5-2 眼鏡の聖地 KHAOS 2. RIVAL
拡張子txtでお馴染みのメモ帳は、言わば、『創造』という言葉を忘れた荒野
ここに、一人の少年が舞い降りた
彼の『創造』によって、この荒野にどんな世界が広がり始めるのか――――――
この荒野はひたすら『創造』去れた者を蝕み、『破壊』する
『破壊』者であるこの荒野、この世界は、
少年にとって唯一無二の巨大な敵であり、
この世界に彼がいる限り、
ずっと鬩(せめ)ぎ合うことになる好敵手(ライバル)なのだ
プロローグ
2009年8月XX日の日記
俺の兄は、ヅラ女の姉と付き合ってる。
かれこれ2年になるだろうか。
俺とヅラ女とはこれといって仲は良くない。
ヅラ女はバカなほどノッポなバレー部レギュラー。
俺は正真正銘のバカ、ゲーセン通いの帰宅部。
俺とヅラ女は全くもって接点がない。
特に意識もしていない。
でもあの2人はラブラブだ。
何が不満なのか?
兄は、ラブラブな生活の何処に不満を感じているのか?
兄の忘れていったケータイに、別の女から何10通ものメールが届く。
大泉たちは今、病院に行っている。見舞いとか行ってたな。
ヅラ女も行くそうだ。
…………。
(少年がこの日記を書いた数時間後、彼の兄が、そして翌日の夕方、"ヅラ女の姉"が、この世を去った。)
夏休みが明けて既に数日。
地球温暖化の影響なのかな? まだまだ残暑が厳しい、2009年9月。
私は水島ユリヤ。男子の間……いや、女子の間でも、この学年のマドンナだと噂されてるみたい。
……何回告白されてはフッたことやら。
いつからか真面目キャラが定着してしまった私は、今は次期生徒会長候補の噂まで立てられてしまったほど。まぁなる気が全く無いわけじゃないんだけどね……
さて、改まった自己紹介はさておき……
夏休み明けは、行方不明になった、とニュースでも報道されていた、クラスメート3人の話題で持ちきりとなっていたの。
もちろん、その3人ていうのは、今まで読んでくれた人にはお分かりの通り、
・赤西イツキくん
・月宮ルナちゃん
・薬師寺ヤクモくん
の3人よ。
でも、昨日から、あのゴシップ脳でお馴染みの五十嵐テルミちゃんを中心に、新たな噂の"波紋"が広がってきたの。
『谷野ショウタの不登校』
お兄さんを失ったショックは、私の想像を遥かに超えていたようだった。
彼とは違い、私はある意味、唯勝手に思いを馳せていた傍観者だったのかも知れない。
先輩には既に、二人も彼女がいたんだから。
私は、彼のことが心配になって・・・・・・といっても、先輩の弟、としての彼だけど、
彼の家のインターホンを押した。
・・・・・・留守だったのか、家の人は誰も出てこなかった。
・・・・・・ユリヤか。つまらない。
僕は再び、カーテンを閉めた。
僕は再び、下唇に左手人差し指・中指を添えながら、パソコンのモニターを見つめていた。
僕は再び、顎から左手を話して、テキスト文書に文字を打ち込んでゆく。
小説だ。
今流行(はやり)のケータイ小説じゃない。ネット小説だ。
HTML化して、フォントを変えて、自分なりにエフェクトを加えて、磨きをかけてゆく。
そして、アップロード。
ほとんど誰も見ることの無い自作小説の本棚が、そこにあった。
今何時だろうか。
分かるのは、外が真っ暗なこと、ただそれだけ。
そういや、クソババアがドアの前に夕食……というより、朝食を置いて、30分後に手付かずの夕食を取りに着てから、1時間が経っただろうか。
でも、ババアも働いている。帰宅時間なんてまちまちだ。それだけを指標に考えるのは無理があるかもしれない。
今までの流れで分かったろう、僕は今や、自宅警備員(ヒキコモリ)のNEETだ。
パソコンのモニターの中だけが、俺のフィールド。
イチオウ、音大に入ろうと思ってる。
それかコンピュータ専門ガッコかな。
――――――、っつーか、ヒトナミと書いて一浪だ。
一年ぐらい浪人したって、そこまで咎められやしない。
それが、僕の、自論。
・・・・・・今日は疲れた。とっとと寝てしまえ。
時計を見る・・・・・・7時だ、午前の。
枕頭には、ペンとメモ帳、いや、ネタ帳を置いておく。
モニターと向き合ってるより、寝ているときの方が、アイディアが出る。
布団を被る。
アイディアが浮かんでは、ネタ帳を手に取る。
しばらくして、僕は夢にまどろんでいく。
そこは、地面と天井に方眼が書かれた、不思議な世界。
僕の目の前に、ピンポン玉サイズの、白い光の球体が降りてきた。
球体はしゃべった。
「あなたはこの世界に、何を綴りますか?」
------
「・・・・・・ぁ・・・・・・
ぁ、・・・・・・あ、ぁ・・・・・・・・・・・・
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
王宮の回廊に、国王の間からの悲哀に暮れた叫びが、よく聞こえる。
三人の少年が、国王の間の入り口から、そっと顔を覗かせていた。
「コクオウ・・・・・・」
低く屈みながら覗いているのは、自称、国王の"第一の魂之兄弟(ソウルブラザー)"、Mrk.3。
「国王・・・・・・」
Mrk.3の顔の上から顔を出すのは、国王の近い親戚、ソル。
そして、二人とは反対側から顔を覗かせるは、国王と寝床を共にする、"いつ墓荒らしに参るか分からん勢い"の薬師寺ヤクモである。
「国王・・・・・・(荷物取りに行ってもいいかな・・・・・・)」
ちなみにこの時、国王の間の向かいの部屋で、ギシギシという不快な音が鳴っていたのに気付いていたのは、ソルだけであった。
向こうのほうから、回廊を駆けるうるさい足音の聞こえるほうを、三者は同時に振り向いた。
コイツ――――――国王の間に入る気だ!!
止めようと3人は必死に声をかける・・・・・・小声で。
無論、ドタバタと走る少女には、なだめる声など全く耳に入らず、
「コ・ク・オ・ウ・さ・まぁ――――――♡♡♡」
・・・・・・上斜め45度から抱きついてきた少女によって、国王の理性が取り戻されていく。やっとの思いで理性を取り戻し、少女を払いのけた国王の額からは、絶えず多量の汗が伝う。
「国王さま、体調はいかがですか?」
国王はまだフラつく体を、なんとかベットまで持っていき、そのまま倒れこんだ。息はまだかなり荒く、言葉発するようになるにはもう数十秒かかった。
「・・・・・・国王さま、大丈夫・・・・・・じゃ、ないですよね・・・・・・。」
「心・・・配・・・・・・かけ、た、、な・・・・・・取り乱、、、して、しまっって・・・・・・ク・・・ノン・・・・・・!!!」
国王はやっと気付いた……cu:nonの特異な服装に。
頭にはネコミミカチューシャ、首には鈴のついた首輪、メイド服のスカートのおしりからは黒い尻尾(玩具)まで出ている。
「あっ、気付いたかニャ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうかニャ・・・似合う、かニャ?・・・・・・国王さま、いいえ、ご・シュ・ジ・ン・さ・ま♡」
「ぬわぁああああああああああああああ!!!!!」
国王はベットから飛び上がって、部屋の壁の隅まで走り寄る。信じられないというような表情で、ガグガグブルブル震えている。
「せ、背筋に悪寒が・・・・・・」
「・・・・・・ダメ・・・だったかニャ?」
「語尾、語尾ぃ!!」
「ご、ごめんなさい、国王さま。最近元気がなくて、発狂してばっかりだったから・・・・・・。」
ある意味、発狂する元気はあったのだが。心の中でそう呟きながら、
「ああ、気を悪くしないで欲しい。少々方法が過剰ではあったが、おかげで少しは元気、出たから・・・・・・」
「ホン、トぉ?」
国王はcu:nonを安心させるようなしっかりとした眼差しで、大きく頷いた。
「よかったぁ!、ホント心配してたんだよぉ?」
「はは、ゴメン。・・・・・・体はまだダルいから、もう少し横になっとくよ。」
そう言って国王はベットへと歩み寄る。cu:nonの右を通り過ぎ――――――通り過ぎた所で立ち止まる。
「 あ り が と う。 」
「へ?」
「ん?」
「国王さま、今何か喋りました?」
「いぃや、別に。」、そう言って国王はベットに倒れこむ。
「そぅ・・・ですか・・・」、cu:nonは振り返る。
「あ、そうだ、元気が出たら、卍F卍大佐の所・・・・・・司令室に行ってください。用件があるようなんで。」
「ラジャー。」
cu:nonは大袈裟にスキップしながら部屋を出て行こうとする……出口で立ち止まる。
大袈裟に振り返る。大袈裟にニヤニヤ。
「あ、国王さま♪」
「なんだ?」、国王は半回転寝転がって仰向けになる。
「 ど う い た し ま し て ♪ 」
/////////////////////////
国王はシーツを目元まで被る。
「あははは!! 国王さま照れてるぅ~!、か~わい~~い♪」
「バーカバーカ!! もう知らねぇ!!」
笑い声高らかに、cu:nonは出て行った。
「・・・・・・バーカ。」、国王はぼそっと呟いて入り口と反対側を向く。
「お~い、国王、元気出たかぁ?」
Mrk.3の声に国王はぶっと噴き出す。
「国王さま、荷物取ってもいいですか?」
国王は、今の一部始終を"二人"が聞いていないことを祈った・・・・・・
「国王って、ツンデレ、だったんだね。ボク、ビックリしちゃったよ。」
・・・・・・徒労だった。国王は頭までシーツをガバッとかぶり、ウーウー唸りながら、足をジタバタ動かすしかなかった。
皆いなくなったのを確認すると、国王は"杖"を持って司令室へと向かった。
(そういえば、oir-okeは単独任務を遂行中か。・・・・・・あいつもやるよなぁ。
・・・・・・そういや、隆鳳さんとムラオーマンとかいう人は、あれからどうしてるんだろ? まだ王宮に残ってるのかな?
・・・・・・ぁ、後であのバカップルにも声かけとこ。心配してるだろーし。)
やはり彼も向かいの部屋から発せられている異様な音声には気付かなかったようだ。
そうこう考えているうちに、司令室の前に到着した。
「あぁ、国王様、ご機嫌いかがでしょうか。」、卍F卍だ。
「ははは、とんだ"特効薬"が身近にいたもんで、急に元気が出まして、あははは、はは・・・・・・」
部屋の隅にいた隆鳳とムラオーマンがこっちに体を向けて一礼した。
「お元気そうで何よりです。・・・あぁ、それでは早速本題に入りましょう。――――――」
以下、彼の話を要約すると・・・
大青ブルトリア帝国建国の動きは、眼鏡王国、他地球上に領土を持つ各国の予想を遥かに超えていた。当初は、ごく少数の人間が妄言を吐いているだけだと思われていたが、いまやBlue-Blue教信者は地球総人口の約5分の1を占めていた。特に多いのは、近年眼鏡王国の領土を取り込まれた旧CL・肉眼・ちくわぶーの民であった。それだけではない。教祖様直々に訪問した"黄昏の国"からも、熱心な宗教活動が行われているようだ。火星での宗教活動もまた然りで、場合によっては太陽系中を戦場とした一大決戦となるだろう、と言われているほどだ。まあその話はあまりに大袈裟すぎるが、少なくとも向こう側も超ド級巨大宇宙戦艦を火星側で数機所有しているという情報は確からしい。
・・・・・・このような、スケールのでかい話は置いといて、話は現在のoir-okeが遂行している任務に移る。メルポ近郊に怪しげな建造物を最近発見したらしく、調査の結果、これもアオギリ直下の無人施設であることが分かった。その謎を紐解くと、恐るべきプロジェクトの事実が浮かび上がった。
<メルポ陥落作戦>
その施設に収容されていた死体は、全て旧アオギリ教、もしくは現Blue-Blue教信者のそれだった。彼らの死体は火葬されず、皆特殊なガスの入った部屋の中で腐らずに放置されていた。このガスは螺旋力を伴っており、僅かながら死体に命を吹き込める。いわば、ゾンビだ。メルポの総人口を遥かに超えるゾンビを解き放つことで、眼鏡王国の首都を陥落させようという試みだった。ここでスパイ任務では眼鏡王国の中でも5本の指に入るであろう彼女に単独の侵入調査の任務が来たのだ。もちろん、もしもの時のためのスタンバイはすでに配置済みだという。
「あいつも頑張ってるなあ。」
「えぇ、さすがは国王様の見込んだ女ってところですかね。」
「卍F卍、それはどういう意味だ?」
「あ、いえ、・・・・・・確か、彼女らを生かそうとしたのは、国王様、あなたでしたよね?」
「あぁ、そういう意味で、か・・・・・・」
『再教育さえ施せば、あのスナイパーの子供なのだから、きっと最強の戦士になってくれるに違いない。』
国王はあの日の二人のおびえた眼差しを思い出していた。そして、その直前に体験した、初めて人を殺した感覚も・・・・・・
突然、指令室内に警告音が鳴り響き、赤いランプが回る。モニターには<EMERGENCY>の文字。
「何事だ!?」、卍F卍大佐の、珍しい叫び声。
「収容所の非常用プログラム作動!!」
「――――――任務遂行者との通信、途絶えました!!」
「何っ!? 回りに配置した陸軍隊員は?」
「収容所半径1㌔以内の通信が妨害されています!」
「偵察機部隊は?」
「103号機から連絡――――周囲をアオギリ軍に取り囲まれたようです!!」
「くっそぉ!! ・・・・・・僕も行く。ムラオーマンさん、ついて来て下さい! 同時に何かあると困るんで、隆鳳さんと国王様はここに・・・・・・あれ、国王様は!?」
何故だ。
何故走り出した。
何故俺は、oir-okeを助けに行こうとしている。
わからない。
・・・いや、わかりたくないのか。
・・・わからないほうがいいかもしれない。
でも、止まらない。
もう体が、そう決めたのだろう。
国王の間に入り、バルコニーに出る。
モニターの地図で、大体の方角は分かっている。
国王はバルコニーの柵を、飛び越えて――――――
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・気付くと国王は、宙に浮いていた。
いや、滑空していた、と表現した方がいいかもしれない。
誰かに、抱きかかえられてる?
その青白い鱗、明らかに人間ではない。
上を見上げる。
国王は、二対の翼を持った、青白いドラゴンに抱きかかえられていた。
ドラゴンは、まるで国王の行きたい場所が分かっているかのように、望んだとおりの方角へと飛んでいった――――――
------
________________1. A few hours ago,
この任務を任されたとき、私は正直複雑な気持ちだった。
自分の実力が認められてきたという、素直な喜び。
そして――――――ゾンビとの対面を目の前にする、素直な不安、恐怖。
しかし、任務である以上、遂行するしかない。
そう割り切れるのも、長年の経験ってやつかも知れない。
(誰よ、今「オバサン」って言ったの!!)
現地に行ってみれば、これが悲しいくらいにグッドタイミングな曇天。今にも嵐か雷が来そうなぐらいに。
必要以上に掻き立てられる、緊張。
かなりデカイ計画だったと大佐に聞かされたわ、無人とはいえ、相当なセキュリティは敷かれているに違いない。
冷静な判断を失えば、最悪の場合ゾンビに喰われてお陀仏って可能性もあるわね。
いずれにしろ、やるしかない。
やるしかない・・・・・・。
やるしか、ない。
ゾンビ倉庫は一見変電施設か何かにも見えなくはない、いや、そう扮していたといった方がいいかも、「高電圧注意!」などの看板もあった。バトルゴーグルで赤外線の通る位置を把握しながら、私は建物の中へと入っていった。
防犯カメラのある部分はテレポートで切り抜ける。地下への階段はすぐに見つかった。地下一階から警備用の全自動ロボを見るようになった。テレポートで別の場所へ移動するのも危険だから、噛んだ後のガムのような物(名前は忘れちゃった)をロボのカメラ部分に超伝導エアガンでぶち込む。超伝導エアガンはどんな形のものでも、例えば矢だって撃つことができるの。
地下2階に来ると、下階からガサゴソと音が聞こえるようになってきた。心拍数が高まるのがいやになるほど分かった。脚の動きが重くなる。地下3階への階段に足を踏み入れた瞬間・・・・・・
「ひいっ!」
ガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソ!!!! 無数のワームが床・壁・天井を伝って湧き出てきた。私は歯を食いしばり、必死にワームを踏み潰していった。足からワームが這い上がってきた時には、涙目になりながら走って振り払った。虫やゾンビが好きな女の子なんて、いるわけがない!!
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、・・・・・・」
地下3階。建物の入り口以外では、初めてパスワード付のドアが現れた。あらかじめ聞かされているパスワードを入力すると、ドアが開き・・・・・・有色のガスが流れ出る。有毒ではないが、イチオウ初めからO2マスクは装着済み。中を見ると・・・・・・恐怖のあまり、声が出なかった。もちろん出してはいけないんだけど。金網にはさまれた通路の両手側にいるのは、生きた人間を目にして金網を揺すり呻くゾンビたち。ゾンビたちはまだカプセル液の中で培養されているんじゃなかったの!? 恐る恐る中へ入っていく・・・・・・
ガチャン。
へっ?
後ろのドアがしまったとき、私の背中に鋭い悪寒が走った。
ドアに近づく。ドアは開かない。
ドアを叩く。ドアは開かない。
弾を装填して、ライフルでドアに発砲。ドアに穴は開かない。
その時、右の、数秒送れて左の、金網が倒れる音。
後ろを振り返る・・・・・・
「キャアアアアアアアアアアア!!!!!!」
咄嗟に、お尻の右ポケットの中のボタンを押す。胸部先端には、護身用の半自動(セミオート)超小型ガトリングガンが装着されている。ゾンビに対する殺傷能力が無くとも、間をおくことは出来る。・・・・・・悲鳴を上げちゃったりして、ちょっと取り乱しすぎたかも。両側の腰から両手でナイフを一本ずつ引き抜く。前方のゾンビだけ斬り飛ばし、3方向のゾンビに取り付かれる前に前身する。地下4階の階段へ飛び込んだ。
地下4階につく頃には胸部先端のガトリングガンは弾切れ。実はコイツの影響でちょっと意識が乱れちゃうのは誰にも内緒♡ さっきどうも超伝導エアガンを残してしまったみたいで、残す武器はナイフ2丁しか残っていない。地下4階で階段を出ると、一本の長い通路が続いていた。床は、ガラス張り。下には・・・・・・無数のゾンビたち。こやつらに飲み込まれてしまえば、私はもうオシマイ。万一のことを考えて、私は両ナイフの柄についている紐を手首にしっかりくくりつけると、通路の両壁に両手をしっかりつきながら進んでいく。
そして通路の真ん中辺りまで来た、その時・・・・・・
バラバラバラ!!!
「きゃっ!?」
通路のガラスの床が、全て外れてしまう。慌てて私は足も両床につける。この状態でのテレポートはとても出来ない・・・・・・第一、私のテレポートではこの長い通路の八分の一も行かない。ガラスの床に頭が当たったゾンビたちは、ひどく暴れている。このまま堕ちたら、間違いなく地獄に突き落とされるわ・・・・・・両手、両足の順に、私は必死に、着実に前身していく。
残り四分の一の辺りで、さらに異変を感じた。奥につれて、通路幅が広くなってる・・・・・・? いや、違う、壁が・・・・・・壁が動いている!!! 両手はもうつけない。両脚が限界まで開く。
「ああっ・・・・・ああああ!!!!!」
片足がすべり・・・・・・間髪いれず、ゾンビの海の中へ。
ゾンビの爪が、牙が、私の全身に立てられる。ナイフを握る暇も無く飛び込んだので、ナイフと手首をつなぐ紐はすでにゾンビに断ち切られ、私に武器はもう残されていない。
「ああああああ、あああああああああああああ!!!!!」
ゾンビが舐める、引っ掻く、噛み付く。バトルスーツはズタボロに引き裂かれる。バトルゴーグルは通信が入らない。
もう、終わってしまうの・・・・・・?
その時、ふと思い出したのは、"暗闇"の中にいた私たちを、外の"光"へと導いてくれた、あの少年の差し伸べる手だった。
涙で視界が歪み、痛みで意識が遠のく中、少女は必死にその少年に助けを乞うた。
「助けて・・・・・・国王・・・・・・
国王様――――――――――――!!!!!!!!!」
突然、真横で鳴る、耳を劈くような轟音。・・・・・・とともに、天井から降り注ぐ光線(ビーム)。その光に触れたゾンビは一瞬にして黒い灰になる。
ようやくゾンビから解放された私は、天井を見上げる。幾重もの床を突き破って舞い降りたのは、青白い翼竜と、翼竜にまたがる一人の剣士だった。
「お呼びですか、アネゴ?」
私は、開いた口を塞ぐことも、頬を伝う涙を止めることも、しばらく出来ないでいた。
「無茶させてすまないな、ドラゴンさんよ、もう帰っていいぞ。」
翼竜はそう言われると、元来た穴へと飛び上がった――――――と同時に、国王も跳び上がり、上方からゾンビたちを串刺しにしてなぎ払った。そして床に落ちていたナイフ2本を拾い上げると、こっちに投げてよこした。投げられたナイフの柄をを手馴れた手つきで掴んだ私は、ようやく、
「国・・・・・・王・・・・・・」、と呟くことが出来た。
「アネゴさんはもう暫く休んでいてもいいですぜ?」、国王が私に背を向けて語りかける。
「な・・・・・・何よ! 女だからゾンビが怖いとでも思ったわけ? 冗談もいいところよ! さっきはちょっと取り乱していただけで・・・・・・ってか、大体この任務は私が――――――」
「違いますよ。」
国王は振り向く――――――いつしか国王が通ってきた穴からは陽光が差し込むようになってきた。国王の微笑みが陽光に照らされる。
「ただ・・・・・・・・・一度くらい、カワイイ女の子の前でカッコつけたって、お天道様は許してかなっ・・・・・・って。」
・・・・・・心臓(ハート)が止まる思いがしたのは今日何度目だったんだろう。でも、もちろん、今までの感じとは、全く、別物・・・・・・・・・
「魅せますよ、アネゴさん、究極の血祭(クッキング)をね・・・・・・」
剣を構える。そして、駆け出したかと思うと、ゾンビ一体一体を、頭から、腰から、肩から、次々と両断していく。剣に宿る黒いオーラは、反螺旋の力。
厳かな血祭(クッキング)。赤い血飛沫ではなく、ゾンビの血管・リンパ管を駆け巡る緑色の培養液が垂れ堕ちてくる。
私は、そのグロテスクな光景そっちのけで、脳内でさっきの言葉だけをずっとループさせていた・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
「終わったよ?」
!!!!!!
辺りを見回すと、もう動かない死体たちがバラバラの方向を向いて、緑色の液体を垂らして、横たわっていた。
「そんなに野蛮だったかな、俺?」
「いえいえいえいえ、嫌になるほど野蛮ではなかったっていうか、その・・・・・・」
「そんなに怖かった、ゾンビ?」
「いぃぇ、怖かったら、こんな任務、独りでは務まらないっていうか・・・・・・」
「結局勤まらなかったクセに?」
「いぃゃ、それは、国王が、勝手に飛び込んできたというか何というか・・・・・・」
「・・・・・・寂しかった?」
「ぃゃ、それは、その・・・・・・・・・・・・はぅ!?」
国王は私を、陽光の下、抱き寄せる。
「・・・・・・もう、しっかり者ぶらなくてもいい。
しっかり者ぶって辛い思いをしているなら、素直になればいい。
泣きたい時には泣けばいい。
今は、そう・・・・・・俺の肩で、静かに泣けばいい。」
もう既に枯れたと思っていた涙腺から、ぼろぼろと涙が溢れ出した。いくら相手が強い殺し屋でも、人間であるなら、全然平気だった。それでも、虫でさえダメな私が、ゾンビなんて平気で殺れるわけなかったんだ・・・・・・。声があまり漏れないように口元を国王の肩に押し付ける。それでも外気に漏れる、私の泣き声、辛さ、怖さ、寂しさ。それを全て受け止めてくれるかのように、国王は暫く私をきつく抱きしめていた。
ショウタの世界、創造計画、二日目。
少年は目覚めた。
青い、空。白い、雲。
心地よい、そよ風。風になびく、草原。
自然の、音。香り。輝き。
全身で感じる、陽光の温もり。
「・・・・・・いつの間に草が?」
小さな優しい光の球体が降りてくる。
「あなたの望んだことが、この世界に反映される。
この世界は、あなたの支配下にある。
・・・・・・もう一度訊きます。
あなたはこの広大な草原というキャンパスに、何を描きますか?」
________________2. サイカイ
oir-okeは、国王の肩から、ゆっくり頭を持ち上げる。
「さぁ、涙を拭いて。」、国王はハンカチを差し出す。
「いつまでもベソかいてたら、カワイイ顔が台無しですよ?」
「!!!!!、カ、カカ、カカカカカ、カカカカカカカカカカカカ・・・・・・」
「??」
「カカカ、カワイイ、とか、、反則、だから・・・・・・」、oir-okeは俯いて、林檎のように真っ赤に照れた顔を前髪を垂らして隠す。パッとハンカチを受け取ると、そっと目元を押さえる。
「はっは~ん、アネゴさん、さては・・・最近、女として扱われてないですね?」
「!? う、うぅぅぅぅぅ~~・・・・・・」
――――――どこからともなく聞こえる、一人の拍手。
――――――3Dバーチャル映像で映し出されたのは、アオギリ、その人だった。
「アンタ・・・・・・」
「やっぱり女の子が好きなんだね、国王サマ。男好きなら今すぐ僕の側近にしてあげたのに。」
「貴様・・・・・・」
「ねぇアネゴさん? 貴方、女として扱われてないんですよね?、――――――"あのひと"がいなくなってから。」
「アンタ、いい加減にしないと・・・・・・」、oir-okeの声に凄みが増す。
国王はため息をついて、
「気持ちが分かるが、今は抑えといた方が、心臓に優しいと思う。・・・・・・どうやら血祭(クッキング)は、こっからが本番のようなんで。」
「!!!」
さっき来た通路から、ゾンビが次々と降り注いでくる。
「じゃあ、また今度。」、アオギリの像は、不敵な笑みを浮かべて消えていく。
「国王、ハンカチ、後で返すわ。」
「りょ~かい!」、oir-okeのいつもの少し勝気な声が返ってきて、国王は少し安堵する。
合図もなく、背を向け合った二人は同時に走り出す。
国王はゾンビの大群目掛け、その長剣で袈裟懸けに斬りかかる。
oir-okeは二本のナイフで目にも留まらぬ速さでゾンビの肉を切り裂く。
上から次々と降り注ぐゾンビたち。しかしその数も目に見えるように減っていく。
「こっち残り10体ほどかな?」
「こっちも8体よ!」
「5!」
「4!」
「3!」
「2!」
「1!」
「『0!!』」
二人は笑顔で振り返る。早足で歩み寄り、無言でハイタッチ。
――――――ハイタッチの音が、丸で何も無い空間に響きわたる。
突然ジェットエンジンの音が聞こえる。卍F卍のBBWのそれだった。
「卍F卍大佐!」
「・・・・・・。」
「国王様・・・・・・勝手に飛び出しちゃって。」、卍F卍は微笑を浮かべた。国王と、国のために戦う兵士、という関係ではなく、従兄弟同士の親しい感じ。
「ボクもいるよぉ、ア・ネ・ゴ・すゎ~ん!!」
「ゲッ、ソル!?」
「え、何? ボクがいないから、寂しくて泣いてた?」
「べ・・・・・・別に。。。。」、別件を思い出して再び赤面するoir-oke。
――――――突然だだっ広い地下ホールに鳴り響くサイレン音。
“セキュリティ最終レベル。侵入者ヲ始末セヨ。侵入者ヲ始末セヨ・・・・・・”
「さぁって、最後にメインディッシュと行きますか。」
四方角の地面から現れたカプセル、それらが割れ、最後のゾンビ4体が姿を現した・・・・・・
「何!? 今まで倒した螺旋八兄弟の四人だと!?」
「だから死体が回収されていたのね・・・・・・。」
「ホントウは八人全員揃って登場したかったんだけど、ユーたちが予想より早くこの施設を嗅ぎ付けてしまったんでとても残念デース!」
「あわわ、ゾンビがしゃべったぁ~!!」
「気をつけてください・・・・・・彼らは、戦闘力までは無理ですが、能の働きは完全に復活しています!!」
反螺旋力が死神の領域なら、螺旋力は真の意味で神の領域に達していた。
一度死んだ人間を、完全に蘇らせる。
「こくお~う♡♡♡」
「うわっ、あのおチビ!!」
「21世紀のシンデレラは、国王、君だぁ―――っ!!」
「ゴ――――――トゥ――――――ヘ―――――――――ルッ!!!!」
国王は長剣のミネで、ディグを天井の穴へと放り上げた・・・・・・キラ―――ン☆
「の~ぞ、の~ぞ、のぞみぃ~~♪」、獄女によって『のぞみ』が召喚された。『のぞみ』がoir-okeに差し迫る――――――
「危ない!」
当たるすれすれでテレポートでかわしたoir-okeだったが、『のぞみ』は急な方向転換で再びoir-okeへ――――――
「さぁ、大地よ、燃え上がれぇぇぇぃ!!!!」
巨大な火柱によって『のぞみ』の流線型ボディは掻き消えていく・・・・・・
「ソル、まさかアンタに助けられるとはね。」
「国王、アネゴさんはボクが渡さないよぉ?」
「・・・・・・好きにしろ。」
(国王は、辛い思いをしているなら素直になれ、と言った。恐れ多さ承知で、・・・・・・『恋煩い』という辛さを味わっている時も、素直になって、いいのかな・・・・・・。)
「アネゴさん、危ない!」
「きゃっ!?」
獄女の鞭が絡みつく。
「あああああああ!!!」
「さぁ、もう逃げられないわ、覚悟なさい!!」
獄女の空中四の地固めだ。
「貴様には私が相手をしよう、螺旋水流弾!!!」
螺旋念力で空中浮遊していたoアズキoの手から、ソル方向に水流弾が放たれる。
「喰らえ、熱意の炎!!」
ソルの手から放たれた火の玉は並大抵の量の水なら負けじと蒸発させる。
「何!?」
「邪魔ナンダヨ・・・・・・」
oアズキoがその声を聞いた時には、もう遅かった。彼の脳天には床から跳び上がった国王がレーザー刀モードで脳天を突いていた。空中から深緑の培養液の雨が降り注ぐ。そしてその刀身の延長上では、獄女の頭までも串刺しになっていた。鞭が緩む。
「あ、ありがと、・・・国王。」
「例には及ばない。さっさと残りのブタを丸焼きにしてやろうぞ。」
「Hey,boy! 誰がpigだと言ったネ、pigと!!」
先ほどから卍F卍が、初めから暗黒面に取り付かれている彼に手を焼いていたようだが、どうやら他のゾンビが全員が倒れるのを待っていたらしい。
「さぁ、遂に来た、BBWに秘められし最終兵器を披露する時がっ!!」
『四方を海に囲まれた島国、JAPAN
ゆえに、SUIGAIの脅威はすぐ傍に在り続ける
人の歴史とは即ち、SUIGAIとの戦いの歴史である
SUIGAIはTPOを弁えない
幾度と無く、SUIGAIがもたらす悲劇・・・
DONOUにより、その惨劇にピリオドを打つのだ
DONOUはSUIGAIに対し、新たな戦術を編み出した
救援物資としてDONOUが求められていることは言うまでもない
DONOUに触れたものは皆、一様に無垢な笑顔を見せる
My DONOU。それは若者達のステイタスシンボル
片腕でDONOUを持ち上げてこそ、男は一家の大黒柱たり得るのだ
DONOUエクセサイズは今や、万国共通語と言えよう
古代日本では、DONOUはそれ一つで宇宙を表すとされた
かつてDONOU技術を後世に残そうと尽力した男達がいた
DONOU技術の精鋭を集めた組織、D-MENである
建築無くしてローマ無し。DONOU無くして建築無し。
――マルクス・ウィトルウィウス・ポリオ(前80/70~前25)
DONOUは重なり、支えあい、更なる高みを目指す
「絶対領域」とはDONOUにより築かれた防壁を指す
DONOUにより築かれた砦は1800年を経た今でも、なお健在だ
ジオラマの基本、「三感」とは
質感
距離感
DONOU感
の3つである
DONOU保持数が国力を表すのは言うまでも無い
DONOUと鉄JOMOの組み合わせは野戦司令部の必需品だ
DONOUをまとった装甲は、複合装甲をも凌ぐ
DONOUは常に全力であり、お役所仕事などしない
眼鏡王国ではDONOUに自走能力を持たせる研究が進んでいる
その有用性ゆえに、DONOUは違法な手段でやり取りされる
近年、DONOUの密輸がおおきな国際問題となっている
DONOUは、迷える魂に安息をもたらす
DONOUに詰まっているのは土ではない。希望である
す べ て の 道 は D O N O U に 通 ず
DONOU
それは命を守り、育む、世界を支える存在である
DONOUは防ぐばかりでなく、時に攻勢に打って出る
DONOU造製機は今や現代戦の主力と言われており
現在、世界各国では熾烈(シレツ)な開発競争が繰り広げられてる
今回ご紹介するのはDONOU作製器「BeeBeeWorker」である
DONOUにとって、DOKATAは父、BBWは母である
D-MENが用いれば、1日約25万個は製作出来ると言う
それでは、D-MENによる製作工程を百分の1倍速でご覧頂こう
(D-MEN史上で最高のDONOU製作速度は440donou/hである)』
「・・・・・・長い前説、有難う御座います。
では、そろそろ行きますよ!!」
「おぉ、何が始まるんだ!?」
「何だかえらくたいそうな武器みたいね・・・・・・」
「ざわざわ、ざわざわ・・・・・・」
「コ、コレハ――――――!!!」
①4つの四角い窪みが床に現れる。
②左腕のキャノンから放たれる白い袋を窪みにはめる(手作業。3つ目をはめた段階で0.10秒)
③重石を乗せる。
④右手から放たれる土砂を、袋がはめられた窪みに注いでいく。(発射開始時点で0.20秒)
⑤山形(やまなり)に注がれた土砂の表面を平らにのばす(完了時点で0.30秒)
⑥重石を外し、袋が床から競りあがってくる。
⑦袋の紐を引っ張り、口を閉じる。
⑧紐を結んで、しっかり止める。→完成(4個作製完了時点で0.47秒)
「速い!!――――――けど、作業工程が地味だあああ!!!」
「ソル、触れてはいけないことを言ってしまったようだな。」
「HAHAN? ソレでどうやってワターシをたおーすというのデース?」
卍F卍は目にも留まらぬ速さでDONOUを筒状に積み上げていく。
「今だ、皆!!」
「行くぞ、"呪い"、という名の呪い!!」
「!!!!」
ソルが手を前に伸ばし、呪文を唱える。烏の暗黒面(ダークフォース)はやがて逆流し始め、その巨体はDONOUの筒の中に吸い込まれていく。
「ナナナナ、ナント!!」
oir-okeが頭上高くナイフを投げ上げる。刃先が当たった箇所は――――――火災用スプリンクラー。烏の暗黒面(ダークフォース)の逆流によって、スプリンクラーから放たれるH2Oもまた、筒の中に吸い込まれていく。
「No,way!!! ソンナバカ・・・ガボボボボボボ・・・・・・・」
烏の巨体は、浮力にも勝る暗黒面(ダークフォース)の逆流によって完全に水底に押さえつけられている。
「このまま窒息死するまで待つのもいいのだが・・・・・・最期くらい美しく散りたいよなぁ?」
烏の脳内から響き渡る、国王の囁き。
国王が剣先を水面につける。
(NO,NO,NOOOOOOOOOOO!!!!!!)
「 咲 イ テ シ マ エ バ イ イ。 」
エレキテル、ビビビビビビビビビビビビッッ!!!!!
水面から湯気が立ち込めていた・・・・・・
「おぉ、無事でしたかぁ!」、つかの間の沈黙を破るのは、天井の穴から覗いているムラオーマンの声。
「森に隠れていたアオギリの一味は全て一人で片付けた男、ムラオーマっ!」
「これで始末完了か・・・・・・」、卍F卍のつぶやき。
「ふぅ、それにしてもあの強さの輩が4人もいると思うと、イヤになっちゃうよね、」、なぜかニコニコ笑顔のソル。
「でも心配しないでね、アネゴさん。アネゴさんのことは、このボクが守ってみせるから!!」、と自信満々の笑顔で振り向いたソル。
「・・・・・・あ、あるぇ? アネゴさん?」
「oir-oke、いつの間にいなくなったんだ?」
「oir-okeは全く見かけていない男、ムラオーマっ!
・・・・・・だが、国王様とはさっきすれ違ったぞ。」
「そういや国王サマもいないねぇ!」
「何やら、随分と急いでいたようだが・・・・・・」
・・・・・・烏の漆黒の死体が発見されたのは、後日の話だという。
ショウタの世界、創造計画、三日目。
少年は目覚めた。
・・・・・・ベッドの上?
しかも、やたらめったら高級そうなベッド。
黄金色の屋根付ベッドだ。
・・・・・・もしかして、本当に純金だったりする?
部屋を見回した。
床、壁、天井、全てがキンキラリン。
バルコニーに出る。
もちろん窓サッシも、バルコニーの手すりも、皆黄金色。
自分がいる部屋はその黄金の建築物の最上階のようだった。
昨日寝ていた草原の上に、一夜にしてこんな豪華絢爛なお城が建ってしまったようだ。
まだ夢見心地な少年の頭に、健気にもふらつきながら例の"光の球体"様が王冠を運んできてくれた。
少年は、今更ながらこの"小説"の中に、"登場人物"が二人しかいないことに気づくのであった――――――。
________________3. オワリノハジマリ
「ふわああああぁぁぁ・・・・・・」
真昼間からFEVERに達した二人は、そのまま眠りに落ちてしまい、ルナは真夜中に寝てしまったようである。
シーツを被っているとはいえ、裸だ。風邪をひいてしまっては、国王たちの戦いに加担できない。
同じく裸で寝ているイツキに抱きついて寝ていればいいが、万一の時のために、服を枕元に置いておこうと思ったルナは、ベットから起き上がると、ドア下にあったパンツを取ろうとして――――――
ガチャ。
「おい、起きろ、イツキ、たいへ――――――」
激しく殴る、蹴飛ばす、そしてドアを閉める。
「偉い人は言いました。ノックは人類最大の発明であると。」
「けっ! 何て不埒なバカップルだこと・・・・・・」
それ以降無反応だったので(多分応答不能なほど取り乱しているのだろう)、ヤクモは向かいの自分の部屋、それすなわち、国王の寝室に戻った。そして、さっきまで自分が寝ていた部屋に潜んでいた"3人目"の存在を知るのであった。
「あの・・・・・・アネゴさん、一体何を・・・・・・?」
「えっ・・・・・・?」
国王が仰向けにすやすやと寝ている上で、oir-okeが四つんばいになって、国王の顔を至近距離で見つめている・・・・・・いや、間違いなくあれは、寝込みにキスをしようとしていた!!
「ん・・・・・・何の騒ぎだ?」
「え、あ、こ、これは・・・・・・」
「どうぞ、ごゆっくり・・・・・・」
「あ、ちょっと、ま・・・・・・」
ガチャ。
ヤクモは深いため息をつく。
「はぁあ・・・・・・」
そこに卍F卍がやってくる。
「あのぅ、どうしたの?」
「え、あ、いや、皆さん、お取り込み中のようで・・・・・・」
昨日、ゾンビ格納庫から帰ってくる途中、私は小高い丘の上から夕焼けを見つめていた。
「どうして先に引き上げたんだ?」
後ろから声が聞こえる。
私は後ろを振り向いた。
――――――国王だった。
「べ、別に、あなたには関係ないんじゃないの?」
「さぁな。俺も分からん。何故お前を追ってきたのか・・・・・・」
沈黙が私たちを包む――――――。
あの気まずい別れの後、現在に至ってしまった。
私は、cu:nonがまた国王の寝室に忍び込んで寝込みを襲おうとするのを止めさせるために颯爽と・・・・・・忍び込んだものの、結局cu:nonと全く同じことをしでかしてしまった自分を――――――今すぐ殺したい。
「え、あ、あの・・・・・・」
「ん?、・・・・・・」
まだ寝ボケている国王。これは、もしかしたら誤魔化せる勝算があるかも知れない――――――
しかし忘れていた、自分の思考回路の方は、もうショート状態なのだと。
「――――――私とcu:non、どっちが大事なの!?」
「・・・・・・はぁ!?」
国王が呆れちゃうのも無理はなかった・・・・・・言った本人ですら驚いてるんだから。
でも、勢いはもう止められない。
「cu:nonは初対面だった時からもうお姫様抱っこしていたらしいわね!! この前だってあのコ、アンタがおネンネしてる時にファーストキス奪われちゃった♡、って喜んで報告しに来たのよ!!」
「いやいや、あれは不可抗力なんだって!」
「そのクセ、今度は私を空中でお姫様抱っこですか!? 国王サマは女遊びがスキなんですね!?」
「いやいや落ち着けって! どうすればそんな解釈に――――――」
「でもって、今度はゾンビ格納庫で上手い具合に助けてくれた・・・・・・もしかして、あれですか? 私を弱みに付け込みたいとか!?」
「落ち着けよ!! お前、熱でもあるのか?」
「知らないわよ!!、・・・・・・・・・・・・
分かんないよ、自分でも"お熱"なのか・・・・・・」
「お前・・・・・・」
私はベッドから降り立った。
「・・・・・・・・・・・・ゴメン、私がどうかしてた。今言ったことは、どうかなしに――――――!?」
後ろから――――――国王が――――――私を――――――抱いて―――いる―――!?
「・・・・・・お前の質問に、今は答えられない――――――自分で答えを定められない。
しばらく・・・しばらく、時間をくれない、かな?」
私は静かにうなずいた。国王が静かに腕をどかすと、私は静かにドアへ向かった。
ドアの前で私は立ち止まった。そして、ドアを向いたまま私は口を開いた。私はこう言うと、部屋を出て行った。
「これだけは約束して。
本当に・・・・・・本当に負けそうになったと思ったとき以外・・・・・・眼鏡は、外さないで・・・・・・
あの後、私、本当に心配したんだから・・・・・・」
国王の部屋で、王宮で、メルポで、眼鏡王国で、地球で、こんなことが起きている間に、太陽系のどこかで、今日もそいつらは生きていた。
そいつらはジャガイモのような丸っこい体を持つ。
そいつらは大きな鼻と猫のようなひげをもつ。
そいつらの毛髪はひげのほかは頭の毛が一本だけ伸びており、赤いリボンが結び付けられている。
そいつらは独自の言語を用いる(言葉はあくまで日本語なのだが、言い回しが非常に特殊)。
そいつらは非常に高い技術力を持ち、タイムマシンを容易く作ってしまう。
そいつらはブタようかんが好物。
(Wikipediaより)
今からお見せするのは、そんな彼らの、UFO内での他愛無い会話である。
「いまから でこぽんを しんりゃく しに いくです。
(・・・・・・?)
なんか でこぽんに いくばいいです。」
「でこぽん ですか? おいしそうな なまえです。」
「ぽえ~ん。」
「さっき でこぽんを たべました。
おいしかった。」
「にょろ~ん。」
(・・・・・・!?)
「しんりゃく できるのは うれしいです。8の15のひです。ぐんまけん。」
「ぷ~~~~。」
「どうやって しんりゃく するですか?」
「ばるさみこす~。」
(!?!?!?!?!?!?)
・・・・・・ってな感じで、通称"土星人"のちっちゃな地球侵略計画が始まろうとしていた――――――
――――――そんなことなど微塵も知らない、メルポ北西の森林地帯。
月影に照らされる、二人の九ノ一。
その内の一人が、もう一人に語りかける。
「こんな形で再会するなんて、思ってもみませんでした。」
「そうね、cu:non。あなたも立派に成長したわ。
でも、ここは戦いの場。仁義などもう要らないわ。全力でかかって来なさい!!」
「分かりました、先生。」
「えっ!?、アオギリ軍が真夜中のバーバリアに空中爆撃!?」
そう、今は真夜中。満月が南中している頃。
「えぇ、敵はメルポ壊滅作戦の失敗までは読みきれてなかったようで、おそらく本格的な進撃を見切り発車してしまったようで・・・・・・」
「僕らはどうすれば・・・・・・」
「この前分けたチームの内、1チーム――――――僕のチームが行きましょう。」
シナ戦直前に発表された、5人ずつの新たなチーム分け。その内、卍F卍チームがバーバリア戦の増援に回り、国王チームとoir-okeが引き続き待機することとなった。卍F卍曰く、残りの螺旋八兄弟もメルポ・バーバリアの郊外に出没する可能性が高いと、我々は読んだのだ。
卍F卍チームの他メンバー:イツキ・ルナ・ヤクモ・ムラオーマン
国王チームの他メンバー:ソル・cu:non・Mrk.3・隆鳳
「イツキたちのこと、頼みましたよ。」
「えぇ、心して引き受けます。」
「『遅れてすみませ~ん!!』」、イツキとルナだ。
「ひゅ~ひゅ~! 熱いねぇ~!」、ヤクモの野次。赤面して顔を背けあう二人。
「ムラオーマンsには先に行ってもらった。僕らも急いで、中将殿のギャラクシーバスターで後を追いかけよう。」、どうやら卍F卍と元帥の自腹で修理費を賄ったらしい・・・・・・。
「『了解(ラジャー)!!』」、掛け声と共に、3人は卍F卍の後を追って司令室を出て行った。
特殊部隊のメンバーの中で一人取り残された国王は、他の皆が眺めている司令室のモニターを自分もしばし見つめ――――――あることに気がついた。
「おい、あのオーラは・・・・・・」
「あ、はい、螺旋八兄弟の一味の可能性は、その力の小ささからして、低いかと・・・・・・今、解析中です。」
「誰か行ってないのか?」
「えぇ、確認のため、国王様のチームメイトの方が一人偵察に行きましたよ。」
一人・・・・・・だと?
待てよ、oir-okeは現在プチヒッキー状態だとMrk.3に聞かされた。
そのMrk.3は、oir-okeが機嫌を直すまで、そしてその間にソルが入ってくるのを阻止するべく、部屋のドアの間で待っていると言っていた。
そしてMrk.3は、ソルは今トイレだと言っていた。
そういや隆鳳は、司令室に向かう途中のトレーニングルームで見かけたような・・・・・・
・・・・・・「あれ、・・・・・・国王様?」
気がついた時には、足が勝手に動いていた。そう、あの時のように。
何故?
わからないほうがいいかもしれない。
わかりたくないだけかもしれない。
でも、もうわかっているのだろう。
今、自信を持って、はっきり言えること、それは・・・・・・
oir-okeの"あの質問"に、今はどうしても答えることは出来ない、ということだ。
ショウタの世界、創造計画、四日目。
少年は目覚めた。
またあのベッドの上。
「お目覚めですか、ご主人様?」
! ? ! ? ! ?
横には赤いフレームの眼鏡をかけた黒髪のメイドさんが、お盆を胸元に抱えて立っていた。
カ・・・・・・カワイイ・・・・・
「朝食になさいますか? お風呂になさいますか? そ・れ・と・も、――――――」
「風呂入ってきま――――――す!!」
朝っぱらからあんなことやこんなことをされては、身が持たない、――――――僕の直感。
そういえば、風呂場に行くまでに、何人かメイドさんを見かけたような・・・・・・
「これもあなたが望んだことです。」
脱衣所で服を脱いでいる最中に、光の球体が舞い降りてきた。
「メイドさんをハレーム状態にしたいなんて、何と不埒な――――――」
俺の潜在的な欲求は、自分でも計り知れないものだ。
光の球体を無視して、かけ湯さえせずに露天風呂に飛び込む。
草原の遥か遠くには、海が見えた。
少年は、このだだっ広い草原に、空虚感を感じるようになった。
________________4. Triple punch
バトルゴーグルから無線が入る。
"こちら司令室! 国王様、お戻り下さい!"
「いやだね、もう理性で自分の体が止めらんねぇんだよ。」
"解析完了。コードネーム未取得。共和制推進派の幹部、かつ、螺旋八兄弟の一味、螺旋・忍者(スパイラル・アサシン)です!!"
眼鏡王国軍の中でも、時代の流れに逆らいたい中高年の軍人は、コードネーム未取得の人が多い。現在教祖様に洗脳されている金髪アフロがその例だ。
「おいおい、螺旋力は極微小じゃなかったのかよ?」
"現在不規則に螺旋力の増幅・減幅が繰り返されています。"
「他の魔術との混合型か・・・・・・」
"今までの敵よりかなり強いと思われます。二人ではとても敵うとは思われません!!"
「んるせえええ!!」、俺はブチッと無線を切った・・・・・・
「"心"!!」
「螺旋・手裏回転(スパイラル・スピニング)!!」
二人の手裏剣が空中で幾度も衝突し合う。cu:nonの忍術の腕前は、明らかに師匠の元を離れた時から格段にレベルアップしていた。
彼女は、cu:nonの師匠であると共に、実の母親であった。
一人目の夫から悲痛な虐待を受けたあげく、若くして生んだ2人の子供を残したまま、家を飛び出し、数ヵ月後に2人目の夫と結婚。戦乱の最中、その二人目の夫に先立たれた彼女は、一人の娘――――――自分の腹から生んだ中では3人目の子供を、女で一つで育て上げてきた。
その恩を忘れたわけではない。今のcu:nonがいるのは彼女のおかげ。彼女のお陰で彼女の忍術(チャクラ)が飛躍的に向上したのは言うまでもない。ただ・・・・・・cu:nonと彼女には今、決定的な違いがある。そしてその相違こそが、一人目の夫から虐待を受けていた主因――――――
「でもね、お母さん、私は、国王様を信じてきた!! 信じてきたから、今の私がここに立っているの!!」
oir-okeがの手裏剣が、彼女の頬をかする。
「私が導いてあげる、私が教えてあげる――――――」
cu:nonは隠し持っていた手榴弾を手に取る。
「!?」
「この戦国の世の中で、共和政が成り立つわけがないって!!」
cu:nonの自由意志が目覚め始めたのはいつごろだろうか、cu:non自身でさえ分からない。でも彼女は信じている、王政を、そして、時には鬼と化してしまう、国王自身を・・・・・・
現場に向かって疾走していた国王のバトルゴーグル内臓モニターが、突然オート起動した。こんなことは初めてだ。
(何事だ!?)
自分が今いるポイントを確認して――――――目を疑った。
cu:nonがいる地点まではまだ4㌔以上あるはずなのに・・・・・・
螺旋・忍者(スパイラル・アサシン)と同じ大きさの螺旋オーラ反応が、自分のいるポイントを取り込んでいる!?
これまた強制的に無線が入る。
"受動的な螺旋・瞬間移動(スパイラル・テレポーテーション)により、国王様の半径100㍍以内に膨大な螺旋E反応!!"
「スパイラル・テレポーテーション・・・・・・やはりアオギリの仕業か!?」
"解析完了――――――2名中1名は螺旋八兄弟の一味、旧C.L.コードネーム:Page、螺旋・侍(スパイラル・ソーヅマン)です!"
国王は風の流れに異変を感じる――――――
"一人目、ポイント到達まで3秒前、2、"
道の脇の草むらが揺れる。
"1、"
『何か』が草むらから飛び出し――――
"0!!"
――――2連続の金属音。
敵はニ刀流だったので、国王は男の長剣を自分の剣で、短剣を素手で食い止めた。
男はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。男の短剣に国王の血が伝う。
・・・・・・しばらくして、草むらから拍手が聞こえた。
『二人目』が草むらからゆっくりと姿を現す――――――
「いやはや、素晴らしい。」
――――――アオギリだった。
「Page、下がってよいぞ。」
Pageが長剣で国王を押しやると、アオギリの後ろに引き下がった。
「何の真似だ。」
「君の死に際を見に来たついでに、君が死ぬまでに渡しておきたいものがあるんだ。」
そういうと、アオギリは、暁の闇の中で青白く光輝く、拳サイズの何かを差し出した。
このプレゼントに悪意はないと見た国王は、その何かを受け取る。
そいつは、円錐形、というよりは、ドリルのような形をしていた。
「それは持つ者の螺旋力を増幅させるキーアイテムだ。無論、螺旋力を持たぬ下等な人間である君には無意味なものだ。それに・・・・・・私にとっては、"忘れてしまいたい記憶"だ。君が持っていて欲しい。持っていて君自身に害は無いだろ? 君はもうじき死ぬ運命だから一緒に墓に入れてくれればそれでいい。万一、――――――あくまで天文学的確率での話だが、万一私が死んだら――――君の役に立つかもしれない。君が死んだら、その眼鏡は私が預かろう。それなら、君と僕とは、離れていたって――――」
顔を国王の前に、ぐいっと近づける。
「ずっと、一緒だよね?」
「キショクワルい。離れろ。」
「もう、素直じゃないねぇ。」、しばらく見つめた後、ようやくアオギリは国王から顔を離す。
「第一、誰が貴様に眼鏡など渡すものか。眼鏡王国の一国民としてすら、恥づべき行為だ。」
「言っておくがな、キレイゴトを言っているのもこれで最期だと思え。
もうこれ以上、君と話す意味も無いだろう。最期に君に会えたことを、嬉しく思うよ。
始末してしまえ、Page。」
Pageの眼光が鋭く光る。無言だ。彼は声帯を失ってしまっているのか。耳を悪くしているのか。それとも――――――この上なく、殺意が高ぶっているのか。
Pageは20、21歳ぐらいに思われた。引き締まった体のその肉体美は、"ホモ"ではない国王でさえも見とれてしまいそうなほどだった。
Pageが再び斬りかかってきた。国王は決まった間隔を置きながら、彼の長剣を受け流す。あまり詰められすぎると、左手の短剣の突きで瞬殺の恐れもあるからだ。
"敏走"、Pageの二丁の刀のペアに付けられた名前だ。国王の曽祖父に負けるとも劣らない、偉大な錬金術師が作ったといわれている名剣の一つだ。
"敏走"は唯でさえ軽く、尚且つPageの筋肉がそれを腕のように自由自在に操っているにも関わらず、彼の螺旋力によって、剣先はより鋭利に、剣筋はより正確に、一手一手の速度はより俊敏になっていく。
物理戦法では最早勝ち目が無い。迅雷奥義を使うか? いや、もう自分の集中力は限界に達している。しかも常に追い込まれている状況では、絶対に発動できない。
ならば――――――
『眼鏡は、外さないで・・・・・・』
はっとした。
oir-okeの言葉が、脳内を駆け巡る。例え鬼人化してPageを、そしてあわよくばアオギリをも倒せたとしても、鬼の姿を見た彼女は嘆き悲しむだろう。そして、眼鏡を外し、鬼になることは、己に負けることになる――――――
こんな雑念が過(よ)ぎり、スキが出来たのだろうか。次の瞬間、国王の剣は手から離れ、宙を舞った――――――
Pageが、国王の前で初めて言葉を口にした――――――それは奇しくも、必殺技の名だった。
「 断 鉄 ・ 断 世 」
Pageは両腕を一度後ろへ反らすと、獲物ヲ喰ラオウトスル怪物ノヨウナ笑顔で、長剣と短剣でそれぞれ水平真逆方向に斬りつけようとして――――――
――――――空気の流れの変化を読んだ二人は、同時に"そちら"を向き―――Pageが飛びのいた直後に、国王にとっては聞きなれた銃声音が"そちら"から響く。
「――――――――Mrk.3。」
「姫君を助けにいくのかい? やっぱツンデレだねぇ~♪」、草むらから堂々と現れる狙撃者(スナイパー)。
国王は苦笑いを浮かべた。しかしながら・・・・・・安堵の情がこみ上げてきたのも否めない。
「流石は・・・・・・魂之兄弟(ソウル・ブラザー)だ。」
「ひひっ、実はもう一人助っ人をお呼びしておきましたぜ、国王サマ。」
そういうと、もう一人も草むらから姿を現した。
「ご無沙汰しておりますぞ、国王様。」
「隆鳳さん!」
「私も貴方の一・魂之兄弟に認められるべく、参上いたした。」
「よっ! 心強ええぜ、アニキ!!」
「けっ・・・・・・出来れば一人で貴様を仕留めたかったが、結局集まっちまったみたいだ。
さぁ、かかって来な!! 今更逃げるなって言わせねぇよ!!!」
Pageは死期を悟った――――――しかし、ここで逃げることは、彼の固いプライドが許さなかった。
「・・・・・・ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ゔゔゔゔゔぉ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
狂気に満ちたPageは、無鉄砲に国王に飛び掛る。
――――――銃声音。
銃弾は両方の剣で何とか弾き返したが、その双剣は共に高々と空へ舞い上がる。
「すまねぇな、国王サマ。急いでいたもんだから、もうこれで弾がなくなっちまった。」
Mrk.3がそういうや否や、Pageは一目散に逃げ出した。
「オイオイ、さっきの蛮勇はどこにイっちまったんだ?」
「ハッハッハ、私たちから逃れられると思ったか!?」
「・・・・・・最早、あいつに残された選択肢は、死、のみ!!
さぁ行くぞ、魂之兄弟達(ソウル・ブラザーズ)よ!!!」
「 タイクサイプロテインパ―――――――ンチ !!!!!」
「 INFINITY UPPER !!!!!!!!!!!」
「 死 双 螺 鉄 拳 ・ 軽 (デスドリルブリット・ライト)!!!!!!!!!!!!!」
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!!!!」
――――――――戦利品(シタイ)は完全に確保した。
アオギリがいなくなっていたのに国王が気づいたのは、勝利の余韻にしばらく浸った後のことであった――――――
互いの手裏剣は尽き、二人のクノイチの戦いは、クナイによる接近戦にもつれこんでいた・・・・・・
「手裏剣の腕の上達は認めよう。しかし、――――――クナイの腕はまだまだのようね!!」
"彼女"は一気に踏み込み、cu:nonに斬りかかる。
cu:nonは間一髪でその攻撃をよけると、次の攻撃を見切るべく身を翻し――――バランスを崩して、転倒してしまう。
「怖気づいた? あなたの自由意志がどれほど研ぎ澄まされていようと、私にはかなわない。」
共和制の平和な世界を夢見る"彼女"。眼鏡王国の国王を暗殺し、JAPAN列島を統一する新たな帝国の建国に向けて日々精進してきた前の夫、零。
私は零より強くなるために家を出た。強くなるために忍術を会得した。だから、だから・・・・・・
「あなたはなぜ共和制を望むのですか? あなたも知っているはずです、一切の武力を捨てたはずが、最期には破滅的内紛が起きた国、JAPANを。」
「違う! あんなのは共和政じゃないわ! ――――――もしあなたがここで負けを認めるなら、あなたの目の黒いうちに、共和制の美しい世界を見せてあげても構わないけど?」
「私は屈しない! 私は――――――国王についていくと心に誓った。」
「そう・・・残念ね・・・・・・
ジャ、死ニナサイ。」
どうすればいいの?
あのクナイが振り下ろされれば、私の13歳という短い人生は終了してしまう。
こんな時、どうすればいいの?
走馬灯のように、鮮やかな記憶が脳裏に流れる。
国王の部屋にこっそり忍び込み、バルコニーから下に眺めていた、国王様の素振り風景。
風に沿うように軽やかに剣を振る様に、私はいつも見とれていた――――――
そうだ、私は知っている。
こんな時どうすればいいか、私は知っている。
いつも、見ていたじゃない。
クナイが下向きに動き始めるや否や、私は風になびくように静かに、軽やかに、瞬時に立ち上がり、クナイの刃先を"彼女"の胸倉に向け、そして――――――
それは、まるで私がやったのではないかのよう。
私以外の誰かが、例えば国王様が、私の両手首を後ろから掴んで、背中で国王様の胸の鼓動を感じながら、体全てを国王の動きに委ねていたかのように。
しかし、私の顔は鮮血を浴びる。
これが、たった今まで生きていた、人間の命の炎の熱さ。
"彼女"が無言のまま地面に倒れこんだ後も、暫く私は突っ立っていた――――――口をポカンと開けた間抜け面で。
私は誰かの気配に気づき、振り向いた。――――――oir-okeネエさん。
あんなに会いたかった、自分の母親が、"彼女"の長女であった自分の目の前で倒れている。
あんなに会いたかった母親と、敵としてサイカイしてしまったことに憤りを感じる。
何より、自分の愛弟子が、自分の母親を、殺したことが、不思議で不思議でたまらない。
同じ腹から生まれた二人の少女は、それぞれ別の環境で生まれ育ち、
同じ腹から生まれた二人の少女は、同じ眼鏡王国の一戦士として出会い、
そして今、同じ腹から生まれた二人の少女は、同じ一人の少年に恋をしているのだ・・・・・・
そして、そこに忍び寄る、螺旋八兄弟の七人目・・・・・・・・
「まぁ、かわいい女の子さんたち、ウフフフフフ♪」
国王のコメント:「お、おい、オカシーだろ!!」
ショウタの世界、創造計画、五日目。
つくづく思う、俺はちょっと、ストライクゾーンが広いのかもしれない。
浮気は、男の文化。
それが、俺の、自論。
俺は純愛なんて信じない。
俺はハーレムが好きなんだよ。
俺は、生きとしいける全ての♀が、大好きだぁあああああああああああ!!!!
・・・・・・いやいや、何を言ってんだ、俺。
俺は再び、バルコニーにつながる窓ごしに、一夜にして形成された城下町を眺めていた。
買い物客でごったがえす商店街。
ごみのように散りばめられた家。
レンガ造りの橋の上を通る馬車・・・・・・
一日目に望んだ草原は、もう跡形も無く消えてしまったことに、俺は少し寂しさを感じたんだ・・・・・・
「※△■%◎¥?――――――なんだからね!?」
俺は後ろを振り返る。
何かしらの言葉をしゃべる、ツンデレなメイドさん。
その隣の、恥ずかしがり屋な眼鏡っ娘のメイドさん。
その隣の、常に笑顔を絶やさない癒し系メイドさん。
ツンデレメイドのしゃべる言葉は途切れ途切れ。――――――僕の妄想力がそこまで気を配れていないから。
眼鏡っ娘メイドの眼鏡は、いつだってフレームが赤かピンク。――――――それが僕の望む色だから。
癒し系のメイドのその笑顔でさえ、――――――幻想に、そう、ただのお飾りに過ぎない。
物寂しげに、俺の後姿を見つめるかのように、光の球体が俺の後ろで静かに浮かんでいた。
________________5. マモルベキヒト
曙の赤紫色の下。
生暖かい死体の前で手を合わせる、巨乳の少女。
その後姿を切なげに見つめる、適乳の少女。
巨乳は振り向くと、重い口を開いた。
「あなたがそうだったなんて・・・・・・母さんが生んだ、三人目の子供・・・・・・」
間 零から逃げ出した、oir-okeの、そしてMrk.3の母親は、忍術を体得した後、何と眼鏡王国の軍人と結婚し、一人の娘を産んだ。
「そう、私です、oir-okeネエさん。」
自分の肉親を、そうやすやすと殺せるものなの?
私だったら・・・・・・私だったら、もっと事を穏便に済ましていたはず。
たとえ、母さんが・・・・・・あんなに優しかった母さんが、私にクナイを振りかざしたとしても。
私はcu:nonの神経が、全く理解できなかった。
でも、でもね――――――それを問う前に、まず聞いておきたいことがあった。
「同じ母親から生まれてきたって事はさぁ、」
それは、――――――――
「似てる所だって、少しはあるんだよね、ねっ?」
「アネゴ・・・・・・さん?」
私もう自分で心の整理がついたんだもん、もうはっきり言えるんだもん、
「単刀直入に訊くわ、」
国王様のことが、彼の過去全てを含めて、彼のことが、好きになってしまったんだって。
「アンタは、国王様のこと、好き?」
さぁ、アンタはどうなの? どうなのよ!?
「・・・・・・アネゴさん。」
・・・・・・何? このヘンな感覚は?
「あなたに会った時から、いつそのことを訊かれるかって、ずっとビクビクしてましたよ。」
!!!!!!
「私デスか?
好きデスよ。
大好きデスよ。
私、cu:nonは、国王様のことが、大好きデス。
私は彼に一目ぼれだった。
私は彼にクギヅケだった。
私は彼を信じて、ここまで上り詰めた。
私は彼に認めてもらいたくて、ここまで頑張ってきたんだ!!
私が今、ココにいる意味、このチームに所属している意味が分かりますか?
私が、国王様に認められるのにふさわしい女になったということデス。
私が好きな言葉は、"カワいい"、"国王様"、そして・・・・・・"下克上"!!!」
まさか――――――実の母親を殺したのも、―――全ては、国王のためなの!?
私は、やっとのことで、次のことを口にしたの。
「・・・・・・悪くないわね。」
「どうしたんデス?」
「上等よ!
・・・・・・そうだ、賭けをやりましょう。」
「ほほ~、・・・・・・で、どんな賭けなんデス?」
「私とアンタが、同じ危険な目に会う。その時、彼は、どちらを選ぶか・・・・・・」
「さすがデスぅ、アネゴさん。
で、もちろん賭けというからには、何かリスクが伴うわけデスね?」
「もちろんよ・・・・・・負けたほうは、素直に国王から手を引く。」
「いいでしょう。ノリましたよ。」
「『もう、後戻りはできない!!』」
その時、草むらからガサゴソと――――何者かが姿を現した。
「あらあら、お熱いこと。」
眼鏡をしていないだけで、敵だということは一発で分かった。
「見ての通り、私たちはあなたの敵なんだけど・・・・・・私で良ければ、出来ることは何でもやるわよ?」
それを聞くや否や、二人は彼女に詰め寄って、同時にこう叫んだのだった。
「『私達を・・・・・・人質にしてください!』」
"別の螺旋E反応観測!!"
「cu:nonのポイントか?」
Mrk.3と隆鳳をほっぽり出して、俺はcu:nonがいるはずの地点へと向かっていた。
"そのはずなんですが・・・・・・今、cu:nonさんのゴーグルの反応が消えてるんですよ"
「!!!!!!」
"そして、同じポイントにoir-okeさんも・・・・・・"
それを聞いたときには、既に俺の足は2×2倍速だ。
"解析完了――――――旧C.L.コードネーム:*NaG*、螺旋・舞姫(スパイラル・クロスボウマスター)です!"
ポイントに俺が着いた時に見た光景は、明らかに異様なものだった。
戦場(フィールド)の真ん中に倒れている赤いものは、恐らく螺旋八兄弟五人目の死体であろう。
それをはさむように、右手・左手にそれぞれ一本の十字架が立てられていた。
そこにとりつけられていたのは・・・・・・"最低限の部分"のみ包帯で巻かれて隠された、oir-okeとcu:nonの半裸体であった。
「『国王様ぁ!!』」
何故だろう・・・・・・彼女達の声から感じ取れる感情に関して――――――恐怖より、期待の方が勝っているように思えるのだが。
そして最後に異様だと感じた光景は・・・・・・oir-okeの左胸を鷲づかみにして右手をゆっくり動かしていた、若い女の存在だった。
螺旋八兄弟の三女、八人のうちでも最年少であるが、螺旋八兄弟最強の(ウォーリアー)と呼ばれる女、*NaG*。
美しく滑らかそうな白い絹肌、その肌はあたかもルナ、もしくは・・・・・・奇しくも今は亡きシナを思わせる。
これもまたシナのように細い腕・ふくらはぎが垣間見える。
しかしその正体は、骨の髄から同性愛によって腐り果てた女だ。
自分を隠すためには冷酷に、時にはケダモノにさえなったけれども、その内側に清楚な少女の心を隠し持っていたシナとは、まるで正反対なのだ。
*NaG*。螺旋八兄弟三女。またの異名を、"男殺し"。
「秘密ノ花園ヘヨウコソ。」
今まで一緒にいた二人でさえも、その声の変わりように凍りついた。その声に脈は無い。汚物を見るような、冷酷な目つき。
「貴様か・・・・・・俺の女に――――――」
「言わせねぇよ!!」
気に喰わないその声に、俺はぱっと振り向く。Mrk.3だ。
「既出なんだよ! sympathy編Chapter2でな!!」
「んるせぇ!! いいところなんだから黙っとけ!!」
「貴様か、俺のアネキに手ぇ出したやつは!?」
「無視かよ!!」
「ソコノスナイパー、アナタノ侵入ヲ許シタ覚エハ無イ。ソノ少年カラ10㍍以上離レヨ。サモナケレバ、マズキサマカラ射殺スル。」、*NaG*の目はより鋭利になる。
俺は彼女のその眼が、どこかPageに似ていると思った。これは後で分かった話だが、*NaG*に告って殺されずにフラれたのはPageだけだという。
Mrk.3が俺と十分な間隔を取る。凍て付く空気。赤焼けが美しかった空が、途端に曇り出す――――――
二人は同時に地を蹴った。
「 暴 風 雨(テンペスト)!!! 」
二丁の弩から無数に光の矢が放たれ、国王に襲い掛かる。
「 迅 雷 神 速 剣!!!」
光の矢を余すことなくその魔剣が切り落とす。
二人が放つ光は、神々しい雰囲気を醸していた。しかし、二人の鋭利な眼光には、静かな殺気のみが宿っている。
*NaG*は高く跳躍した。螺旋・瞬足跳躍(スパイラル・フラッシュジャンプ)だ。
「 暴 風 雨 ・ 乱 舞(ダンス・テンペスト)!!! 」
あらゆる方向に飛び交う光の矢が、追尾ミサイルの如く、国王の方へと軌道を変えていく。しかし、国王はその剣捌きを緩めることはない。
しかしこの光の矢は、Mrk.3をも苦しめていた。
「うわっ、ぐはぁああ!!」
一歩歩くたびに数発当たっているのではと思うほどの猛攻である。急いで木陰に身を隠した。
ようやく光の矢吹雪も終わりを告げる。
「アナタニ悪夢ヲ魅セテアゲヨウ・・・・・・」
二丁の弩から出てきたのは・・・・・・各3本の鉤爪。色からして、猛毒が塗られているのであろう。
『男殺し』の仕込刀、人はこれを死之鉤爪(ハーピィクロー)と呼ぶ。
Harpy : ハルピュイア、ハーピー。上半身が女で、鳥の翼とつめを持つ貪欲な怪物。(ジーニアス英和辞典より)
殺意に狂った獣は、鉤爪を振りかざし襲い来る。
Page戦と同様、国王は一定間隔を取りながら暫く攻撃を受け流し、反撃のチャンスをうかがうしかない。
しかし、国王の手も一向に緩まない。それどころか、彼の剣捌きは攻めれば攻めるほど磨きがかかる。
一方、木陰からの反撃を狙うMrk.3だが、すばしっこい動きがスナイパーライフルの照準に定まらない。
(くそっ、隆鳳さんかソルがいれば・・・・・・)
二人はバーバリアでの紛争の増援に送られてしまった。
oir-okeとcu:nonが取り付けられている十字架は、ライフル一発ではビクともしそうにない。それに銃声を立てれば、矛先がこちらに向けられるのは目に見えている。
(それでも、一矢は報いなければ・・・・・・)
ここで国王の動きに変化が見られた。国王の剣に漲る雷の光がじわじわと消えていく。剣を捌く速度も衰え、足取りも重くなる。
(ヤバイ、アイツ・・・・・・魔力が消えかけている!!)
「国王!!」、十字架に貼り付けられているoir-okeが叫ぶ。
国王は苦い表情を浮かべている・・・・・・
「 死 之 鉤 爪 ・ 激 攻(ハーピィクロー・アサルター)!!! 」
螺旋力を帯びた死之鉤爪の激しい猛攻が、魔力を使い果たした国王の剣を、そして――――――国王自身をも襲う。
「っんっっく!!!」
左腕をやられた。やられた所がみるみる赤黒く腫れてくる。
国王は以降全ての攻撃を辛うじて受け止め切れたが、左手の痛みは確実に国王の戦意を掻き乱していた。
*NaG*は観念したのか、死之鉤爪を折りたたむ。
「少年ヨ、ナカナカヤルデハナイカ。流石ハ、我ガ兄弟タチヲ倒シテキタダケアル。コレデ最期トオモウト、イタタマレナイキモチダ。
サヨウナラ、」
*NaG*は天に弩を向け――――――放つ。
「 地 獄 火 雨(メテオストレイフ)!!!!! 」
黒雲から無数の火の矢が、国王一点張りに襲い掛かろうとしていた。
国王は最後の力を振り絞り、剣を掲げる。
「 迅 雷 御 封 剣!!!!! 」
*NaG*の足下に魔方陣(ルーン)が刻まれる。*NaG*の足はもう動かない。
「何の真似だ!?」
国王は残りの力を足に集中させ、*NaG*に向かって全力疾走する。*NaG*は、彼がやらんとすることを悟った。
「無駄だ、 螺 旋 ・ 一 撃 必 殺(スパイラル・モータルブロー)!!!!!」
螺旋力フル回転、フルスピードで*NaG*の強烈な一矢が放たれた――――――
「 破 ・ 双 螺 突(デストロイドリルスタブ)!!!!!」
――――――国王除く、見る者全てを圧巻させた。螺旋・一撃必殺の方向ベクトル作用線上に刀身は存在し、剣先のみで食い止めるその矢からは火花と放電流が飛び散る。
そして、それでも尚、国王は全力前進する。死を悟った*NaG*はもう何もすることもできなかった。
国王は、*NaG*の目の前で高く跳躍した。国王を追いかけていた地獄火雨の猛攻を、彼女は全身で浴びざるを得ず――――――彼女は炎となり燃え盛った。
国王は着地した、炎を背に。
国王は背筋を伸ばして立つと、両腕を左右に広げ――――――二つの十字架に向けてそれぞれの手から雷を放った。
二人は十字架から体を解放される。
二人は国王を見つめる。
国王は歩き出す。
歩き出して、ふと止まる。
そこで国王は初めて口を開いた
「すまん・・・・・・まだ心の整理かつかないんだ。
もう少し・・・・・・もう少しだけ、待っていてくれないかな・・・・・・。」
そう二人に告げると、返答も待たず、また国王は歩き出す。
「さぁ、帰ろうか。
そして行こう、バーバリアへ。」
木陰からMrk.3はその姿を、唯呆然と見つめていた。
ショウタの世界、創造計画、六日目。
ある意味、幸せだった。
また来たと思ったら、ツンデレワードを口にして立ち去ってゆく、ツンデレメイド。
今日も俺の前で派手にティーポットを落として割る、眼鏡メイド。
そんな彼女等を横目に見ながら、優しい笑顔で俺のカップにコーヒーを注いでくれる、巨乳メイド。
・・・・・・幸せだった。そして、退屈だった。
また何事もない一日が過ぎ去ろうとしていた・・・・・・深夜だった。
静寂の闇から、突如強烈な青白い光がバルコニーの窓から差し込む。
飛び起きた俺は、眼を細めながら、恐る恐るバルコニーへと進んでいく。
俺がバルコニーで見たもの・・・・・・それは、
二対の翼を持った、青白いドラゴン、だった。
その鱗の色とは裏腹に――――――血のような、赤い瞳を持っていた。
「行かなければなりません。」
!?
そいつは確かにしゃべった。その声は・・・・・・あの"ピンポン玉"!?
そういや、今日は一回も見ていなかった・・・・・・
「大切な人が危ないんです。」
俺はまだ驚きで言葉を発せないでいた。
「あなたはここで寝ていてください。すぐに戻りますから・・・・・・」
そういうと、俺に全く口を訊かぬまま、彼女は飛び立っていった。
その時、俺は気づいたんだ。
思い出したように、その瞳の色が、悲しげな紅蓮から、無味乾燥とした漆黒に変わっていくのを。
________________6. KHAOS
最初にお知らせです。
自作小説「眼鏡の聖地 KHAOS」第弐巻 ~RIVAL~
の第6話から、
自作小説「眼鏡の聖地 KHAOS」第参巻 ~LOVER~
のプロローグまでを、
これから8月にかけて順にUPしていく予定です。
第参巻プロローグUPの更新を最後に、大学合格までの"眼鏡の館"更新を完全に停止する予定です。
STOPしても暫くは皆さんのブログにいけると思いますが、来なくなったら、「あ、もう多忙なんだ」と思ってください。
それと、第5話本編はあれで終わりなのですが、"ショウタの世界 育成計画5日目"をつけて再UPしておきましたので、そちらもご覧下さい。
それでは以下をクリックして、第6話本編をお楽しみ下さい!!
朝日が瓦礫の海を照らし始める。
ここはバーバリア。かつては水の都と称されてきたが、今や創造と破壊が繰り返される運命にある、眼鏡王国、実質最大の都市。
今日も瓦礫の海に業火は絶えない。
眼鏡王国と、アオギリ教の、全面紛争である。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・・・・」
ここはそんな戦場の一角。
ヤクモが"お祓いのあの棒"を持って向かい合うのは、アオギリに洗脳された金髪アフロ氏が搭乗している、人型ロボットである。
暁の説得虚しく、アフロは攻撃の手を緩めようとはしない。
サイタマー"Σ"の攻撃、「アフロ・ミキシング! in 埼玉」が暁たちを飲み込む。
※バーバリアは現在の日本列島でいう大阪辺りです。
「ぐっ!・・・・・・大丈夫か、ルナぁ!」
「ああぁぁ!!」
暁は辛うじて踏みとどまり、ヤクモもオテラパワーで無事だったが、ルナは完全にその渦に飲み込まれたようだ。
「ルナ、待ってろよ、今助けn―――」
「案ずるな。・・・・・・まぁ見てなよ。」
ヤクモがやけに冷静な声で暁をなだめる・・・・・・何故かニヤニヤしている。
サイタマー"Σ"内のアフロへ、無線が入る。
"さぁ、今こそお前の名をその少女に切り刻め、アフロ・エアカッター! in 埼玉だ!!"
渦中に風の刃が発生。
風の刃が、ルナを・・・・・・
ルナの衣服を切り刻んでいく!!
そのあらぬ姿に・・・・・・暁は口をあんぐり開けていた。
ヤクモはニヤつきを止められない!!
ルナがようやく気づいたときには・・・・・・最後の一枚が・・・・・・「ビリっ」・・・・・・
「もうぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!!!!」
その時、ルナに得体の知れない力が発動したっっ!!
こちら、バーバリア空軍中央司令室。
「バーバリアD-0エリアから、高圧E反応!!」
「螺旋Eか?」
元帥Jii-sanは、そのエリアで3人とアフロが戦っていることを知っており、最悪の状況になりはしないかと懸念していた。
「いえ・・・・・・解析不能です!」
「同エリアにて、莫大な感情オーラを観測! 感情爆発(エモーション・エクスプロージョン)まで秒読み段階!!
「なんと!! 増援を回せ!!」
「間に合いません。Dエリアに正規軍戦闘員はその3名しかいません!!」
「何っ!?」
「感情爆発まで、
5、
4、
3、
2、
1、
0!!!」
ルナの怒りが熱エネルギーと光エネルギーに変換され、四方八方に放たれる――――――。
「無事か? 3人は無事なのか!?」
「敵軍戦闘用ロボ、大破! 敵軍戦闘用ロボ大破!
「・・・・・・正規軍戦闘員3名、及び、アフロ氏の生存を確認!!」
「・・・・・・一安心か。」
「エリアD-0、微小螺旋E反応!!」
「身元特定・・・・・・螺旋八兄弟八人目、螺旋・機械人(スパイラル・メカニック)、shunです!!」
「・・・・・・遂に現れたか。」
全裸のルナに、shunのガンランスが向けられた。
shun、螺旋八兄弟の最後の生き残り。ちくわぶー帝国出身。帝王Mr.Kの左腕と称されたマッドサイエンティスト、キルターの優秀な部下で、このガンランスもキルターと共同開発したものだ。
shunは月面基地でアオギリに認められ、アオギリと共に地球へ密かに帰ってきたのだった。
キルターと共に開発した作品は数知れず。地球の未来を脅かした復刻版サテライト・キャノン CXシリーズもその一つだし、アオギリのサイボーグBlu-ray:Wooder009や、愛機ブルー・ジ・ビーン シリーズも然り。
「助けて・・・・・・イツキ・・・」
「ルナぁ!!」
(どんな茶番だよ・・・・・・)、流石にヤクモは飽き飽きしていた。
と、そこへ・・・・・・
BAAAAAAAAANG!!!!!
shunはその左胸から多量の血を噴出し、あえなく散った。
「ふぅ、間に合ったぜ。」
「Mrk.3!!」、ルナが喜びの声を上げる。
(あれ、いつの間に呼び捨てに・・・・・・)、イツキは軽くMrk.3に嫉妬した。
(ああ、あっけない死に方だわ・・・・・・)、ヤクモは再び南無阿弥陀仏を唱え始めた。
「ここは・・・・・・どこ・・・」
「アフロさん!」、Mrk.3が駆け寄り、手を差し伸べ、その巨体を引き上げた。
「私は、今まで・・・・・・」
「目を覚ましたんですね、良かった・・・・・・」
とりあえず経緯(いきさつ)をMrk.3たちが説明し・・・・・・
「そうですか、それはそれは皆さんに多大なるご迷惑をお掛けしてしまいました、申し訳御座いません。」
「いえいえ、アフロさんが戻ってきて本当に良かったですよ。」
「同年代のオヤジの復活を祝う男、ムラオーマっ!」、お決まりのBGMが流れる。
「・・・・・・どっから沸いてきた、キサマは!!」、Mrk.3がムラオーマンの登場に唖然とした。
「てか、隠れてたんなら早く助けにこいよ・・・・・・」、あきれたヤクモもタメ口でマダオ(マルでダメなオヤジ、の略)に話しかけていた。
「いやいや、50㍍走3秒ペースで駆けて来た、許せぇっ!!」
こんな茶番がいつまで続いたやら・・・・・・
「・・・・・・おい、皆、上を見ろよ!!」
Mrk.3の声を聞き、他の5人も空を見上げる。
「『『『『な、何じゃありゃ~~~~!!!!!』』』』」
ス●ブラでもお馴染み、肌色の丸いあのキャラが、あのぬいぐるみのように『かわいい』キャラが・・・・・空から無数に降ってきたぁぁぁぁぁあああああっっっっっ!!!!!
この情景は、「『かわいい』に満ちた現在社会がわずかに方向を転換するだけで取り返しのつかない惨事を招いてしまうと言うヴィジョンを、まことしやかに語っている」、そうイツキはつくづく思ったのだった。
(今回の定期テストオワタ――――――!! by 筆者)
この土星人たちの襲来は、イチオウ予言石"氷の鏡"が予言した出来事ではあったが・・・・・・予言が遅すぎた。
「全軍突撃!!!」
卍F卍大佐の合図と同時に、正規軍各戦闘機のファイナリスト20が一斉に発射された。
・・・・・・今やファイナリスト20は量産型となっていた。
「FIRE!!」
一回の攻撃で20の土星人がほぼ確実に死ぬ。
「FIRE!!」
確かに数え切れないほどいるが、流石に土星人が1億いるとは到底思えない。
まぁ多く見積もって1億としよう。
それに引き換え、北はカ●チャッカ半島、西は満●、南はフィ●ピン・マ●ーシアと、大国がほとんど火星に行って中で今やもぬけの殻となった地球で徐々に地域を絶賛征服中の眼鏡王国が、一度にバーバリアに集めた空軍戦闘機は、米李下からの応援含め約5万。小型のザコなら一機に詰めるのは精々3発程度だが、それでも600万ぐらいの土星人を倒せる。
「FIRE!!」
スターダスター大佐用ならば20詰められる。それ系統が1000はあるだろうから、それで40万ぐらい倒せる。これら2種の戦闘機や、陸軍ザコ戦車、海軍ザコ駆逐艦が、標準装備しているホーミングバルカンで、@400万はいけるだろう。
「FIRE!!」
ここまでの数字はショボいかもしれないが、超ド級海軍/宇宙戦艦が米李下と合わせて14機、彼等と我が空軍司令塔が持っている超時空ビーム砲とバルカンなら一秒間に各々100は殺せるから、1時間540万の土星人が殺せる。彼等のミサイルでまた150万ほど倒せるだろう。
これだけで多く見積もっても17時間あれば全滅可能だが、何よりも大きいのは、我が国最終兵器"時空爆弾"である。まだ試作段階であるが現段階で400個。打ち上げて成層圏で爆破させれば人体に影響は及ばない。1個10万いけるからこれで4000万はいける。
これでざっと10時間で始末可能・・・・・・
いや、まだ最後の砦は1つある。魔法国家眼鏡王国が誇る、ウィザード達だ。
1人1秒1体倒して、10万人もウィザードがいれば1時間要らない。
その中でも特に・・・・・・
「迅雷神速剣!!!」
1秒間に16体は斬り殺しているであろう男一人。
シカシ彼、決して鬼人化しているわけではない。
二対の翼を持った、青白いドラゴンに乗っていた。
"彼女"もまた、飛び回りながらその口より吐く青白い炎でそれ相当の土星人を倒している。
せわしなく手を動かす彼に、一個の"首"が飛んでくる。
螺旋・部分瞬間移動(スパイラル・セパレートテレポート)――――――アオギリだ。
「漁夫の利、ってやつかい? 賢いねぇ、宇宙人は。君たちと僕たちが戦っているところを襲って、眼鏡王国の領土と、僕の名誉を奪おうとしているんだから。」
至近距離までアオギリは国王の顔に近づく。
「相変わらず回りのことが見えんやつだ。」
「それはどうかな? 確かに僕の幹部戦闘員は皆死んじゃったよ。ごくろ~さん♪ってとこかな。
でも僕はまだ諦めないよ。君たちはここを壊されると困るだろうけど、僕らはここに眼鏡人がのころうが土星人が残ろうが関係ない。最終的に布教して理想の世界を作り上げるのが我々なんでね。」
現在、アオギリ軍は一時撤退中なのだ。
「ま、精々頑張りなよ、じゃあね。」
アオギリはそれだけ告げると姿を消した。
国王はそんなことには目もくれず、ただその"ジャガイモ"を斬ってばかりいたのだった。
だいぶ土星人も片付いてきた頃、異変は起こった。
「おい、なんだあれ!?」
司令室の一人が気づく。
「どうした!?」、元帥が問いかける。
「大気圏に未確認飛行物体の突入を確認!!」
「UFOか・・・・・・大きさは?」
「推定・・・・・・!!!!!」
「どうした!?」
「いや、恐らくエラーでしょうが・・・・・・半径800㌔㍍の円形・・・だと・・・・・・」
「何だって!?」
ショウタの世界、創造計画、七日目。
今日も何気ない日々が過ぎていく、その予定だった。
僕目当てに、訪問者がやって来たという。
見慣れない風貌の若い男だった。
首まで伸びたボサボサの髪、古びたボロボロのマントは、この城のこの部屋には不似合いだった。
でもどこか、懐かしい感じがした。
・・・・・・会ったこともないのに。
恐らく、どこか"元ノ世界(こちら)"めいた雰囲気を感じてしまったからだろう、。
男が口を開く。
「"この世界では"名前を持っておりません。この世界を放浪している者です。」
不可解な台詞だが、自分がその風貌から受け取ったイメージとしては、しっくりくる言葉だった。
「ピンポン玉大の、丸くて白く光って、浮遊している存在、と申し上げれば、ご理解なさるでしょうか?」
僕は大きくうなずいた。
「その方から、貴方への伝言を頂戴しました。」
この男と"ピンポン玉"がどういう関係にあるのか疑問だったが、あえてそれは問わなかった。
「"貴方に二つの選択肢を与えます。
一つは、この世界に残る、という選択肢。
もう一つは、元の世界に帰る、という選択肢です。
明日、この男がまた来ますから、それまでに決めておいて下さい。
そこで返答に困って時間が過ぎてしまったならば、貴方は消極的に、一つ目の選択肢を選んだことになります。
だから・・・・・・厳密に言えば、三つ選択肢があることになってしまいますね。
貴方はどれか一つを自由に選んで下さい。
しかしこれだけは心得ておいて下さい、
これが元の世界に戻れる、最初で最後の機会(チャンス)だ、と。"
・・・・・・伝言は以上です。」
________________7. Bolt from the Blue
"と、いうわけだ。貴方たちを長らく待たせてしまって済まなかった"
ここは第3司令室。
スターダスターから卍F卍の指示が無線で入る。
"これから貴方たちに、ア●エリアスに搭乗してもらいたい。"
アク●リアス――――――それは、神の兵器。
かつて死神を@一歩まで追い詰めた、人類が地球に残した最後の超兵器。
"最後にパイロットを確認する。
フレーバー・ア●ティブダ●エット、oir-oke!"
「はいっ!」
"フレーバー・ビタ●ンガード、cu:non!"
「はいは~い♥」
"……フレーバー・●リース●イル、ソル!"
「任された!」
"…………フレーバー・シャー●チャージ、隆鳳!"
「サー、イエッサー!!」
"……………………いい返事です。
各自、搭乗台につけ!"
4人はそれぞれ、橙、黄、緑、赤の●の上に乗った。
"それでは4名に神のご加護のあらんことを……Good Luck."
その合図と同時に、●から光が溢れ、4人を包み込む。
隆鳳:「あぁん!・・・・・・気持ちいい・・・・・・」
「『『それ、まだだから!!!』』」
とりあえず、さっさと外に出て合体しましたとさ。
「また合体できましたね、アネゴ!」
「うっさい、黙れ、そして死ね!」
「・・・・・・仲いいんですね、アネゴ。」
「cu:non、何か言ったか、あ゙ぁ゙ん゙!?」
「いえ、何でもないです・・・・・・」
(うわぁ、キャラ変わってる……)、心の中でそう思う、隆鳳であった。
「なぁ、さっきから疑問に思ってたんだが・・・・・・」
「何ですか、隆鳳さん?」
「・・・・・・何でホクホクしてんだ、ソル・・・まぁいいや。
・・・・・・これ、何か付いてない?」
3人は辺りを見回し……同リアクション、
「『『な、何じゃこりゃ~~~~!!!!!』』」
アクエ●アスの合体で知らず知らずの内に混入してしまっていたもの、それは・・・・・・
「エア・ライガー ブレード・シールド、四賢者C!!」
「エア・グーン ブレード・サーベル、四賢者A!!」
「『『『おぉ~~~!!』』』」、パチパチ。
「お帰りなさい、Cさん♥」
「ただいま、cu:nonちゃん! 陰陽の道、ちゃんと極めてきたよ!!」
妙な馴れ馴れしさに、少しウザさを感じたcu:non。
「え、ちょっと待って? エア・グーン、盾から剣に昇格(ランクアップ)してません!?」、妙な設定に感動するソル。
「・・・・・・ちょっと待って? 背中になんか背負(しょ)ってない!?」、早速動こうとしてようやく気づいたoir-oke。
「エア・ザーク ブレード・ボウ、四賢者B!!」
「『『『おぉ~~~!!』』』」、パチパチ。
"・・・・・・で、何処行ってたんですか、Bさん?"
「いやいや、心配かけたね、君たちが行方不明になった後に傷を負って、ずっと引きずってて・・・・・・」
「『『『話そっからかいぃっ!!!!』』』」、CX002破壊時の反螺旋力爆発に巻き込まれたメンバーが全員この場に揃っていたことに驚きを隠せない筆者。
「・・・・・・でさぁ、僕が最初に気づいたの、上、なんだけど。」
皆上を見上げ・・・・・・呆れ変える、ABCさん含め。
「エア・シエル ブレード・クラウン、四賢者D!!」
「『『『『『『『『・・・・・・邪魔。』』』』』』』』」、卍F卍やABCさん含め、8人の声が綺麗に揃う。
「分かったよ、覚えとけ、また会おう!」
そういってシュリケンモードになると、単体で土星人始末へと旅立った。
「じゃあ私も今は退(ど)いておくよ。必要になったらまた呼んでくれ。」
そう言うと、Bさんも飛び立ち、土星人始末へと回った。
oir-oke:「さぁ、行くわよ、皆!!」
「『『『『おうっ!!!!!』』』』」
A:「超必殺神技(じんぎ)、
『『『『『"神・竜剣無限刃(しん・りゅうけんむげんば)"!!!!!!』』』』』」
こちら、飛行艇Blu-Blue。
アオギリの定位置の……両隣に座る二人の人物は、アオギリの側近である。戦闘以外の面において、アオギリが最も信頼している二人であった。
二人は兄弟であったが、皮肉にも弟が右、兄が左にいた。
弟、Jiroはアオギリよりも背が低く、直毛で短めの髪が特徴だった。
兄、Ichiroはアオギリよりも背が高く、次男とちがいクセ毛の髪の毛だった。
二人ともアオギリより年上で……この兄弟はある人物と血のつながりがあった――――――
アオギリ教は、土星人の介入により一時戦闘から離脱しているが、・・・・・・はっきりいって、劣勢であった。
そこで、兄弟はある計画を企てていた……
そして、……不幸にも、教祖様はその計画の存在を知ってしまっていたようだ。
しかし、彼は黙認するつもりだ。
共に死ぬぐらいなら、二人でも生存者がいてくれた方が……自分という伝説の存在を伝承してくれる者がいた方が、いいのかも知れないと思い始めたのだ。
時は、間もなくやってくる。
「ようやく見つけた・・・・・・アオギリさんよ。」
アクエリアスは攻撃の反動を剣伝いに受けて分離、ソルと四賢者Aが負傷を受け戦闘続行不能となるも、巨大UFOのド真ん中を"神・竜剣無限刃"は確かに貫き、土星人のほぼ完全な撃退に成功した。視界もかなり晴れ、@はアオギリ軍の再来を待つのみとなったが・・・・・・
「どうした、cu:nonちゃん?」
「あぁ、隆鳳さん……アクエリ●ス・フ●ースタイルの居場所が……」
「さっきまでソルくんの乗っていた機体か? はて、どこへいったのか……」
無線が入る。卍F卍だ。
"ソルはすでにア●エリアス指令本部に送還され……代わりに、後からやってきたMrk.3が乗り込んだそうだが……アク●リアス・フリー●タイル、Mrk.3、応答せよ、Mrk.3、応答しろ!"
「Mrk.3さん、どこなんですか、Mrk.3さん!!」
「・・・・・・私、心配だから行ってくるね。」
「アネゴさん!?」
向こうの空から、土星人とは異なるものがちらほらと見え始めた……
飛行艇Blu-Blueにて。
Mrk.3はようやくアオギリの居場所までたどり着いた。
しかし、先客がいた。
青白いドラゴンと……国王だ。
「さて、どう料理しようか……お前ら3人なら、俺一人で7秒で丸こげに出来るぞ?」
ここに来るまでの戦闘員が全て倒れていたのも、こいつらのせいだろう。
ここで、Mrk.3はあることに気づいた。
……先に気づいたのは、Ichiroだった。
「・・・・・・亜久二(あくつ)!?」
「一郎叔父さん、宗二叔父さん・・・・・・」
「Mrk.3!?」、国王はようやく背後のMrk.3の存在に気づいた。
国王は改めて二人を見返す・・・・・・
初めから違和感は持っていたが、何故初めから気づかなかったのか。
彼等は、"国王ガ人生デ初メテ殺シタ人間"と、顔が似通っていた。
名前が「零」(長男)→「一郎」(次男)→「宗二」(三男)とくれば、もう一発で理解できた。
しかし・・・・・・だからどう、というわけではない。
自分の兄上を殺したのは、他でもない「零」だ。彼等ではない。
それに、IchiroとJiroは確かに眼鏡王国の敵だが・・・・・・彼等が特別誰かを殺したわけではない。
今からこっち側へ寝返るなら、アオギリがどうかはともかく、自分は咎めない。
一方で、アオギリは少なくとも一人、Makeyという男を殺している。
Makeyと自分がどういう関係だったか、Makeyを愛していた女oir-okeと自分がどういう関係か、なんて気にしていない。
ただ、oir-okeを悲しませるのが、なんとなく許せなかった。
でも、ここまで来てしまって今更だが、そんな気持ちも薄らいできている――――――もう一人の女のせいで。
・・・・・・そんなことはどうでもいい。とにかく、彼のせいで国が揺らぐのは事実。
彼を殺さなければならない。
彼ヲ、殺サナケレバナラナイ……。
そして、最も敵対しあう二人が鉢合わせる。
「Mrk.3!!」
「アネキ・・・・・・」
「ぁ・・・・・・」
oir-okeは……自分にとって、悪の骨頂でしかない存在と、それに仕える身内の存在を知る。
「・・・・・・どういうことですか、お二人とも。」、oir-okeは前者を無視し、後者二人に話しかけた。
が、返答したのは前者であった。
「見ての通りだ。二人は、私の側近だよ。」
IchiroとJiroは、横目でお互いを見つめ合った。
国王はその二人の仕草に何かを察したようで、
「速まるな、oir-oke。……まぁ見ておけ。」、そうoir-okeをなだめた。
「さて、一戦交えようじゃないか、教祖さん。
それとも、今更逃げ腰ってわけかい!?」
すると、アオギリは、不意にフハハハハハと笑い出し、
「さぁて、どうだろうねぇ、フハハハ、フハハハハハ!!」
そう言うと、アオギリの定席の前にあった赤いスイッチを押す――――――
"Change,SHICAIDAR!!!"
赤ランプが回り、警告音と共にアナウンスが流れる……
3人はようやく気づいた――――アオギリの座っている所が頭部で、Ichiro、Jiroの座っている所が肩で……
アオギリの席が半透明なベールに包まれる。
そして次の瞬間――――――アオギリと国王は、既に察していたが――――――IchiroとJiroを包もうとするベールを――――――間一髪で交わした二人は――――――"SHICAIDAR"と分離しようとしていた飛行艇の床に喰らいつき、程なくして立ち上がった。
「やはり、君たちは・・・・・・」、少し悲しそうな目で、アオギリが二人を見つめ、飛行艇から徐々に離れていく。
Jiroが口を開く。
「僕たちは、もうあなたにはついていけないと考えました。最期まであなたとともにすることは・・・・・・できない。
僕たちは続きの世界を見たいと思います、あなたがいなくなった、続きの世界を。」
Ichiroも力強く頷いた。
「そうか・・・・・・」、"SHICAIDAR"からのスピーカーがかすかに聞こえる。
「じゃあ私は君たちを咎めない。私が思うに、君たちの選択は・・・・・・最善だ。
さぁ、かかってこい、眼鏡たちよ。私一人が相手だ!!!」
カラッポになった飛行艇の穴に、スターダスター大佐用が近づく。
「一郎さん、宗二さん、こちらへお乗り下さい。
Mrk.3、oir-okeは再び合体を試みよ。
国王は、そのドラゴンでアオギリを追尾してくれ。」
「了解(ラジャー)・・・・・・
・・・・・・oir-oke?」
「どう・・・したの?」
「・・・・・・"彼女"もかなり疲労困憊といったところだが・・・・・・俺のタイミングで・・・・・・鬼人化してもいいか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・許可を。」
「・・・・・・・・・・・・いいわよ。
その代わり・・・・・・・・無理だけはしないでね。」
「あぁ。」
そう告げると、国王は青白いドラゴンに跨り、すでにスターダスターの消えた飛行艇の穴から飛び立った。
残った二人は、アクエ●アスを停泊させておいた場所へと戻り、それぞれ発進していった・・・・・・
卍F卍:"フォーメーション、A - B - S - F
ガッタイコード、「それぞれの意志」!!"
B:「oir-okeよ、受け取れぃ!!」
"アクエリ●ス・ア●ティブダイエット + エア・ザーク ブレード・ボウ"
oir-oke:「皆、集中して・・・・・・」
それぞれの魂のビートを、一つに合わせてゆく・・・・・・構えるは、4本の矢。
cu:non:「標準(ターゲット)、ロック・・・・・・」
"それぞれの意志"は、鋭利に尖り・・・・・・矛先をそろえる。
Mrk.3:「オン!!!」
隆鳳:「受けろよ、私のパトスを!!!」
B:「必殺奥義、
『『『『"神・朱翼四虹矢(しん・しゅよくよんこうや)"!!!!!』』』』」
4本の矢が朱と虹の弓から放たれる。
国王が翔けた後を追う4本の矢は、その軌道上に絶妙に形作られた磁界によって、多少のブレがあろうとも、ほぼ確実に国王の、即ち"SHICAIDAR"の後を追う。
ア●エリアス司令室・・・・・・
「"神・朱翼四虹矢"、衝突まで、3、2、1、・・・・・・衝突!!」
ソル:「・・・・・・どうだ?」
「・・・・・・"神・朱翼四虹矢"、破壊されました!!」
卍F卍:『破壊!? どういうことだ!?』
『・・・・・・レッグドリルだ。』
卍F卍:『国王!?』
国王はバトルゴーグルの無線で卍F卍たちに話しかけている。
『気をつけろ・・・・・・あいつは―――"SHICAIDAR"は、螺旋力の塊だ!
今から微量の反螺旋力で中和を試みる。二発目の準備を!』
その時、隆鳳が他の戦闘員に話しかける。
「私の体力は、次でもう限界のようだ。次で仕留めなければ、私はバトンタッチしようと思う・・・・・・いや、次で仕留めようぞ!!」
「『『了解(ラジャー)!!!』』」
cu:non:「標準(ターゲット)、ロック・・・・・・」
心の揺らぎで、弓がわなわなと震える。
oir-oke:「落ち着いて、cu:non。皆の・・・・・・皆の意志を感じるのよ・・・・・・」
"それぞれの意志"は、さらに鋭利に尖り・・・・・・結束を固める。
Mrk.3:「オンっ!!」
「『『『『発射ぁあああああっっ!!!!!』』』』」
4本の矢は、"SHICAIDAR"に吸い込まれるように美しい軌道を描く。
「"神・朱翼四虹矢"、衝突まで、
3、
2、
1、・・・・・・」
Mrk.3:「・・・・・・やったか!?」
「・・・・・・"SHICAIDAR"、姿を暗ましました、"SHICAIDAR"、行方不明!!」
「『『『『!?!?!?!?!?』』』』」
oir-oke:「どういうことなの!?」
「分かりません!!」
ソル:「ボクも地図を見てたんだけど・・・・・・国王が反螺旋力を発した直後に、二人の反応が・・・・・・」
cu:non:「国王様もいなくなっちゃったの!?」
卍F卍:『もしかすると、"SHICAIDAR"は・・・・・・』
全員が卍F卍の、次の発言を聞こうと耳を澄ませた。そして・・・・・・驚くべき言葉を耳にする。
『螺旋・亜空間移動(スパイラル・ドリルワープ)で上空、あるいは、宇宙空間へ逃げたかもしれない。』
ショウタの世界、創造計画、最終日。
『忘れてはなりません、
貴方の世界に、
貴方以外に意志を持った存在がいることを。
忘れてはなりません、
貴方の世界に、
貴方を支えてくれる存在がいることを。
忘れてはなりません、
貴方の世界に、
貴方のことを必要とする存在がいることを。
忘れてはなりません、
貴方の世界に、
貴方と共に自己を高めたいと望む好敵手(ライバル)がいることを。
忘れてはなりません、
貴方の世界に、
自分の思い通りにならないことがあることを。
忘れてはなりません、
一番大切で、一番面白いのは、
貴方の世界で待つ困難を貴方自身が乗り越えること。
忘れてはなりません、
貴方の秩序によって作られた世界が、
やがて貴方にとってつまらない物となることを。
忘れてはなりません、
貴方の世界に、
此処では手に入らない無秩序(カオス)があることを。』
________________8. Chase
大変長らくお待たせしました。
エピローグを除き、RIVAL編の最終話、エピローグA-1と共に更新です!!]
以下よりドウゾ。
ここまで追ってこれたのは、奇跡だった。
間一髪でワープ・ホールに入り込み、出てきた先は、もう決して行くことのないと思っていた、宇宙空間。
しかし、バーバリアに行く前に王宮に立ち寄った時に着替えたその服の内ポケットに、たまたま大量の"地球玉"(常に酸素が供給され、自分の目線方向に対し垂直下向きの、重力と等しい大きさの力がその肉体に働くのと同等の状態にできる、サイダー味の飴)が入っていたので、何とか死だけは免れた。
「ここまで追ってこれたことを褒め称えよう、眼鏡王国、国王。
しかし、貴様はこの私を倒せはしない。
むしろ、貴様がここまで来れるのは、想定内だった!」
ここで国王が、ようやく彼等の罠にはまったことに気づく。
アオギリの後ろにあるのは・・・・・・見間違いなどしない。初めて宇宙に飛び出したときに国王が乗っていた、――――――全領域超弩級航空戦艦、SG-XMB1号機!!!
「貴様等の国から、宇宙船艦を一隻頂戴していたのだよ。」
「ばかな・・・・・・どこに隠し持っていたという!?」
"SHICAIDAR"はその右腕で、地球の影で黄色い光をたたえる球体を指す。
そういえば・・・・・・月面都市国家"黄昏の国"に残党がいた!!
「タイムスリップしてきた少年たちの話は聞いているよ。・・・・・・多分会ったことないと思うけど。
確か彼等の時代だったよね、IT革命。
凄いよねぇ、インターネットって。
何たって、火星とだって瞬時に連絡が取れちゃうんだから・・・・・・ねぇ?」
そうか・・・・・・こいつを殺しても、この地球(ほし)でアオギリ教徒を皆殺しにしても・・・・・・他の星の信者の心の中に、永遠に生き続けるというのか!?
「私は死なない。この身果てようとも、永遠の存在に昇華する。」
・・・・・・いや、そんなことはどうでもいい。
初めから、どうでも良かったんだ、他の星のことなんか・・・・・・
「出でよ、"ゴッド・ハンド"!!」
こいつを――――――潰せばいい。
「"ゴッド・ハンド、拡大"!!!」
その白き右手は、国王の身長とほぼ同じの元の全長から・・・・・・数百倍、数千倍へと巨大化していく。
「潰せ。」
SG-XMB1を軽く覆ったゴッド・ハンドが、――――――今にその巨体を軽々と粉砕した。
「・・・・・・くだらねぇな。」
今の一撃で、乗組員は全滅しただろう。
あの中に人質がいなかったことを・・・・・・祈ってやまない。
「面白いものを魅せてもらったよ、国王。
また会えるといいね、じゃあ私は火星へ――――――」
反螺旋力を失いかけた、元のサイズの数十倍のゴッド・ハンドが"SHICAIDAR"を包み込む。
ここで、"彼女"の怒り心頭の顔を思い出した国王は・・・・・・
背後の"青い光"へと"SHICAIDAR"を放り込んだ。
バトルゴーグルで、ア●エリアスへと無線をつなげる――――――
「ヤツは地球(そっち)へ送り返した。後始末、頼んだ。」
すると、
『国王・・・・・・隆鳳さんの体調が優れないの。今すぐ、戻ってきてくれない?』
「――――――フレーバー・シャー●チャージ、パイロット、貴方たちの国王さんはちゃんと乗り込みましたよ~。」
「待ちくたびれたゼ、国王! ・・・・・・あの時のメンツだな。」
「あぁ、・・・・・・俺が乗るからには、失敗は許さん!!」
「おうよ!!――――――合体!!」
(「『コクオウサマと、また・・・・・・ガッタイ・・・・・・?』」)
国王:「フォーメーション、A - F - B - S !!
ガッタイコード、
『『『"未来(アス)への、爆走"!!』』』」
Mrk.3:「流石だぜ、国王サマ・・・・・・魂(ソウル)が違う!!」
cu:non:「あぁん! コクオウサマ、もっと・・・・・・もっとイタブって~~~♥♥♥」
oir-oke:「ぁ、ちょっと、うるさいわよ、cu:non・・・・・ぁあ、・・・・・国王・・・・さま・・・・・・ぁ」
国王:「俺の反螺旋力がうずいてきた・・・・・・さあ、皆・・・・俺様について来い!! 」
A:「この"剣"、再び託します。神の力を、ヤツの体に、今刻もうぞ!!!」
「『『『了解(ラジャー)!!!!』』』」
アク●リアスが、エア・グーン ブレード・サーベルの柄を、今度は両手で握り締めた。
国王:「oir-oke。」
oir-oke:「?」
国王:「お前に腕の操作を託している。お前の手で、ヤツを斬れ。」
oir-oke:「まさか、そのためのA型合体・・・・・・」
国王:「・・・・・・お前の腕、信じてる。」
oir-oke:「・・・・・・ウン。」
A:「絶頂必殺神技(じんぎ)、
『『『『"神 ・ 竜 剣 裂 虹 斬(しん・りゅうけんれっこうざん)"!!!!!』』』』」
アオギリ:「"SHICAIDAR"、螺旋必殺奥義、
"シ●イダー・ラセン・レイピア"!!!!!」
2機は、バーバリアの青空の下――――――衝突した。
第3司令室――――ア●エリアス司令室では。
ソル:「ついにやったか?」
「双螺旋(ダブルスパイラル)ノイズ、キャンセリング中! もうすぐ解析完了・・・・・・」
隆鳳:「それにしてもすんごい閃光だな・・・・・・」
卍F卍:『上空より、一機の生存を確認。
・・・・・・・あれは!!
風穴ヲ開ケラレタノハ――――――――アク●リアス、ダッタ。
各パイロット席で警告音が鳴り響く。
まともに穴を開けられた国王の席の目の前に――――――
赤ランプのみが点灯するパイロット席に、白い光が差し込む――――――
そのシルエットは――――――
ア
キ
ラ
メ
ナ
イ
デ
口がそう動いていた、いや・・・・・・耳に聞こえたかもしれない――――あの愛しい、金髪で色白の少女の声で。
国王は咄嗟にoir-okeの席のモニターを見た。
oir-okeは・・・・・・こっちを見て、力強くうなずいた。
それは、『私は駄目だった。だから・・・・・・国王が倒してきて。」、そう言っているように見えた。
もう躊躇う必要はどこにもない。
今こそ、
自分の、
漆黒ノ翼で――――――
[[rb:S O A R. > 飛 ビ 立 テ]]
「はははははは!!! 神さえも私に平伏した!! これがどういうことか分かるか?
そうだよ、私は神に昇華した、私こそが、真の神なのだ、あははははははははははははは!!!!!
――――――――――――!?!?!?!?」
"SHICAIDAR"は後方から何かにぶつかられ、
その左胸に――――――風穴を開けられた。
"漆黒の翼"は、音速で滑空しながら――――――ニヤリと笑みを浮かべた。
吸血鬼は時に血を吸うだけでなく、同じ体積の"毒"を血管に注入することがある。
"毒"で体内の血管を満たされた時、心臓さえ動いていれば、吸血鬼として数倍の命を得られるのだ。
51世紀のサイエンティスト達は、彼らの"毒"を、反螺旋力と呼んだ――――――
螺旋力――――創造の力 「生」
反螺旋力―――破壊の力 「死」
(私は、悪しき力に屈してしまったと言うのか?)
アオギリは目を開けた。
横たわっていた、瓦礫の町。
眼下に広がる、澄み切った青空。
「ブルー、ブルー・・・・・・」、彼は空に向かって、そう呟いた。
「みぃつけた。」
アオギリは起き上がり、その声の主のほうを振り向く。
国王だ。
国王はもう"漆黒ノ翼"を折りたたんでいたが、まだその体からは微かに反螺旋力が感じられた。
「お前の、負けだ。」
「はは、分かってるさ。」
「命乞いをしたって無駄だからな。
俺はお前を心から殺したくて病まない。
たとえ俺がお前を殺したくなくとも・・・・・・
俺にはお前を殺す義務がある。
眼鏡王国、全国民のため。
そして、ある人のためにもな。」
「意味深だな。」
「とにかく、お前を殺さなければならない。」
「お好きにどうぞ、国王サマ。」
「ふふ、安心しな。お前を信仰していた者たちにも、ちゃんと社会的・人間的な最低限度の生活を与えてやるからよ。
俺の国は、俺が治める。」
「・・・・・・くくく、、ふはははははははははははは!!!」
「何が可笑しい。」
「国王サマ、果たして君に"国王"が務まるかな?」
目を見開いて、アオギリは嘲り笑う。
「どういうことだ。」
「だって、今まで武断政治・・・・・・いや、政治にもなってなかったな、単なる軍人だったお前が、いきなり武力無しに政治を行えるわけがない!」
「・・・・・・。」
「そうだよねぇ、皆、貴方のこと怖がっちゃうよねぇ。」
アオギリの顔がぬっと国王の顔に近づく。
「ダッテ、貴方、怪物(モンスター)、ダモンネ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「貴様のような怪物(モンスター)にホモサピエンスを統率できるわけがない。
人類はやがて貴様を恐れ、避け、無視し、そして忘れることだろう。」
アオギリは両腕を大きく広げ、天球(ソラ)を仰ぐ。
「天ハ我ニ味方スル。それは必然にして、当然。
私の死後も、この国は、この星は、もう私の手中にある! なはははははははははははっ!!」
「違うっ!!」
その声の音源、その少女に、即座に二人が視線を向ける。
「違うもんっ!
国王様は、ケダモノなんかじゃ……怪物なんかじゃないもんっ!!」
「cu:non……」
「国王様は独りなんかじゃない。こんなに仲間がいるもん!」
後方で、後からついてきたMrk.3たちが強くうなずく。
「初めから、勝者なんて決まっていた。
国王様は負けない。
貴方みたいな、幹部戦闘員さえろくに生かせない指導者(リーダー)なんかには絶対負けるはずがなかった!!」
oir-okeも、cu:nonに勇姿に温かい視線を注ぐ。
「貴方がどんな辛い過去を送ったかは知らないけど……貴方には国王様の痛みなんて到底理解できない。」
「辛い・・・・・・過去・・・・・・?」
(あぁ、そうだよ。
私だって、辛い過去を送ったんだ。
私も、・・・・・・私だって最初は、ごくごく普通の、多感な少年だった。
彼女とイチャつくのだけが毎日の楽しみ、なんて時期さえあったよ。
でもね、初めてその彼女から別れ話を切り出されたときは、
とても立ち直れそうに無かった。
なんせ初めての恋愛の、その初めての別れ話だったんだ。
そして遂に別れて、私は誓った。
『もう恋なんてしない。』、ってね。
でもね、完全に性欲は断ち切れなかった。
画像や動画をネットであさり、
一時期はいい年して二次元にも手を出していたよ。
でも、でも・・・・・・女に対する被害妄想は拡大する一方で・・・・・・それで、それで・・・・・・)
「ということは、お前の同性愛信仰の本質は、現実逃避だったわけか。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「現実(リアル)を見据えない野郎にこの国は始めから任せられねえな。
虚言・妄想だけ語っているだけじゃ意味が無い、実を伴わないとな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな。」
アオギリは背を向け、また空を仰いだ。
「国王サマよ。
私の分まで、国民を明るい未来へ導いてくれ・・・・・・。」
「あぁ。」
国王は爽やかに返事した、例えるなら、瓦礫の町の上に広がる、澄み切った青空のように。
「さぁってと・・・・・・cu:non。」
「へっ!?」
いきなり国王に呼びかけられ、cu:nonはどきっとした。
「奴の生殺与奪は、・・・・・・cu:non、お前に譲った。」
「国王・・・・・・」
「俺の過去はもう清算した。最後は、やはり、お前の番だ。」
最後に自分で"SHICAIDAR"を壊したことを、まだ国王は根に持っていたのだ。
「国王・・・ほんと・・・・・・ありがと。」
国王は照れを隠すかのように、太陽の方角へ向いてしまった。
「じゃあ・・・・・・いくね。」
アオギリは瓦礫の上にへたり込む。
cu:nonは拳銃を構えると――――――何の躊躇いも無く、引き金を引いた。
瓦礫の上、澄み切った空の下、その銃声は高らかに鳴り響いた。
国王は、剣の鍔止めからストラップ状にぶら下げた、空色の宝石を太陽に透かしてみていた。
それは、アオギリが、国王に託した遺品だった。
"全アオギリ教信者に告ぐ、全アオギリ教信者に告ぐ。
貴様等の教祖の首を取った。
モウ貴様等ノ教祖(トップ)ハコノ世ニイナイ。
貴様等に機会(チャンス)をやろう。
メルポ王宮前で我が身に姿を現せ。
そこから貴様等には、軍人としての人生が待っている。
・・・・・・あるいは、軍事兵器工場で下働きかな?
いずれにせよ、厳しい修行が待っているのは事実。
さぁ、どうする? のるか、のらないか。
別に、無理に来いとは言わない。
悪いことは言わない、とっととこの国から出て行ってくれるなら。
ドウセ貴様等ノ家ハ売リ飛バサレルノダカラ。
まぁ、この国から出るってことは、
後住む所と言えば・・・・・・
砂漠か、
海底か、
宇宙空間ぐらいか。
最後に。
この場に及んで俺様にたてつくがいれば、
スグニ斬リ殺ス。
以上だ。"
国王の台詞が、TVで繰り返し放送される。
ムラオーマンは、スナック菓子を食べながら、ソファで寝そべって、そのニュースを見ていた。
メルポ、王宮。
「ムラオーマンさんは行かなくていいのかい?」、隆鳳が部屋に入ってきた。
「ははは、涙もろい男、ムラオーマン・・・・・・」
「私もだよ。歳を取るにつれて、涙腺がゆるみやすくなるわ。」
"時間の扉(タイムゲート)"。
ようやく3人に、2009年への扉が開かれる時が来た。
国王:「また来いよ、皆。」
イツキ:「さぁ、いつ来れるかな?」
Mrk.3:「流石にこれからは国王サマ、オマエラのこと守れないだろ? しっかりしろよぉ、イツキ♪」
ルナ:「ホント、心配になってきちゃった♪」
イツキ:「おいおい・・・・・・」
cu:nonは先ほどから、何か足りない、と考え続けていた。
ヤクモ:「Don't worry. 僕がついているからご心配なく。」
国王:「ほぉ、これは心強い。」
ソル:「アネゴさん、アネゴさんにもボクがついt――――――」
oir-oke:「てめぇは引っ込んでろ。」
ソル:「しゅいましぇ~ん・・・・・・」
cu:nonは先ほどから、何か足りない、と考え続けていた。
国王:「そういや、大佐は?」
oir-oke:「"氷の鏡"に変化があったとかおっしゃって、退出なさってしまいましたけど・・・」
国王:「そうか、5人で見送りとは、何とも寂しいもんだ。」
イツキ:「大丈夫。十分嬉しいよ。」
ルナ:「そうよ。私たちのために時間を割いてくれてるだけで嬉しいんだから!」
cu:nonは先ほどから、何か足りない、と考え続けていた。
ヤクモ:「さぁて、そんじゃあそろそろ、行きますか。」
イツキ:「おう!」 ルナ:「うん!」
国王:「達者でな。」
ヤクモ:「皆さんもお元気で!!」
そして3人は、緑色の光の中へと消えていった・・・・・・
oir-oke:「行っちゃったね。」
Mrk.3:「ああ、行っちまったな・・・・・・。」
国王:「おぉ? Mrk.3、お前、まさか泣いてるのか!?」
Mrk.3:「泣いてねぇよ、バカ!!」
国王:「またまたぁ~、そんなこと言っちゃってぇ~♪」
Mrk.3:「バカヤロー、泣くわけ・・・泣くわk――――――」
cu:non :「あっ!!!」
国王:「どうした、こんないい時に?」
Mrk.3:「よくねー!!!」
cu:non :「イツキさん・・・・・・眼鏡、してませんでしたよね?」
国王:「あ。」
Mrk.3:「あ、って、オマエ、まだアイツに眼鏡返してなかったのか?」
国王:「色々ありすぎて、すっかり・・・・・・」
この国がCLと戦争していた時、暁と国王は初めて別れた。その時に暁が眼鏡を五十一世紀(ココ)に残してしまっていたのだ。
暁の眼鏡は、国王の鏡台の上に乗っていた。
ソル:「こりゃ、ゴー トゥー ザ パスト じゃないのかい?」
Mrk.3:「オマエ、これは流石に返さないとまずいぞ?」
国王:「また"眼噛ネムル"になれと? あのキャラ設定、あんまり好きじゃなかったんだけど・・・・・・」
Mrk.3:「じゃあやるなよ。。」
oir-oke:「国王・・・・・・私が一緒に行こうか?」
cu:non :「ううん、アネゴはいた方がいいよ。この国でとても必要とされてる戦闘員なんだから。やっぱり、ここはあたしが・・・・・・」
国王:「いや、いいんだ、二人とも。誰にも迷惑をかけたくない。」
oir-oke ・ cu:non :「・・・・・・・・・・・・。」、二人はお互いを見つめ合う。
国王は眼噛ネムル・スタイルに着替えた。
国王:「気にするな。生きて帰ってくる。」
cu:non :「そう言われると余計心配だよぉ!!」
国王:「はは・・・まぁ、いざとなったらバトルゴーグルがある。」、そういってバトルゴーグルを手にかざす。
Mrk.3:「またヤクザに絡まれないように気をつけろよ。」
国王:「なんで知ってるんだ?・・・・・・まぁいいや、せいぜい気をつけるよ。じゃ、また。」
そういって右手を上げながら、国王は"時間の扉(タイムゲート)"へと入っていった。
"氷の鏡"には、ヘッドホンをした上から黒とグレーのニット帽をかぶった少年、そして、茶色い古びたマントをした長髪の少年の後ろ姿が、映し出されていた・・・・・・
少年は眼を覚ました。
そこは良く見知った部屋で、
それでいて、前とは違う世界。
まだ学校へは行きたくない。
でも、外へ行こう。
外の空気が吸いたいから。
いや、外の景色が見たいから?
いや、外で待ってる気がするから。
・・・・・・外に出て、後悔した。
ちっ、夕方だったか・・・・・・
今日もウチの前でずっと待っていたアイツの顔が、パアっ、と晴れるのが見えた。
少年は再び戦友(とも)の時代(ところ)へ向かう。
黒に つば の赤いキャップ帽の奥に光らせる黒い眼鏡。
前に来た時にこの街は既に熟知した。
駅は、こっちの方向か・・・・・・
この後、自分に悲劇が待ち受けているなんて、この少年は思ってもいなかっただろうに・・・・・・
少女は一人、部屋に篭る。
前の最愛の人は、死んだ。
前の最愛の人を殺した人も、死んだ。
前の最愛の人を殺した人を殺した人は、遠い"過去"へと出かけた。
弟が部屋から呼びかけても、聞こえないフリ。
そうか、そうだったね。
どこかで勘違いしてたんだ。
アイツが死んでも、アノヒトは戻ってこない。
アイツが死んでも、私の悲しみは消えない。
アイツが死んでも、生活に大きな変化はないんだ。
アイツが死んでも、ちょっと新しい生活が始まるだけ。
アイツが死んでも、
私の・・・・・・いや、
アイツ以外の全ての人にとって、
世界は、続いていくんだ。
(自作小説「眼鏡の聖地 KHAOS」最終巻 ~LOVER~に続く。
これで本編掲載は大学合格までおあずけとなります。ホントに有難う御座いました!!
ブログ更新は8月末か9月に最後の一回更新やって、一旦停止にしようと思います。
俺がブログ一旦停止しても・・・・・・
世界は続く!! )
眼鏡の聖地 mega-neO @meganeo
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