ラッコとペンギン

彌子

ラッコちゃんのおめめ隠し

広大な海。


どこまでも続いている世界の中の、ほんの小さな世界のお話。




「こんにちは、ラッコちゃん。今日はいい天気ね」


「あれ? その声はアデリーちゃん?」


「そうよ、アデリーペンギンのアデリーちゃん。あなたのお友達」


「んん? どこにいるの? 真っ暗で何も見えないよ」


「そりゃそうよ。だってラッコちゃん、自分で目を隠してるもの」


「あ、そうだった」



手をどけると、パッと、ラッコちゃんの視界が明るくなる。

お日さまの眩しい光。感じる熱。

世界が広がった気がした。



「今日はとても穏やかないい日ね」


「うん。浮いてても流されにくいいい日だね」



嬉しくなって、くるん、くるんとラッコちゃんは回る。


海の中、空、アデリーちゃん。

お魚、お日さま、アデリーちゃん。


視界がぐるぐる回る。



「……つめたい」


「ラッコちゃん。また、おててでおめめを隠すのね。いいお天気なのに」


「うん。手が冷たいんだ……何で手には毛がないのかな」


「ラッコちゃん。お日さまはさんさんよ。伸ばしてみたらいいんじゃない?」


「あ、そっか」



ラッコちゃんはぐっと前肢を伸ばす。

じんわり。ぬくぬく。

だんだんと感じてきた熱に、ほっ。

いっぱいに伸ばしてもお日さまには届かないのに、あったかいものは届く不思議。



「どう? ラッコちゃん」


「うん。とってもいいよ。アデリーちゃんもやってみなよ」


「え?」



アデリーちゃんは戸惑う。

わたわたと体を左右に揺らすと、お日さまに向かってほんの少し翼を伸ばした。

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