饒舌なる死者

饒舌なる死者エピローグ

　由利亜が死んで十年経っても、珠美も古賀もその亡霊に縛られて生きてきた。

　あの日、俺に渡したシルバーリングに刻まれた言葉、『love is eternity』それを貫徹（かんてつ）させるために、他の女と結婚することを絶対に許さない。――由利亜のその強い意思を二人は守ってきたのだ。

　俺が邪慳（じゃけん）に扱って捨てた女だったが、その影響力は凄まじいものだった。

　まさか、十年後に、由利亜を《 女神 》と崇（あが）める二人の人物から、こんな形で復讐されるとは思ってもみなかった。そういう意味に於いて、由利亜は《 女神 》というより、俺にとっては《 魔女 》だった。

『love is eternity』

　あの指輪に刻まれた言葉は、由利亜が俺にかけた呪いだった。

「死人に口無し」ということわざがあるが、あれは嘘だった。――死人ほど饒舌（じょうぜつ）な者はいない。

　死して、なお人の心をコントロールできる死者がいるという事実なのである。

　最後に、この手記を書き残すことで、俺もまた『饒舌なる死者』となる。ここに書かれてあることが真実か嘘かは読む人の判断に委ねよう。

　これは死に逝（ゆ）く者の、最後の足掻きというべきダイイング・メッセージなのだ――。

　　　　　　　　　　　　　　　　　― 完 ―