第5話 終章 娘のために

俺は周りの木々をグールごとなぎはらった。

奴に光線が効かないことはわかっているので直接は攻撃しない。

大木がゴーレムに倒れこんでくる。

動きが鈍重なのが救いだった。

もちろんこの程度で壊れはしない。

俺は光線の熱量を上げ火をつけ、さらにグールの死体をくべた。

ようやく立ち上がったゴーレムに特大の光線をぶちこむ。

血と脂とその煤にまみれたクリスタルはもはや透明ではなかった。

胴体が砕け散りゴーレムは崩れ落ちた。

俺は雄叫びをあげた。


「これは油断した。見物はここまでか。が、ランスルお前の運命は変わらない」

あざ笑いゴーレムはただの無機物に還っていった。


「貴様の思いどおりになるものか」

ランスルは昂然と言いはなった。

もううつむいてなどいなかった。


赤ん坊を背負いランスルは一昼夜歩き続けた。その間俺は近づくグールを射ち、夜空をサーチライトのように照らした。


歩きながらランスルは語った、魔導士がゾーデリアに呪いをかけたこと。

人質にとられた妻ハンナと娘のアリシアを置いて逃げ出したこと。

死者の軍団は死人返りで復活させた一騎当千の生者であること。

グールの生け贄にするため森に連れて来られたこと。そしてそのときにはすでにハンナは噛まれていたこと。


そしてこれからやろうとしていること。


いよいよランスルは限界に達したようだ。

うずくまり動かなくなった。

まだ儀式は終わってないのではと俺は不安にかられたが、ランスルは最後の気力をふりしぼりその身を起こした。

娘を抱きしめキスをすると小さな白銀の盾を取りだし、覆い隠すように背負った。

そして呪符を亡き妻の髪の毛で自分の舌に縫い付けた。


ランスルは自分で自分の死体を操るという不可能に挑戦しようとしていた。

生きているかぎりグール化は避けられないからだ。

問題は俺だ。死んでしまったら契約は終わりとなり召喚獣なしでこの森は抜けられない。

そこで死人返りだ

適切な魂を用いれば復活する。ランスルはハンナの魂を使うことにした。


生き返れば当然またグール化してしまうがこのグールはネクロマンサーの支配下にある。

あるはずだった。


ランスルはナイフの切っ先を自分に向ける。

「タカハシ今までありがとう。あとはよろしく頼んだよ」

マスターランスルは最後まで礼儀正しかった。


ランスルの術式は成功した。

グールとなったランスル=ハンナはアリシアを背にひたすら歩いた。

それがネクロマンサーの最初で最後の命令だから。

俺もまた彼らを守ってつき従った。

グールの群れを退け野獣を追い払い、夜空に光の柱を立てた。


二日後ついに森を抜け人里に出た。

赤ん坊の体力も限界に近いはずだ。


村人たちが遠巻きにしてこの異様な旅人をながめている。


俺は前方の羊の群れを焼き払った。

なんということか!歩く邪魔をするものを排除させられたのだ。

それが望みならグールの主人といえど俺は逆らえない。


人々をかきわけ現れた者たちがいた。

バーナーとランスル軍団だ。

「ランスルさん」

バーナーが呼びかけるが応えのあるはずもなくただ歩を進める。


ヤバい!バーナーは火を放つかもしれない。

俺は上下する白銀の盾に出力をしぼった光線を照射した。

マスターを攻撃することは契約で禁じられているが俺は赤ん坊を狙うことでタブーを回避できた。

火がついたようにアリシアは泣き出した。いや実際熱かったのかもしれない。


バーナーはすべてを悟ったように行動をおこした。

村人をすべて下がらせ軍団に指示をだした。


枯草が山のように積まれバーナーが点火した。たちまち煙が押し寄せる。

一寸先も見えなくなった視界に俺は封じられた。


目の前が赤く染まり人間大の火柱があがったと知れる。

宝玉に引き戻される感覚があった。

バーナーはうまくやってくれたようだ。

アリシアを救い、そしてランスル=ハンナを……ランスルは賭けに勝ったのだ……



----



俺は泣いていた。

ただ泣いていた。

なぜ泣いているのかわからなかった。

夢から覚めたら泣いていた。

あそこでなにかあった。

あそこに誰かいた。

しょせん夢だ。

少しすれば泣いたことすら忘れてしまう夢のはずだった。

泣きながらまた眠りについた。



----



あれからどれほどの時がたったのか。


一人の少女が立ちはだかっていた。

「我がしもべとなれタカハシ!」

見覚えのある白銀の小さな盾を手に叫ぶ。

「うなずけばよし、さもなくば!」


力のないマスターと契約すれば大損害をこうむるのは俺だ。


ふん。


俺は迷わずうなずいた。

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異世界にて召喚獣タカハシとなること 伊勢志摩 @ionesco

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