「坂田山心中事件」


 日本で一番有名な心中事件は、清朝皇帝のいわゆるラストエンペラーの姪と、青森出身の学生による天城山心中だと思っていた。というか身分差による心中事件のインパクトでこれをこえるものはあるんだろうか。


 この心中事件から遡ること二十五年。


 坂田山心中事件の記事は、昭和時代戦前の事件のカテゴリーからたどり着いたが、少しの文章でもかなりロマンチックに感じるもので、当時の男女には美しすぎてことさら衝撃的だったろうと思う。


 翌月に映画にもなったし後追いがかなりでて、相当数の恋人が感銘を受けた模様。

 同じ年で二十組が心中している。感受性豊かすぎる。


 というのも宗教的な側面が影響していたようで。

 二人はキリスト教のミサ?で知りあった。それから交際に至り。しかし女性側の両親に許しを得られなかった。別で縁談が進められる始末。悩んだ二人は山に踏みはいり、服毒自殺を遂げた。しかも昇汞(水銀)。少女漫画も真っ青である。


 おまけに一時的に埋葬されていた寺から、こつぜんとして女性の死体が持ちさられた。しかし翌日に発見され犯人は逮捕。そのため検死についても報じられた。

 結果、心中した二人はプラトニックな愛を貫いていたことも明かされる。


 ウィキの記事には永遠の愛を誓って心中したとある。

 キリスト教で心中で永遠の愛。

 これに心動かされないマスコミと世間ではない。はず。

 新聞には「純潔の香高く 天国に結ぶ恋」の見出しが踊った。


 やっぱり当時はそうとう騒がれたのだ。

 突貫で映画や歌にまでされたセンセーショナルな心中事件。

 二十五年後「天国に結ぶ恋」は天城山心中事件の報道にも使われる。


 ロマンチックで勝るのは坂田山心中。

 インパクトで勝るのは天城山心中。


 一番呆気にとられたのは坂田山由来の欄。

 なんでも元の名前だとロマンがないからと、新聞記者によって改名されたらしい。

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