第20話『覚醒?』

 クマが動揺したのがデン助たちにもわかった。

 ゴン太の首の毛に深くもぐったポッポ屋がささやく。


「(さすがはデン助どの、ここまでは完璧ですポ!)」

「(だから言ったろう、俺は口では負けねえ。それよりここが勝負の分かれ目だ。ゴンの字、本当にやれんのか?」

「(わ、わかんないけど、たぶん、全然大丈夫……だと思う。)」


 不安げにゴン太を見守るデン助。

 ポッポ屋が安心させるようにゴン太に口添えをする。


「(ゴン太どの、もし失敗しても、わたくしがオトリで飛び出しますから、まあ、どうにかなりますポ。とにかく思う存分やってみてください。これはわたくしの直感ですが、ズバリ! あなたはオオカミの〝王様〟に間違いありません! だから必ずできますポ! 自分を信じて賭けてみてください!)」

「(う、うん……ボ、ボクは、オオカミの〝王様〟……ボクは、オオカミの〝王様〟……ボクは、オオカミの〝王様〟……)」


 ゴン太は助走をとるために移動するふりをして、作戦通り、薬草のはえていた近くの茂みにデン助とポッポ屋を降ろした。心臓の音がどんどん高鳴っていくのがわかった。こんな自分がオオカミの王様なわけがない……でも、ポッポ屋がそう言ってくれてる気持ちが嬉しくて、温かくて、妙な安心感がゴン太の胸の奥に広がっていった。


「(アネさんもボクが本気が出したら、大木だって折れるって言ってたし……ボ、ボクはオオカミの〝王様〟なんだ! だから――うん! 全然できる! 全然大丈夫! 絶対大丈夫ッ!)」


クマが息を殺して訝しげに見守る中、ゴン太が全速力で走り出した。まだ冷たい風が耳の脇をものすごいスピードでとおり過ぎて行く。

 あっという間に目標の木が目前に迫る。ゴン太はグッと歯を食いしばって、生まれて初めて本気で頭突きをした。


 ゴォンッ!


 グラァッ!


 木が今にもへし折れそうなほど揺らぎ、大きくしなった。


 クマの細い目がカッと見開かれる。


「(やったか!?)」


果たして、ギシギシと悲鳴をあげてしなった木は、デン助の期待を裏切って元に戻り始める。


「(お、折れねえ!?)」


 ギシ、ギシギシ、ギシギシギシッ……ギギ……ギ……バギッ!

――ドドォーン!


一瞬、元に戻るかに見えた木が、自らの樹冠の重さをふいに思い出したかのようにしなだれ、豪快な音を立てて倒れていった。


「(ど、どんなもんでえ! バーロー!)」

「(ゴン太どの! お見事ですポ!)」


 ゴン太は、まだ目をチカチカさせていたが、はたと我にかえって倒れた木を見やると、喜びと驚きとがない交ぜになった顔で、二匹のいる茂みにかすかに頷いてみせた。

クマは呆気にとられたように倒れた木をしばらく眺めていたが、やがて静かに退散していった。

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さよなら三角、また来て四角 うたがわ きしみ(詩河 軋) @kishimi

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