雨の日。

<今日の午後は全国的に雨が降るでしょう>

朝、ニュースの天気予報での一言。

「えー。また雨なの?濡れるのやだなー」

それを聞いての姉の一言。

「でも60%でしょ?頑張って自分で行きなさい。今日はハナを送ってくから。あんたはバス通学なんだから」

母はお弁当を作りながらこう言った。

「えー!ママのケチ‼︎良いじゃん、送ってくれたってぇ」

「わがまま言わないの。ミカはいつも送っているでしょ?バスがあるんだから、たまには自分で行きなさい」

また始まった。姉さんのワガママ。長引くとそれはそれでめんどくさいから私はいつもこう言う。

「大丈夫だよ。60%でしょ?カッパ持っていけば平気だから」

「でも、降りそうな空よ?行く途中で降ったらどうするの?」

「カッパカゴに入れとくし。大丈夫だよ。午後からって言ってたし」

「ほんと?やったぁ!ハナ、ありがとね!」

「そう?いつもありがとね」

これがうちの家での雨の日における何時ものやり取り。

姉さんは私立、私は公立の高校に通っている。高校の位置が真逆なこともあり、二人を同時に送ることはできない。それに、姉さんはバスで通っているのだから雨の日ぐらい譲ってもらいたい。でも、姉さんは逆らうと怖いから。だから私が我慢する。

両親に知ってもらいたいとは思うけど、言う勇気も無い。

まあ、どうでもいいけど。

「ごちそうさま。準備してくる」

そう一声かけて自室へ戻る。

家を出るまであと40分。

学校に行く準備を終えた私は携帯をいじる。

すぐに開くのは大手SNSのアプリ。

自分が自分で無い誰かになれる場所。

本当の自分を出せる場所。

リアルの、私の知っている人が私の知る限り誰もいない場所。

そこに一つの想いを吐き出す。

『雨だってーwwそんな中チャリとかwキツwwww』

そして他の人の投稿を見ながら時間を潰す。

そうこうしてるうちに家を出なきゃいけない時間になった。

荷物を持って玄関へと向かう。

「いつもありがとね。いってらっしゃい」

「いつものことだし、大丈夫だよ。いってきます」

私は『良い子』の『仮面』をかぶって母にそう返す。

笑顔を貼り付け、学校へと向かう。


私は雨の降りそうな空の中を自転車で進んで行く。

湿った空気が体に絡みついてくる。

どんよりとした空はすぐにでも雨の雫を落としそうな、そんな感じで。

心なしか、いつもより車の量が多い気がするのは気のせいじゃ無いよね。

雨を呼ぶかのように蛙が鳴き声を上げる。

いつもとは違う音が私の周りで作られる。

この音がこの感覚が好き。

でも、それ以上に雨が上がりそうな空の中から光が差し込む様子が好き。


30分ぐらいして学校に着いた。

自転車置き場にはほとんど無い自転車がまばらに置かれている。

「皆車なんだろうな」

羨ましいとは思いつつも、姉に逆らうのが怖い。

それに好きなものを見れると思うと自転車でも良いかと思ってしまう。

自転車に鍵をかけて昇降口に向かう。


お昼休みになって雨が降り出した。

しばらくずっと雨が降っていたが、下校時刻になって雨足が弱まり、少し待てば雨が上がりそうな気がした。

そろそろ、雲が切れるかな?光は入るかな?

心弾ませながら、帰路につく。

カッパを着るほどでも無い雨の中を自転車で通って行く。

すると、一筋の光が雲の割れ目から差し込んできた。

まるで、暗闇の中に産まれた希望のように。

そこ一部がキラキラと輝いている。

そこに続くようにして他のところからも光が溢れてくる。

私は自転車を止め、その光景を写真に切り取る。

「うん、うまく撮れた」


携帯の中にまた新たな写真が追加された。

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写真 不知火 螢。 @Kiruahobby8317

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