嫌な臭い

「……でね、うちの塾のトイレには、花子さんが出るんだ」

「えー、花子さんって普通、小学校でしょ?」

「ホントだって!」


 今日は五年生みんなで、自然の家でお泊り学習。先生からは、「夜は静かにして、早く寝なさい」って注意されてるけど、そんなの無理だよね。仲良しの女子が五人も同じ部屋にいたら、お喋りが始まるに決まってる。先生に見つからないように、電気は消して、一応布団もかぶって、ひそひそ声だけど。


「ねぇ、ショーコは何か怖い話、ないの?」

 ずっと黙って聞いているショーコにも、話を振ってみた。

「あるでしょー」

「喋ってないの、ショーコだけだよ」

「怖い話っていうか……」

 ぽつり、とショーコは言う。

「うち、死んだばーちゃんが、霊感あったんだよね」

「えー、すごーい!」

「ショーコは?」

「あたしは、臭いだけ。ばーちゃんは、見えてたっぽいけど」

「臭い?」

「たまに、何かすごく嫌な臭いがするの。鉄みたいな臭いとか、腐ったみたいな臭いとか」


 ショーコからそんな話を聞くのは初めてで、みんな、暗い部屋の中で熱心にショーコを見つめる。ショーコはうつむいて、あまり話したくなさそうな感じだけど。


「ばーちゃんが生きてた頃に、臭いのこと、訊いたんだよね。そしたら、『ものすごく嫌な臭いがするのに、自分以外の人は全然気がついてないようなときは、絶対に後ろを見ちゃいけないよ』って言われた」

「へぇー」

「どうして見ちゃいけないんだろ」

「何かいるんだよ、きっと!」

「たまにって、どんなときに臭うの?」



「……今、とか」

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【掌編集】階段 他 卯月 @auduki

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