ぼく
狼狽 騒
ぼく
彼女を泣かせてしまった。
どうしてそうなってしまったか、理由は明白だ。
勢いに任せて、ぼくが彼女のことを「好きじゃない」って言ったからだ。
だから彼女は泣いてしまった。
正直、彼女が泣くのは辛い。
泣いてほしくない。
笑っていてほしい。
そう思っているのは間違いない。
――でも。
ぼくはその言葉を引っ込めない。
「好きじゃない」という言葉を引っ込めない。
後悔はしている。
だけど、事実なのだ。
ぼくは彼女のことを好きじゃない。
ぼくは心の底からそう思っているのだ。
そのことを彼女に伝えたい。
そう思いながらもひねくれていたぼくは、自分の本心を伝えるために、ある小説を書いた。
その小説のタイトルは――『ぼく』。
ただ、一つだけ先に述べておこう。
ぼくが書いたこの小説。
世間一般の常識では、それは小説とは言えないだろう。
何故ならば、その小説はタイトルしかないからだ。
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翌日。
登校中に、表紙に『ぼく』とだけ書いたノートを彼女に渡した。
「これがぼくの本心だよ」
そう言って渡した。
当然、彼女は首を傾げた。
渡した直後に、ぼくは逃げるように走って学校に向かった。
恥ずかしかったのだ。
でも、これだけでは当然、分からない。
もしかすると「お前なんかに興味はこれっぽっちもない、白紙なんだよ」と捉えられてしまうかもしれない。
だからぼくは直後にメールを送った。
数字だけのメールを。
『1 2 6 5 7 13 4 11 14 8 9 12 3 10』
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放課後。
彼女が眉間に皺を寄せながら「これは何?」と聞いてきた。
ぼくは素直に答えを言うのも恥ずかしかったので、顔に熱さを感じながら、彼女にこうとだけ言った。
「君に朝、渡したのは――『ぼく』というタイトルの小説、だよ」
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それから十分後。
ぼくはまた彼女を泣かせてしまった。
彼女は賢かった上に勘も鋭かった。ぼくの態度もヒントになってしまったのかもしれない。
故に気が付いたのだ。
ぼくの本心について。
伝えたかったもどかしい気持ちと、実際に伝わってしまった恥ずかしい気持ちが入り混じった状態のまま、ぼくは天井を見つめていた。
――目の前で嬉しそうに顔を赤らめて泣いている彼女の表情を、真っ直ぐに見られなかったから。
『ぼく』というタイトルの小説
小説のタイトルは『ぼく』
Novel title Boku
この英文を次の数字の順番に並び替える。
1 2 6 5 7 13 4 11 14 8 9 12 3 10
↓
Not like But love
好きじゃない――「愛している」
ぼく 狼狽 騒 @urotasawage
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