぁどれもよくある事ではあるし、皆さんも3日に一度くらいは体験するような事ばかりだろうが、疲れた体と心には小さな不運でも堪えるものだ。










「オォォォイ、オマエェェェ。俺の名を言ってみろぉぉぉぉ!!」







私が会社から外に出て聞いた第一声である。



頭にはヘルメット的な何か、肩口でバッサリと切られたジャケットにはトゲトゲ的な物が付いており、それを素肌の上から直接羽織ってジッパーを上げる事もせず、やたら腹筋や胸筋を見せ付けてくるムキムキの男とエンカウントしてしまったからだ。






世間で言うところの変態である。





大体1週間に一度はエンカウントしてしまうのは何なんだろうか。まさか狙われていたりするんじゃないか?(性的に)

彼に出会うと思わず自分の尻を手で隠す癖が付いてしまった。




最初のうちはとにかく走って逃げたり、目の前の変態と同じ、胸に七つの傷を持つ男を連れて来て対処していたが毎度毎度都合よく、あーたたたたたたたたっ!さん(胸に七つの傷を持つイケメンの彼)が見つかるわけでもなく困っていたのだが、ある日こうすればこの変態は満足すると言う攻略法を発見した。







地面に尻もちをつき






「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」





と、出来るだけ情けない感じで後ずさると満足げに去って行くのである。







まごうことなき変態である。





なので毎回彼に出会うとズボンが汚れるし、何故か自分が世紀末的な何処かに飛ばされたような気になるから非常に疲れるのだ。









さて、そんな変態とのエンカウントをやり過ごし、いつものコンビニに入ると二つ目の不運に見舞われてしまった。

正に今日の私はハードラックとダンスしているかのようだ。





味気ないと思いつつも美味しく頂けるコンビニ弁当を厳選し、お気に入りの缶コーヒーを取りに店舗特有の大型冷蔵庫に向かうと、何かに取り憑かれたかのように同じ缶コーヒーを籠に入れ続ける白い人に出会った。





真っ白な白髪頭に紅い瞳をした男である。






彼にあだ名があるとすればきっとモヤシ。




そんなあだ名を付けられてしまいそうなアルビノちっくで華奢な男だった。

私はそのモヤシがひたすら籠に入れている缶コーヒーを見て思わず声をかけてしまった。



それ美味しくないですよ?と。



しかし思わず口に出してしまった直後に後悔してしまった。人には好みがあり、味覚なんての物は人それぞれなのに何て事を言ってしまったのだろう。



彼がどんな味オンチでも突然自分の好みにケチをつけられたらきっと怒ってしまう。私はそう思ったのだが、幸い真横からの言葉だったにも関わらず彼は聞こえていなかったのか何の反応もしなかった。





僕は世の中の全てが気に入りません。




みたいな目付きをしているモヤシだが、実はすごく小心者で、今現在彼の心中は







「やべぇ、いきなり自分の好みディスられちまったよ。世の中マジぱねぇっす。」







みたいな事になっているのかもしれない。

彼が聞こえなかった振りをするのなら、私もそれに便乗しようと思う。それが大人ってもんだろう。





一人の若者の胸中を察する事が出来た満足感を抱きながらレジに向かうと、何やら柄の悪い連中が大勢入ってきた。


連中は


「いたぞ第1位だ!!」


「アイツを殺れば名が上がるぜ!!」


「紅い瞳をペロペロしたい」



口々に罵詈雑言を飛ばしながら、3つ目の籠に缶コーヒーを入れ始めたモヤシに向かっていった。





だが次の瞬間モヤシに殴りかかった男は、殴ろうとした自分の腕が圧し折れ、ある者は店の硝子を突き破り外に放り出さた。そんな男達の一人が私の方に飛んできたが、あたたたたたたっ!!さん(胸に七つの傷を持つ男)に護身術程度に教わっていた《天破の構え》で難なく撃退出来たが、思わず手放してしまった弁当が駄目になってしまった。





店内は凄惨な有様となり、他の弁当類も無事とは言えず呆然と落ちた弁当を見ている横で、モヤシが平然と籠3つ分の缶コーヒーを買っていったのを見て私は思った。





ハードラックとダンスしちまったぜ。と。






そんな不運によって、今日の夕飯は家に買い置きしてあるカップ麺になってしまった私は沈んだ気分のまま帰宅したのであった。





冒頭でも述べた通り、まぁこういった事はよくある事ではあるし、皆さんも帰宅途中に私と同じ経験をした事があるのも一度や二度ではないと思う。それでもやはり1日の終わりにツイてない事が重なると疲れてしまうものである。







とぼとぼと歩いて家の前に着いた時、ラララだかルルルだかレレレだか何だか言いながら、竹箒で掃除してんだか散らかしてんだかわからない動くカカシのような男に







「お出かけですかー?」






と言われたので《七星点心》で安らかな眠りを与えてあげた私は悪くないと思います。








※プライバシー保持の為、氏名に関する部分は伏せさせていただきます。




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