第3話 デート
――来る土曜日。祖母が見ているテレビ番組の時刻表示が丁度10:00に切り替わると同時に、家のインターホンが鳴り響いた。
「はーい、今行きまーす」
急いでブーツを履き、「じゃあ、行ってきます!」 と祖母に声を掛けると、「行ってらっしゃい」 と少しにやにやした面持ちで返答された。
「ごめん、遅くなっちゃった」
少し顔を上げると、今日も変わらず格好いい先輩が待っていた。普段見ることのない私服は、いつにも増して格好よく見える。
「全然大丈夫だよ。今日どこ行こっか?」
と優しく笑う。
「あ、なんか駅の近くに新しいカフェが…」
そう言いかけると、
「オッケー、じゃあそこにしよう」 と快諾される。
開店したばかりのカフェは、まだ十時過ぎだというのに人で溢れていた。少し待ち、ようやく窓側の席に案内されると、三階ということだけあって、駅のロータリーが一望出来た。
土曜日の駅は、様々な人が点在しており、その中に急ぎ気味で駆けて行く櫻井の姿を見つけると、あぁ、サッカー部に入ったのか、と少し微笑ましくなった。
△▼△▼
「本当に家まで送らなくていいの?」
「いいって、駅からそんなに遠くないんだし。それに翔太くん、もうすぐ電車来るんでしょ?だったら気にしないで」
日が傾く駅前でそんな会話を繰り広げる。
「わかった。じゃあ今日は帰るね。バイバイ」
手を振りながら先輩が去っていく。
先輩が改札を通って行くのを手を振り返しながら見届け、帰ろうとすると、後ろから突然声を掛けられる。
「ふーん、付き合ってるんだ。生徒会長だよね、あの人。」
驚きすぎて飛び上がってしまい、振り返って二、三歩退く。
そこに居たのは櫻井だった。
「ば、馬鹿っ!大きい声で言わないでよ!」
と櫻井に言い聞かせる。櫻井は、きょとんとした顔をしているが、よりにもよって一番見られたくない奴に目撃された、と私は内心焦っていた。
「ふーん、大原でもあんな爽やかくんと付き合えるんだね」
と、とぼけるように言う櫻井に、
「あーもう、うるさいっ別にいいでしょ!」
櫻井を手で払いのけて、「ほらっ、電車来るよ!乗らなくていいの?」 と続けると櫻井は、
「うわっやべぇ!」 とバタバタとその場を後にするのだった。
△▼△▼
「なーんか気に食わねぇんだよな、あいつ」
月曜日、顔を合わせるなり、櫻井は呟いた。
「あいつって?」 私が尋ねると、「生徒会長。ま、お前に言ってもそんなことないって言われるだけなんだろうけど」 と返答された。
「ちょっと!声でかいってば!」 と小声で注意しつつ、「何が気に入らないの?」 と訊いた。
「なーんかあいつ、中身が空っぽっていうかさ、いや、見た目は俺から見てもすごい格好いいし、見た目通り優しい人なんだろうけど…なんかそういうのじゃなくって、何だろ、わかんねぇけど…何か、何にもないように見える、あいつの中に」
と、たどたどしく話す。
私はさほど興味の無いように、「ふぅん」と答えた。
櫻井は時々とても飛躍したことを言う。だからどうせこの発言も、その一貫だろう、と思い、気にしないことにしたのだ。
花忍ぶ 八朔 @Arufa_nov
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