アデリーちゃんの翼
飛ぶために必要なもの。
翼。
「アデリーちゃん」
「どうしたの? ラッコちゃん」
「アデリーちゃんは鳥なんだよね」
「そうね。ペンギンっていう海鳥ね」
ぷかぷかと海に浮かんでいるラッコちゃんの視界には、鳥が気持ち良さそうに空を飛んでいる。
翼をいっぱいに広げて、風を感じて。
「……私はお空は飛べないわよ」
「でも翼はあるんだね」
「そうよ。飛ぶために必要なの」
「飛べないんじゃないの?」
アデリーちゃんは自慢げに翼を伸ばした。
空高くを飛んでいる、あの鳥のような、大きくて美しく立派なものとは言えないけれど。
「私の翼はフリッパー。お空は飛べないけれど、お空と同じようにどこまでも広がる海を自由に飛べるわ」
アデリーちゃんは海の中に飛びこむ。
空の鳥のように、自由に。
飛んでいる姿はとてもかっこよくて、美しかった。
「アデリーちゃんすごい」
「ラッコちゃんも一緒にどう?」
「ラッコはペンギンと比べて泳ぎは得意じゃないんだ……」
「そうだったわね」
ラッコちゃんとアデリーちゃんは空を仰いだ。
空の鳥はまだラッコちゃんたちの上を飛んでいる。
「もしかしたら、あの鳥さんもアデリーちゃんみたいに海の中を飛んでみたいのかもしれないね」
ラッコとペンギン 彌子 @mukougawa
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