西暦3000年の未来――NICT鹿島宇宙技術センター

「みっちー! 凄いもの撮ってきたよ、見て見て!」

 休みの日に十和ちゃんがノートパソコン持参で訪ねてきて、デジカメで撮った写真を見せられた。いつも「あたしに写真の腕はない」と言い切る十和ちゃんだから、大丈夫かなぁと思ったけれど、何を撮ったのかは一応わかる。

「サイン色紙……?」

 色紙に黒ペンで字が書いてある。撮った物はわかったけれど、どうしてこれを撮ってきたのか。

「何て書いてあるんだろ……タイム……?」

「『未来戦隊タイムレンジャー』だよ!」

 十和ちゃんはハイテンションだ。「〈西暦3000年の未来人達と、 一人の男が出会った。 新しい時を刻むために〉! 『爆竜戦隊アバレンジャー』や『轟轟戦隊ボウケンジャー』が鹿島でロケやったのは知ってたけど、タイムレンジャーも来てたとは!」

「十和ちゃん、落ち着いて落ち着いて」

 話が全く見えない。

「まず、十和ちゃんはいったい、どこへ行ったの?」

「鹿島!」

 いや、カシマとだけ言われましても。

「教授の仕事にくっついてね、車でNICTの鹿島宇宙技術センターに連れてってもらったんだ」

「えぬあいしーてぃー……?」

「NICTってのは、情報ナントカカントカっていう機構の名前の頭文字。昔は〝通信総合研究所〟って名前だったから、教授は未だに通総研って言うけど。鹿島には直径三十四メートルのパラボラアンテナがあるんだよ」

 それを聞いて、わたしは、ふっとあることに気がついた。

「……何となく思うんだけれど、十和ちゃんが行くところって、アンテナばっかり?」

「そりゃ、ウチの研究室、アンテナで星からの電波を観測するのが専門だからねぇ」

 十和ちゃん曰く、そのセンターは茨城県鹿嶋市にあるのだが、市の〝鹿嶋〟とセンター名の〝鹿島〟は漢字表記が違うのだそうだ。ついでに、この前行ったつくば市も、JAXA筑波宇宙センターは〝筑波〟と漢字で書くらしい。ややこしい。

「元が通総研だから、電波とか通信とかの技術開発っぽい研究所で、三十四メートルアンテナも天文観測用じゃないんだけどね。本来の業務の空き時間は、申し込んだら観測に使わせてもらえるんだよ。で、ウチの教授やいろんな人が集まって打ち合わせ」

「はぁ」

 細かいことはともかくとして、十和ちゃんがその鹿島に行った理由はわかった。

「で、十和ちゃんが撮ってきたそのサインは、何?」

「『未来戦隊タイムレンジャー』!! 建物の中に入ったら、他のサインと並べて飾ってあったの!!」

 十和ちゃんは、拳を握って力説する。

「2000年から2001年にかけて放映してた戦隊物でね。毎回欠かさず見てたんだけど、当時は〝鹿島宇宙技術センター〟ってものの存在すら知らなかったから、今回行くまで何も気づいてなかったよ! どの回だったんだろうなぁ」

「……十和ちゃんが特撮見るのは知ってたけど、そんなに好きだったんだ……」

 たじたじになるわたし。

「タイムレンジャーは西暦3000年からやってきた未来人と現代人が仲間になって、時間犯罪を防いで、歴史改変とかあって面白かったんだよ! 今やってる『仮面ライダー電王』も、時の列車に乗って時間旅行して面白いよ!」

 ――十和ちゃんはわたしにもよくSF小説を貸してくれるし、きっとそういう話が好きで、大好きな番組だったからこそのハイテンションなのだろう。

「筑波大学から来てた人にも会ったんだけど、その人も特撮好きで話が盛り上がっちゃって。ほら、つくばに行ったとき、TXの駅から地上に出てすぐ、ショッピングモールみたいなのあったじゃん? あの辺、仮面ライダーや戦隊物のロケによく使われるんだってさ。見覚えのある景色がテレビに映って、あー、って思うらしい。電王でも」

「……そういや、つくば市も茨城県だね。一緒に研究するにも、移動楽だよねぇ」

 わたしが一人で納得していると、それまでテンション高かった十和ちゃんがピタリと静止した。

「それは違う」

「え?」

「これも、筑波大の人に聞いたんだけど。つくばからTXで秋葉原まで行って、東京駅から高速バスに乗って鹿島に来たんだそうだ」

「……東京経由?」

 意味がわからない。「同じ県内なのに?」

「あたしも全然わかんないよ。でも、自分で車運転して直接来られるならそのほうが速いけれど、公共交通機関を使う場合は、県内だけでの移動が難しいらしい。東京から高速バス乗るのが、下りるバス停がNICTの目の前にあるから一番便利なんだって」

「はぁ」

「何かね、もし東京からJAXA筑波宇宙センターに行きたい場合とかも、東京駅から高速バス使ってJAXAの前で下りたほうが楽だって言うんだよ、その人」

「……わたしたちは、つくばエクスプレスでつくば駅まで行ってから、バスに乗ったよね?」

「だよねぇ」

 謎だ。

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